Windows NT Workstationの次期バージョンとなるWindows 2000 Professionalは、多くの開発目標と新機能を装備していた。現在も企業系ネットワークでは主流のOSとして利用されているWindows 2000だが、1999年当時には以下のようなテーマが掲げられていた。
・開発目標
マイクロソフトでは、顧客からのさまざまな意見を集め、さらなるセキュリティの強化や信頼性、広範囲なデバイスへの対応、使いやすさ、管理の容易さをWindows 2000 Professionalの開発目標と定めた。
1.いままで開発されたどのWindowsよりも簡単なものにする
2.信頼性、セキュリティ、ネットワーク、性能面における優位性を維持する
3.Windows 98対応のビジネス向けのハードウェアのサポートを最適に行う
4.運用、管理、保守において、より簡単により低コストで行えるようにする
1.さらに使いやすく(The easiest Windows ever)
論より証拠で、まずは新しいデスクトップのデザインを見てもらおう。もっとも特長的なことは、そのデザインのシンプルさとアイコンの並び方だ。Windows 98では、これでもかというくらいに、いろいろなアイコンが最初から並んでいた。それに対して、Windows 2000 Professionalでは、考えられる限りのシンプルなものになっている。そして、マイコンピュータよりもマイドキュメントが上になった。これは、ハードウェアのデバイスを開くよりも、自分の作ったドキュメントを開く回数の方が多いから、という調査結果によるものだ。
さらに、マイコンピュータの中もシンプルになっている。プリンタやタスク、ネットワーク接続や管理ツールが、すべてコントロールパネルの中に集められた。
細かい部分では、β2の時に全面的に採用されていたMMC呼び出しが、表から隠されて、いままでのWindows NTと同じような使い方で、それぞれMMCのスナップインに飛ぶようになっている。これも、ユーザーからのフィードバックを元に、改善された部分になっている。
加えて、ノートパソコンのユーザーにとっては、新たに追加された同期機能が便利だ。ネットワークのサーバー上にあるファイルやフォルダと同期をとることで、ローカルにも同じ内容が保存され、外出先でも目的のファイルを編集することができる。Windows 98にも、ブリーフケースという機能があったが、いま一つ使い勝手がよくなかった。それに対して、新しい同期機能は、個々のファイルに対して自由に設定できるので、便利で使い方も簡単になっている。
2.さらなる信頼性(More security and reliability)
信頼性という面では、多くの改善が施されている。たとえば、システムクラッシュに対してカーネルモードの書き込み保護を強化したり、新しく装備されたSystem File Protection (SFP)で、システム関連ファイルを保護するようになった。また、タスクマネージャから再起動しないで単独のプロセスを強制終了させられるようになり、ドライバのチェックや承認機能なども装備された。これらの機能によって、初心者が間違ってシステム関連のファイルを削除してしまったり、挙動不審なデバイスドライバを登録する、といった危険が減少する。
一方、セキュリティの面では、スマートカードによる認証のサポートや、暗号化されたファイルシステムなどの強化が計られている。
3.もっと多くの周辺機器を(Enhanced support for hardware)
現在のWindows NT Workstationに対する要求の中でも、もっとも多かった項目が、プラグ&プレイの実装と、パワーマネジメントにあった。これらの要求に対して、Windows 2000 Professionalでは、ACPI機能を搭載したすべてのPCで、対応を実現する。
また、単により多くの周辺機器をサポートするだけではなく、品質や信頼性の面でも、注意を払う。Windows Hardware Quality Laboratories (WHQL)による検証に加えて、新たに追加されたデジタル署名機能によって、そのドライバが、信頼できるものかどうかも確かめられるようにする。
4.より低価格な管理と運用のために(Improved administration, deployment and supportability)
システムの管理コストを少しでも低減するために、新しい管理機能も追加されている。
一つは、フロッピーディスクや起動可能なネットワークカードによるリモートインストールの対応。また、同じ構成を持ったクライアントを容易に作るためのシステム・プレパレーション・ツールの提供。そして、アップデート用ツールの充実だ。
サポートの経費も減らすために、Windows 98のように、セーフモードによる起動(Safe Mode Boot)と、システム修復コンソール(System Recovery Console)も用意される。
このように、Windows 2000 Professional では、企業における大規模な利用を前提として、ユーザーインターフェースとシステム管理の両面から、さまざまな改善が計られている。また、こうした運用状況を前提として考えておかなければ、Windows 2000 Professional の真価は見出せない。単独のPC用OSではなく、ネットワークという環境があってはじめて、Windows 2000 Professional は、その能力と威力を発揮するのだ。
★Window98とNTWの住み分け
それでは、実際にWindows 2000 Professional を使えるようになるまでの間、PC用のクライアントOSは、なにを選べばいいのだろうか。その答えは、マイクロソフトの資料に書かれている。
さらに、具体的なハードウェアの指針としては、以下のようになっている。
・ Windows NT Workstation 4.0 プレインストール、Pentium II クラス CPU、64 MB RAM
・ ACPI (Advanced Configuration and Power Interface) 準拠 - 電源管理 (たとえば OnNow 機能) や管理機能全体が向上した新しいハードウェア機能
・ AGP グラフィックス - より迅速な業務アプリケーション グラフィック パフォーマンスを提供する新しいバス
・ 2000 年問題準拠
・ 次世代のプラグ アンド プレイを可能にする新しい種類のバス。複数のデバイスをチェインでき、スループットが向上
全体的な傾向からすると、Windows 95やWindows 98を利用しているクライアントから、Windows 2000 Professionalへの積極的なアップグレードは推奨していない。むしろ、いまからWindows 2000 Professionalに向けて、Windows NT Workstation 4.0をプリインストールしているPCを入手することを推奨している。確かに、その方が、安全で確実なPC選びではある。
実際に、自作のPCなどにWindows NT Workstation 4.0を最新の状態になるようにセットアップしようとすると、その道のりは長い。それよりは、最初からセットアップされている機種を選んだ方が、時間とコストの節約になるのだ。
●MSのOS戦略ロードマップ
ところで、最初にWindows 2000シリーズが発表されたときには、Windows 98はその役目を終えると言われていたが、4月にロサンゼルスで開催されたWinHEC '99の会場で、マイクロソフトのスティーブ・バルマー社長は、前言を翻す発表を行った。Consumer Windows in 2000の発表だ。これは、図にあるように、すべてのWindowsをNTカーネルによる2000にするのではなく、Windows 98のカーネルを継承するWindowsも2000のファミリとして、存続させるというOS戦略だ。まだ、正式な名称は決まっていないが、マイクロソフトの製品名におけるセオリーからすれば、Windows 2000 Standardとなる可能性は高い。(後のWindows Me)
名前はともかくとして、Consumer Windows in 2000は、マルチメディア関連の機能を強化したり、デジタル動画を管理するためのAPIを装備するなど、より一般市場の個人ユーザーに特化した仕様になる予定だ。
それは同時に、Windows 2000 Professionalとの明確なビジネス需要を切り分けるものだ。ホーム・ネットワーキングやDVDなどを活用したデジタル機器のセンターコンソールとしての利用など、デジタル情報家電との融合を目指すものとして、Consumer Windows in 2000は2000年以降も活躍する。
そして、新たに2000を出したその後で、二つのカーネルをNTカーネルに統合する戦略になった。この最新のOS戦略とロードマップ、実は、新しいWindowsが登場するたびに提案されてきた青写真で、古くはWindows 3.5から数えると、まさにニ度あることは三度あるの例えがそのまま当てはまるロードマップなのだ。
(著者:田中亘 wataru@yunto.co.jp)