The Musium of Windows Consortium
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敗れさった窓たち 【1990年】
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Windowsの歴史を紐解く過去の記事 【1990年1月】

田中亘


■古川社長インタビュー ショートバージョン



写真の古川社長(1994年当時)が手にするのは、
彼が編集長をしていた時代のASCII誌

1990年当時、マイクロソフトでは日本のWindows戦略をどのように考えていたのか。当時の古川社長へのインタビューから、その方向性をうかがい知ることができる。

田中亘 アメリカではWindowsがかなり普及していますが。古川社長は、Windowsが今後日本にどう受け止められて、浸透していくとお考えですか。

古川社長 アメリカでWindowsが200万本出荷されたとすれば,年間にアメリカで売れるマシンに対するWindowsの普及率と同じ比率が日本にも適用されるかというと,それは楽観的に見てはいけないだろうな,と思っています。
その理由の1つは,Windowsが出たときのアメリカと日本の流通の違いです。米国では,システムソフトウェアであるWindowsが,小売り商品として流通しています。
Windowsが小売りの商品であるということが何を意味するかというと,ユーザーさんにとって,インパクトが違うんです。米国のエッグヘッドのような小売り店が取り扱う商品であるのか,それともコンパックのようなベンダーのマシーンを買うと一緒に付いてくるOSなのか,という違いは大きいのです。

田中亘 日本電気の発表によると,Windowsは去年のPC-9800の出荷実績370万台のうちの10パーセントのシェアを予定しているそうですが。

古川社長 システムソフトウェアの販売というのは,日本の場合は農耕民族的な広がりを示さないと根付かないと思う。アプリケーションの販売は,狩猟民族的です。1-2-3とExcelのどちらが勝つか,というようなビジネスだと思う。
ところが,アメリカの場合にはシステムソフトウェアの販売そのものがまず狩猟民族的な流通を通じて「今週のヒットチャートはなに」というようなところにのっかったという意味で,爆発的に伸びた。日本の場合,ハードウェアが各社違うから,Windows3.0をしっかりさせていかなければというメーカーの向上心の元に離陸します。ベンターやマスコミが、今月の売れ筋のナンバー1は,Windows3.0です,という売り方をしない限り,販売のトレンドというのは,アメリカと違った様相を示すだろうと思います。
もう一つの大きな違いは,システムソフトウェアの販売が,日本の場合,ハードウェアを売ることが前面に出てしまうことでしょう。

田中亘 日本電気の場合,Windowsに対する期待は,PC-9801DAの価格設定44万8000円に現れているのではないか。80386を搭載した機種を売っていく要素として,Windows3.0に対する期待が強いのではないだろうか。

古川社長 Windows3.0を売りたいお客様は誰かというと,8086やV30を搭載したマシンを持っている人でしょう。そういう人に,386マシンに買い替えてください,386を買えばWindows3.0動きますよ,という戦術をとる。
基本的なインセンティブというのは386マシンを売るために,Windowsをプッシュしたいわけです。確かに,既にPCを持っているお客様は,ハードディスクやプロテクトメモリを買えば,Windowが動く。けれど,メーカーがシステムソフトウェアを販売する限り,OS/2もWindows3.0も動く386マシンに買い替えましょう,ということになる。
アメリカの場合,システムソフトウェアの販売は,その日マシンを購入する人を対象にしたビジネスではない。過去の4000万台あるマシンのうちの何パーセントが386で,286で,既にハードディスクもEMSメモリーもあって,そのお客様がソフトウェアを追加商品として買うところで,バッと売る。この点が大きな違いでしょう。

田中亘 日本電気は,Windowsマーケットが,今後時間をかけてジワジワと広がっていくという見方をしているようです。

古川社長 確かに,Windowsを日本でも広げたいと思っているけれども,トレンドとして,いきなりアメリカの200万本で,日本の人口はアメリカの2分の1だから100万本売れるかというと,それほどオプティミスティックに考えていません。
米国で200万本売れるまでのセールス期間で,国内で20万本売ったら大成功かもしれないというようなアプローチをしなければいけない。流通のチャネル,今日PCを買う人のWindows環境を提案するか,それとも過去のPCのお客様に対してWindowsを売るかという,違いがありますから。

田中亘  アメリカと日本のWindows市場の大きな違いはLANにあるという見方があります。アメリカでは,LANがベースにあって,そこにWindow3.0がきた,と。LANの日米の差はどうですか。
アメリカは,LANのサーバやクライアントマシーンで,Windowsも使えるようになった環境。ところが,日本ではLANはWindowsと同じように今後普及していくものだと。

古川社長 イエスです。しかし,いろいろな違いがあるにしても,Windowsははやるだろうと思います。そして,ユーザーのWindowsの使用レベルは4段階に分けられると思います。


N.Yのホテルで朝食をとる古川社長(1994年当時)

田中亘 その4段階とは

古川社長 まず第1段階はシェルの代わり,もしくはメニューの代わりとして,アプリケーションスイッチャー的な感覚で,旧来のアプリケーションを使う。スイッチャーとして,Windows/386が採用されてきた経緯があります。
米国でWindowsを200万人が買った。果たして何に使っているのだろうと考えると,全員がExcel使ってます,PageMAKER使ってます,あれ,ちょっと数字がおかしいなって思う。
200万人というのはWindowsだけを使っている人なんです。だけどWindowsについているアクセサリというのは,果たして実用的なものかどうかというと,あれ,と思う。
やはり,マシンを立ち挙げたときや仕事にとりかかる前に,Windowsが立ち上がって電気が付いているときに表示しておくメニューであったりシェルの変わりに使われている。シェルだけだったらちょっと悲しいかなって思いますが,例えば,アイコンを使って既存のアプリケーションを動かすアプリケーションスイッチャー的な存在なんです。
Macintoshの世界でマルチファインダが出る前にスイッチャーがありましたね。あれと同じ感覚で,例えば"松(ワープロソフト)"を動かして,ちょっと指を鳴らすようにウィンドウが小さくなって,住所録でも使って電話でもかけて,その後また松に戻ってくる,というようなことをする。
アプリケーションをアイコンベースで,DOSのコマンドをGUIで取り扱えるという部分をWindowsが担っている。それからアルゴルのオブジェクト指向として松のデータファイルでも,そのデータファイルをクリックすると松を引っ張ってきて自動的に立ち上がるわけでしょ。そういうことが仕事の心地よさになるってことがきっとある。

古川社長 2番目と言うのは,Windowsのアプリケーションを組み合わせて使うこと。これが,Windows3.0の普及期だと思います。これは何かというと,1本のアプリケーション,例えば一太郎を使っていて,リセットスイッチを押して,1-2-3に切り替えるという方法ではなく。Windowsベースだったら,ExcelもPEAGEMAKERもWORD FOR WINDOWSも指を鳴らすように切り替えて使える。
複数のアプリケーションを使うことは,仕事で使うすべての道具を机の上に広げて,組み合わせによるチョイスで自分の仕事の最適環境を作れる。組み合わせが便利すぎると,普及もかなり長いだろうし,そこでと満足する人もいるだろう。

古川社長 第3番段階は,組み合わせればそれが1つのアプリケーション運用環境なんだというところが高まりを見せる。
具体的にロイターの金融端末を見ると,ディーラーが売り買いをやっているときに,目の前の端末ではExcelがアドインソフトみたいに組み込まれている。それは,ディーリングルームで運用される世界時計であり,値動きであり,シミュレーションをする時にグラフを出したりする。
端末を実際に動かしている人たちにとってみれば,Excelとディーリングルームのソフトウェアを使っていても,Excelとワープロソフトを使っていても,その一塊がアプリケーションも切れ目など知らない世界で,完全に包括した形で1つの窓の内側の中でその1日の仕事の必須環境が揃った形で運用されてくる。

古川社長 第4段階はどこへ進むかというと,窓の内側にあった複数のソフトの組み合わせが,ネットワークを通じて他の世界までつながるという状態になっていく。
第3段階までは,1つの窓の中でこの仕事とこの仕事が組合わさってやっているが,あくまで個人の仕事です。例えば,レイアウトと原稿と写真を取る人と,デザインをやる人を考えてみると,各々の環境の中で自分のキャリアの中で適した仕事をやっている。そして,それを統括的にレイアウトする人が別にいてということを考えると,窓の内側に閉ざされた環境を全員が同じく使っているというのではなくなる。
やがては,ネットワークの中で,窓を通じて自分の仕事をおこない,それで組み上げられた各々の仕事の結果が,統括管理される状況になっる。Windowsを通じて発展したときには,おのおの窓の内側でネットワークを通じてデータを集計したりすることが実現する。
Windowsは,この4段階のステップを踏んでいくだろうと思う。

田中亘 そのステップは1から順に進んで行くのか。

古川社長 果たして,アメリカでもこの4段階までいっている下地があるのかは疑問だ。第1段階と第2段階の間を行き来している人もいれば,ロイターのように最初から3段階を仕掛けられていながら,それがWindowsであることにも気づかないケースもある。
日本でも,経済ジャーナルというテレビ番組があるが,2人のキャスターの間に端末がボーンと置いてあって,その端末の前にロイターという札が立っている。テレビに出ている人も,テレビを見ている人も,WindowsやExcelが走っていることを全く知らないと思う。

田中亘 第3段階から先は,Windowsを使っていることに気がつかない。全く意識する必要がなくなると。

古川社長 日本航空のアクセスという予約端末システムがある。あれは,Windowsなんだけど,旅行代理店の方が予約を入れながら,「Windowsにもう1本アプリケーションを乗せたい」とかは思っていない。
4段階のステップは,シーケンシャルに来るのではなくて,オーバーラップしながら訪れると思う。WindowsというとMacintosh的な環境できれいにGUIが出るとか,耳にタコができるほど言われているが,それよりもこの4段階を認識してもらった方がいいと思う。
例えば,シェルとしての使い方はこの範囲で,それも使う価値がある。組み合わせて使った価値です。そのためには,アプリケーションがたくさんなければいけない。アプリケーションの数がなくても統合的な環境,ロイターのようなアプローチ,日本航空のようなアプローチもある。
Windowsそのものが,オフィスにとっていかに心地よいかがわかる。ディーリングルームで1人1台づつ使うならそれはそれでいい。ネットワークを通じて使う中では,別の次元のことができる。Windowsの中で,マイクロソフトでなく,誰かが商売をするなら,この4つの段階をお客様に提供できたら,Windowsのインテグレータとしても,PCメーカーとしても成功するはずだ。


(著者:田中亘 wataru@yunto.co.jp)





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