Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
パソコンソフトの多くはいまもなお、パッケージソフトとしてパソコンショップの棚に並べられている。その数は何万種類ともいわれるが、実際のところはどうであろうか。コンソーシアムの仲間に聞くと、最近はパッケージソフト業界はかなり苦しい状況にあるということである。流通にたよった販売には限界があるのでネットを通じた販売も急速に現実のものになっている。ネット上のソフト流通といえばフリーウエア、シェアウエアの世界つまりオンラインソフトは最初からネット上のソフト流通であった。このオンラインソフトは商業ベースに乗りにくいソフト、たとえばテキスト編集(エディター)やデスクトップのカスタマイズあるいは圧縮/解凍や特殊なマウス機能、付箋紙機能といったユーティリティなど、その数は無数といってよいほどである。インターネットの普及につれてオンラインソフトの世界はボーダーレスとなり、世界中のアイデアもののソフトに手軽に接することも可能となった。もちろん、コンピュータウィルスなどの危険性は承知の上であるが。 オンラインソフトは、かつては情報技術に精通する個人ユーザーがみずからの技術レベル向上の動機のために、斬新なアイデアにもとづくソフトを開発し、それをネット上で公開するというのが中心であった。公開されたソフトは開発した当人に加えて、他の利用者のさまざまなアイデアや機能向上の手が加えられてより使いやすい、より高機能なソフトへと発展していくことになり、市販ソフトにまけないレベルをもったオンラインソフトへと変身していったソフトも少なくない。オンラインソフトがパソコンソフトのレベル向上そしてユーザーの多様なニーズにこたえてきたことは大きな貢献であった。そしてこのネットを通じたソフト流通が商業ベースのソフト流通へと広がりつつある。 オンラインソフトの世界をさらに広めようと、10年近く前から「オンラインソフト大賞」(電子ネットワーク協議会主催)の表彰が行われている。つい先日、平成12年度の表彰式が開催された。この審査委員会は3年前から私が委員長をつとめており、審査にあたってはインプレス、アスキー、Vector、ニフティなどオンラインソフトの普及啓蒙に活躍されている担当者の目でノミネートした作品について、審査を行った。図1は表彰式の一こまである。見て分かるようにじつに若い人々がそれぞれの高度なソフト開発の知識/経験を活用して一般ユーザーのパソコン利用をボランティア的に支援してくれている。結果の詳細については電子ネットワーク協議会のホームページ、http://www.enc.or.jp/を参照いただきたい。 最近はパソコン雑誌の付録に代表的なオンラインソフトが収録されたCD−ROMがつくことになった。また、市販ソフトの体験版も含まれ、パソコンソフトの世界を広くサーベイするときに欠かせない手段になっている。図2はその一つ、WinPC(日経BP)に添付されたCD-ROMのメニューである。「アプリケーション試用版」とか「Downloaders」(オンラインソフト)のメニューが見える。これらのメニューを選択することで、さまざまなジャンルの新しいソフトに出会うことができる。これは本欄をはじめ6つの媒体にパソコンソフトを紹介しているものにとっては、記事のネタ探しのために大きな役割を果たしてくれる。もちろん、Windowsコンソーシアム顧問の立場を利用して、新作ソフトの提供を各社にお願いしたり、面識のないソフトハウスに対しても本欄の原稿執筆などを理由にソフトの提供を依頼することも多く、そうした依頼に好意的に対応してくれるみなさんのお陰で本欄がいまなお、続いているのである。 ところで、私のパソコンソフト遍歴は1980年当初にさかのぼることができる。当時はパッケージソフトといってもその数はごく限られており、パソコンユーザーはやむをえず、みずからBASICやアセンブラーを使ってプログラムを書いたものである。私は一橋大学出身ということで、とてもコンピュータ(当時は電子計算機という用語が普通であった)の専門家になることは望むことができず、もっぱら利用者という立場であった。いまからは想像できないことであるが、当時は一般ユーザー向けのパソコン書籍はほとんどなく、やむをえず、みずから「ビジネスマンのためのパーソナルコンピュータ入門」(廣済堂出版)を出版した。この本をたまに開いてみると、内容の多くは会計やマーケティングあるいは財務といった経営の問題において、NECのPC8001などを使ったBASICプログラムの作成/利用の話題で埋められている。 80年当初、パソコンは米国が中心であり、日本でもパソコンが製造されていることすら知られていなかった。そこでNECや日立などのメーカー4社が日本マイコンクラブに依頼して、当時サンフランシスコで毎年開催されていた当時の代表的なパソコン展示会WCCF(West Coast Computer Fair)に各社1台づつのパソコンを運んでPRすることになった。私もPR役の一人として毎年、サンフランシスコに渡り、机一つのブースの前で国産パソコン4台のデモを行ったり、宣伝ちらしを配ったことを懐かしく思い出す。それから20年、現在のパソコン国内出荷台数は1千万台を超える大きさになった。まさに隔世の感を感じる。 84年から86年にかけてロスアンゼルスのUSC(南カリフォルニア大学)ビジネススクールに客員研究員として滞在した。当時勤務していた成蹊大学からの派遣であり、気楽に研究活動をすればよいという恵まれた2年間であった。そのころ、ビジネススクールにおいてIBMパソコンが急速に普及をはじめ、私の研究テーマである経営におけるコンピュータ活用についても、ロータス1-2-3やdBASEなど、本格的なビジネスソフトが急速にその数を増やそうとしていた時代であった。私もIBM-PC互換機として有名であったCompaqポータブル(15kgの重量物であったが、それでもポータブルパソコンの代表的な存在であった)を購入するとともに、84年に発売されたマッキントッシュについてもメモリーが512KBに拡張された時点で購入し、マッキントッシュの優れたGUIを楽しんだものである。 USCに滞在中、毎週のようにパソコンショップに通い、新作ソフトを探訪した。その成果は当時、日本で発刊されていたパソコン雑誌「プロンプト」(日刊工業新聞社)など、数誌に「米国パソコンだより」といったタイトルで連載記事を執筆し、日米のパソコン市場の大きな較差を主としてソフトウエアの世界から情報を送りつづけたのである。 現在、私の手元にはすでに1000種類を超えるソフトや関連する周辺装置が集められている。それらのソフトはほとんどがCD-ROMであり、したがってCD-ROMを保管する保管庫が必要となる。CD-ROM収録の装置は20枚入りのケースなどさまざまな製品が発売されており、私もいろいろとためしてみた。しかし、なにしろ枚数が多いので最近ではもっぱら、80枚のCD-ROMを収納できる箱型の製品(サンワサプライ社)を使っている。それぞれ番号をつけ、どの箱の何番目のスロット(CD-ROMを挿入するタイプである)にどのソフトが収められているかがすぐにわかるようにしている。もちろん、ソフトの在り処を検索するためにExcel上にソフト情報を記録し、いつでも検索できるようにしている。 図3は私のパッケージソフトデータベースの一部である。左端からソフトの延べ番号、収納ボックスの番号、そのボックスの何番目に収納されているか、そしてソフトのタイトル、会社名、価格などが記録されている。現在のところ、この延べ番号は1206に達している。これなら本欄のネタも尽きることがないといってよいだろう。 さて、パソコンソフトの遍歴を書き綴っているうちに、無駄な字数を使ってしまった。肝心のソフト紹介もする必要がある。今回の話を急ごう。図4および図5を見ていただきたい。これはパソコン初心者向けの週刊誌「PC Success」(デアゴスティーニ社)と雑誌に2号ごとに添付されているCD-ROMである。私はそのほとんどを購入しており、パソコン初心者に戻ってパソコン利用の基礎をあらためて学んでいるのである。何事も「初心に帰る」ことが重要であることはいうまでもない。ソフト開発の専門家であるみなさんもぜひ、初心者に戻ってもらって初心者の立場でより使いやすく、役立つソフトを開発してもらいたいものである。
雑誌の基本的なねらいはパソコン初心者の学習用ということであるが、2号ごとに製品版ソフトがついてくる。CD-ROMつきの場合は定価1324円(税別)と雑誌だけの場合よりもちょっと高いが、それでもわずか1324円、気軽に購入できる価格である。ついてくるソフトは新作として発売された当初はそれなりの価格であったはずである。それがいま、雑誌の付録として利用できる、しかも体験版と違ってフル機能であるし、利用期間が限定されることもない。 さきほどのExcelシートには私がすでに購入した過去7号分のCD-ROMの情報も記録されている。また、雑誌の写真にはそれぞれについてきたCD-ROMもあわせて写っている。それらのソフトをリストすると、「アメリカ自然史博物館」、「家庭の医学診断辞典」、「Mega ClipArt 15000」、「The Wine」、「モネ、ヴェルレーヌ、ドビッシー」、「生命40億年はるかな旅」、「宇宙のフロンティア」、「浮世絵版画名選集:北斎」、「TOEIC600レベルビジネス英会話」、「グローカルヘキサイト」の10枚である。それぞれ、魅力的なソフトの名前ではないだろうか。以下ではその数枚について、簡単に紹介してみよう。 7月8日、インプレスダイレクト部長山下憲治さんが、前日の7日七夕の日に34歳の若さで急逝されたことを伝えるメールが届いた。「しのぶ会」で紹介された話によると2年前にがんを告知された山下さんは猛然と病に戦う姿勢を示され、医者の予想をはるかに越えて死の直前まで、パソコン界のために、そしてがんと戦う人々のために活躍されてこられたのであった。山下さんにはかつて、アスキーから本を出版したときに大変に世話になったし、その後インプレス社設立とともに同社に移られたあとも、何度かお会いしてパソコン界の刺激的な話をうかがうことができた。また、昨年は放送大学のビデオ教材のために「インターネット白書」編集責任者の立場でビデオ取材に応じてもらったりした。 私は山下さんが病魔と戦っておられることを承知していなかった。いつでも会えると思い込んでおり、昨年のビデオ取材のときも、収録されたビデオはいつでも手渡しできると思い、結果的にはその機会を逸してしまった。「しのぶ会」の場で慰霊の前にそなえなければならなかったのである。じつに残念でならない。しかし、まさかあのエネルギーに満ち溢れた彼が「そんな!」と思ってしまったことも当然である。ものごとには「年齢順」ということがあると思うのだが、そういかない事実にショックを受けたのであった。 ところで、「しのぶ会」ではもう一つ、山下さんはNHK特集「世紀を超えて:がんと闘う」に出演し、みずからの闘病生活を紹介し、同じくがんと闘う全国の患者にとって大きな励ましとなったことも紹介された。私は日ごろからこのNHK特集番組を含めて気になる番組は忘れずにDVレコーダに録画しておき、たまったビデオを小淵沢山荘でゆっくり見ることにしている。しかし、残念なことに、たまたま忙しい時期が続き、山の家に行く機会をもてないまま、時間がたってしまっていた。この原稿を書いている7月12日の今日、山荘であらためてNHK特集番組をじっくりと見てみた。そこには2年前に告知を受けてから、みずからの病気に関する正確な情報を得ることによって主体的に病気と闘おうとする山下さんの姿、そしてあくまでも好きな仕事と家族との変わらぬ生活を続けるために、病室ではなく、家からオフィスへ通い、毎週数回、病院で夜を徹して抗がん剤投与を受ける姿が映し出され、涙なくTV画面を見つめることはできなかった。番組の最後に、治療の効果があらわれ、今後に大きな期待がもてるようになったという医師の報告を受け、笑顔の山下さんが印象的であった。 コンソーシアムのみなさんは山下さん同様、日ごろ、忙しくそしてストレスとたまる仕事をされているように見受けられる。私のようなノンストレスな人間にとってはとくに注意は必要ないが、みなさんはぜひ、体調に注意され、何か異常が感じられたら早めに医者に相談して欲しい。といっても忙しいみなさんのことちょっとしたことで医者へ行くような時間的な余裕がないと思う。そうしたときに、上にリストされたソフトの中の一枚、「家庭の医学診断辞典」に相談して欲しい。これならパソコン画面上でみなさんが感じる体の異常について、それなりの診断を下してくれ、症状によっては急いで医者に行かなければならないと思わせてくれる。「たいしたことはない」と思っているのが一番、怖いのである。「食欲がない」とか「せきがとまらない」といった素人でも分かるような症状が出たら、「忙しいのだから疲れて食欲がないのは当たり前、せきが出るのもたまたま風邪が長引いているため」と勝手に思い込むことをせずに、パソコンの診断をあおぎ、その上で必要に応じて専門家の診断を仰いで欲しい。 「家庭の医学診断辞典」は癌研究会附属病院院長尾形悦郎先生の監修になる「健康管理・病気の早期発見のための安心データベース」である。体の部位や自覚症状からスピーディな検索ができるようになっている。パソコン画面上でデジタルドクター(!)の問診に答えると、考えられる病気がリストアップされ、それぞれの病気について詳細な情報が参照できる。収録されている病気は1000種類以上もあり、診断だけでなく、応急手当や看護の仕方さらに体の仕組みなど、役立つ情報が満載されているということである。雑誌版の巻末にこのソフトの紹介欄があり、そこにはこのソフトの製品版の価格は13,800円と記載されていた。このソフトの発売元(ask社:www.ask-digital.co.jp)からはそのほかにも「家庭の医学:くすりの事典」、「家庭の医学:漢方薬事典」も発売されているとのことである。 「家庭の医学診断辞典」を起動すると図6のように、体のどの部位について異常が感じられるかを選択する画面が出ます。たとえば体の「のど」を選択して「声がかれる・かすれる」を選択したとしよう(私も最近、実際にこうした異常を感じるようになった)。 ついで、図7のように、医師(もしかして尾形院長先生?)が登場し、画面には問診の質問と実際の診察の声が聞こえてくる。「せきが出ますか」から始まり、さまざまな症状についてその有無を問う問診が続く。かなり専門的な問診も多く、本格的な診断であることが実感される。10数個の問診がつづき、私自身、実際には症状を感じていないにもかかわらず、ほとんどの症状に対して「はい」と答えてみた。当然、かなり重大な状況にあると判断される問診のシナリオである。その結果、図8のように診断が示された。図を見ると急性喉頭炎の可能性が大、そして上咽頭癌の可能性も無視できないことが、それぞれの可能性を示す確率とともにリストされている。さらに、右側には特定の病気を選択したときに、その病気の概要が表示されている。さらに、画面下段には原因や病状など、関連した情報を参照できるようにメニューが用意されている。
パソコンによる医学診断がどれほど役立つかすぐには判断できないが、これまで分厚い家庭医学書を前にしてどのページを読んだらよいか迷っていたことに比べると、デジタルドクターの問診を受けることができるのは、気休め以上の大きな意味があるのではないかと思われた。この「PC Success」は現在も発刊中であり、バックナンバーも手に入れることができるので、みなさんも手遅れにならないために、1,324円の投資を惜しまずにデジタルドクターを手元に置いてみたらいかがだろうか。 PC Success誌についてきた10枚のCD-ROM、その中にはまだまだ面白いソフトがある。趣味のレパートリーに新たに含めたいと考えているワイン、恐竜コレクションで有名なニューヨーク自然史博物館(私も恐竜が好きで、ニューヨーク自然史博物館も何度か訪れているし、カナダのエドモントン近郊の恐竜発掘現場にある博物館に行ったこともある)、栗菓子につられて訪れた小布施町のもう一つの目玉「北斎」の版画コレクション、などなど、それらのソフト紹介は次回に回すことにしたい。 (麗澤大学 国際経済学部 国際産業情報学科 教授 |