最新Windowsソフトウェア事情(第64回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


シニアのパソコン活用

 先日、小学校の同期会が那須高原で開かれた。これまで一度も参加したことがなかったが、3年ごとに開かれるこの会合は、今回を逃すと次回は60歳の還暦を記念する同期会になるという誘いの文面であった。「そうかとうとう俺も還暦か!」とあきらめの思いを強く感じながら、せめて還暦前に昔の仲間に会ってみたいと思い、初めての参加を決心したのである。

 私は福島県川俣町の出身である。といっても地理感がないと思うので最新の地図ソフト(プロアトラス2000日本広域版)で場所を確かめておこう(図 1)。見てわかるように、現在の福島市の隣町である。町の小学校を出てから福島大学付属中学そして東京の教育大学付属高校、さらに一橋大学と昔のエリートコース(??)を歩んで、行き着く先はしがない大学教師となったのであった。那須はいなかの町と東京の中間地点に位置し、双方から集うためには格好の場所と幹事が判断したとのことであった。せっかくの那須高原なので天気がよければ那須連山(茶臼岳ならロープウエイで簡単に登れる)に挑戦したいと思ったが、あいにくの雨だった。

図1

 さて、温泉につかり、ゆかたに着替えた40数名の男女は、45年前の古ぼけた記念写真と見比べながら「ああ!お前か」、「ああ!あなたか」となった。この年代の人々にとって、どこでもみられる風景であろう。問題は、このいかにも古ぼけた中高年(老年かな)の出会いから、どのようにして最先端のITの話が出てくるのか、みなさんも疑心暗鬼に思われることだろう。とうの私も、本欄の出だしを適当に書いたものの、ここからどのようにして本論に発展させていったらよいか、しばし思案に暮れているところである。

 最近、パソコンの世界ではMP3が話題になっている。MP3はビデオ動画圧縮方式の一つであるMPEG1の音声部分を指す用語である。CDの10分の1程度のファイルサイズで音楽などをパソコンに取り込み、パソコン上で再生したり、専用のMP3プレーヤーを使ったりしてどこででも再生して楽しむことができる。MP3はスマートメディアなどの記憶メディアを使っているのでCDのように動く部分がなく、したがって音跳びはないし、また消費電力も小さいのでA3電池一本で10時間前後という長時間再生が可能である。もちろん、超小型超軽量だ。1万円程度から購入できるので私もいずれ購入しようと思っている。MP3はファイルサイズが小さいことからインターネットを通じて音楽ソフトを配信するためにも使われ、新譜の視聴やライセンスフリーな曲をダウンロードして楽しむことができるので、広く利用されている。ただし、著作権の問題がからんでくるのでその対応が求められている。

 この若者のIT新語「MP3」と還暦間近の老年とをいかにしてむすびつけたらよいか、それが今回の「不可能を可能にする」話である。図 2を見ていただきたい。これは最近のベストセラー、「瀬戸内寂聴著、痛快!寂聴仏教塾、集英社、1,700円」である。つい先日57歳の誕生日を迎えたいま、そろそろ「人間の生き死に」について多少の関心をもたなければならないと思って購入した本である。また、NHKの番組でも瀬戸内寂聴による「生と死を考える」スペシャル番組もあり、しっかりと録画しておいた。もちろん、DV録画なので画質や音質も素晴らしい。要望があればダビングしてあげるのでメールしてほしい。

図2

 それはともかく、図からわかるように、私にとって特別に重要な必読の文献はCD付きの本である。CDには何が収録されているかというと、寂聴師が唱える「般若心経」と「特別法話」の実況である。実際にCDプレーヤーで再生してみると、「ゴーン、ゴーン(日産の社長ではない)」という鐘の音のあとに寂聴師の「般若心経」朗詠が始まる。師につづいて唱和すれば、ありがたく御仏の世界に浸ることができるのではないか、そんな風に考えた次第である。

 たえずパソコンと接していることが長寿の秘訣と信じている私にとって、瀬戸内寂聴師の「般若心経」そしてありがたい法話もできることなら、パソコンで聴きたいと思うのは当然である。しかし、CDを聴くにはCD-ROMドライブが必要である。もちろん、いま原稿を書いているDynabook SSはCD-ROMドライブをつけている。しかし、この1.3kgのモバイルパソコンのCD-ROMドライブは外付けであり、携帯するときはできるだけ、身軽にしたい。そのためのモバイルパソコンである。どこでも「般若心経」が聴きたい、その願いをかなえてくれるのがMP3である。若者以上に老年者にとってこそ、MP3が大いに役立ってくれるのである。

 さて、CDをMP3に変換するためにはCDフォーマット(実際にはwave?)をMP3フォーマットに変換(エンコード)しなければならない。それがMP3エンコーダソフトの役割である。私の手元にはMP3 BeatJam(ジャストシステム)、MP3 JUKEBOX(住友金属システム)そしてMP3 Jet-Audio2000(ノバック)がある。今回はまず、MP3 BeatJamによって、恐れ多くも「般若心経」をMP3にエンコードしてみよう。

 MP3 BeatJamを起動すると図 3のような画面が表示される。上段にコントロールパネルがあり、そこにはMP3ファイルの再生用のボタンが見える。再生、早送り、巻き戻し、一時停止などのボタンであり、これは通常のCDプレーヤーと変わるところはない。また、右側にはSP,LIST,RECそしてOPTIONのボタンがあり、収録されているファイル一覧(アルバム)を表示させて好きな音楽を再生させたり(LIST),CD-ROMに入れたCDをMP3に変換/録音(REC)するといった操作が選択できる。また、下段にはCD-ROMドライブに挿入したCDの曲のリストが表示されている。いまの場合、アルバムタイトルとして「瀬戸内寂聴」を入力し、下段にリストされた二つのトラックを選択して、録音開始ボタンを押そうとしているところである。下段の情報によればこのCDは33分、エンコードすると合計31MBのサイズになることが示されている。

図3

 録音開始ボタンをクリックすると図 4のように、Informationの欄に「Recording」と表示され、録音(エンコード)が開始される。録音の状況は上段のStatus欄に進行の状況をあらわすレバーと処理%が示される。時間的には1枚分のCDがおよそ10分程度という感じである。

図4

 CDのエンコードが終わると、当然ながら、さっそく聴いてみたくなる。図 5はトラックの曲名を入力し、「般若心経」を選択し、コントローラのプレイボタンをクリックして、ありがたいお経を聴いているところである。MP3 BeatJamにはアルバム機能がついており、収録したMP3ファイルのリストから曲を選択して聴いたり、リストの中から好きな曲を選択して新たな曲集を定義できる。たとえば、般若心経を聴いたあと、ラップミュージックが流れてくるようにしてもよい。やがてMP3プレーヤーを購入すれば、電車の中で50g程度の超小型プレーヤーからこの新アルバムが再生されてくることになる。シニアにとって、この曲の組み合わせがどのような意味があるのか分からないが。

図5

 使い始めた私のアルバムには図 6のように、瀬戸内寂聴に加えて、「feel」、「はじめての英会話」、「大人のピアノ」などが収録されている。「feel」はNHK特集「世紀を超えて」の主題曲や、同じく私の好きな番組、TBSの「神々の詩」の主題曲など、いわゆるリラクセーション用の曲が収録されたCDタイトルである。原稿執筆に疲れた体をいやしてくれる。また、「はじめての英会話」は当然のことながら、いまなお修練を怠らない私の英語学習のCDであるし、さらに「大人のピアノ」は老人のボケ防止のために始めたピアノの教則用CDである。20数年前、幼稚園児と一緒に習いに通ったエレクトーン教室、そして幼児と一緒に行ったあの発表会を夢見て、再度、家族だけを聴衆としたピアノ発表会ができたらと、くだらない夢を追っているのである。

図6

 シニアというと、いま麗澤大学出版会から発刊予定の「シニアのためのパソコン交遊術」を執筆中である。8月上旬には出版される予定である。最近の新聞によると、家庭におけるパソコン普及率は急速に高まっており、現在すでに40%近い水準に達している。この数字は若い人だけでなく、家庭の主婦や暇を持て余す私のようなシニア層にもパソコンが使われ始めていることを示す数字である。しかし、世の中にあふれるほど出版されているパソコン書籍はたとえ「55歳からのパソコン入門」とうたっていても、もう一つ、中高年にとって読みやすく、しかも興味がもてる内容になっているとは思えない。これではいけない、パソコンソフトの普及のために(つまり、Windowsソフトを作って販売されているコンソーシアム会員のみなさんのために)、シニア層にも興味を持って読んでもらえるパソコン書籍をみずから書かなければならないなと思った次第である。この本の中から「がんばるシニア」と題する部分を簡単に紹介しておこう。出版されたらぜひ、まとめて購入いただきたい。現在、予約受付中(!)なので私あて(mtaka@fsinet.or.jp)にメールください。


がんばるシニア「シニアのためのパソコン交遊術」(仮題)より

 インターネットには無数の情報が集められています。その中にはパソコンユーザーがみずからのパソコン活用の成果を多くの人に知ってもらうことをねらいとしたページも数多くあります。ちょっとした知識があれば、世界中のパソコンユーザーがインターネット上にホームページをもつことができるので、コンピュータ犯罪につながるような問題の可能性も秘めています。しかし、おそれていたのでは何もできません。怪しいと思われるページに近づかないように注意すれば、おそれる必要はありません。怪しいか怪しくないかどうすれば分かるの?と思われるかもしれませんが、インターネットのホームページを何度も見ているうちに、そのページが何を目的としているかはおよそ分かるものです。
 さて、インターネット上におけるシニアの活躍状況を垣間見ることにしましょう。たとえば図 7はYahoo!の画面例です。上段に空欄があり、そのわきに「検索」ボタンが見えます。この空欄に「シニア」と入力し、検索ボタンを押すと「シニア」に関係するホームページのリストが表示されてきます。

図7

 「シニア」と入力したら検索ボタンをクリックしてください。図 8は検索されたサイト(関連するホームページを集めた場所)の一部です。図を見るとなんと、89個所もあることが示されています。この中からためしに「ハッピー・シニア・ライフ・ネット」を選択してみましょう。

図8

 このサイトには100名を越えるシニアの人々が、各自の生活や趣味あるいは同好会などにおいてパソコンを活用しているその状況を各自のホームページに紹介した一覧(URL)が収録されています。画面上には各人のホームページへのリンクがリストされています。図 9のように、それぞれ下線が引かれており、マウスをその位置にもっていくとポインタは指の形に変わります。ここでマウスをクリックするとそのURLが示すホームページに飛ぶ(ジャンプ)できます。

図9

 各人のホームページを実際に訪れてみると、「こんなことにパソコンを使っているのか」と、次々にあらわれる各自のパソコン活用の成果に時間を忘れて見入ってしまいます。そのいくつかを箇条書き風に紹介しましょう。

 ・ 図 10のホームページを見てください。1920年生まれのHさんは草花とくに「ラン」が大好きです。ご自身が栽培されている愛するランをそれぞれ開花する月ごとに素晴らしい写真とともに掲載されています。また、散歩のおりなどに見かけた草花や公園の花などもデジカメで撮影して紹介しています。さらに、インターネットを通じて知り合った「花の好きな」友人のホームページやホームページ作成やデジカメなどに関する役立つ情報へのリンクも用意してくれています。

図10

 ・ 私とほとんど同年代のIさんは仕事の関係でスイスにお住まいです。忙しいスケジュールをぬって図 11のように、みずからの随想を毎月のようにホームページ上に掲載されています。また、カラー写真入りのフォトエッセーもあります。スイスは一度しか行ったことがない私にとって、Iさんの随想を読んでいるとやがて自分もと思われてきます。下手なガイドブックなど読むよりもはるかに旅へのあこがれをかきたててくれます。

図11

 ・ 1935年生まれのT子さんのページは図 12のように、趣味のキルトや刺繍そして亡くなった愛犬の思い出、2代目の愛犬との日々、家庭料理や日々の雑記帳そして旅(海外旅行やホームステイ)の楽しみなどで埋められています。我が家の老犬(15歳、人間でいえば80歳?)もやがてパソコンの画面上で思い出されることになるのでしょう。ホームページはそこを何人が訪れたか(アクセスしたか)を記録することができます。T子さんのホームページはこの3ヶ月ですでに2万回近くにもなっています。それだけ、シニアな人々が互いに仲間(といっても、パソコンを通じて情報交換するだけで、直接会ったことのない仲間も多い)を求めていることがわかります。

図12

 このようにホームページは、パソコンがどうこういう以前に、シニアの人々が長年にわたって続けてきた、花、随想の執筆、写真、絵、スケッチ、旅、動物との関わり、・・・、それらの記録を自分のために、そして仲間のために見てもらおうとする場所です。ホームページを見ていると、パソコンの姿はほとんど見えてきません。そこに見えるのは花や動物を愛する気持ち、好きでたまらない絵やスケッチ、詩や俳句そして人々との出会いです。

 人々はこれまでも、それぞれ好きな花を育て、絵を描き、詩を作り、愛犬との生活をしてきたはずです。そうした経験や楽しみを互いに交換しようと思ってもせいぜい、近所の仲間を誘い合ってお茶のみ話をするだけでした。しかし、パソコンそしてインターネットはシニアな人々の潜在的な才能を、近所の仲間だけでなく大げさにいえば世界中に広げる可能性を与えてくれました。しかも、上で紹介した人々がそれぞれコンピュータの専門家、パソコンの達人とはとても思えないことがまた、素晴らしいことです。


 まだ出版もされていない本の内容をつい、引用してしまった。著者(私)に申し訳ない。また、図を紹介した3名のシニアの方のホームページの紹介もまだ了承を得ていない。各人のURLだけを紹介し、実際の画面はみなさん自身でアクセスしてみてもらおうと思ったが、やはり、言葉の説明だけでは、シニアの人々の生き生きした姿が見えてこない。近いうちに、了解を求めるメールを出すことにするつもりでいる。

 このようにして、今回はつい、シニア真っ盛りの元気な姿を話題にしてしまった。事務局に対しては、今回はLAPLINK2000(インターコム社)などを取り上げるつもりであることを伝えていたが、届いた原稿は予定とまったく違った内容だったので事務局の小泉さんもびっくりしたのではないだろうか。次回は約束を守ることを誓って今回は終わりにしたい。

(麗澤大学 国際経済学部 国際産業情報学科 教授
http://www.reitaku-u.ac.jp/



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