田中 亘のWindows in Millenium

田中 亘


■販売の力

 先日、知り合いがパソコン店に下見に行ってきた。そのときに聞いたお店の人の言葉によれば、「最近のパソコンは、中身はみんな一緒だから、あとは見た目で選べばいいんですよ」というものだった。知人は、女性ということもあり、お店の人も、あまり理屈っぽいことを説明しても、きっとわからないだろう、という配慮から、そのような説明をしたのだろうか。 しかし、もし本当にそのお店の人が、パソコンがどれも同じ中身だと思っているとしたら、それはとても恐ろしいことだ。それぞれのメーカーのパソコンには、いまでも歴然とした個性や違いがある。各社ごとに、製品のコンセプトや戦略に合わせて、使う部品や性能のチューンアップを変えている。その違いを知っていれば、見た目と価格だけで、機種を選ぶことの怖さもわかるはずだ。

 また、これは実際に自分で耳にしたセールストークだが、あるお客さんが「もしWindowsがおかしくなったらどうすればいいんですか」と質問したときに、若い店員は「リカバリーCDがあるから大丈夫です。買ったときと同じ状態に戻してくれますから。パソコンの中になんて、そんなに大切なデータを入れたりしないから、リカバリーCDで戻せば十分でしょう」と答えていた。
これが現実だとすれば、もはやパソコンは「家電品並」の扱いを受けていることになる。だから数が売れているというのも事実ならば、だからソフトが売れないというのも納得できる。実際のところ、ひとくくりにパソコンと呼ばれるさまざまな機種も、よく比較検討してみると、ビジネスを志向したものとコンシューマを狙ったものでは、そのパッケージングにかなりの差が出てきた。その違いは、振り返ると、16bitパソコンと8bitパソコンの頃に似ている。あの頃は、CPUの処理性能で、ビジネスとコンシューマが分かれていた。だが、最近のパソコンでは、境界線が曖昧になりつつある。あえて違いを見つけるとすれば、ネットワーク機能の有無やキーボードやマウスなどの品質にあるだろうか。

 もっとも、コンシューマ向けパソコンの方が、リモコン式のキーボードやマウスを使ったり、高性能なカラー液晶モニタを搭載したりするなど、リッチな設計になっている。むしろ、ビジネスの分野において、10万円以下パソコンが、人気を集めていたりする。こうした低価格なパソコンは、高級機と比べてしまえば、見劣りする面も多い。しかし、先の店員によれば、「いやあ、どっちも同じですよ。あとは値段で決めてください」ということになるのだろう。 もちろん、日本でパソコンを販売しているすべての店員が、今回の例のような人ではない。中には、熱心に商品の説明をする人もいるし、知識が豊富で利用者から頼りにされる人もいる。そういう人に巡り会えれば、お客さんは幸せだ。

 とはいうものの、もはやワープロ専用機時代と同じような市場を形成し始めているコンシューマ向けパソコンの世界では、理屈や技術で納得してもらうのは難しくなってきたことも確かだ。先ごろ、オレンジページから刊行した「ぱそこんのある暮らし」という本でも、CPUという言葉は一文字も出てこない。パソコン選びのページでは、「形・値段・用途」という三つの視点による機種選びを推奨している。その意味では、自分の解説も、先の店員と大差がないのかもしれない。

 また、そう考えると、パソコンの中で動くアプリケーションについても、いままで以上に「目的意識」が問われているのかもしれない。何のために使うソフトで、どんな利点や便利さがあるのか。そんな当たり前のことでも、いま改めてしっかりと顧客にメッセージし直す必要があるのではないだろうか。タイプ練習や携帯電話ツールなどが、根強く支持されているのは、必要性が高いというよりも、目的が明確で買う前から効果が期待できるからだろう。そして、目的や機能は単純でも、それが利用者のニーズに合致していれば、ヒット商品になる可能性も高い。大切なのは、どこにニーズがあるのか、それを探ることにある。

 もちろん、探し出したニーズを製品にするか、インターネットで展開するかも、今後は重要な戦略となる。あるいは、アプリケーションとインターネットの協調関係こそが、新しい可能性を開く鍵になるのかもしれない。いまインターネットの世界でも、クリックス&モルタルとか、eとリアルの融合、といったキーワードが叫ばれている。つまり、すべてをバーチャル化するのではなく、既存のインフラとecをどのように融合させるかが、市場開拓の鍵になるのだ。 そうした動きは、すでに日本でもはじまっている。TSUTAYA On Lineや7dreams.comにG-Towerなど、さまざまな業種が、市場へのアプローチをはじめている。こうした動きによって、新しいインフラが構築されれば、その上で使われるアプリケーションも、新しい段階にくるだろう。そのためにも、パソコンとインターネットにおける市場のニーズを理解することが、なによりも求められている。

(ユント株式会社 代表取締役)



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