田中 亘のWindows in Millenium

田中 亘


■お楽しみはコレカラだ!!

 米国のホームページで、"PC Death, Greatly Exaggerated "というタイトルのコラムが掲載された。(http://www.zdnet.com/pcmag/stories/opinions/0,7802,2414863,00.html) いまに始まったことではないが、米国ではNet PCとかThe network is the computer.などの標語が掲げられるようになってから、時代は常に"Post PC"を望んでいる、あるいはPCの次に来るものにこそ、大きなビジネスチャンスがあるのだと、訴えられ続けてきた。しかし、価格は安くなり、薄利多売になったとはいえ、いまだにPCはインターネットやパーソナルコンピューティングの主流として、君臨している。

 だが、正直なところ、もう5年以上もPC Magazineを購読しているが、この1,2年で、広告の量は激減した。その一方で、ビジネスとインターネットに焦点を当てた雑誌は、米国で立て続けに創刊されている。(http://www.fastcompany.comなど)

 もちろん、日本でもITとビジネスをテーマにした雑誌や記事は、数多く登場している。どこの記事でも取り上げられている決り文句だが、これからのビジネス戦略にインターネットをはじめとしたIT技術を取り入れなければ、競争に負けてしまう、というのだ。そして、よく取り上げられる成功事例として、ASKUL(http://club.askul.co.jp/)やGAZOO(http://gazoo.tns.ne.jp/)がある。

 ビジネスのe化が促進されれば、パソコンを中心とした産業も、基本的には潤う。だが、注意深く見れば、情報産業にも大きな構造変革が訪れようとしていることがわかる。インターネットのビジネスでは、PCに向かう人たちが明確に二つのタイプに分類される。一つは、「作り手」となる人材だ。HTMLファイルなどのコンテンツ制作をはじめ、ビジネスを推進するために、必要な資料や情報を作り出す人たちがいる。そして、もう一方は、そうした情報を利用する「受け手」だ。

 この構図は、パソコンの黎明期とよく似ている。初期のパソコンは、自分でプログラムを作らなければ、何一つとして役に立たなかった。当時のパソコンの「作り手」たちは、プログラマにならなければならなかった。そして、当時の「受け手」といえば、プログラムされたソフトウェアを購入した人たちだった。パソコンの販売台数が伸び、「受け手」の数が増えることによって、「作り手」たちのビジネスは促進されていった。それ以降は、改めて説明するまでもなく、ハードウェアとソフトウェアという二大市場が形成されてきた。

 ところが、パソコンの進化とインターネットの登場は、過去のパソコンが作り出した市場を大きく変革してしまった。パソコンの進化では、ハードウェアとソフトウェアの標準化が進み、利用者が個々の部品や機能を理解しようとする意識が薄れてきてしまった。その結果、競合他社のソフトウェアや機能を比較することなく、市場で標準化されたパソコンの中から、価格と用途に適した製品を選ぶだけになってきた。そして、インターネットの発達は、情報の「受け手」を楽にして、メディアとしての可能性を飛躍的に広げた。今日のテレビに代表されるように、「視聴」が安易なメディアでは、情報を発信する「作り手」の努力や工夫が、かなり重要になる。まして、テレビのような電波塔や許認可などが必要ないだけに、誰でも自由に参入できることから、いままで以上に競争が激化する。

 ポジティブに考えれば、それだけチャンスが増えて、努力した個人や企業が正当に評価される仕組みが誕生したとも考えられる。しかし、反対に「作り手」には、いままで以上の努力というか、得意技が求められるようになる。過去のパソコンを取り巻く産業では、とにかくハードウェアであれソフトウェアであれ、技術的に詳しければ、それなりにビジネスとなった。ところが、インターネットを基盤に考えると、もはやホームページから情報を発信できることは、特別な技能ではなくなる。それよりも、そこから何を発信できるか、どれだけ「受け手」に届けられる内容なり技能を持っているかが、何よりも重要になってくる。さらに理想論を書くならば、その技能が他よりも秀でた技術力と結びつく必要がある。それが、トレーディングなのか情報サービスなのか、エンターテイメントなのかによって、求められる技術力も変わってくる。つまり、もはやパソコンとインターネットを取り巻く技術力も、かつてのような集約的なものではなく、専門分野に特化していく必要がある。経理、財務、データ処理、システム設計、製図、ゲームに教育などなど、一口にパソコン用のソフトウェアといっても、用途によって、その仕組みや使われる技術は、大きく変わってくる。
 その技術とビジネスをインターネット上でどのように融合させるかが、いま、パソコンを取り巻く産業界だけではなく、あらゆる業種や業態に問われている。それは、もはやパソコンが特殊な市場ではなくなり、世の中に組み入れられていることを意味している。それだけに、一つの成功がいままで以上の利益や結果を得られる。反面、部分的な技能にだけ固執していると、市場から取り残されてしまう危険性も高くなった。

 先の"PC Death, Greatly Exaggerated "というコラムでは、締めくくりに、次のような一文が記されている。
"Perhaps the golden age of computer magazines has not yet begun. "
 使い古された言葉を使うならば、まさに「パソコン雑誌の未来とお楽しみはコレカラ」ということだ。それは、いまパソコンに携わる人々すべてに共通したことで、これからの努力と研究が、いまよりさらに大きな成果を生み出す時代が、はじまろうとしているのだ。

(ユント株式会社 代表取締役)



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