Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
時代の流れを受けてWindows ViewもとうとうWeb版になった。紙に印刷した機関誌なんか、Windowsコンソーシアムらしくないと思っていたが、いざ紙の機関誌が届かなくなると寂しい。勝手なものである。これまではキットに入って雑誌が届くと、まずは本欄のページをはぎとってファイルに綴じ込み、その厚さ(歴史)をしみじみ実感していた。しかし、これからはそうしようと思えば、Webのページをプリンタに印刷するという手間がかかる。やはりそうしようと、第57回の記事をフォルダに綴じ込んだところである(図1)。 さて、本欄がいまなお連載を続けられているのは事務局の小泉さんの叱咤激励があるからである。中高年登山の師匠として彼の存在は何ものにも代え難い。ということで昨年の甲斐駒ヶ岳につづいて、今年も越後三山「中岳」および奥秩父の瑞牆山(みずがきさん)を目ざした。いずれも、たまたま日本百名山に含まれる山々である。とくに、10月下旬の土曜日早朝、快晴のもと、紅葉真っ盛りの増富ラジウム鉱泉の先にある登山口の駐車場についたとき、そこにあふれる車の列と華やかなウエアに身を包んだ中高年男女の群(われわれも含めて)には驚かされた。もちろん、頂上の混雑も予想以上であったし、さらに下山途中、午後3時すぎ、これから頂上をめざそうとする50人前後の大集団にも驚かされた。かれら(半数近くは彼女たち)はいずれも胸に近畿ツーリストの名札をつけた登山ツアーのグループであり、中央高速の渋滞に巻き込まれ、予定を大幅に遅れて登山口についたということだ。明らかに60過ぎと思われる高年層が多く見られた。頂上に着く頃は日も沈みかける時刻であろうし、懐中電灯をつけながらごつごつした岩だらけの急坂を下山する彼らの姿を想像すると、遭難はこうした無理な登山から、起こるべくして起こるのだと思われたのであった。 さて、本欄は登山講座ではない。やがてはWindowsソフトが登場しなければならない。これまでの話からどんなソフトが出てくるのか、当ててみて欲しい。おそらく、前にも話題にした「日本百名山」のCD-ROMが再登場するのだろうと思われるかもしれない。あるいは最近よく出てくる地図ソフトかな、と思われるかもしれない。しかし、残念、いずれもはずれである。今回もまた前回同様、子供向けのソフトである。私は子供を大事にしたい。パソコンビジネスに関わる人々は、先の見えた中高年層よりも未来のある(したがって長年にわたって顧客となり得る)幼児、学童を大事に、大事に、さらに大事にする必要がある。 まずは図2を見て欲しい。これは見ての通り、子供たちに根強い人気がある絵本「Peter Rabbit」の電子版の画面である。かつてCD-ROMソフトが出始めの頃、これこそがマルチメディアだとさまざまな電子ブック(CD-ROMタイトル)が発売された。いまでも思い出すのは「おばあちゃんと僕(Just Grandma and me)」である。このソフトはじつに楽しく、画面に表示された絵のさまざまな箇所に仕掛けが隠され、たとえば煙突をマウスでクリックするともくもくと煙が出てきたり、木の上の鳥をクリックすると鳥が鳴き出した。このインタラクティブネス(対話型、双方向性)はマルチメディアの基本であり、いまでこそ当たり前であるが、当時は(90年前後。当時はマッキントッシュがマルチメディアの中心であった)多くのユーザーが新鮮な驚きを感じたものである。 懐かしさのあまり、つい手元のCD-ROMライブラリーからソフトを取り出して起動してみた。図3がその画面例である。図では煙突から煙が立ち上ったところだ。おばあちゃんと僕はこれからバスに乗って浜辺へ遊びに出かけるところだ。家の前で待っているとやがて宮崎駿監督「トトロ」の猫バスを思い出させるかわいいバスが登場する(図4)。この電子ブックは日本語、英語そしてスペイン語に対応しており、同じ絵本を異なった言語で楽しむことができる。画面はシンプルであるが、いまでもかえって新鮮さを感じてしまう。ソフトは高機能化すればよいというわけではないことが実感させられるソフトである。幼児や学童にとって初めて出会うパソコンやソフトはどうあって欲しいのか、それを誰かが考えるべきだと思われる。 さて、ソフトの話はまだ上述の中高年登山と重なり合わない。しかも今回のタイトルは「今年の干支を求めて」とある。そういえば今年は「うさぎ」年である。「うさぎ」なら「Peter Rabbit」もまた「うさぎ」である。「Peter Rabbit」は預金通帳の表紙にも登場する。かわいらしさにつられてつい預金を始めた三菱信託銀行、その通帳が「Peter Rabbit」である(図5)。前回話題にしたように、金利が限りなく“0”に近い現在、預金の勧誘のためにキャラクターがその役割を果たす。子供に配っている貯金箱も「Peter Rabbit」であり、いずれ孫でもできたらもらいに行こうと思っている(我が家の息子、娘たちはいつになったら嫁をもらうのか、嫁に行くのか、残念ながらその気配さえない)。干支とソフトの間にようやく共通点が見いだされたが、肝心の登山の話と干支あるいはソフトの間にはどんな関係があるのだろうか。 今年のもう一つの登山「越後中岳」を誘われたとき、小泉さんからの話は「兎岳」に登りましょうということだった。彼は毎年、その年の干支の名前に関わる山を登っている。昨年は秋田の「虎毛山」なんぞに登ったということだし、来年は「五竜岳」(学生時代、私も登ったことがある)が候補にのぼっている。今年は「兎岳」、そして越後中岳の手前にある山が兎岳であった。これでめでたく登山と「うさぎ」のソフトが出会うことができた。 10月某日、土曜日の早朝(午前1時すぎ)、都内某所で同行者を拾った私はひたすら関越高速を走った。後ろの座席では前日の仕事に疲れた同行者二人がぐっすりと眠りについている。関越トンネルを抜け、しばらく走ってようやく六日町インターが見えてきた。インターを出てから、山の方向へと向かい、やがて十字峡ダムのほとりについた。ここでテントを張って仮眠をとり、8時頃から兎岳を目ざした。当日は天気もよくきつい登りもそれなりに楽しみながら山頂近くの避難小屋についた。話はいよいよ熱を帯びてきたが、こんな調子で登山の話が延々と続くことになると問題だ。 結論を急ごう。兎岳山頂を目指した翌日は大変な風と雨だった。ここで無理して遭難しては本欄もそれで終了ということになる。あきらめが肝心とばかり、雨で滑りやすい急坂をなんとか下って登山口まで降りてきた。山からの帰り道、しばし温泉につかったあとインターへ向かった。しかし、なかなかインターにたどり着かない。今度は、かの有名な魚沼産コシヒカリを販売している店に(というよりも清酒「八海山」に引かれて)立ち寄ることになった(図6、図7)。なにしろ、時間の余裕ありすぎの中高年である。同じ年齢層の店のおばさん(図8)とすっかり意気投合し、1時間ほども自家製の漬け物をごちそうになりながら昔話をした。このおばさん、なかなかの才人であり、米袋の文字も自筆の毛筆である(図9)。年賀状も自らその年の干支を筆で描いている。もちろん、今年の年賀状にはみごとな「うさぎ」が描かれていた。もらって帰りたかったが、そうもいかず、残念だった。 後からきた写真のお礼のはがきには、きれいな秋の草花が描かれていた(図10)。 店を出てしばらく走り、いよいよインターかと思ったら、インターそばの蕎麦屋の看板に引かれてつい、本場の蕎麦を楽しむことになった。日も沈んであたりが暗くなってきたころ、ようやく東京へと向かったのであった。 話を戻そう。「The Tale of Peter Rabbit」はカナダのDiscis社の製品であり、私にとっては懐かしい。かつて、CES(Consumer Electronics Show)などのおりに、同社のブースに立ち寄り、片言英語で私の役目(ソフトの伝道師)を、るる説明することによって10数種類のソフトを手に入れることができた。この電子ブックシリーズはシンデレラ、イソップ物語などかなりの本数にのぼっており、一部は日本語化されカテナ社から発売されている。私の手元にあるソフトは「VGA256色対応」とあり、さきほどの図に見るように、メニューは日本語化されている。カテナ社から提供してもらった覚えはないので、おそらく、だいぶ前にDiscis社が日本語化を試みていたときに同社から直接いただいたものだろう。もちろん、Windowsとマッキントッシュのハイブリッド版となっている。 このソフトは絵本であるとともに、物語を読み上げてくれる。図11は文章の先頭をマウスでクリックするところであり、これによって音声読み上げが始まる。また、分からない単語の箇所をマウスでクリックすると、その語の読みと意味が聞こえてくる。さらに、右側の絵の部分では任意の箇所をマウスでクリックすると、その部分を表す単語が表示され、発音が聞こえてくる。図では右端のうさぎ「Peter」をクリックしたところだ。 図の上段には図12のように、ブック、しおり、カスタム設定のメニューが用意されている。このうち、カスタムメニューから「ブックの設定」を選択すると読み上げの言語やクリック時の設定が可能である。なお、図の下段のタブをクリックして前後のページをめくったり、右端の矢印ボタンをスクロールすることで任意のページに移ることができる。ブックの設定によって図13のように、発音や同義語、意味などの表示を設定すればよい。 さらに、ブックメニューの「単語リスト」を使うと、それまで文章や図の上でクリックした単語をリストし、英単語の学習もできる。つまり、この電子絵本は楽しむだけでなく、英語の学習にもなるというわけである。これなら子供を幼稚園のときから英語教室に通わせたいと思っている教育ママゴンにも満足してもらえるだろう。図14は「単語リスト」を選択したところである。本の右側のページではPeterがいたずらして3つの植木鉢をひっくり返したところだ。単語リストは図 15のように表示される。単語を選択すると発音や意味が聞こえてくる。 このようにして今回は今年の干支にちなんで「うさぎ」ソフトを話題にした。兎岳といえば、新潟県関川村には「光兎岳(こうさぎさん)」、さらに南アルプスには「兎岳」(うさぎと名の付く山の最高峰)また、福井には「赤うさぎ山」があり、白山を展望するにはいい山であるとのことだ。また、干支といえば本欄でもすでに話題にしたことがあったことを思い出す。それは図16のように、本欄第12回のことであり、干支も「ねずみ」であった。3年前のことである。このときも話の枕は図17のようにCOMDEX帰りにサンフランシスコの書店で買い求めた「ねずみ小屋(ホワイトハウスではなく、Mouse House)」のペーパークラフトであった。ホワイトハウス、金閣寺、パルテノン神殿そしてタジマハールなどの豪勢な館がマウスのために建築(組み立て)される。 不器用な私にとって紙工作は難しい。図の下段には娘に組立させた完成図が示されている。しかしこの場合もこれで話が終わったのでは読者から文句が出る。どんなソフトが出てくるのかなと思っていると、読者はやがてタジマハールの本物を図18に見る。なんと、タジマハールの前に立つのは私(高橋三雄)である。この年、友人と一緒にインドで3週間のセミナーを行った。ニューデリー、カルカッタ(最近、名前が変わったはず)、バンガロール、デリーの4都市を回るセミナーであり、インドのシリコンバレーともよばれるバンガロール滞在中にタジマハールを訪れたのである。写真に一緒に写っている彼(藤森氏)は現在、同じ麗澤大学の助教授として活躍している。この回はパラレルポートに接続するタイプのフォトスキャナーとそれにバンドルされた電子アルバムソフトを紹介したのであった(図 19)。 本欄はWindowsソフトの紹介を目的とするが、著者にとってはその前後の話が苦労するところである。今後の原稿にも期待して欲しい。明日14日からはまたCOMDEX(ラスベガス)へ出かける。今年はCOMDEXのパンフレットに目を通す前に、ガイドブック「ラスベガス」(ダイヤモンド社)のページをめくりはじめた。これまではラスベガスは仕事で行くのであって遊びではないと堅く心に誓っていた。しかし、すでにラスベガス通いも20年を数えた。よくも飽きずに出かけてきたものである。そろそろ遊び的な要素が入り交じっても罰があたることはないだろう。COMDEX会場の一つ、サンズコンベンションセンターの前は、かつてのサンズホテルがベネチアンホテルになり、ベニスの運河に変わった。かつてイタリアはベニスに遊んだときにゴンドラに乗り損ねた。今度こそ、ラスベガスのゴンドラに乗ることができそうだ。 昨年は「モンテカルロ」、今年は「ニューヨーク」に泊まる。昨年はCOMDEXの疲れをいやしに深夜、ルクソールホテルに出かけホテル内の「ナイル川」をクルーズした。「俺はいまどこにいるのだろうか」?今年6月にはさらにフランスは「パリ」が完成し、エッフェル塔がラスベガスにそびえているはずだ。この「Paris」ホテルは「ニューヨーク」にもほど近く、フランスから贈られた自由の女神とエッフェル塔が相まみえていることになる。ラスベガスは面白い。土産話を期待して欲しい。 (麗澤大学 国際経済学部 国際産業情報学科 教授 |