田中 亘 インターネットが業界を追い越していく パソコン雑誌の記事を書いていると、自分を取り巻く世の中には、新型のプロセッサとソフトウェアしかないのではないか、という錯覚に陥るときがある。とある半導体メーカーの記者発表会に参加しても、クロック数がどうとか、バスのタイミングがどうとか、チップセットがなんだかんだ、という専門的な質問が飛び交い、みんな勉強熱心なんだと感心させられる。 ところが、一歩その雑誌の世界を離れて、広告関連のスタッフと飲み会をすると、さっきまで自分のいた世界が、むしろ異常なのかもしれないと思わされることがある。中でも、インターネットに関する情報や話題に関しては、遊び仲間の方が詳しいのだ。たとえば、動物占い。もはや、かなり話題になっているが、そのインターネットのアドレスとなると、なかなか知っている業界関係者は少ない。興味がある業界関係者ならば、検索エンジンなどで簡単に探し出せるのだが、そもそも「動物占い」なる言葉や現象を知らなければ、検索で辿り着けるわけがない。参考までに、アドレスを掲載しておこう。(http://www.animarhythm.com/) 果たして、あなたは何型になるだろうか。 この他にも、CDデビューしたら何枚売れるかというサイト( http://w3mb.kcom.ne.jp/~milk100/cd/cd.htm)や、精神年齢を鑑定してくれるサイト(http://www.page.sannet.ne.jp/ryu2/seitop.html)もある。 こうしたアドレスの多くは、個人が趣味で運営していることが多い。そのため、信憑性に関しては、いささか怪しいものだが、仲間とインターネットで盛り上がれることは確かだ。また、活字になった情報よりも、ライブ感が伝わってきたり、身近に感じられるのも事実だろう。 それに対して、企業の「顔」として運営されているサイトには、杓子定規で単調な情報が多い。カタログを発送するコストが安いからホームページを立てています、という雰囲気の会社は、かなりある。中には、意欲的なサイトもあるが、綺麗過ぎる情報が、かえって真実味を失わせているから不思議だ。 また、情報の信憑性という意味では、企業よりも個人を信じる傾向が、インターネットでは強くなっている。たとえば、旅行好きなOLであれば、旅行会社のサイトやパンフレットに印刷されている内容よりも、実際にそこに行った個人が発信しているホームページの情報を信用するというのだ。同じ旅好きが発信する情報だから、はるかに信用できるし、失敗がないという。 こうした話を聞くたびに、インターネットはまさに個人のために開かれたメディアなのだと実感する。その気になりさえすれば、誰でもユニークなサイトを立ち上げて、仲間を集めることができるのだ。もちろん、個人のサイトは、膨大な情報の中に埋もれてしまうことも多い。だが、それよりもさらに、インターネットにアクセスする人たちが貪欲になり始めているのも事実だろう。だからこそ、ビジネスとして考えれば「くだらない」と一蹴されてしまうようなサイトが、楽しみたい人たちの間で流行るのだ。 そんな普通の人々のインターネットに対する意識に、果たしてパソコンを取り巻く業界の人たちは、追いついているのだろうか、という疑問も抱くようになった。自分にしても、先に紹介したサイトは、すべて人から教えてもらったものだ。仕事目的だけでインターネットにアクセスしていると、そうしたサイトを検索エンジンでひっかけることはない。また、業界関係者とのメールのやり取りでも、ビジネスライクでゆとりがない。これでは、まさにインターネットに追い越されているようなものだ。インターネットの自由さや楽しさを自分が経験しなければ、これからのユーザーに対して、共感してもらえる原稿は書けないし、そうした人たちを集めたるためのビジネスのアイディアも沸いてこない。 インターネットには、パソコンやソフトウェアだけではなく、あらゆる業種や業態が関わりあうビジネスチャンスが無限にあるが、その流れに乗れるかどうかは、意外と自分の身の回りの環境にあるような気がするのだ。インターネットを楽しむ。サイトを誰かと共有したり共感したりすることが、いままでのメディアにはない魅力や可能性を広げるきっかけになるかもしれない。それは、テクノロジーを超えた先にある課題であり、そのための努力を怠れば、インターネットだけではなく、業界そのものから振り落とされてしまう危機感もある。 もちろん、インターネットを純粋にビジネスモデルという側面から捉えて、e-コマースやサイト認証、エクストラネットやBizTalkなどなど、インフラに近い側面から、開発やマーケティングにアプローチするのも、まったくもって正しいやり方だ。その方が、確実に安定した収入になる可能性も高い。 しかし、昔を振り返れば、もともとパソコンには、かなりの娯楽的な要素が多かった。その楽しさが、人から人に伝搬されて、いつしか大きな市場ができあがってきた。どこかに遊び心がなければ、ビジネスに関わりあっている関係者も疲弊するだろうし、ユーザーも退屈してしまう。だから、インターネットに追い越される前に、もう一度、自分たちもサイトでもっと遊べるように、一歩引いた位置から、ホームページを眺めてみるのもいいのではないだろうか。 (ユント株式会社 代表取締役) |