最新Windowsソフトウェア事情(第55回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


20世紀を振り返る

 例年、年末/年初になると翌年にむけてカレンダーや現代用語辞典などが書店の店頭に並ぶ。今年は私も久しぶりに朝日新聞社の「知恵蔵」を買ってみた。特別付録にCD-ROMがついていたからである。本体は電話帳ほどもある分厚い書籍であるが、とりあえずは特別付録に目がいった。それは「朝日新聞で読む20世紀」とあったからである。21世紀を目前にした現在、それぞれの立場で過ぎゆく100年間を振り返る時間をもつことが求められよう。  過去を振り返るときに、日記類などが役立つことはいうまでもない。しかし、残念ながら私は日記をつける習慣をもつことがなかった。小学生時代、何度か日記帳を手元においたがいつも1週間と続くことがなかった。過去を懐かしむためのもう一つは、幼年時代から現在にいたるまでの写真アルバムを開くことだろう。しかしこれまた、親が撮った写真アルバムや卒業記念アルバムは何冊かあるが、自分が撮影した高校生以降の写真は、プリントやネガが段ボール箱におさまっているだけで、まったく整理されていない。 つい先日も、5年ほど前にインドで行ったセミナーをネタに原稿を書こうと思ったが、そのときの写真がどうしても見つからない。やむを得ず、セミナーに同行した仲間から写真が収録されたCD-Rを送ってもらった。このCD-Rには100枚前後の当時の写真が満載されており、さっそくアルバムソフトでCD-R内の写真をパソコン画面上にスライドショウしてみた。タジマハール前で撮った写真など、こんなこともあったのか、あんなこともあったのかと実に懐かしかった。 私にとっても、いずれ時間をみて段ボール箱にあふれている写真類をとりあえずデジタル化する必要がありそうである。さいわい、手元にはヒューレットパッカード社のスキャナー(PhotoSmart。図1)があり、これならプリントした写真もネガもそのまま簡単にスキャンできる。さらにCD-Rも2台ある。時間さえあれば、過去50年間の電子アルバムが作れそうである。問題は時間と手間をいかにさくことができるかである。さいわい、最近は小淵沢で過ごす時間が長くなってきたので、そうした時間も簡単にとれそうである。

図1

話はあちこち飛んで申し訳ないが、最近ソニー製の小型CD-Rドライブを購入した。図2にみるように実に小さく、軽い(200gを切る)。これで4倍速のCD-R(20倍速のCD-ROM)である。また、CD-Rが接続されているパソコンはDynabook SS3380であり、CPUはモバイルPentiumII400MHz、メモリーは128MB、画面はXGAそしてハードディスクは8.1GBである。1.34kgの軽量タイプでありながら高機能になったものである。なお、最近のIBMからのニュースリリースによればノートブック用ハードディスクとして25GBが発表された。近い将来、私のノートブックパソコンもこうした大容量のハードディスクを搭載することになるだろう。

図2

 話を「知恵蔵」に戻そう。図3のメインメニューから「朝日新聞で読む20世紀」を選択すると過去100年間の主要な事件や事故の新聞記事が紙面そのままに参照できる。いわゆる電子縮刷版と考えればよい。実際の縮刷版は一ヶ月分でも電話帳なみの厚さがあって調べるのが大変である。最近は主要な新聞社から電子縮刷版が発行されているが、CD-ROM1枚で一ヶ月分しかおさまらないようであり、紙面(イメージ)が大きな容量を必要とすることが実感できる。特別付録に収録されている紙面は図4のように、大きく明治、大正、昭和、平成と時代別に分類されており、さらに象徴記事のジャンルもある。図では平成の「山一証券廃業」の記事を選択しようとしている。
図3

図4

 記事を選択すると図5のような画面が表示され、記事が読み込まれていく。画面を見ると「Adobe Acrobat」とある。このAcrobatはPDF(Portable Document Format)とよばれる形式の文書を作成したり、読むためのソフトである。つまり、いまの場合、新聞記事はPDF形式の文書として電子的に変換され、CD-ROMに収録されているのである。 やがて画面には図6のように実際の紙面のイメージが表示された。画面左側と上段にはさまざまなツールボタンやメニューが用意されていることがわかる。じつはAdobe社から提供してもらいながら、パソコンにインストールしただけにしてあって、なかなか勉強できないうちに、意識せず、いまのように「知恵蔵」の上でAdobe Acrobatの最新版(version 4.0)が表示されたのである。 Acrobatは開発者向けのツール群に加えて、一般ユーザーがPDF文書を読むためのソフト(Acrobat Reader)があり、後者は無料で配布できる。「知恵蔵」にも当然、Acrobat Readerが含まれており、必要な場合はインストールできるようになっている。図は開発/編集用の画面上の新聞記事である。Acrobat Readerの画面例はあとでみることにする。
図5

図6

 AcrobatはWordやPowerPointなどさまざまなソフトで作成した文書を、元のソフトがなくとも、そしてOSが異なっても、元の文書と同じレイアウトやフォントそして図版などで読むことを可能としてくれる。しかもページめくりや拡大縮小、しおり、検索などの機能も利用できる。一般ユーザーにとって、PDF文書を読むためには無料配布のReaderをインストールしておけばよい。そこで大学で学生に配布する教材もこのPDF文書にしておけば効果的な教材になるだろう。たとえば図7は私の担当科目「経営科学」の配布資料である。これはWordで作成した47ページにわたる文書である。大学にはいつでも利用できるパソコンが完備されており、学生をWordでこの文書を読むことができる。また、これまでも部分的に印刷して印刷教材として配布してきた。しかし、何十ページにもわたる文書をWord画面上で読むには、画面右側のスクロールバーを使ったり、PageUpキーやPageDnキーなどを使ったページめくりが必要である。あるいは印刷のプレビュー画面上で図8のようにページのプレビューを表示し、拡大ツールで拡大表示するなどして読むことになろう。もちろん、WORDがインストールされている必要がある。図では複数のページを表示させ、右側や下段のスクロールバーでページめくりをしながら読んでいるところである。

図7

図8

 WordやPowerPointで作成した文書をPDFに変換するのは簡単な操作ですむ。デスクトップ上でファイルをAcrobatのアイコン上にドラッグするか、あるいはAcrobatを起動し、編集画面上にファイルをドラッグしてもよい。また、WordやPowerPointのファイルメニューから印刷を選択し、印刷のダイアログボックス上で「プリンタ名」として「Acrobat PDF Writer」を指定してもよい。それによって印刷と同じイメージがPDF形式へと変換されている。 図9は上の教材を印刷メニューからPDFに出力(変換)しようとしているところである。それによってPDF文書が作成され、たとえば図10のように画面に表示された。これは下段のボタンから「見開きページ」を選択し、画面に見開きで2ページ分が表示されたところである。文中の図も十分に見える(圧縮の度合いを選択することで図などの見やすさとファイルのサイズを調整できる)。図11は縮小表示した見開きのページを「手のひら」ツールで自由自在にドラッグしているところである。

図9

図10

図11

 図の左側にはさまざまなツールボタンが用意されている。たとえば「ノートツール」はページの任意の箇所に注釈を加えることができるし、鉛筆ツールを使うとフリーなドローイングができる(図12参照)。さらにハイライトツールは文書の任意の箇所をカラーでハイライトして強調できる(図13)。これらの編集効果はPDF文書に反映/保存し、Readerで読むことができる。

図12

図13

さらに図14のように本文のページとは別にページの縮小イメージ(サムネール)を作成しておくと、ページのイメージを手がかりに読むべきページが選択できて便利である。編集が終わったPDF文書を保存して、実際にReaderで参照してみると図15のようになった。画面上段には「Acrobat Reader」と表示され、Readerで参照していることがわかる。また、画面左側にはページのサムネールが示され、任意のページをダブルクリックするとそのページを直接、表示できるし、上段のページめくりボタンを使ってページを行き来してもよい。

図14

図15

   Readerにも検索機能がある。図16では上段の検索ボタンをクリックして「アウトライン」の文字を検索してみた。図では「アウトライン」が検索され、白黒反転して表示されている。

図16

 私にとってAcrobatはまだちょっとためしただけの段階である。しかし、冒頭にとりあげた「知恵蔵」だけでなく、これまでインターネットを通じてダウンロードしてきた海外ソフトに含まれているマニュアルは、その多くはPDF文書であった。これからは大学の教材をはじめ、さまざまな文書をPDF文書で作成してみようと考えている。 「朝日新聞で読む20世紀」には大正時代の記事として「関東大震災」の紙面が収録されている。図17はこの大震災を伝える紙面であるが、それはなんと手書きの紙面である。朝日新聞社の社屋は震災で被害を受けたために、帝国ホテル内に臨時の編集部をもうけ、一日数回、手書きの新聞を発行したのであった。こうしたマスコミの涙ぐましい努力も、単なる昔話だけでは、「そうだったの」で終わってしまうが、実際の紙面を見るとマスコミ人の責任感や社会的な使命感を実感できる。
図17

(麗澤大学 国際経済学部 国際産業情報学科 教授
http://www.reitaku-u.ac.jp/




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