田中 亘のWindow’s1999

田中 亘


紙と電子と人間と


 まずは、残念なご報告からさせていただく。以前、この連載で書かせていただいたWindowsコンソーシアムのソフトウェア・カタログのホームページの監修を6月で終了した。わたしの力が及ばず、コンソーシアムから期待していただいただけの成果を上げることができなかった。この紙面を借りて、関係各者および会員のみなさまにお詫びを申し上げたい。
 約半年間の監修を経験して、ホームページという電子の媒体のヒット率を上げることがいかに難しいかを学んだ。インターネットは、開かれたメディアであるがゆえに、その中でヒット率という人気のバロメーターを上げることは、とても重要であると同時に大きな課題となっている。すでに、業界の識者たちが語っているように、現在のインターネットの世界では、勝ち負けがはっきりとしている。米国のホームページを見ても、広告収入が潤沢に得られているサイトは、全ホームページのTop10に集中しているという。オープンで公平であるがゆえに、その中で「マス」を確保することが、とても難しくなっている。
 もちろん、「マス」を狙うのではなく、「ニッチ」に焦点を絞ることで、特定の利益を確保する戦略もある。しかし、製品カタログやデータベースのような目的では、「マス」を取れなければ意味がない。今回は、残念な結果になったが、また機会があれば、挑戦してみたいテーマではある。
 もう一つ、毛色の変わった広告としては、100万部を超える女性向け雑誌の仕事がある。こちらは、いままさに企画を作り始めている最中なので、企業秘密に触れる部分もあり、詳しくは書けないが、この女性誌には、興味深い媒体データがある。それは、読者アンケートによれば、20代の読者にとって、「いま一番ほしいもの」の第一位が、パソコンなのだ。
 そうした市場に合わせて、大手コンピュータメーカーの多くが、こうした女性誌に広告を掲載したがっている。それも、タレントなどを使ったお決まりの広告ではなく、その雑誌の紙面に合った記事広告を求めている。ある広告代理店から聞いた話によれば、パソコン雑誌に定期的に広告を掲載するための予算よりも、一般誌のためのスポット予算の方が、比率的に多くなっているのだという。
 ただ、こうした現象は、単に「パソコン」として捉えると、いささか間違いが起きる。いま、中山美穂や田中麗奈などを使ったパソコンの広告は、一昔前の「ワープロ専用機」の延長線上でしかないのだ。特に、いま放映されているNECの「インターネットボタン」のテレビCMなどは、昔の「文豪」の宣伝ようなコメディ路線で、作りや構成も似ている。
 つまり、いまコンシューマを中心に売れているパソコン市場は、ワープロ専用機市場のリメイクであり、そこには、昔のパソコン市場と同じ理屈は、通用しないのだ。その一方で、昔ながらのパソコン市場と同じ理論で動く市場がある。サーバー系システムだ。ただし、この話は、次回にまわすとして、もう少し一般(=ワープロ専用機)化したパソコン市場について、記述しておこう。
 パソコンをいまよりも広範囲に販売していこうとしたときに、多くの宣伝部では、予算に合わせてできるだけ露出度の高い媒体を選ぼうとする。それは、マーケティングの基本であり、高度経済成長の時代は、広告効果で商品が売れ、企業が潤った。しかし、過去を振り返ると、ことパソコンに関しては、そのセオリーが成り立ちにくかった。個人的な印象では、テレビや新聞に広告を大々的に打った製品が、それほど爆発的に売れるというものではなく、むしろ、市場での支持率とか口コミによる浸透率によって、商品の人気が左右されてきた。また、業務用のパソコンでは、広告よりも営業力が問われ、イメージよりも堅実さが求められてきた。
 それだけに、かってはマスマーケティング的な広告や宣伝よりも、専門誌や専門家による解説や意見が、とても珍重されていた。ところが、市場が大きくなるにつれ、パソコンを売る側にも、皮肉なことだが、昔ながらのマーケティング理論があてはまるようになってきた。しかし、それは同時に、パソコンを販売する企業にとってみれば、家庭電化製品のように、販売比率を分け合うことにもつながる。その中でトップシェアを確保するためには、いままで以上の製品力と宣伝力が求められる。
 だが、果たしてほんとうにそれだけでいいのかどうかは、疑問が残る。先ごろ話題になった某社のビデオデッキを巡るインターネットのホームページに関する一件でも、個人のサイトに200万を超えるヒット数が記録され、マスコミも取り上げるだけの騒ぎになった。監修を依頼されたホームページのヒット率を上げられなかった筆者からすれば、なんとも羨ましい限りだが、個人の発言が世論を動かすという事実は、実にインターネット的であり、噂は悪い内容から先に伝わるというのも、また実に人間臭い現象でもある。
 紙と電子という二つの媒体、これが、今後の市場や情報をどのように左右していくのか、興味があるだけではなく、それは自分の死活問題でもあるだけに、広告という昔ながらの宣伝手法を学ぶことが、将来的にはインターネットでの新しい理論を確立する手がかりになるかもしれない。



Contents         Windows Consortium ホームページ