やさしく解説するマイクロソフトの最新技術 (第13回)

マイクロソフト株式会社 ソリューションデベロッパー事業部
デベロッパーマーケティング部 テクニカルスペシャリスト
奥津 和真 kazumao@microsoft.com


 

 最近、空調の止まったオフィスで休日出勤していると、とても暑い季節になってきましたが、皆様お元気でしょうか?この原稿を執筆しているいま、巷ではコールデンウィークの真っ最中ですが、私は何故かこうしてオフィスで仕事をしています。前回は、BizTalkについて解説しました。どうも実際の製品などが、まだ見られる段階ではないこともあって、執筆していた私自身も消化不良な内容となってしまいました。もう暫く待っていると少しずつ情報量は増えてくると思われますので、首を長くしてお待ち頂ければ幸いです。

 さて、今回で私の執筆は最終回ということで、実は本来の担当範囲から少々外れるのですが、いつもと異なる系統の技術を取り上げてみようと思います。それは、最近話題のWindows Media Technologies(WMT)です。現在、英語版のWebサイトにおいてWMT 4.0 Beta版が公開されています。これはビデオやサウンドなどのメディアを扱うマイクロソフトのテクノロジ群です。以前、NetShowと呼ばれていたメディアストリーミングを実現する製品もWMTに統合されていきます。また、Internet Explorer 5(IE5)をインストールされた方はWindows Media Playerというものが一緒にインストールされたのではと思いますが、このWindows Media Playerも一連のWMTの流れに沿うものです。皆さんが、「パソコン上で再生するビデオやサウンド」と聞いたとき、もしかすると、コマ落ちして品質の低いビデオや、音飛びしてFMラジオ以下の音質しかないサウンドを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?なお、今回は色々な意味で身近なサウンドを中心に解説していきます。

●MP3とは?

 さて、WMTの説明を始める前に、まず「MP3」について簡単に説明したいと思います。皆さんもMP3という言葉を聞いた事があるのではないでしょうか?MP3はMPEG Layer3という規格であり簡単に言ってしまうとサウンドの圧縮ファイルです。皆さんがたくさんお持ちであろう音楽CDに入っている5分程度の曲は、通常、未圧縮状態で約50MB位になります。つまり1分あたり約10MBの容量となるわけです。これをMP3にエンコードすると人間の耳には殆ど音質の変化がわからない128Kbpsのレートで、約10分の1のサイズになります。つまり約50MBが約5MBとなるわけです。細かい圧縮原理は省きますが、人間の耳の可聴範囲と更に錯覚を逆手にとった圧縮アルゴリズム利用して、高い圧縮率を実現している訳です。通常のCDの音楽をMP3に変換する事は難しいことではありませんので、フリーウェアとして出回っているエンコードツールがあれば誰でもできるのです。このように作成が比較的容易であることも手伝ってMP3はインターネット上に一気に広まりました。それが昨今のMP3の流行となった訳です。

●サウンドのデジタルファイル化の利点と課題

 しかしながら、MP3の流行は同時にインターネットを音楽CDからの不正コピー/不正配布の温床と変えてしまいました。当然、レコード会社などはそれを阻止すべく色々な手を尽くしているようですが、インターネットに繰り広げられる不正行為を取り締まることの難しさは皆さんにもわかって頂けると思います。ただし、このMP3が魅力的なものである事は確かです。MP3はオンラインでの楽曲の販売という点で新たな道を開きました。我々の扱うコンピュータのソフトウェア同様にレコード会社が扱う楽曲も本来、形の無いものです。インターネット上で全てを販売できるとすれば在庫を持つ必要がなくなります。すると経費が軽減し、売り手の利益、ひいては著作権者へ本来の利益が届くことになるわけです。特に、売れるかわからない、例えば新人アーティストの楽曲を売ることへのハードルが大変低くなります。また、購入者が払う一曲当たりの料金も安くなるでしょう。しかしながら、現状のMP3を利用する限り不正コピーを防ぐ手段がありません。ファイルコピーと同様にいくらでもコピーが出来、インターネット上でも配布し放題です。従って、どんなに多くの利点があろうとも、この不正コピーを防ぐ方法を考え出さない限りはインターネット上での楽曲販売は導入されないわけです。

●Windows Media Technologies 4.0の利点

 これら多くの利点とオンライン上での楽曲の安全な販売という新しいビジネスモデルの実現を目標のひとつとして開発されたのが、WMT 4.0です。WMT 4.0によるサウンド圧縮は、MP3と比較して音質比較で約2倍の圧縮が可能だと言われています。MP3でレートを128Kbpsとして作成した約5MBのファイルとWMT 4.0でレートを半分の64Kbpsで作成した約2.5MBファイルの音質比較テストでは、WMT 4.0の方が音質良好と答えた人が多かったというテスト結果が先日、米国にて発表されました。ただし、これらのテストは、もちろん人間の感覚に頼っていますので、一番良いのは皆さん自身が手持ちのCDから取りこんで、実際に聞き比べる事でしょう。私も先日、自宅で上記と同様の実験してみましたがWMTのデータはサイズが半分なのにも関わらず、音質の差は殆ど無いという結論に達しました。サイズが小さければ今までの2倍の曲数を入れることもできますし、Windows CEのような小型のデバイスでも現実的に利用できるようになるのでは思います。同時に、エンコードの速さも特筆ものです。MP3と比較して数倍の速さでWAVファイルなどからエンコードが可能です。この速さについては、実は私自身も不思議に思っています。また、WMT 4.0は著作権保護の機能をも統合しています。また、著作権保護については、文末に添付してあるURLのWebページを見て頂くと、Windows NT Server 4.0上で動作するWindows Media Rights Manager 1.0 Beta 英語版というものがダウンロード可能になっていると思います。これは、いわば著作権管理用のサーバーソフトウェアです。これらは、クライアント(消費者)のパソコンにインストールされているWindows Media Playerの将来のバージョン(同ページにBeta版が存在します。)との間でライセンスの確認を行います。その結果、正規の購入者しか、その楽曲を再生する事ができないようなシステムを作ることが容易になります。これらの挑戦は始まったばかりですが、将来、自分が聞きたい曲を、その場で購入する事ができるかもしれません。今見ているテレビの中で流れる主題歌がリモコンボタン1つで衛星インターネットを伝わって数十秒以内にパソコンのストレージの中に配信され、その購入費用は自動的に自分のクレジットカー ドにチャージなどという流れは、技術的側面だけ見ると、既に十分実現が可能なのです。

●今後の展開!?

 このWMT 4.0は既に動作するベータ版が存在します。しかし、著作権管理の方式などについては、マイクロソフト以外からも近い将来いくつか出てくると思われます。最終的には、ある程度標準化されるのではと私は考えますが、どちらにせよ本格的な動きまではある程度の猶予があるかもしれません。デジタルコンテンツに不正コピーを防ぐ方法が加われば、対コンシュマーの商品としては恐らく最もオンライン販売に適したものとなります。ある程度のシステムを構築すれば、物理的に物資が動かさずに単にライセンス料だけ入ってくるという最も効率的な産業と成り得ます。回線の問題などが解決すればビデオ映像に関しても同じアプローチが可能になるかもしれません。

●おわりに

 今回は、この辺でおわりにしたいと思います。MP3やWMT 4.0などのデジタル圧縮を行った楽曲の「極めて個人的な」利点をもう1つ書くと、私は出張時にB5サイズのCD-ROM無のノートパソコンを持っていくのですが、その際、自分の持っているCDのデータをあらかじめ作成して詰め込むと途中で音楽を聴くのに大変便利です。1曲50MBは無理としても5MBだったらハードディスクの隅っこに入れられますので。MP3に関しては専用の小型プレーヤーも何種類が出ているようです。どちらにしても、将来が大変楽しみですね。

 なお、冒頭でお知らせした通り、私の当コーナーの執筆は今回で終了です。タイトルのように多くの方々に少しでも理解して頂くことを念頭に執筆してきたつもりではありますが、私の文章力などの問題により解り難いこともあったのではと思います。また、この連載を続けて読んで頂いた方にお詫びとお礼を申し上げるとともに、色々とお手数をおかけ致しましたコンソーシアム事務局の皆様にもお礼申し上げます。ちなみに、今後もマイクロソフトのイベント等でお目に掛かることもあると思いますが、その際は気軽にお声をおかけ頂ければ幸いです。

○ 参考資料
Microsoft Windows Media Technologies Site
 http://www.asia.microsoft.com/windows/windowsmedia/
Microsoft Windows Media Technologies Site 日本語版
 http://www.asia.microsoft.com/japan/windows/windowsmedia/
(注) 執筆時点では日本語版サイトは公開されておりませんので、もしも、エラーになるようであれば、英語版をご覧ください。

 なお、ベータ版の利用による障害、異言語版をインストールした事による障害などについては、マイクロソフトは、一切、保証およびサポートいたしましせんので、ご留意の上ご利用ください。

<事務局から>
本コラムは、しばらく休載させていただきます。次の新しい企画にご期待ください。



Contents         Windows Consortium ホームページ