最新Windowsソフトウェア事情(第50回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


50回を記念してあらためて過去を回顧する

 本欄もとうとう50回を迎えることになった。かつて「bit」誌(共立出版)でめざした100回連載も目標直前の99回で挫折した。また、Windows Viewと並行して連載を続けてきた「OAビジネスパソコン」(電波新聞社)も29回で99年4月号をもって雑誌自体が休刊となってしまった(それでも15年続いたのは立派。同誌の前身である「マイコンピュータ」時代からの連載を数え上げれば100回に近い回数の記事を書いたと思うが、過去を振り返る余裕はない)。これで目標達成の道はただ一つ、Windows Viewとなってしまった。あと50回(つまり4年ちょっと)、Windowsコンソーシアムは存在しつづけるのだろうか。最近はLinuxなどOSとしてのWindowsに対する風当たりも厳しくなったが、ぜひがんばって欲しい。私も産学共同のコンソーシアムの中で学界側で残った唯一の顧問として、今後もWindowsソフトの旗振り役を演じていこうと思っており、覚悟を新たにしているところである。
 50回連載といえば4年ちょっとの年月である。この間のパソコンのハード/ソフトの進展は、あらためていうまでもなく驚異的であった。思い起こせば、98年1月にDELLのノートブックパソコンを購入した(予備のバッテリーやドッキングステーションなどを含めておよそ60万円)。その時点では128MBメモリと4GBハードディスクを備えたこのパソコンはどこへもっていっても自慢の種だった。その後、98年7月、岩波書店の「実戦Excel入門」の執筆を、読者と同じく購入して箱をあけたばかりのWindows 98パソコン(そしてExcelがプリインストールされた)から出発したいと思い、東芝のDynabook Sateliteを購入した。この時点でこの一般ユーザー向けのノートブックパソコンは64MBメモリ、4GBハードディスクが標準装備されていた(およそ28万円)。そして現在執筆中のパソコンはつい半月ほど前(99年3月はじめ)に購入した最新のB5サイズサブノートパソコンである(これまた東芝のDynabook SS3300)。
 私がはじめてノートブックパソコンに出会ったのは、いつだったか忘れたがラスベガスのComdexであった。10MBのハードディスクを搭載したこのDynabookは大変な人気で、人だかりの肩越しにその素晴らしさを眺めたことを思い出す。それ以来、Dynabookは私にとってノートブックパソコンの代名詞ともなってきた。しかし、98年1月の時点では、最高レベルの性能を求めるとどうしてもDELLになってしまった(無数のソフトをインストールしなければならない私にとってハードディスクの容量がもっとも重要なポイントである)。
 Dynabook Steliteは半年もたたないうちに、格安の値段で小淵沢の仲間の手に渡った。そして現在のパソコンは1.5kgを下回る重量とB5サイズの大きさ、そしてこんな薄くて大丈夫なの?と思わせる筐体に128MBメモリ(標準は64MB)と6.4GBハードディスクを備える。またCPUはペンティアムII266である。現時点では私にとって十分に満足できる性能である(といってもこの程度は当たり前となり、いまさら自慢できるはずもないが)。ただ、東芝からはすでにノートブック用に10GBハードディスクがOEM出荷されているという報道も目にしているので、半年もたてば次のパソコンへと気持ちが移っていくのだろう。
 さて、応用ソフト中心の人生を続けてきた私にとってハードのことを話すのはきわめてつらい。早いところソフトの話へと移っていきたいのだが、50回記念ともなれば、読者の誰も意識することがないにしても、私なりに過去を振り返りたく思うのである。思い出せば1980年ころ、ソードの最新パソコンを140万円で購入した。64KBメモリを標準装備し、なんと75KBのフロッピーディスクドライブも装備されていた(8インチの片面単密)。したがってDOSもついてきた!。
 当時、パソコン(マイコンとよぶのが普通だったかもしれない)の記憶装置の主流はカセットテープであった。音の高低で「1,0」のビットを判断し、1200ボーの速度でゆったりとゲームソフトなどをロードしなければならなかった。音量や音質の微妙な違いによってロードできなかったりするので、一度でうまくロードできることは少なく、なんどかの試みのすえ、ようやく「インベーダゲーム」などを楽しむことができた。またロードするのが大変なので、何日もつけっぱなしということもあった。
 メモリもまた、4KBや8KBが常識であった。そうした中にあってCPU(Z80)がアクセスできる最大メモリ64KBが装備され、しかも放電破壊式のジャーナルプリンタ(幅10cm程度の銀紙に印字される)もついていた。私にとってこのパソコンは大変な財産であるとともに、また自慢のたねでもあった(思い起こすといつの時代もたえず自慢したがっていたような気がする。これは悪い性格なのだろうか)。当時連載していた「RAM」というパソコン雑誌で毎回、このパソコンを使ったBASICプログラムを紹介しつづけたものである。このときも30数回連載し、1981年それを題材にはじめてのパソコン書籍「ビジネスマンのためのパーソナルコンピュータ入門」(廣済堂)を出版した。それまで理工学書のコーナーに並んでいたコンピュータ関連書籍が、はじめて文系(一橋大学出身)の人間の手によって書かれたのであるから、新聞の新刊コーナーで取り上げられたり、大変な人気であった。いまでいうところの「できるシリーズ」のはしりといってよい。印税も私にとっては大変な額が入金され、「あぶく銭」とばかり、当時の6週間乗り放題というUA(ユナイテッド航空)のチケットを購入して家族5人、フルに42日間の米国大陸旅行を楽しんだのであった(じつに優雅な時代でした)。このように、過去を振り返ると米国旅行は別として、無数のパソコンおよび周辺装置(ハードウエア)に投資した札束の悪夢に追いかけられるだけである。この辺でソフトの話へと移ることにしよう。

 今回の原稿はむずかしい。なにしろ最新ソフトの話を取り上げたのでは「過去を振り返る」ことにはならない。困った困ったと悩みに悩んだあげく、よしこれでいこうということになった。それは50回連載どころか、「110年連載(110回ではなく、110年!である。年のため、おっと違った、念のため)」の記事をパソコンソフトと関連づけてお話しようというのである。そんなうまい話があるの?と思われるだろう。さっそく始めることにしたい。

図1

 まずは図1を見て欲しい。これは97年のComdex帰りにCompUSAで購入した「The Complete National Geographic」である。National Geographic誌といえば自然や動物を素材にした豊富な写真入りの、米国の由緒ある雑誌であり、創刊はなんと1888年である。つまり、購入した97年からさかのぼると108年前の創刊ということである。そしてこの1888年から1996年12月までの108年間に発刊された雑誌(最初の年は1冊だけ、以後はほとんど毎月発刊されてきた)がすべてCD-ROMに納められて発売されたのである。12冊x107年+1=1285冊の全ページがそのままスキャンされ、CD-ROMに納められている。
 National Geographic誌はカラフルな広告記事も数多く含まれている。この広告記事の変遷を見るだけでも楽しくなる雑誌である。飛行機の機内誌としてマガジンラックに入っているので、いつも太平洋上の機上で時間つぶしに写真入りのページだけをめくって見ていた。また、日本語版も日本経済新聞社から発行されている。もちろん、この108年間の膨大な雑誌のすべてが数枚のCD-ROMにおさまるはずがない。97年時点ではCD-ROMだけだったので、上記の製品にはなんと30枚も入っていた。そこで問題は値段である。30枚のCD-ROM(1枚あたりそれぞれ50ヶ月前後の雑誌が収録されている)全部で定価は195ドル、実際には170ドルで購入した。なんと、CD-ROM 1枚あたり5.7ドルつまり、729円(当時のレイト、1ドル128円として)であった。これを安いと思うか、そんなものだろうと考えるかは人によって違うだろう。私にとっては、「108年のすべてを手のひらにのせることができる」この製品を見逃すはずがない。私だけでなく、おそらく誰でも手にしたくなる製品ではないだろうか。
 ところで98年のComdexの帰り、サンフランシスコの街中にオープンしたCompUSAに寄ってみた。そこにはふたたび、「The Complete National Geographic」のパッケージが山積みされていた。今度は「アップデート版」とある。たしかに1年たった98年、108年の歴史は1年という新しいページを加え、「109年の歴史を手のひらに」となった。さっそく購入しようと衝動的にショッピングかごに入れたが、ふといやな思いが頭をよぎった。「アップデート版」といっても、当たり前であるが、その109年分のCD-ROMの中で108年分は97年に買った製品と中身はまったく同じものである。この「1/109」の歴史にふたたび2万円を投資するというのはどういうことなのだろう?このむずかしい計算過程を十分に吟味した結果、賢明な私は泣く泣くショッピングかごからパッケージを再度、棚へと戻したのである。しかし、いずれかの機会(おそらく50年たったころ)に、98年以後の「The Complete National Geographic」の歴史も手にしたいと思ったことはいうまでもない。
 しかし、この願いは50年たつどころか、CompUSAにおけるショッピング過程の中で知らず知らずにかなえられたのであった。歴史へのひたすらなあこがれは、ついえた希望を自然にかなえてくれたのである。じつは店頭には1年前に私が購入した同じCD-ROM版「The Complete National Geographic」に加えて、愛蔵版(マホガニーのケースつき)もあった。通常のパッケージにくらべて50ドルほど値段がはるが、これまた触手がのびたが、投資額とその効果を考えてあきらめた。また、DVD版も新たに発売された。これなら97年版を誰かに売りつけて多少の資金回収ができるだろう、よし買って帰ろうと思ったが、私の手元にはまだDVDドライブがない。買ってもしばらくはソフト収集庫に寝かせてしまうことは必定であり、やがて「99年アップデート版」に出会うことになるだろう。これまたあきらめた。そのとき、もう一つのパッケージが目に止まった。それは「National Geographic MAPS」である。
 じつはNational Geographic誌にはときどきさまざまなジャンルの地図がついてくる。その多くは雑誌折込の形になっており、この地図に関しては「The Complete National Geographic 」にはその一部しか収録されていない。マニアとして完璧を期するためにはこの折込地図を含めてNational Geographic誌のすべてが欲しい。そうした願いをかなえるために、あらたに「National Geographic MAPS」が発売されたのである。この8枚組のソフトは100ドル前後だったと思うが、さっそくショッピングかごに入れたことはいうまでもない。
 ホテルに帰ってパッケージをあけてみると、そこにはなんとアップデート版に加えられた最近年(97年)のThe Complete National GeographicのCD-ROMが1枚(1年分だけが収録されている)、「おまけ!」(サンプルの意味であるが)が入っていた。これはよかったと大いに喜んだことはいうまでもない。このようにして今回は108年(じゃない、109年)の歴史を振り返りながら、The Complete Nationalを見てみよう。といっても今回はすでにページ数がかなり進んでいるので、ごく簡単に図版例を見るにとどめ、詳しくは何回かにわけて、そのときどきのトピックスに関連して過去の歴史を振り返ることにしたい。
 あらためて図1を見ると、私の手のひらには108年間のすべてのNational Geographic誌がのっている。また、右手は最新年度(90年代)のパッケージをもっており、CD-ROMの一枚をかざしている。パッケージはツタンカーメンの黄金マスクとかアフリカ象などの写真が描かれており、それぞれ10冊の薄いパッケージに3、4枚のCD-ROMが入れられて大きな箱にセットされている。図2はこの薄いパッケージの一つ(創刊号を含む1888年から1909年)に入っている4枚のCD-ROMを広げてみたところである。

図2

図3

 The Complete National Geographicはパッケージを書棚に飾っておくだけでは意味がない(飾りとしても悪くはないが)。さっそくパソコンのCD-ROMドライブにセットしてインストールし、記念すべき創刊号を含む最初の一枚を起動してみると図3のような画面が表示された。上段には1888年から1900年代までの年号が表示されており、現在は創刊年を選択し、画面中央にその年に1冊だけ発刊された記念すべき創刊号の表紙が表示されている。ここからは画面右下のボタンをクリックしてページをめくって雑誌の内容を読んでいくことになる。このブラウジングソフトの使い勝手はお世辞でもよいとはいえず、ページを拡大すると画面をはみだしてしまったり、せっかくのソフトがもったいないと思わせる。しかし、108年のすべてを読めるのだから、そんなことはいっていられない。

図4

 図4は90年代のCD-ROMを起動したところである。画面には90年代の年号が表示され、たとえば1996年を選択すると画面上のようにこの1年間の雑誌の表紙がカラフルにリストされる。ここで希望の号の表紙をクリックするとその号の最初のページが表示され、あとは画面下段のボタンでページをめくって読んでいくことになる。

図5

図6

 図5は右側のページが目次のページであり、中国の地下宮殿発掘の記事が特集されているようである。左側のページはフォードの広告記事である。ふたたびページをめくっていくとやがて図6のページにきた。右側にMSN(マイクロソフトネットワーク)の広告が掲載され、左側に本文の記事が載っている。もちろん、この大きさでは内容を読むことができないので、画面左下のZoomボタンをクリックして拡大表示させればよい。図7はこの拡大されたページを示している。最近の号はそこに含まれる写真やイラストの多くはカラー版であり、見ていて楽しくなる。もちろん、創刊からしばらくは写真が載っていても白黒であるし、現在のように豊富な写真入りということはない。

図7

図8

 つづいてアップデート版として入手した97年を見てみよう。図8は新たに入手した97年版を含む90年代の一覧である。上段の年リストには97年も含まれ、画面中央には97年に発刊された12ヶ月分の表紙がカラーで表示されている。たとえば右下の最新号(12月号)をマウスで選択すると最新号を参照できる。図ではまた、上段にいくつかのボタンがあり、その一つが検索用のSearchボタンである。これを使うと過去109年にわたってキーワード検索が可能となる。もちろん、誌面はスキャナーで取り込んだものであり、そのままではイメージである。したがって文面を対象とした検索はできないが、別途誌面に対応したキーワードづけが行われているようであり、検索機能も含まれている。たとえば図9はSeachボタンをクリックし、検索ウィンドウ上段の欄に「Japan」と入力し、日本に関する記事を検索したところである。それによれば最近では97年7月に「相撲」が取り上げられていることがわかる。また、あいかわらず、芸者もある。さらに築地の魚市場も大きく取り上げられているようである。

図9

図10

 過去109年の中でいつ頃から日本が話題になっているのだろうか。あらためて検索結果のリストを過去にスクロールしてみると、図10の結果が得られた。タイトル一覧の最後には「Japan」とあり、その日付は1894年12月とある。こんな時代にThe Complete National Geographicでは日本に関してどんなことが話題になったのだろうか。図11は1894年12月号の該当ページを開いたところである。時代が時代なので文字とイラストだけの文面であり(図は文字だけ)、また、古色蒼然として文字も判読できない。画面左下にはズームボタンがあり、文面を拡大して読むこともできるが、文章しかも英文だけの記事ではみなさんにとって苦行でしかないと思われる。日本に関する記事でもっとカラフルなものはないかと、あらためて検索結果を眺め、築地の魚市場の記事を開いてみたのが図12である。米国にはこんな大規模な魚市場などあるはずもない。30年前、フィラデルフィアにいたときに魚が食べたくて探したことがあり、わずかに中華街とかイタリア人が住む街に小規模な魚市場があったことが思い出された。

図11

図12

 このようにして今回は50回記念号に109年の歴史を重ねあわせて感慨にふけったのであった。これからもまた、ご愛読いただきたい。

(麗澤大学 国際経済学部 国際産業情報学科 教授
http://www.reitaku-u.ac.jp/
MAP左上のTakahashiからリンク)



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