最新Windowsソフトウェア事情(第49回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


ジェット戦闘機に追いかけられた悪夢

 99年1月も例年通りMacWorld視察にサンフランシスコへ出かけた。Windowsコンソーシアム顧問の立場からするとマックに組するのはどうかと思われても、やはりモスコーネセンターのMacWorldから始まる1年がその年の成果に大きく影響する。まだ筑波大学大学院に在籍していた昨年は1月上旬のこの時期、修士論文審査のためにせっかくの機会を逸してしまった。おかげで昨年は本の執筆も予定を大幅に遅れ、岩波書店の「実戦Excel入門」は本年1月下旬発刊となってしまった。 みなさんはこの本に添付されたCD-ROMを見ていただいただろうか。いまどきCD-ROMがついた本など珍しくもなんともないと思われるだろうが、私の本のCD-ROMはそんじょそこらのハウツー本とは一味違う。なんといっても、ロータススクリーンカムを使って作成された著者みずからのナレーション入りビデオが収録されており、それを再生すると、実際の操作がダイナミックな画面上の動きとして再現されるのである。 この70本近くのビデオ(スクリーンカムのexeファイル)は今後の学習書のあり方に一つの方向付けを与えるものと考えたい。しかし、70本ものビデオを作成することはけっこう大変な作業であった。人にまかせることができない作業内容なのですべて手作りであった。「犬がほえれば撮りなおし」、「宅急便が届けばとりなおし」なのであるから。こうした著者の苦労話は同じくCD-ROMに添付した著者挨拶ビデオ(これはビデオキャプチャしたMPEGファイル)を見ていただくとよくわかる。いずれにしても、岩波からの提供(10冊)だけでなく、ぜひ、みなさんの回りで購入を勧めていただければさいわいである。
 さて、本題に進もう。つい先日の日経のコラムに図1のような記事が掲載されていた。

図1

 それによれば「オレゴン州ヒルズボロ近くの田舎道をなんとボーイング727がトレーラに引かれて走っているではないか。これは49歳の電気技術者が独身者用のアパートにするために購入したものである」ということだ。たしかに写真を見るとかつて日本国内線でもよく見かけたボーイング727が道を横切ろうとしている。しかし、半日にわたって交通遮断をするといった特別な警戒を行っている様子はみえず、道路を横切る間だけ交通整理しただけのようである。日本ならどうなっただろうか。おそらく物見高い観衆やTVカメラがごっそり集まって、ホットドックの屋台なども出るだろう。
 田舎道を旅客機が走るのは自分には無関係のよそ事と思っていたが、ふとMacWorldの帰りに出会った悪夢を思い出した。それはフリーウエイを快適に走っていたあるとき、後ろからなんとジェット戦闘機が追いかけてきた事件(!)である。そんな!と思われるかもしれないので、まずは事実だけを証拠写真をまじえて報告しておこう。
 図2はフリーウエイの追い越し車線(米国なので右側)をいままさに追い越そうとしているジェット戦闘機の一部である。フロントガラス越しなので分かりにくいかもしれないが。70マイル近いスピードで走っていたので、デジタルカメラではなかなかシャッターチャンスを得るのが難しかった。何度か追いつ追われつしてこのショットをものにしたのであった。

図2

サンフランシスコにいたはずの君がどうしてジェット戦闘機が走る田舎道(?)にいるのと思われるかもしれない。何をかくそう、毎年の楽しみはサンフランシスコの大都会だけでなく、その帰途、米国のあちこちを旅行することも楽しみの一部となっているのである。かつてはニューメキシコ州のエルパソへ飛び、郊外のカールスバッドで世界有数の鍾乳洞を一日かけて探検したこともあった。今回は2日間のMacWorld視察を終えてからフロリダのオーランドへ飛び、そこでミニバンをレンタルしてニューオーリンズまでの1200kmのドライブを楽しんだのであった(私を含めて6人の旅)。今回の事件(!)もその途中のことであった。
 さて、ジェット戦闘機とカーチェイス(空中戦?)を演じたのはフロリダのタラハシーから10号線を東に向かって走っている途中であった。はるかかなたに黒雲が見えたと思ったら強風と大雨になり車は左右に大きくぶれはじめた。そうしたときに雨にかすんだ後方から何か大きな物体が高速で近づいてくる。そのうち黄色のライトを点滅させた先導車が行きすぎ、やがて図のようなジェット戦闘機が70マイル近いスピードで通りすぎていったのである。「こりゃ何だ?」と全員あっけにとられたことはいうまでもない。よしこれは本欄の素晴らしいネタになると直感し、ともかく追いかけろとばかり、ミニバンのアクセルを踏み、何度か追いついたり、追い抜かれたりしながらフリーウエイを先へと進んだのであった。そのうち、ジェット戦闘機は母艦に着艦、ではなく、パーキングエリアへと入っていったのでこれさいわいと、われわれもその後を追ってパーキングエリアに入ってみた。
 駐車場に駐機したジェット戦闘機は図3の通りである。機体のそばに立つ一人が私であるのはいうまでもない。

図3

 機体には「US NAVY」と星のマークがくっきりと描かれている。まさか海軍の中古品を個人用の住宅に転用しようとしているのではあるまい。さっそくトレーラから降りてきた運ちゃんにそのへんの事情を片言英語で厳しく問うたものである。こうしたときに本欄でも何度かアドバイスしてきた実戦英語力が力を発揮する。運ちゃんの説明によればこのジェット戦闘機は100マイルほど先にあるペンサコラ海軍基地へ運ぶということであった。そういえば同じ10号線沿いのアラバマ州との境に近い位置に有名な海軍基地、Pensacolaがあることを思い出した。何かの映画の舞台にもなったような気がする。また、ジェット戦闘機の陸送はけっこうあるのか、聞いてみたら毎週のようにあるということであった。先導車が一台つくだけで、フリーウエイ上ではとくに何の規制もない。しかもジェット戦闘機を乗せたトレーラは70マイル近い猛スピードでわれわれのミニバンを追い越そうとしたのである。日本の高速道路ならパトカーでも先導してのろのろと進むところだろうが。そういえば、韓国ではフリーウエイは戦時には滑走路として利用されるということである。米国もおそらくそうした戦時のフリーウエイの使い方などもきめられているのだろう。フリーウエイで離陸しようとするジェット戦闘機に追いかけられる夢が正夢とならないことを願いたいものである。
 どうやらこれで話が終わりそうである。しかし、これだけだと何となくページ数が少ないような気がする。最近は話題性よりは「継続することの意義とページの長さ」でもたせている本欄である。もう少し、話を続けておいた方がよいだろう。
 ジェット戦闘機からどのようなソフトの話へつなげたらよいだろうか。そういえば、昨年のComdexでビルゲーツはフライトシミュレータの戦闘編をデモした。民間ジェット機が戦闘機に変身し、ミサイル発射するのである。筑波大学で行っているビジネスゲームプロジェクトの関連でこのソフトを研究用として購入申請していたところ、「こんなお遊びソフトは研究費支出になじまない」と却下された。フライトシミュレータこそ、それが動作することがかつてのIBM-PC互換の最重要なチェックポイントであったことを思い出すと、日本のお役所主義にはがっかりさせられる(大げさかな。私が事務担当であったなら、私もおそらくこんな不真面目な購入申請は却下したことだろう)。
 ジェット戦闘機のゲームソフトは次の機会にチャレンジすることにして、もう少し、ジェットに関するソフトを探索してみよう。その結果、私のソフトコレクションリストの中にその名も「Jets」(Medio社)が見つかった。「ケネディ大統領の暗殺事件」を扱ったコンテンツ物など、かつて注目していた会社であったが,その後どうしただろうか。懐かしさもあり、今回、取り上げてみることにした。かなり前のソフトだがうまく動くだろうか。
 図4はJetsの起動時の画面である。ジェット戦闘機の轟音の中、ソフトはうまく離陸してくれた。イントロに引き続いて図5のようなメインメニューが表示された。ここにはジェット機の歴史や飛行機そのもの、そしてテストパイロットの苦労話などいくつかのメニューが用意されている。さっそく「Aircraft」をクリックしてジェット機そのものを調べてみることにした。

図4


図5

 図6は画面右側に歴史をたどってさまざまなジェット機がリストされており、画面中央には「X-4」ジェット機の勇姿が表示されている。また、リストを見るともっとも古いジェット機は「1939年のHe 178」である。これまた一応は拝見しておいたほうがよいだろう。

図6

 図7の左側の解説を読むとこのジェット機が世界最初のジェット機で設計者は「Ernst Heinkel」とあり、下線が引かれている。もちろん、ここに詳細な情報がさらにリンクされているはずである。また右側にはこの世界最初のジェット機の貴重な写真(そして実際には映画フィルムも)が表示されている。ジェット機が好きな人にはたまらないコンテンツソフトであるといえよう。

図7

 ところでジェット機のテストパイロットというと「Chuck Yeager」が有名である。たしかフライトシミュレータのゲームにも「イエーガー」という名前のソフトもあったような気がする。メインメニューから「Test Pilots」を選択するとさっそく図8のようにYeagerの紹介と彼がテストパイロットしたジェット機が表示された。また、右側下段には彼の逸話などを紹介した書籍の文献も参考書としてあげてある。この書籍は電子版が収録されている。さっそく選択してみると図9のような目次が表示された。この本をじっくり読んでみるとテストパイロットの仕事というのがどれほど厳しいものなのか、その実際が分かることだろう。

図8

図9

 話は変わるが先日、日本人の新しい宇宙飛行士が選抜された。三人の中には女性飛行士もまじっていた。向井さんに加えてさらに女性が増えていくことが宇宙への関心を高める一つの方法であろう。さいわい、東大出とはいえ、なかなか魅力的な女性なのでこれから大いに注目していきたいと思った。
 話を旅物語に戻そう。ニューオーリンズへのドライブはあこがれのジャズでも楽しもうかという単純な計画であった。それだけのためにオーランドからひたすら1200kmのドライブを強いられた。しかし、ドライブといっても一緒に行った仲間はすべてアメリカでのドライブはまったくはじめての経験である(私はペンシルバニア州とカリフォルニア州で免許をとった純粋の米国育ちドライバであるが、今回は保険をかけてこなかったので運転するつもりはなかった)。とくにニューオーリンズという南部の大都会の街路を本当に迷うことなく走ることができるか、大いに心配されたことはいうまでもない。そのために私が提案したのはカーナビを使おうということであった。
 私も最近になって買い換えたAccordワゴンにはカーナビをつけ、その便利さにカーナビなしの旅行は考えられないほどになっていた。しかし、ハーツレンタカー会社とはいえ、カーナビのついたミニバンは用意できなかった。そこで次善の策としてパソコン上のカーナビを求めることにした。
 昨年、サンフランシスコの街中(ユニオンスクエア近くのマーケット通り沿い)に大型パソコンショップ、CompUSAがオープンした。これまで空港近くにしかなかったので不便していたが、これからは便利になると喜んだものである。今回もMacWorld視察の帰り道、ショップによってWindows用のソフトやハードを探索した。当然のことながら、目指す製品の一つはカーナビソフトとGPSであった。その結果、地図ソフトとGPSカードがセットされた製品として、ソニーの関連会社と個人用地図ソフトの専門メーカーDelorme社から発売されている二つの製品がみつかった。いずれも199ドルの値段がついていた。パッケージからすると、ソニー関連会社の製品はソニーが日本で発売している「Navi’ng You」の英語版といったところであった。GPSカードも日本で見かけた製品と同様である。
 それに対してDelorme社のGPSカードは図10の右側のように縦型、薄型タイプであり、胸ポケットにセットすることもできる。

図10

 たしかに、添付されているソフトの一つを使うと地図ソフトの一部地域を電子手帳(たとえば3Com社のPalmTopIII)やWindows CEタイプの超小型パソコンにコピーし、ポケットのGPSを受信機として、いつでも地図上で現在地点を確認することができる。今回はためすことはしなかったが、さまざまな応用が考えられそうである。たとえばセールスマンなどに持たせれば、はじめての地域でも効率よく顧客を回ることができるだろう。
 Delorme社の製品には市街地図ソフト、StreetAtlasの最新版(Ver6.0)がバンドルされていた。全米各都市の詳細地図とともに、全米をカバーする地図が含まれている。もちろん、GPS対応である。さっそくソフトをインストールしてカーナビソフトに変身させる準備を行った。ところで今回はオーランドからまずケープカナベラルへ行ってスペースセンターを見学し、その後、タラハシーを経てニューオーリンズへ向かう全行程3日間、1200kmほどの度である。したがってノートブックパソコンの電源を確保しなければならない。パソコンショップ店内にはIBM、コンパック、マックなど主要なノートブックパソコン用のDC/ACアダプターが販売されていた。いずれも車と飛行機の兼用である。後者は機内の座席肘掛につけられるようになったパソコン専用のコンセントにさすことができるようになっている。しかし、残念ながら今回携帯していったDellのノートブック用のアダプターは見当たらなかったので、通常(汎用)タイプのDC/ACアダプタを購入した(40数ドル)。日本でも使ったことがあるタイプでシガーライタに接続し、通常のAC電源コンセントとして利用できる。
 さて、車の運転は仲間にまかせ、助手席に陣取った私の膝上にはノートブックパソコンが置かれ、シガーライタからとった電源とも接続された。また、ダッシュボードの上にはGPSカードも設置された。図11はスペースセンターへと向かう一本道の車中風景である。

図11

 また、パソコン画面上では図12のように、一本道の上をひたすら西へ向かう車の動きがリアルタイムで矢印の形で表示されていく。GPSおよび地図の精度はなかなかのものであり(当然だが)、地図上で道路とクロスしようとすると、まさにその瞬間、車は実際に立体交差の道路を通過する。

図12

 図13はパソコン画面上の状況を画面コピーしたものである。上段にはオーランドを出発点としてケープカナベラルを目的地として経路を探索し、いままさに、経路上を目的地へと向かって走っている状況が示されている。
 画面中央にはGPS情報を表示させてみた。車の向かう方向、現在位置(経度緯度。もちろん、刻々とリアルタイムに変わっていく)、そして高度や移動速度が読み取れる。ちなみに車の速度は68マイル(このときの制限速度は60マイル)となっている。あわてて制限速度を守れとドライバに指示したことを思い出す。

図13

 1時間ほど走ってスペースセンターに到着し、一般観光客にまじってシャトルの発射台などを専用バスで見学した。その証拠写真を図14に載せておこう。これは実際のシャトルを屋外展示したものである。時間があればゆっくり内部も見学したかったが、バス見学に2時間もかかってしまい、その時間がとれなかった。スペースセンターを出発し、今日の目的地、タラハシーへと向かった。

図14

 途中、ジェット戦闘機との遭遇など事件含みの今回の旅もようやく終点が近づいてきた。図15はインターステート10号線をひたすら東に走ってきて、ようやく大きな橋を渡ってニューオーリンズ市へと入ろうとしているところである。

図15

 中央少し上に現在進行中の車の位置を示す矢印が見える。南部のニューオーリンズはよほど暖かいところかなと思っていたら予想外に寒く、ジャズを聞きにいったフレンチクオーターからの帰り、ホテルからのシャトルバスを待っている間、ダウンジャケットのフードをかぶっていたほどであった。

(麗澤大学 国際経済学部 教授 http://www.reitaku-u.ac.jp/から、Mitsuo takahashiにリンク)





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