最新Windowsソフトウェア事情(第48回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


「勝ち組」の一員となるために

 先月号でシリコンバレーのヘッドハンティングの話をした。この、私にとって貴重な情報は電子ファイリングシステムに取込んで大事に保存している。何かのおりにはいつでも検索してヘッドハンターとコンタクトするためである。ところで前回の電子スクラップには実は、みなさんにとってさらに重要な情報も含まれていたのである。今回はこの電子スクラップの画面から話を始めることにしよう。

 図1を見ていただきたい。雑誌「TECH」の右隣でマウスポインタが置かれている情報、これが話の導入部になる運命の誌面である。さっそく拡大して内容を見てみよう。それは図2のように、「週刊朝日98年8月21日号」の記事であり、その表題は「『勝ち組』金融マンになるための3ヶ条は英語、パソコン、統計学」とある。


図1


図2

 これで話は今回の表題とつながったわけである。[勝ち組]という言葉は好きではないが、いい意味に解釈すれば21世紀に向けてみずから何を学ばなければならないか、その具体的な目標を探すための動機づけと考えよう。そして近い将来、みずから積極的に学ぶべき課題が上記の三つということである。
 「パソコン」、これはいうまでもないこと、この面ではみなさんは人よりも数歩以上も先へ進んでおり、大いに自信をもってよろしい。次の「英語」はどうだろうか。これまたコンソーシアム会員のみなさんは、デベロッパーズコンファレンスやCOMDEXなどたえず海外へ出張しており、そのさいにはきわめてスムーズにコミュニケーションできているということであるから問題はないと思われる。しかし、三つ目の「統計学」、これは少々、これからの努力に求められるところが大きいような気もするが、いかがだろうか。

 みなさんにとっては、「英語ならまかしておいて!」という声が聞こえてきそうであるが、話の都合上、今回はこの英語学習ソフトについて話題にしたい。それらのソフトを使って、英語のヒアリングや読解力をさらにブラッシュアップし、その力を不動のものとしてほしいと思う。英語といえばわれわれのほとんどはずいぶんと長い学習の道を歩んできた。中学から始めて、高校そして多くの場合大学まで、何らかの形で延べ10年間は英語を学んできたことになる。それにしては、みなさんのことではないが、COMDEXの会場では一生懸命、英語をしゃべっているように見えるのであるが、なかなか話が通じなくてがっくりきている日本人の姿を見ることが珍しくない(というよりはごく普通である)のはいったい、どうしたことだろうか。その秘密を探るのが今回の目的でもある。
 まず最初は、だいぶ前にCES(Consumer Electronics Show)で手に入れた英語学習ソフト、Syracuse Language Systems社のTriplePlayシリーズを見てみよう。このシリーズは英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語そして日本語など各国語がそろっており、パソコン雑誌などで高い評価を得たソフトである。図3はその起動画面であり、そこには「Speech Recognition」とあり、音声認識機能も備えられていることがわかる。学習の過程で音声入力が求められ、それが発音の練習にもなるのである。


図3


 初期画面につづいて図4のようなコース選択画面が表示される。図の左側には上段に教材のレベル(子供から大人まで三段階ある)、下段には食品、数字、家庭などトピックス別に教材の選択ができるようになっている。また右側の画面にはコースに応じた個々の教材が絵であらわされている。上段からI,II,IIIのように下にいくにつれてレベルが高い。ここではためしに、食品の中でレベルIIの左から二つ目の教材を選択してみよう(マウスポインタが置かれている)。それによって図5が表示された。

図4

図5

 この教材ではパソコンから「ほそくて赤い野菜は何?」といったように質問が聞こえてくるので、解答にあたる食品(たとえばニンジン)の英語をマイクに向かって発音するという形式の学習である。もちろん、質問は英語で、解答も英語で答える。何度か試みてどうしても正解に達することができない場合は、左側中段の「オーノー」のジェスチャーをしたボタンをクリックすると正解を教えてくれる。このソフトは子供から大人まで、広い範囲のユーザーを対象としている。子供と一緒に英語学習をするのも悪くないだろう。いずれにしても、ヒアリングと発音の両方を楽しく学習できるはずである。しかし、実際にためしてみると、質問が聞き取れなくて解答が分からないケースと、正解はわかったが発音が下手なためにいつまでも正解に達することができないという双方のケースがあって、なかなか前に進むことができない。この単純な食品あてゲームを無事終了したら左上の矢印ボタンをクリックして前のメニューに戻り、次の教材へ進もう。なお、図の左側には質問を繰り返したり、音量を調整するといったボタンも用意されている。

 次の教材はメインメニューの左下にある交通関連の教材をためそう。それによって図6の画面が表示される。これはかなりむずかしい。先ほどの単純なゲームと違って一つのストーリの中で会話が求められる。


図6

 たとえば図ではホテルの前でタクシーをよんでもらい、タクシーに乗って駅へ向かう。そして座席で隣り合わせになった人と話をかわしたり、さまざまな状況がシナリオとして進んでいく。学習者に求められるのは、会話に参加することである。たとえば図の左上のコマを見ると、ドアボーイの吹き出しにあたる部分(*で示されている)がパソコンから聞こえてくる。その声に対応してみなさんが該当するセンテンスを英語でマイクに向かって話さなければならない。もちろん、最初からそのセンテンスが思いつくはずはない。最初は一通り、会話の進行をまず耳で聞き、図の女性にあたる役割の人の話すセンテンスを覚えることが求められる。そのさいは何回でも繰り返し聞いたり、あるいは特定のコマを選択して聞くこともできる。
 センテンスは単語を連ねればそれでよいというわけではない。アクセントやイントネーションなども正解に達するための条件である。図はわずか9コマであるが、それでも最終的に正解に達するためにはかなりの練習が必要である。TriplePlayの例題として最後に家庭の教材を見てみよう。図7はその一例である。ここでは川のほとりにある公園で子供たちが遊んでいる。この風景を見て、たとえば「小道の上の子供は何をしているの?」といったように質問がかせられる。それに対して「カップで水を飲んでいる」といったように答えなければならない。このように、いくつかのコースに含まれる教材がそれぞれ形の異なった問題として与えられ、飽きがこないように工夫されている。いずれも実戦中心の問題である。


図7

 私がこのソフトに興味をもったのは、同じシリーズの日本語学習ソフトを見てからである。欧米人にとって日本語は大変に難解な言語だと思う。にもかかわらず、TVに登場するガイジンさんの日本語はじつに見事なものである。しかも彼らの多くはせいぜい3、4年の滞在年数である。どんな学習法によって日本語を学んでいるのだろうか、その解答の一つが日本語学習ソフトかな?と思ったのである。図8は「TriplePlay Japanese」のメインメニューである。さきほどと同じ教材を使って日本語を学ぶことができる。また、日本語はアルファベットと大きく異なるので日本語版ではカナや日本語の読み方(Reading comprehension)も含まれている。

図8

 このソフトを実際にためしてみると、文法などの理論的なことはさておき、まずは実戦がその基本姿勢と思われた。われわれもジョージオーウエルだとかサマーセットモームなどを読まずに、もっぱら実戦中心の英語学習をしてきたとすれば数年で十分に実用的な英語力が身についたはずなのにと、悔やまれてならない。もちろん、英文学が意味がないというつもりはないが。
 英語がままならないのに、英語で英語を学習しなさいというのは無理難題もいいところだと文句も出そうである。それならやはり日本語をまじえながら英語を勉強することにしよう。留学経験もある私(自慢じゃないが)でも、ときどき英語学習用の雑誌を購入する。それは「English Network」(アルク出版)である。この英語学習月刊誌には毎号、CDがついてきて耳からも学習できるようになっている。また、ときどきCD-ROMが付録につくこともある。たとえば、図9はその一例である。ここには映画プレビューやCBSドキュメントなど、生の素材でヒアリング(リスニング)の学習ができる。ためしに映画プレビューを見てみよう。


図9

図10

 図10は「Jane Eyre(ジェーンエア)」を素材にした映画プレビューの画面例である。中央に映画のスクリーンが表示され、左下の英語表示、日本語表示ボタンによって映画の中の会話内容が英語(そして日本語)で表示される。最初はこの二つを同時に表示させて会話の内容を追っていく。そして何度か繰り返しみているうちに、意味もわかってくるのでまず日本語を消し、ついで英語を消す。そうなればずいぶんとヒアリングの力が身についたことが実感できる。また、英語表示の中で難しい単語には下線が引かれており、その個所をマウスでクリックすると右上のように訳が表示される。
 同様にしてCBSニュースや英語でめぐる旅番組などを楽しんでいるうちに、学習の成果をためしてみたくなるのが自然の流れであろう。英語力をためす最善の方法は英語検定試験とかTOEICあるいはTOFELなどの試験を受けてみることである。とくに後者の二つは合格とか不合格という試験ではなく、点数でみずからの英語力のレベルを確認できる。また、何度でも受験できるので目標の点数をめざして努力すればよい。最近は社会人の間でMBA学習熱が盛んであり、その最終目標として欧米のビジネススクールへの留学が待っている。そのさいの必須科目が後者の二つの試験である。「English Network」誌は留学対策雑誌でもある。
 図11はTOEIC試験のメニュー画面である。試験の詳細について知りたければ「TOEICとは」を選択すればよいし、学習成果をためすために「TOEICに挑戦」してみてもよい。さっそく試験にチャレンジしてみると図12のような試験の解説が表示された。


図11

図12

 画面の写真を見て、それに関する質問に答える4択式の問題である。たとえば図13は壁際に置かれたおもちゃの大砲に関する4つの説明がパソコンから聞こえてくる。それらの中で該当する解説の番号を選ぶのが問題である。こんな問題なら楽勝と思われるかもしれないが、実際の試験は2時間半にわたって200問前後の問題が次々に出てくるので、ゆっくり考えている余裕はない。そうした限界的な状況に置かれてはじめて真の実力が見えてくるのである

図13

 TOEICミニ試験の結果は図14のような形で表示される。時間の関係でわずか2題しか解答していないので、結果は意味がないが、みなさんにはぜひ、この40問にわたるミニ試験に挑戦して欲しいものである。

図14

 TOEICに本格的に挑戦したければ、受験対策用のCD−ROMが利用できる。たとえば図15はその名も「TOEIC Super Training 470」(ASK社)である。ここには470問におよぶトレーニング用の問題が用意されており、学習は厳しいものの、その成果は大いに期待される。

図15

 トレーニングの内容はTOEIC試験にあわせて図16のように、大きくリスニング、読解に分かれている。ためしにリスニングを選択してみると図17のように、さまざまな状況に合わせてリスニングの問題が用意されている。

図16


図17

 その中の「時間を尋ねる」をためしてみると図18のように、上段左側にビデオクリップが再生され、その内容にしたがって、下段のような会話内容を耳で聞き、それを確かめる。それがリスニングの学習となる。もちろん、英語の内容がわからないと、リスニングももう一つ、身が入らないかもしれない。そのときは上段右側の「E→J」をクリックすればよい。それによって図19のように会話内容が日本語で表示される。センテンスの左端の矢印ボタンをクリックすれば会話内容が再生される。


図18


図19

 一つのトピックスが終わると、それまでの間に出てきた重要な単語のまとめが図20のようにリストされる。これらの単語や表現を十分に復習してわがものにしよう。その上でいよいよ理解度を確かめる試験である(実際のTOEIC試験に対応している)。たとえば図21ではセンテンスの穴埋め問題である。この程度の問題ならなんということはないと思われるだろう。しかし、何しろ問題の数が多い。瞬間的に判断して解答しなければならないのであるから大変だ。ぜひ、実際のTOEIC試験に挑戦して欲しいものである。そしてコンソーシアム会員各人のTOEICのスコアをホームページ上で公開したらどうだろうか。

図20


図21

 今日は1月4日である。明日5日からMacWorld視察とちょっとしたプライベートな旅行(南部のニューオーリンズなど)をかねて米国に出かけることになっている。他の連載とともに出発前に原稿を仕上げなければならないので大変である。「継続こそ力なり!」と小泉さんからせかされて書いたのがこの原稿である。とりあえずの素材をもとにここまで書いてきたが、考えてみると英語学習の成果をもっとも早くためされるのが著者みずからということになってしまった。サンフランシスコに2日滞在し、その後オーランドへ飛んでレンタカーを借り、タラハシー、ニューオーリンズと旅をつづける。同行する仲間は総勢7人である。彼らを無事、日本へ連れ戻ることができるか、それは私の英語力にかかっている。旅の間に次回の原稿のネタを探してきたいものである。乞うご期待!

 最後に自己PRを一つ。1月22日に「実戦Excel入門」を岩波書店から出版します。すでに石田晴久先生、山本先生、藤森先生の3冊は発刊済みですが、ようやく私の本も出版されることになりました。今回は著者挨拶のビデオや本文の説明に連動した「スクリーン録画再生プログラム(ロータススクリーンカム)を70本ほど収録したCD-ROMをつけました。図22はCD-ROMを入れて著者挨拶のビデオを再生し、わが麗澤大学の校門前で挨拶をしているところです。また、図23はExcelの解説をロータススクリーンカムで行っているところです。中央にはビデオ再生ボタンが表示され、再生は一時停止あるいは早送りなど、通常のビデオ感覚でナレーション入りの解説を画面上で再生できます。今回も会員のために10冊提供してもらえることになっていますが、ぜひ、みなさんの会社のお客さんへのプレゼントなどにも活用してください。


図22


図23

 もう一つ最後の最後に、「英語、パソコン、統計学」を学び、やがてはビジネススクールでMBAをめざすみなさんのためにパソコンでMBAが学習できるソフトを紹介しておこう。

図24

 図24は2年前のCOMDEXの帰りにCompUSAで購入したMBAシリーズ(CD-ROM9枚組)の一例である。画面中央に大学教授が経済学の基礎(需要と供給)をビデオクリップで解説している。この解説を見た上で理解度をためす小クイズに挑戦する。上段には目次が表示され、それぞれの章ごとに教授の解説と小クイズが与えられる。科目は経済学、統計学、マーケティング、ファイナンス、会計などである。9科目全部でおよそ2万円、1科目1500円といったところである。これでMBAの基本が学習できるなら、わざわざTOEIC受験といった苦労をしなくともよいと思われるかもしれない。しかし、この教材CD-ROMに登場する大学教授のみなさんはどこの大学教授が名前は一切出てこない。だからこそ、1科目1500円ですんでいるのだろう。しかし、たとえばかの有名なハーバード大学ならどうだろうか。


図25

 図25は電子ファイリングシステムに大事に収録されている貴重な情報である。そこには「MBA Works」のタイトルの下に小さく、「ハーバードビジネススクールのマネジメントプログラムがソニーのVOD(Video On Demand)コンテンツとしてついに登場」とあるではないか。
 そう、かのソニーが著名な教授陣を引っさげて日本の大企業の社員教育に登場させたのである。その価格(基本的なハードやVODシステムそして教材のコンテンツを含めたトータルの価格)は1500万円からとある。上記の1科目1500円と10科目まとめた価格とはいえ、このハーバードビジネススクールの1500万円の価格の違いはどこからきているのだろうか。ブランド志向の日本人は米国ビジネススクールにとっておいしいすぎるぐらいおいしい獲物なのだろう。投資余力があるのであれば社員教育にぜひ、採用されたらいかがだろうか。しかし、当面は1500円の投資で「パソコンを使って英語で統計学」を学ぶことが賢明であるとも思われる。みなさんの適切な判断を待ちたい。

(麗澤大学 国際経済学部 教授 http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/




<事務局より>
「実戦Excel入門」のプレゼントがあります。事務局便りをご参照ください。



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