最新Windowsソフトウェア事情(第47回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


私も「ヘッドハンティング」されてみたい!

 先月号のWindows Viewは松倉会長の「Comdex Fall’98速報」がトップをかざっていた。現地からレポートを送らされるとは会長の役目も楽ではないなと思われた。なにを隠そう、はずかしながら私もラスベガスへ行っていたのである。しかし、松倉さんと違って私のComdex遅報(痴呆?)の最初を飾るのは美女とのツーショットである(図 1)。こうした偶然のチャンスに恵まれるのがComdexの楽しさでもある。「一緒に写真を」と片言英語で声をかけられても断れないのが説明員のつらさでもある。

図1

 ところでこの展示はComdexらしくないとは思われないだろうか。そのとおり、写真の車の上方にわずかに見えるように「Grand Cherokee」という車(ミニバン)の展示である。なんだ車か、それならComdex/Springでも見られた「未来のパソコン、たとえば車に搭載するパソコンの展示か」と思われるだろう。たしかに「Auto PC」なる展示も数カ所で見られた。そのひとつは日本のクラリオンの展示(図2)である。車にパソコンを搭載するとどんなよいことがあるの?と思ったときに、もうひとつのAuto PC展示のそばには図3のような効能書きが表示されていた。それによればカーナビ、パソコンのデータベース利用、車の防犯(セキュリティ)などなどである。Infogation Assist, Infogation Phonebase, Infogation Car Securityといった造語(とくにInfogation。これはInformationとNavigationの意味だろう)もみられる。この用語はいただきかもしれない。ただし、みなさんがソフトの製品名などで使われる場合は私あてに情報料を送ってもらう必要があることは当然である。

図2

図3

 車の美女に戻ろう。パソコンの説明とはまったく関係なしにもっぱら愛嬌をふりまく彼女は何のためにComdex会場に立っていたのだろうか。それは当たり前、車を売るためである。「Comdexで車を売る?」と疑問に思われては困る(私が困ってもみなさんは何も困らないだろうが)。会場にはなんと自家用機の展示もみられた(いうまでもないが、フライトPCの展示ではない)。一応、写真を載せておこう(図4)。こんな「男とツーショット」はきらいなので説明なしに先へ進めたいのだが、ほんのわずかだけコメントしておこう。私が座っている場所は飛行機のコックピットである。フライトシミュレータのデモではなく、れっきとした飛行機の販売用ブースである。たしかに車をはじめ飛行機にいたるまで高額商品(車もなかなかの高級車である)は相手を選んでセールスプロモーションしなければならない。貧乏人は対象外であることはいうまでもない。私のような高所得者がこのComdexにはあふれるほど集まるのである。なんといっても「お金に困らない人々がお金を捨てに集まる町、ラスベガス」であるし、また、ハイテクの業界ほど高所得者が集まった業界は他には見当たらない。

図4

 いまさらComdex遅報でもないと思われそうなのでそろそろやめることにして、別の話題に進むことにしよう。なお、写真中心のComdexレポートは電波新聞社「OAビジネスパソコン」の私の記事に掲載している。この「Windowsソフト活用」と題する連載は30回近くにおよんでいる。同じ誌面で東京電機大学の脇英世教授(前顧問!)はすでに60回におよぶ連載を継続中であり、彼の旺盛な執筆欲にはただただ驚かされるばかりである。
 今回のComdexは野村ツーリスト主催のツアーにコーディネータとして参加したものである。私はこうしたツアーを通じて多くの人と知り合うことができるのが最大の目的であり、ツアーが終わっても勉強会などの形でコミュニケーションを続けていくことにしている。その何人かは来年の夏山シーズンに小淵沢に集まり、私と山へ同行することになるだろう。そうした遊び仲間を探すのもツアーの目的である。
 さて、Comdexの帰途、サンノゼに寄った。FutureTel社を訪問するためである。典型的なシリコンバレーのオフィス(図5)で日本人の秦社長の話をうかがった。秦さんは大阪大学大学院博士課程を修了後、神戸大学の助手として研究活動を続けていたが、ビデオ動画圧縮などに関する研究成果にもとづいて会社を設立したいという強い希望をもっており、その実現のために5年前に米国はシリコンバレーに渡り、現在の会社を設立されたのであった。現在では社員は30名となり同社のエンドユーザー向け製品(Sphinx Pro)は高い評価を受け、PC Magazine誌のEditors’ Choiceに選ばれるなどしている。

図5

 FutureTel社は今回のツアーの会社訪問に組み込まれたから訪問したというだけではない。じつはそれ以前から私はSphinx Proのユーザーであったのである。今年の春ころ、富士フィルムアクシア社から「スフィンクス Pro」の名前で発売されたこの製品はパラレルポートに接続して使うタイプのビデオキャプチャ装置であり、画質や使い勝手がよいというパソコン雑誌の記事をみてさっそく購入したものであった。ビックカメラで6万円ちょっとの価格であったと思う。私は現在、マルチメディア教材を作成しようといろいろと研究中(!)であり、教材の素材の一つとして私の講義のビデオを使いたいのである。もちろん、ビデオキャプチャしてテキストと連携させ、CD-ROMの形で利用できるようにするのがねらいである。この種の教育ソフト(とくにデジタルMBA)は私の手元にすでにいくつか集めてあり、それらを参考にしながら作成しようとしている。今回のComdexでも帰りに立ち寄ったサンフランシスコ市内で「VirtualMBA」と題するCD-ROMを購入した。内容についてはいずれ紹介することにしたい。サンフランシスコ市内のマーケット通りにCompUSAがオープンしたことはうれしかった。これまでのEggheadでは小さすぎたし、空港そばのCompUSAではなかなか寄る機会がないので困っていたのである。

 今回の原稿は締め切りぎりぎりのタイミングで書いている。Comdexから帰国してハードな予定をこなしてきた。昨日も諏訪で放送大学のスクーリングを2コマこなしてきた(午後3時半から8時半まで。途中休みがあったがのべ5時間の長丁場であった)。また今日はこの原稿が終わってから(もちろん目の前には富士山と南アルプスが遠望できる。今日は素晴らしい青空で家の中で原稿など書いていたくない!)、午後3時半から甲府でスクーリング(今日は一コマだけ)がある。それはともかく、そろそろまとめにしたいこの原稿であるが、表題に関する説明がまだ何も出てこない。しかし、想像力たくましいみなさんのことであるから、シリコンバレーとくれば「ヘッドハンティング」も日常茶飯事だろう、それならいよいよ本題かと思われることだろう。たしかにその通り、しかしちょっとだけ待ってほしい。
 じつは秦社長については会社訪問する前から知っていた。それは私の知人(だいぶ前にPC Expo視察のために一緒した仲間)からシリコンバレーに秦さんという優秀な方がいるから紹介してあげるよ!といわれてメールアドレスを教えてもらったのである。ちょうどSphinx Proを購入したばかりであり、その会社の社長だという偶然に驚き、さっそくメールを交わしはじめたのである。
 偶然は続く。秦さんの名前をさらに「Tech B・INGテックビーイング誌」で見かけた。この雑誌はみなさんも愛読されているように(?)、技術系やコンサルタントのキャリアプランを支援する就職雑誌である(もちろん、リクルート社から発売されている)。この雑誌は98年10月号から新装版となり、毎号CD-ROMがつくようになった。私自身、この就職雑誌にお世話になって中途転職するつもりはまったくない(あえていわせてもらうが)。しかし、290円の価格でしかもCD-ROMがついていたのでつい、書店で手にしてしまった。CD-ROMにはキャリアシミュレータと称してみなさんの経歴を入力すると「いくらで買ってもらえるか」のシミュレーションができるソフトも入っている(実際には必要なデータを入力してからインターネットへアクセスする必要があるが)。
 最初に購入した98年11月号は「シリコンバレーのヘッドハンターが語る私が狙う日本人エンジニア」と題する特集記事が掲載されていた。そしてその中でいよいよ「秦社長」が狙われた一人として登場するのである。このように事前にさまざまな形で秦社長そしてFutureTel社について聞いたり読んだりしていたところに、Comdexツアーの帰途、同社を訪問するという予定を見せられたのであるから、またまたの偶然に驚かされた次第である。なお、同社はComdexでも三途ではない、サンズの会場(「さんず」と入力してつい変換キーを押すとこうなる)にかなりの大きさのブースを開いていた(図6)。会社へうかがう前にComdex会場で初対面の挨拶をしたことはいうまでもない(メールでのやりとりはすでに行っていたが直接会うのはじめて)。

図6

 さて、私は仕事柄、さまざまな情報を収集しようと努力している。最近では情報の多くはインターネットやCD-ROMデータベースから得られるが、新聞や雑誌記事もまだまだ無視できない。しかし、記事を切り抜いてスクラップブックに貼り付けることもまた、ハイテクに身をおく者として肩身が狭い。そこで電子ファイリング装置を利用している。かのVisioneer社のPaperPortである。この装置も数年前のComdexでBest of Comdex賞をとり、それにつられてCompUSAで購入したものである。いまでは日本でも各社から同種の装置が発売されており、PaperPortもオリンパス社から発売され、ビックカメラでは3万円前後の値段がついている。最初に買ったときはそれなりの値段がしたはずである。無駄な出費の思い出の一つである。
 図7はPaperPortの画面例である。ここにはスキャンされた記事がイメージのまま収録されている。中段右側には松倉会長のComdex速報もスキャンされている。日本語そして英語の記事はバンドルされた文字認識ソフトでテキストに変換できる。そして下段には「TechB・ING」の表紙も見える。さっそく記事内容もスキャンし、そのページを表示させてみると図8のようになった。この写真の人物が秦社長である。じつに若わかしく、いかにもヘッドハンターが狙う人物であるように思われるが如何だろうか。図の下段には「社内には実際にビデオを動かすデモルーム兼スタジオもあり、実際の画像取り込みを見せてくれた」とある。しかし、雑誌記事の掲載写真で秦さんを判断するのもどうかと思う。ここはやはり、私が自慢のデジタルカメラで撮影した直接法でみなさんに見てもらった方がよいだろう。図9が会社訪問のさいにFutureTel社の商品群を前にしてプレゼンテーションしていただいたさいの秦社長の姿である。あらためて写真を拝見すると彼のバイタリティがあふれ出てくるように感じるがいかがだろうか。

図7

図8

図9

 せっかくなので「実際の画像取り込み」をみなさんに見てもらうことにしよう。図10は記事の中で紹介されていたスフィンクスの写真である。また、 は原稿執筆中のパソコンに接続したスフィンクスである。スフィンクスを起動すると図12のような画面が表示される。画面左側には各種機能がボタンとして用意されており、上から順にビデオキャプチャ、スナップショット(動画から瞬時に静止画を保存)、メディアショウ(キャプチャして保存した動画ファイルを再生)、クリップグルー(複数のファイルをつないで一つの動画ファイルにする)、アルバム(ファイルの管理)そして編集(動画ファイルの任意の範囲を切り出したりできる)の機能に対応している。

図10

図11

図12

 動画をキャプチャするには中央の下段に見える5つのボタン(録画や再生など)の左端のボタンを押してキャプチャの準備をする。それによって図13のように画質(圧縮のレベル)、オーディオの音質などを設定する。準備が終わると中央の窓にビデオ画像が表示される(バージョン2.0Jから新たに加えられたプレビュー機能)。画像を見ながらこのあたりから録画したいと思ったときに録画ボタンをクリックすれば以後のビデオは実際にキャプチャされ、ハードディスクに保存されていくことになる。なお、図ではビデオ圧縮を最小レベルに選択しようとしており、その場合は1分あたり7.15MBである。これなら10分の動画でも70MBちょっとで済むことになる。私はDVデジタルビデオカメラの映像をそのまま取り込むボードもデスクトップパソコンに装着しているが、このDVフォーマットの動画の場合は1GBで4分程度である。現状ではスフィンクスのようにMPEG1が実際的であろう。

図13

 プレビュー画面(そして実際に録画をはじめたときも)にはビデオカメラの映像が多少の遅れをともなって表示されていく。図14は真南に面してまぶしいほどの太陽光線にあふれた窓からかすかに南アルプスを遠望しているところである。朝早く午前7時ころであればもっときれいに見えるのであるが、ここまで日が昇ってしまうとまぶしくてたまらない。深夜になると外気温が零下に下がる厳しい冬もいまのように日がさしてくれば家の中はすぐに20度を超える快適な温度となる。

図14

 さて、このようにして今回はシリコンバレーを訪れ、やがてくるヘッドハンターからの電話を待ちわびながらシリコンバレーならぬ小淵沢バレーで原稿を書いた次第である。しかし、シリコンバレーというからよほどりっぱな谷間かと思うと「これがバレー?」と思わせるほど真平らな場所である。日本でいう谷間にあたる英語はキャニオンである。グランドキャニオンもまたComdexを訪れる日本人にとって必見の場所である。今回のComdexでもまた多くの日本人がグランドキャニオンを訪れたはずである。会社への報告書のページを飾ることにはならないかもしれないが。

(麗澤大学 国際経済学部 教授 http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/





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