日 時:平成10年12月3日(木) 13時30分〜17時10分 会 場:アサヒビール吾妻橋ビル(浅草) 参加者:54名 テーマ:デジタルコンテンツの著作権問題(PartU) 構 成: 第1部「デジタルコンテンツの著作権問題−電子出版編」 マックス法律事務所 弁護士 山崎 卓也 様 第2部「デジタルコンテンツの著作権問題−最新動向編」 マックス法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 齋藤 浩貴 様 今回のセミナーは、去る9月2日に開催された第78回セミナーの続編であり、会場も久しぶりにアサヒビールビル吾妻橋で行いました。 第1部では、山崎講師より、@ビジネス最前線編 電子出版ビジネスの「今」を見る 〜紙媒体に比べて何が変わったのか〜、A著作権問題編 電子出版がもたらす著作権問題とは? 〜紙媒体に比べてどういう問題が生じたのか〜、B契約実務編 電子出版ではどんな契約をするのか、と3つに分けた説明がありました。 @ では、(1)デジタル化・ネットワーク化が出版に与えるインパクト、(2)電子出版ビジネスをとりまく環境、(3)電子出版ビジネスの分類、(4)パッケージ系の現状(実用系コンテンツ、娯楽系コンテンツ)、(5)ノン・パッケージ系の現状(実用系コンテンツ、娯楽系コンテンツ、配信ビジネス、ノン・パッケージを支える課金手段)と、電子出版ビジネスの現状の説明がありました。 A では、本日のメインテーマであり、著作権問題の提示、原因、解決策、という形での説明がありました。問題として2つ、「権利処理面」(電子出版物製作時の権利処理に関する問題)と「権利活用面」(電子出版物の『権利者』は誰なのかという問題)があげられました。権利処理面に関する問題として「権利処理が大変」があげられるが、その原因として、処理すべき権利者が多い、電子化に消極的な人がいる、権利者が不明、著作権保護期間の誤解などがある。権利処理の煩雑さについての解決策には、権利情報の集中処理機構(J-CIS構想)、権利の集中、権利の変容、などがある。また、電子化に対する抵抗感についての解決策には、電子透かし技術・コピープロテクション技術などの進歩、法制度の整備、初期アレルギーの解消、などがある。権利活用面に関する問題として、出版者の権利は著作権法第80条(出版権の内容)では、電子出版も含まれると解釈することは難しく、その「出版権」の狭さから生まれる問題として、『コピー機問題』、『電子出版問題』がある。『コピー機問題』では、特に高価な専門書の複写は出版者にとり死活問題であり、出版者固有の権利を認める必要性のため、「版面権」概念の提唱があって日本複写権センターが設立された。ただし、「頒布の目的」を有しない小部数の複写には「出版権」は及ばない。ちなみにコンビニのコピーは正確にいえば違法であるが、今のところ許可なくてもOKとのことです。 『電子出版問題』では、出版者に許諾なく電子出版ができるとなれば本が売れなくなる恐れがあるが、「文書または図画」でない電子出版には「出版権」は及ばない。といっても出版者固有の権利を認める必要性のため、「版面権」概念を拡大して、“出版者にも著作隣接権を”という動きがある。そんな中で出版者にとってもう一つ恐るべき脅威として、「電子図書館」がある。図書館に関する著作権の規定第31条(図書館における複製)から電子図書館をやるなら著作権者の許諾が必要である。電子図書館問題の現状例が、文部省学術情報センター(今まで無料であったが1999年1月以降使用料徴収)、奈良先端科学技術大学院大学(検索から閲覧・コピーなどの情報提供は学内者だけ、学外者は書誌データの検索のみ)、国立国会図書館(検討開始)についてありました。 「出版権利ビジネスはなぜ弱いのか」については、映画、音楽ビジネスなどと違い、慢画などの例外を除いて二次利用のための権利管理の必要性が低くかった。コピー、デジタル技術登場以前はそれで十分だったが、電子出版ビジネスが盛んになるにつけ、出版者がどうやって権利ビジネスの主導権を握るかが死活問題となる。その動きとして、編集著作権、データベース著作権、プログラム著作権や自ら著作権を管理していく「音楽出版社」的方向性があるが、いずれもなにがしかの問題を含んでいる。 Bでは、電子出版での契約形式について、(1)コンテンツの権利処理に関する契約書(著作権譲渡、電子出版使用許諾契約)、(2)メディア制作に関する契約書(共同開発契約、制作委託契約)、(3)出版流通に関する契約書(パッケージ:売買(商品取引)契約、ノン・パッケージ:使用許諾契約)についての説明がありました。 前回は、音楽著作権ということでの説明で、いくつかの小問があり「○か×か?」を出席者に問い、それから解説があって話が進むという形式でしたが、今回の小問は一つのみで進行されました。 第2部では、齋藤講師より、@デジタルコンテンツの著作権侵害とISPの責任、A編集著作物のネットワーク利用(編集者著作物の定義、ウォールストリートジャーナル事件判決、Tashini v. New York Times事件判決)、BWIPO新条約と日本の著作権法(WIPO著作権条約、WIPO実演・レコード条約)、Cデジタルコンテンツに関する今後の主要課題、についての説明がありました。 @ では、インターネットプロバイダーの責任について記述された詳細な資料が配布され、著作権法上の責任、名誉毀損、その他の権利侵害についての説明がありました。Webサイトで起きる権利侵害としては著作権問題以外に沢山あり、プロバイダーがどのような責任を負うかというのが問題である。権利侵害は始終起きており、日本でも問題にはなっているが判例まではいっていない。米国では、著作権の侵害と名誉に関する侵害の判例がいくつか出ている。この2つについては判決によってはバッティングする部分があり、それを解決した法律が1996年2月に通信法の改正によって成立した。 A では、編集者著作物の定義として著作権法第12条(編集著作物)の解説があり、判例としての「ウォールストリートジャーナル(WSJ)事件」(5年ほど前に日本で起きた事件で、WSJの1面記事の見出しと要約をWSJの記事の順にそって並べて作成しFAXサービスしたものを、WSJが編集著作権の侵害だと訴えて侵害が認められた)の説明がありました。Webサイトに新聞記事やいろいろなできごとを集めて見出しだけでも並べていれば、これだけで編集著作権の侵害に成り得るので注意が必要である、とのことです。次いで、「Tasini v. New York Times事件」(Tasiniらフリーランスライター6名がNew York Times、News day、 Sports Irustratedの3社に契約〈当事者は紙に載せるということを念頭において契約した〉に基いて記事提供したものを、この3社がCD-ROM収録販売会社への利用許諾、ならびにNEXIS社にデータベースに蓄積してオンライン配布の利用許諾したことに対して契約違反だと訴えたが、退けられた)の説明がありました。これを基にして、「アメリカ合衆国著作権法第201条(c)」、「米国法の下で著作権者に認められる支分権」ならびに「米国法におけるcopiesの定義」の説明がありました。著作権法は各国別々の保護であり、米国法のもとでは権利処理ができているものを、日本に持ってきてやろうとすると権利処理ができていないということに著作権法上なってしまうことがある。インターネット時代になってくると、著作権法の国際的なハーモナイゼーションが益々重要になってくる。まだ、それが完全に達成されていない段階では米国で権利処理ができているからといって日本で権利処理ができていると単純に信じてしまうことは危険がある。これに限らず、法人著作の規定も日米では違うので、権利処理には慎重さが必要である。今は、2次利用までのハーモナイゼーションしようというところまではいっていないで、それ以前に各国の著作権保護のあり方を統一するために1986年のベルヌ条約ができ、その上乗せとしてWIPO著作権条約が1996年に締結された。 Bでは、米国の著作権法は日本の著作権法より進んでいると思われるかもしれないがそんなことはない。米国の著作権法は非常にある意味で偏っており、業界間の経済的な強さがもろに反映されており、映画産業、レコード産業の強さをそのまま反映したような著作権になっている。従って個々の範囲は決して広くなく、一方日本の著作権法はその時その時にフレキシブルに改正してきた。例えば、送信権については10年以上前に日本の著作権法に盛り込まれており、決して他の国に比べて遅れているところはないが、今回WIPOの著作権条約で規定されたところを取りいれて世界的な基準として最低限の進歩には対応しておかなければならない。 WIPO新条約の内容と日本の著作権法での必要な法改正について、平成8年度、9年度の改正を含めてきわめて詳細な解説がありました。日本の著作権法の改正が必要なものとしては(1)WIPO著作権条約について頒布権(全ての著作物について頒布権を導入)、(2)WIPO実演・レコード条約では、実演家の権利としての人格権、レコードに係る実演家・レコード製作者の経済的権利としての頒布権と保護期間がある。(1)、(2)共通事項として、コピー・プロテクション解除等の禁止、権利管理情報の改竄等の禁止があるが、何れも慎重な検討が必要であり、重要な法改正になる。 日本からみて今回のWIPOの新条約で重要な進歩であったといえるのが、「インタラクティブ送信に関する権利」、「実演家の人格権」、「コピー・プロテクション解除装置に関する法整備」および「権利管理情報に関する改変の禁止」の4つである、とのことです。 なお、WIPO新条約についての原文・訳文は、社団法人著作権情報センターのホームページ(http://www.cric.or.jp/)から入手可能です。 Cでは、集中管理による規制緩和(仲介業務の法の改正)、デジタルコンテンツ流通の安全保障(技術的保護手段に対する法的措置、権利認証システムに関する保護措置)、権利管理情報システムの整備(権利管理情報の法的保護、著作権権利情報集中機構J-CISの設立)が今後の主要課題とのことです。 ここで、出席の皆さんのアンケートからのご意見をご紹介します。 第1部では、「講師の話が上手く流れが分かり易いため、よく整理して理解できた」、「とても分かりやすかった。著作権問題の具体例があれば、なおよかった」、「大変参考になり、全体概要の整理ができたが、もう少し時間が欲しかった」、「実務上の有用度は高くないが、説明が分かりやすかった」、「電子出版の『出版』自体で多くの問題が起きることが分かった」、「実例問題(判例)の解説が聞きたい」、「例など分かりやすく、今後役に立ちそう」、「コンテンツ作成の側からすると、まだまだ複雑という印象をもった」、「著作権に関する情報収集の必要性を再認識した」、「もっと深みと実用性が欲しい」です。 第2部では、「WIPO著作権条約に対応する著作権法改正の必要性として次の国会にかかる予定の頒布権の話などは面白かった」、「条文についてだけでなく、具体的な事例もあげてもらえると、もう少し分かりやすかった」、「著作権一般に話が及び時間が足りない。デジタルコンテンツに絞り込んで欲しい」、「時間の関係で平成9年の法改正までの説明であり、最新動向まで及ばなかった。次回を期待したい」、「1日とってやって欲しい」です。 セミナー全体としては、「通常のアナログ出版を行うと同時にデジタル出版を行っているため、自社の著作権侵害を発見することはなくても(正確には気付いていない)他者への侵害行為が多くいつの間にか侵害してしまっているケースが多い。そのような中で問題点、対策、法改正についてどのような状態であるか把握するのに非常に役立った。また、法改正、WIPOの著作権条約についての問題点について理解できたので、今後仕事の中で上手く生かしていきたいと思う」、「プロ(出版社、ISP など)が提供する電子出版の著作権問題よりも我々のような素人がEメールサービス、Webページ作成の際などの注意点を聞きたかった」、「全体として盛り沢山で、時間不足に感じた。事例やケーススタデイをもう少し聞きたかった」、「1つずつに時間をもっと取って詳しく説明して欲しい。特に第2部」、「Windowsのテクノロジー関係の情報は入手が比較的容易であるが、今回のようなテーマは(技術者にとって)情報源が少ないため、とても有意義であった」、「仕事上、直面している話題であったため良い勉強になった」、「セミナー内容と時間配分をもっと検討して欲しい」、「始めて参加したが高度な内容であったと思う。さらに具体的なケーススタディなども含んで欲しい」、「過去のセミナーでの著作権に関する資料が見られるようにして欲しい」です。 今後希望するセミナーとしては、「ソフトウエアプログラムの著作権問題に関する動向」、「ホームページ管理について」、「著作権のみでなく商標もからめた話。今後著作権や商標(ドメインネームなど)を含む問題はデジタル文化が進むほど増加する傾向があると思うので、そのような問題を扱ったセミナー」、「著作権契約書の実例研究」、「ソフトウエア会社におけるコンプライアンスプログラムの策定。ネット犯罪が社会的問題となっており、個人情報保護の問題もあるため」、「個人発信におけるデジタルコンテンツ著作権について」、「アプリケーションソフト等の共同開発における著作権または知的所有権について」、「著作権問題に関しては事例などの話も(Web公開で)あると助かる」、「現在mp3等の登場により音楽ベンチャー企業が盛んになってきているが、そのベンチャー企業らが必要な権利処理等について」、「ソフトウエアライセンス権利(クライアント、サーバー、インターネット利用)、ActiveXアプリケーション(ブラウザー上で勝手に動く)配布時の著作権処理」、「引き続き著作権処理問題を」、「当セミナーを継続して、より具体的な事例の解説」、「更に各論の展開を」です。 たくさんの貴重なご意見をありがとうございました。次のセミナーに反映させたいと思います。 |