Windows よもやまばなし

富士ソフトABC株式会社
横浜システム部 第四技術グループ
リーダー  中山 千久麿
chnakaya@fsi.co.jp




『Windows 〜 窓の向こうに見える景色 〜』

− ありふれた日常のひとコマ −
 こんな経験をされたことはないでしょうか。
 会社帰りの通勤電車。一日の仕事が終わりボンヤリと吊革につかまっていると、前に座っている恰幅の良い男性が熱心に何かを読んでいる。ベストセラーのビジネス書でも読んでいるのかと何気なく覗いてみると、アプリケーションのマニュアル本だった。
 夕食後、のんびりTVを観ていると友人から電話が。自宅のパソコンの調子が悪いとか。あれやこれやと質問したり、状況を聞いてみてもなかなか埒があかず、結局次の休みに友人宅を訪ねることに。
 今までこちらがパソコンの話をしても、いかにも興味の対象外と云う顔をして聞いていた知り合い。久し振りに会ったら、『○○○ってアプリケーションさぁ』と、いきなり話し出し・・・。などなど。
 気がついてみると、身のまわりでパソコンの話題というものが、ごく当たり前のコトとして語られるようになってきたな、と云う気がします。
 これはやはり Windows 95 が発売され、またインターネットが普及してから顕著になってきたと云う意見に、同意してくださる方も多いのではないでしょうか。
 周囲の友人たちを見廻してみても、圧倒的に Windows 95 を使っている人が多く。またそれ以外( DOS や Windows 3.x も含めて)の OS を使ったことがないと云うケースもあります。
 そう云えば、過去に DOS/V のことがニュースになった時も、Windows 3.1 が登場した時に CM(『笑ってお仕事〜』と云うやつですね)が流れた時も、元々パソコンに興味を持っている仲間以外は、あまり関心を払ってくれなかったように記憶しています。

− 別売の説明書 −
 ちょっと前に、近所の書店がリニューアルしました。
 内装を奇麗にし、売り場面積を広げたのですが、一番広くなったなと感じたのはパソコン関連書籍(専門書)のコーナーです。なかでも Windows 関連アプリケーションとインターネットに関したものが豊富になりました。
 本屋に行くとマニュアル本の種類の多さには感心させられます。多色刷りでカラフルなページ構成、図解も豊富で、理解しやすく、使いやすいように工夫されているのが良く分かる作りになっている書籍が、たいてい平台に山積みされています。
 一つのアプリケーションでも、実にたくさんの本が出ているので、いったいどれを買って良いのか迷うほどです。
 それだけ需要があり、また実際に売れているということなのでしょうが、ふと考えるとこのマニュアル、なぜ書店で売って(売れて)いるのでしょう。
 たいていの電化製品は、モノと一緒に取り扱い説明書が付属しています。一枚の紙切れの場合もありますし、冊子の形をとったものもあります。しかし、概ねそれがあれば(場合によってはなくても)操作に困らないで済みますし、買った製品でなに(電話であれば、留守録やアドレス登録など)ができるか解ります。
 また、操作方法が分からなくなった時でも、付属の説明書を数ページも読めばことが足ります。「自宅のテレビの時刻合わせの方法が分からなくなったから、ちょっと本屋に行ってマニュアル本を〜」ということには、まずなりませし、そもそも売っていません。
 ほとんどのソフト(OS も含めて)にも、最近は印刷された紙ベースの厚いものはあまり見かけなくなったとはい云え、オンラインヘルプがあります。
 なかにはキャラクターがやってきて、何をしたいのか訊いてきたり、インストール後、初回起動時に使い方や機能などをプレゼンしてくれるなど、凝った作りのソフトもあり、まさに至れり尽くせりと云う感があります。
 では、そういったソフトのマニュアル本は、さすがに書店で売っていないかというと、特にそんなこともないようです。(もっとも個人的にはこういったヘルプの部分、良くできていると感心しているのですが)

− 思い出話 −
 ソフトウエア業界に入って、最初に感じたのは、(独特な表現も含めて)とにかく専門用語が多いということでした。
 そもそも、それ以前はコンピュータ(パソコン)とは無縁の生活をしていた、ずぶの素人なだけに、『マシンを立ち上げる』・『アプリケーションを起動する』など、ちょっとした言葉でも、「ずいぶん変わった言い回しをするものだ」と感心したものです。
また、先輩方の専門用語だらけの会話を横で聞いていて、「本当に日本の会社に就職したのだろうか」と、ふと思ったコトもあります。
 そんな状態ですから、入社して最初に購入した書籍はと云うと、ご想像通り”コンピュータ用語辞典”でした。今でも新入社員の机の上などに、希にそういった辞書の類がのっているのを見かけると、その頃の自分を思い出して、心の中でニヤリとしてしまいます。
 『人間とは馴れの動物』とは、良く言ったもので、それでも数ヶ月すると平気で先輩諸氏の会話についていけるようになりました。(その頃を知っている先輩や同僚から、ウソをつくなという声が聞こえてきそうですが・・・)
 ただ逆に弊害(?)がでてきたのは、日常の(コンピュータなどに興味がない)知人たちとの会話の中です。何気なく「デフォルトで」とか、「アクセスして」などと言ってしまい妙な顔をされることが度々あり、その度に別の言葉で言い直したりしていました。
 このあたり、なるべく状況に合わせて使い分けるように気をつけてはいたのですが、なかなか思うようにいかないと云うのが実状でした。

− 市民権を得たコトバ −
 最近は、くだんの友人たちも『セーブ』・『プロパティ』などと云うコトバを平然と使うようになりました。
 これはちょうど、『エゴ』・『アイデンティティ』・『モラトリアム』などの心理学用語の一部が一般的に認知されてきたことと似ているな、と云う気がします。
 だからと云って調子にのって、『アーキタイプ(原型)』・『 イド(原我)』・『ソシウス(社会的個人)』といったコトバを使った場合、同じように何の説明もなく使用できるかと云うと、そうはならない場合の方が多いのではないでしょうか。(ほかの分野の用語でもそうですね)
 そう考えたとき、コンピュータ用語は、一般的に認知されるコトバが増えてきたとは云え、まだまだその種類は多くないように感じます。
 そう云えば、いつだったか『メモリ / メモリー』・『ドライバ / ドライバー』などの長音符号(音引き)に関する問題提起をしている記事(この問題、煎じ詰めれば『JIS』と『国語審議会』の間で齟齬をきたしていることがそもそもの問題と云う気もしますが、ここでは詳しく触れないでおきます)を見かけたことがあります。
 オフィスの窓から外を眺めていると、毎日実にたくさんの人々が通り過ぎて行きます。
その中には、今でもほとんどパソコンを使ったことがない人も、まだ使い始めて間がない方々もいらっしゃることでしょう。
 今現在、コンピュータ用語(や独特の言い回し)の中で、そういった人たちにも違和感なく受け入れられる、市民権を得たコトバというのは一体どれくらいあるのかと、ふと考えてしまいます。

− ヘルプのヘルプ? −
 何のソフトだったかは忘れてしまったのですが、以前友人からネットワークの設定ができない、という電話を受けたことがあります。
 「ヘルプはついていないの」と聞くと、友人曰く「オンラインヘルプはある」とのこと、「あるんだけど・・・」と続けて、「ヘルプに書いてある(設定)項目がない」のだそうです。
 よくよく話を聞いて解ったことは、ヘルプでは『ユーザー名』なのですが、設定画面の該当する項目は『アカウント』となっていたのです。ご当人は、どこかに『ユーザー名』という項目があるはずと、目を皿のようにして探し回っていたと云う訳です。
 なんとか設定を終え、無事つながってからも納得がいかなかったらしく、何度も「でも、ヘルプにはそんなこと書いてない・・・」と繰り返していました。
 更に、それだけでは気がおさまらなかったらしく、「そもそも、『アカウント』って何なのさ」とも訊かれました。
友人が知っている『アカウント』とは、『計算書』とか『勘定書』の意味だと云うのです。確かに『アカウント』を辞書で引いてみると、『勘定(書)』・『計算(書)』・『口座』・『説明』などの意味が載っています。
 坊主憎けりゃ〜 と云うわけでもないのでしょうが、オンラインヘルプで検索をおこなっても『アカウント』の説明がないと不満を漏らしていました。
 いくらヘルプがあっても、そこに書かれている言葉の意味が解らないのでは、確かに何の助けにもならないのかもしれません。

− 窓の向こうに見える景色 −
 「(Windows の)オンラインヘルプってどう思いますか」周りの人たちにこう訊ねると、「紙ベースのマニュアルの方が使いやすい」と言う人、「そもそもマニュアルなんか見ない(見なくても使いこなせる)から必要ない」と言うツワモノ、「(本箱まで取りに行かずに)いつでも使えるから便利」と言う人、中には「 F1(状況依存)ヘルプがないと仕事が進まない」という依存症の方など、実にいろいろな答えが返ってきます。
 以前に比べると、オンラインヘルプもどんどん機能が充実してきたように感じます。
更に使いやすく、さまざまな方法で使用できるようになってきたなとは思うのですが、まだ多少引っかかる部分もあるように感じます。
 当然、ソフトによってかなり差があるのですが、そのあたりの事情も書店でのマニュアル本の売れ行きの一要素として、顕れているのではないでしょうか。
 『ユーザーフレンドリー』と言う場合、操作性やメンテナンス性など、さまざまなことについて云々されているようです。
その一つとして、困った時やソフトを立ち上げただけでは何ができるのか解らない時に使用するオンラインヘルプ(マニュアル)の充実、と云う部分も入っていることでしょう。
 極端な言い方をすれば、マニュアル本が売れなくなった時、『ユーザーフレンドリー』に対するエンドユーザーの評価が、一つ高まったことになるのかもしれません。
 今日も窓の外をいろいろな人たちが行き交っています。コンピュータが真の意味でユーザーフレンドリーなツールとなった時、どのような景色が広がっているのでしょうか。


今月のトピックス

富士ソフトABC株式会社
技術調査室 室長 山本 淳
yamamoto@fsi.co.jp



●Microsoft Professional Developers Conference 1998 (PDC 98)


 97年9月米国カリフォルニア州サンディエゴ・Professional Developers Conference 97 (PDC 97)で発表された"Windows DNAアーキテクチャ"は、1年が過ぎたコロラド州デンバーでいかに進化したのか...?
 98年10月11〜15日 John Denverを生んだロッキー山脈の高原都市で今年のPDC 98は開催された。米国デンバーからリモートアクセスを通じて、マイクロソフトのWindowsを取り巻く最新情報をお伝えする。朝8時半からスタートする基調講演に合わせてホテルの前でシャトルバスを待っていると、吐く息が白く濁り日本の初冬を思わせる陽気の中で、済みません華氏39度って摂氏で何度...?

 PDC 98の初日はBill Gates会長の基調講演 "Building Windows-based Applications for the Internet Age"で幕を開けた。But...その内容はこれまでのさまざまな発表を踏襲するにとどめ、新たな発表は行われなかった。唯一新しい話題としては、B. Gates会長と新たな立場に就任したS. Ballmar社長のビデオが一番受けていた。続いて登場したDavid Vaskevitch副社長の"Evolving the Windows Platform into the Next Decade"講演は、前半PDC 97で講演した内容を繰り返したにとどまり、思わず眠りに入ろうとしたその瞬間、PDC 97で披露されたWindows DNAアーキテクチャは確実に進化し、昨年発表されたCOM+はWindows NT 5.0 Beta 2版でプレビューコードがリリースされ、Beta 3版ではフルインテグレーションされるという。さらに98年9月のBusiness Applications Conference 98 (BAC 98)で予告されたForms+およびStorage+で3層構造のコンセプトが完成し、さらに進化していくという。さらにツール担当のPaul Gross副社長の"Tools for Building Windows DNA-based Applications"の講演を聞いて、PDC 97では98年中に登場するはずの開発コード名"Aspen"と"Rainier"のうち、"Aspen"コードはVisual Studio 6.0として出荷され、何故か99年に遅延した"Rainier"コードはCOM+とNT 5.0に特化した統合ビジュアル開発ツールとして登場する予定である。

 2日目のGeneral Sessionでは、Windows DNAアーキテクチャの実装コードとして、デモを中心に周到な準備の元にサンプルがアナウンスされた。データ・サービス、コンポーネント・サービス、プレゼンテーション・サービスの3層構造のアプリケーション開発において、キーテクノロジーはMiddle Tier Business Logic Objects、XML、SQL Server 7.0の分散サービス、COM+、COM、MTS、MSMQ、IIS/ASP、ADO、DHTMLなどと整理された。

 日本におけるPDCおよびBACを99年が明けてから企画しているとマイクロソフトの担当者から聞いたが、開発者としてCOM、トランザクション、メッセージ、そしてDHTMLとHTMLの拡張言語としてユーザーインターフェイス層と思われているXMLが、実はデータ層を支える重要な機能と整理されたことに注目しなければならない。デモで披露されたさまざまなコンセプトは、これまでのWindowsネイティブ・アプリケーション開発を超えたところに位置付けされ、企業に存在するあらゆる局面で重要な意味を持っている。もちろんWin 32 APIをベースにしたアプリケーションはもちろん、Officeのマクロをフロントエンドにしたカスタム・アプリケーション、DHTMLをベースにしたWebアプリケーションと、Netscape CommunicatorでもサポートされるHTML 3.2とActive Server Pages (ASP)などなど、さまざまな形態で準備されており、そのほとんどが現状のWindows NT 4.0 + IE 4.0xは当然として、Windows NT 5.0、IIS 5.0、IE 5.0、Visual Studio 6.0 or laterなどの開発環境・実行環境において、シェアを固めている。

●MSDN Briefing

 10月に入って、マイクロソフトが営業所を構える札幌、名古屋、福岡、広島、仙台、大阪の各都市で、Microsoft Communityの開発者向けのカンファレンスが開かれている。東京で9月18日にDeveloper Daysとして一日開催されたセッション内容を各都市で半日セッションで紹介し、地方デベロッパーの底上げを図っている。
 現在米国に出張する前に札幌・名古屋の開催にMicrosoft Regional Director企業として関わったのだが、東京一極集中の情報提供の形態を打破する新たなアプローチとして注目していきたい。今後も3ヶ月に1度は地方巡業があるようで、今年も旅先から原稿を送る日々が続きそうである。

 PDC 98およびMSDN Briefingの詳細は、手元にプレゼン資料を入手してから改めてWindows View誌および各種技術系雑誌で紹介していく予定である。


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