最新Windowsソフトウェア事情(第42回)


Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp



電子ブックに見る麗澤大学誕生のいわれ

●就職活動とインターネット

 プライベートな話で申し訳ないが(私の原稿はいつも一人よがり、つまりプライベートな内容が多いという悪い評判が聞こえているのであらためて断る必要はないが)、6月下旬、上の娘の個展(多摩美術大学で油絵を専攻し、現在は版画を制作している)が銀座8丁目の「Oギャラリー」で開催された。私自身は美術の世界にとんと関心がないが、親の義務として一度は会場に足を運ばなければならない。先日、本欄の原稿打ち合わせをかねて、小泉さんを誘っていってみた。展示内容はOギャラリーのホームページに収録されているので興味のあるかた(?)はご覧いただきたい(図 1)。  URLは www.win.or.jp/~six10257/ である(win.or.jpとあるが、Windowsと何か関係があるのだろうか?)。また、私が急遽開設してあげたホームページにも素人デジタル写真を掲載してあるのであわせてみて欲しい(www.fsinet.or.jp/~arts)


図1

 個展の話はこれだけにして、もう一つ、下の娘の話を紹介したい。4年生の彼女は就職活動で大変であった。私がもっとしっかりしていれば有力企業のコネも期待できるのだろうが、しがない大学教授ではその期待も無残に崩れてしまったことはいうまでもない。しかし、親の立場としては何か手伝うことがあればと思っていたが、わずかに電話係りの仕事しかなかった。この就職氷河期のこと、どの企業にもじつに多くの希望者が会社説明会を出発点に始まる一種のゲームに参加しようとする。たとえば、9時から電話で説明会の申し込みを受け付けるというと、9時直後から電話してもほとんど話中でつながらない。そこで家中の電話(INS64なので普通の電話2台、娘二人のPHS2台の合計4台)をフルに使って電話をかけまくる。その要員の一人として数時間、電話をかける作業に加わったのである。もちろん、会社の中にはインターネットのホームページ上に受け付け欄があったり、電子メールで受け付けるといった、私にとってはまことにありがたい受け付け方法を採用しているところもある。これならいつでも待ち時間なしに申し込みができる。
 娘にとっていくつかの会社に対する就職活動はその出発点も終点もインターネットであった。I社の場合、まずインターネットで希望の会社の詳細を調べ、ついで会社説明会の申込み、面接の日程の連絡(電子メール)、面接の結果の通知、2次面接の日程、…といったように段階が進む。そして最終的な「内定通知」が電子メールで届き、その中では卒業までの以後の連絡も電子メールによる双方向でという話になっていた。もちろん、面接までがバーチャルに行われたわけではなく、筆記試験や面接は会場へ出向いたことはいうまでもない。
 数社から内定をいただいた結果、第一志望のおもちゃ企業に入社することになり、親としてこれほどうれしいことはなかった。文科系の大学といえ、パソコン(ゲームやインターネット)に向かう彼女の疲れを考えて数ヶ月前に液晶ディスプレイを買ってあげたが、このところの液晶ディスプレイの値下がりは想像以上であり、またまたタイミングを誤ったかなとも思っている。新製品といえば、今年2月にソニーのICレコーダ(図2)を購入した。


図2

 これはデジタルの音声レコーダであり、手のひらにおさまる大きさ、単4電池2本で1ヶ月近くもつこと、そしてパソコンのパラレルポートに接続してパソコンに音声メモを取り込むことができるといった機能をもつ。この装置をセミナーなどで披露していたが、7月はじめ、オリンパス社からIBM、ジャストシステムと協力して開発したVoiceTrecが発売された。これはコンパクトフラッシュメモリを記憶装置として使い、アダプターを使って録音した内容を直接、パソコンに移すことができる。その上、IBMの音声認識技術(ViaVoice)を使って音声を文字に変換し、さらに文字を日本語に変換するためにジャストシステムのATOKを使うという優れものだ。ソニーにこそ期待していた製品であったが、これでさきほどのICレコーダの寿命がつきてしまった。私の友人が発売初日にさっそく購入したVoiceTrecをみせてもらいながら、私もいつ購入すべきか、そのタイミングを見計らっているところである。

●こんなところにも「モラロジアン」

 話を戻そう。銀座Oギャラリーの数軒隣に小泉さんが何度か行ったことがある割烹(気楽に飲める店)がある。「銭形」がその名前だ。この店の名前はかの「銭形平次」からきており、銭形平次の作者、野村胡堂がよく通った店であり、店の名前も看板や名刺上の店名も野村胡堂の書である(図3)。


図3

 店に入ってカウンタに座り、さっそく「おでん」や焼き鳥を味わっているうちに、店のトップのおばさん(斉藤トシさん、店は息子の代になっている)がいらっしゃった。小泉さんから紹介され、「私はこの4月から柏の麗澤大学につとめているのです」と自己紹介したところ、「私もモラロジアンですよ」といわれた(図4)。


図4

 前回紹介したように、麗澤大学の母体はモラロジー研究所である。これは廣池千九郎先生によって始められた企業倫理(モラル)の研究と実践を中心とする活動であり、全国に数千社の会員企業が積極的な活動を行っている。それらの多くは小企業が多く、経営者みずからが長年の苦労のすえ、現在にいたったという企業が多い。「銭形」も最近亡くなられた御主人と一緒に夫婦で築き上げてきた店である。
 「モラロジアンは本当に身近にいらっしゃるのですね」から始まり、話がはずんだ。つい話の流れから、前回も紹介した千葉県柏市と岐阜県瑞浪市の麗澤高校をむすんだ遠隔接続実験授業についても、いつもカバンに携帯しているノートブックパソコンを開いて実験授業に関する情報を収録したインターネットのホームページを見てもらった。画面には瑞浪の広大な敷地や施設も映し出され、「ここはいったことがある」といったようにいよいよ仲間意識が高まってきた。このようにして、はからずも、気楽に飲んだり食べたりできる店を得ることができたことは、外で飲む機会の少ない私にとって、ギャラリーで娘の版画を見たことよりもかえって大きな成果であった。

●「電子ブック」の中の廣池博士

麗澤大学に隣接したモラロジー研究所敷地内には廣池博士をしのぶ(学ぶ)さまざまな施設がある。

図5

 たとえば、図5は廣池千九郎記念館の前で撮った写真である。博士の墓所もあるがまだ参拝したことはない。また、廣池博士の著作集や講演のカセットなども販売されており、その一つに著作集を収録したCD-ROMがあった(図6)。

図6

 この電子ブックは潟{イジャー社の「エキスパンドブック」によって電子化されたものであり、通常の書籍同様、画面上でページをめくっていく感覚で本を読むことができる。もちろん、しおりをはさんだり、任意のページにとんだりといった操作も可能である。

図7

 図7は「道徳科学の論文」総目録が表示されたところである。画面上段にはエキスパンドブックのメニュー、下段には目次のボタンがリストされ、本を読んでいるうちに、重要な個所はノートブックを開いてコピーしたり、感想を書いたりできる。また、任意の章を開くといった読み方ができる(当たり前であるが)。マウスを画面の左右にもっていくと自然に前後のページへ移動できる。さっそくマウスを左端へ寄せて次のページをめくってみると、図8のように、論文集の内容へと入っていき、つづいてページをめくると図9のように、いよいよ「道徳科学の論文」の内容へと進んでいくことになる。これはじっくり腰を落ち着けて読まないと、その内容を理解することはむずかしそうである。図にはまた、ブックメニューの「ノートブック」によって右下に表示させたノートの上にちょっとした感想を書き始めた様子も示されている。

図8                          図9

 ところで、廣池博士は図下段の「略伝」ボタンをクリックすることで図10のように表示される略伝目次にあるように、大分県中津に生誕され、その後、京都、東京、伊勢、千葉と精力的な活動をされていく。そして図11の内容を読むとわかるように、千葉時代に柏の地に我が麗澤大学をはじめとする教育の拠点を設けられたのである。電子ブックのこの個所がいわば、「麗澤大学出生録」であるといえよう。

図10                          図11


 1938年、廣池博士は谷川近くの大穴温泉でなくなられたが、谷川にはいまもなお博士が晩年を過ごされた家や遺品も残されており、この谷川に設けられたモラロジー活動の拠点(研修所)を使って行われた麗澤大学の新入生オリエンテーションには私も参加して、研修の合間に温泉を楽しませてもらったのであった。

●電子の世界から神代の世界へ

 現在(7月6日午前10時)、この原稿は小淵沢の山荘で執筆中である。パソコンのキータッチがスムーズに進みかけた頃、庭先で神主の祝詞が聞こえてきた。そういえば、我が家の南面に残っていた別荘地のもう一区画にいよいよ家が建つことになったのである。すっかり忘れていたが、今日はその地鎮祭であった。我が家の場合は経費節減のためや、もともとこの種のしきたりに無関心であったためにフォーマルな地鎮祭はスキップし、大工さんに酒をふるまっただけであった。しかし、せっかくのチャンスなので私も無理に式典に参加させてもらうことにした。もちろん、最新デジタルカメラで撮影のチャンスをうかがいながらの参加である。
 
図12

 まずは図12をみていただきたい。我が家を背景におごそかな式典が行われている。建築の無事を祈って祝詞をあげられているのは上野原の古峯神社からこられた神主さんである。建築主はTさん、やがて私の隣人となる方である。すでに東京を引き払って近所に引っ越してきており、これから新居の完成を待つことになる。もちろん、永住される予定である。おめでたい紅白の幕の中には祭殿がしつらえられ、それとなく観察してみると図13のように、果物や「するめ」、お神酒やその他もろもろ、これは何だと思わせるものもいろいろと並べられている。式典のあと、お神酒が配られたが、私も御相伴させていただいたことはいうまでもない。おかげで酔いがさめるまで原稿執筆が一時、中断のやむなきを強いられたことはつらかった。

図13

 知らなかったことだが、祭壇の中央にある「つづら」のような入れ物、これは紙ふぶき(正しい呼び方は何だろう?)が収められており、図14のように式典の一こまとして、紅白の幕の四隅に神主が紙ふぶきを散らしたのである。地鎮祭をこのように間近に見るチャンスははじめてだったので実に面白い経験をさせてもらった。これならビデオに収録しておけばよかったと思ったほどだ。みなさんには当然と思われるかもしれないが、地面にもられた土の山とそこに立てられた笹竹に対して、鎌で刈り、鍬を入れ、そして鋤ですくという手順も見られた。施主でないので、私がロールプレイするわけにはいかなかったが、一度はためしてみたい儀式と思われた。

図14

 最後にずうずうしく記念撮影に参加させてもらって地鎮祭は無事終了した。今年末には完成するということである。せっかくの南アルプスの遠望がさまたげられることにもなるが、さいわい、我が家の居間からの眺めにはT氏邸は姿を見せないということなので、まずは一安心といったところである。それよりも、物騒のあまりセコムまで導入した我が家のセキュリティがこれで少しは高まるものと期待される。また、高橋の自己宣伝が始まったと思わずに、みなさんもぜひ、小淵沢へ遊びにきていただきたい。  前回に引き続いて麗澤大学そしてモラロジー研究所を紹介させてもらった。経営者のモラルが強く問われる現在のような経営環境においてこそ、企業倫理の重要性を強調しても強調しすぎることはないと思われたからである。御了解いただきたい。

(麗澤大学国際経済学部教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)



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