最新Windowsソフトウェア事情(第39回)


Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp




未来の社長を夢見て

● 私も新入社員(途中入社)

 本年4月をもって筑波大学から千葉県柏市にある麗澤大学国際経済学部に移った。大学卒業後すぐに入社した野村総合研究所から数えると、横浜市立大学、成蹊大学、筑波大学そして麗澤大学と5度目の奉公ということになる。私が大学を卒業した頃(昭和41年)は入社にあたって誰でもが未来の社長を夢見ていた。社長は無理でも専務取締役ぐらいは、専務は無理でも平取締役くらいは、いや、いくらなんでも部長にはなれるだろうと思っていたはずである。たしかに、私が卒業した一橋大学は、当時は一応(声高らかに!)「Captain of Industry」をうたっており、官界の東大に対して産業界のリーダーたることをめざしていた。OB会(如水会)の名簿には商社、銀行、証券をはじめあらゆる業種にわたって先輩諸氏の華やかな活動の結果が誇らしげに各社のトップ層に名前を連ねていたものである。しかし、時代は大きく変った。バブル前後までは社内に次々に新たな部門が作られたり、子会社が作られることで管理職のポジションは無数に生み出されていた。しかしリストラ全盛の現代においてはポジションはますます減ってきた。また、情報技術などの導入により、従来のピラミッド型組織は大きく崩れ、中間管理職層もまたそのポジションをあやうくされようとしている。
 大学を卒業して30数年たち、50も半ばになるとつい昔の仲間が懐かしくなる。その結果、大学同期生との会合が増えてくる。つい先日も軟式テニス部の同期会があったが、そこに出てくる10数人の仲間の中で大学卒業後最初に就職した会社に現在でも勤めているのはわずか二人だけになってしまった。最初につとめた会社で部長(重役ではなく、もちろん社長でもなく)にまでのぼりつめたラッキーな男は二人だけである。
 さて、4月は新入社員の季節である。希望に燃えた若者の抱負を聞くのは楽しいものであるが、将来どこまで出世できるかというTVのインタビューに対して「ぜったい社長になってやるぞ!」と元気のよい新入社員はほとんどいなくなった。部長どころか「課長になれたらよいと思う」などと答える若者が多い。さびしいかぎりである。可能性は小さくとも夢だけは大きくもって欲しいと思うのは私だけではないだろう。今回はせめてパソコンソフトの世界で社長を夢見るビジネスゲームを話題にしたい。その名も「一日社長」(富士通)である。

● デジタルボイスメモ

 ところでソフトの紹介に入る前に、私も世が世なら社長になっていたはずなので、現在もなお、本欄の原稿など書いていられないほど忙しい。忙しいときにはどうしたらよいか、たとえばビジネス上のアイデアなどがふと頭に浮かんだときに、忘れないうちにメモしておく必要がある。しかし、アイデアは机に向かっているときに浮かぶだけとはかぎらない。むしろ、電車(じゃなかった。専用車!)の中とか、あるいは田園調布(古いかな!)の豪邸の近所を散歩しているときなどに浮かんでくる。そうしたときでもアイデアをメモできればよい。そこで図1のような最新の情報機器を購入した。これはいわゆるデジタル録音装置であり、ソニー製のICレコーダである。ボタン一つで即座にデジタル録音ができ、アクション、スケジュール、メモ、シークレットのフォルダにそれぞれ99本までのファイルとして保存できる。最長24分と録音時間はかぎられるが、録音された内容はソニー製の携帯電話に採用されているジョグダイヤルによって快適に選択し、再生できる。

図1

 ICレコーダは社長だけでなく、Comdexのように2千社を超える企業の展示を人ごみをかきわけて視察しなければならないときに便利に利用できる。さらにデジタルであるために当然、パソコンとの連携プレイも可能だ。ICレコーダには別売でパソコンと接続するためのキットも販売されており、パラレルポートと接続してパソコン側からICレコーダを操作し、必要な音声メモをwavファイルとして保存できる。パソコン側に保存したあとはICレコーダのファイルを消去してあらたな録音に使えばよい。図2はパソコン接続キットを使ってICレコーダを接続した様子を示している。

図2

 画面上段にはファイルボタンがリストされ、たとえばSCHEDULEボタンをクリックすると、そのフォルダーに録音されたファイル一覧が画面中央にリストされる。それぞれ録音日時や録音時間が示されている。ファイルを選択し、画面下段の再生ボタンをクリックするとICレコーダから音声が聞こえてくる。また、これは保存しておきたいと思ったファイルは保存ボタンをクリックすることで保存できる。さらに、ICレコーダでは重要マークを与えて重要度の順にファイルを表示させたり、アラーム再生を設定して特定の音声ファイルを指定した日時に再生させることもできる。しかし、この画面自体はもっとも基本的な機能だけしか含まれてなく、面白味にかける。また、ケーブル接続でファイルを取り込んだりするので時間がかかる。昨年のComdex/Fallではスマートメディアを使ったデジタル録音装置をみかけた(本欄第35回、図5参照)。これならノートブックパソコンのカードスロットにさせば、そのままパソコンで参照できる。商品が発売されていれば、その場で購入したかったが、発売はまだということであった。デジタル録音装置に大きな関心があったので、日本で発売になったソニー製の製品を購入したのである。ソニーのブランド名に引かれたというのも理由の一つであったが。ソフトの面白味からいえば期待はずれだ。2万円ちょっとの出費が悔やまれる。しかし、社長としてはそんなわずかな出費など、とうの昔に忘れていなければならない。先へ進もう。

● ビジネスゲームとは何か

 パソコンの上とはいえ、社長を体験させてくれるソフトがビジネスゲームあるいはマネジメントゲームである。このソフトは一般にシミュレーションあるいはロールプレイングとよばれる分野であり、題材をゴルフにすればゴルフゲーム、パイロットにすればフライトシミュレータ、あるいは戦国時代の武将にすれば「信長の野望」ということになる。名前からするとゲーム(お遊び)的に見えるが、実際にはビジネスゲームなどを課題としたりっぱな学会もあり、大学の先生方がさまざまな視点からシミュレーションやゲーミングの可能性を研究されている。かくいう私もこの日本シミュレーション&ゲーミング学会の理事をつとめている。昨年度までは学会誌編集委員長をつとめていたが、委員長とは名ばかりでさぼってばかりいたので退任させられ、現在はパソコンソフト業界の方々をまじえて、産学共同の勉強会をやれという指示を受け、その企画をねっているところである。この学会は国際シミュレーション&ゲーミング学会とも連携しており、この分野で最新情報を集めるためには重要な学会である。法人会員も募っているのでシミュレーション関連ソフトに興味のあるみなさんはぜひ、参加いただきたい。私の推薦があればすぐに参加でき、私にとっても会員を勧誘したという実績が加えられ、理事の再選(!)も期待できるというものである。学会事務局は日本パーソナルコンピュータソフトウエア協会にあり、協会から人的、資金的な面で全面的な協力を得ている。なお、参加を希望される方は学会事務局(電話03-3253-9166あるいは電子メールjasag@jpsa.or.jp)に連絡されたい。
 パソコン用のビジネスゲームは私も大学院時代の研究テーマの一つとして積極的にモデルの開発や企業における実践にかかわったものである。その証拠にいまでこそ絶版になってしまったが、日本経済新聞社から「ビジネスゲーム入門」などという著作もものにした(私と同じくこの4月より麗澤大学助教授に就任されたローカス社の藤森洋志氏との共著)。藤森氏はロータスノーツの専門家であり、また、長らくユースウエア協会の理事もつとめてきた。みなさんもいろいろなところで名前は見かけたことがあるのではないだろうか。
 
● 社会人向け大学院におけるビジネスゲーム

 前の大学(筑波大学大学院)では藤森氏にも非常勤講師として参加してもらい、社会人の学生対象にインターネット上で運用できるビジネスゲームの開発と実践を行った。この科目は5,6名の教授が共同で担当し、コンピュータ専門の教授の支援のもとにモデルを開発したものである。

図3                          図4

 図3はAlexander Islandsモデルと名づけられたゲームの概要であり、実際には図 4のようなシステムの上で運用される(図は藤森氏の手になるもの)。このゲームでは二つの島において商品の販売を行っている会社をモデルとしているが、価格設定、商品の発注そしてそれぞれの島での広告出稿が意思決定の中心である。関連してごく基本的な借り入れ/返済の意思決定も含まれる。ゲームの運営はインターネットのホームページを通して意思決定がなされ、業績などの処理や表示も同じくホームページ上で行われる。インターネットを使ったのは本学の学生が企業人であること、したがってつねに学内の施設で教育を受けなければならないというのは条件としてきつく、できればそれぞれの会社なり家庭から教育(ゲーム)に参加できることをねらいとしたからである。 たしかに、この遠隔教育をより充実させていくことはますます関心が高まるリカレント教育熱に応じるための重要なアプローチであろう。私も放送大学で「情報基礎管理学」を担当しているが、旧来の一方向的なTV教育だけでなく、インターネットなどの双方向メディアを活用した社会人教育も大いに研究、実践すべきと考える。ビジネスゲームもまた、インターネットを通じれば純粋な学生だけでなく、各業界なりのバックグランドをもった人々をまじえてより本格的なゲームの試行へと進んでいくことができると思われる。この点において私も関係して実施された日興証券(日本経済新聞社が開発、運営にあたった)の大学生チームを対象とした「インターネット上の証券投資シミュレーションゲーム」も注目されよう。また、近く「ディスタンスラーニング学会」も設立されることになっている。これは米国のUSDLA(US Distance Learning Association)と提携しながら日本における産学の遠隔教育の研究、実践に関する情報交換などをすすめていこうとすることをねらいとした産学共同の学会であり、私も設立発起人の一人となっている。本欄の読者にとっても関心がある学会ではないかと思われる。問い合わせは下記にお願いしたい。

  日本ディスタンスラーニング学会事務局設立準備室 友広さん
  電話03−5521−1740

● パソコン用のビジネスゲーム

 パソコン用のビジネスゲームというと光栄の「トップマネジメント」などがあったが、最近、攻略本などまで出てそれなりの人気をはくしているソフトは「サ・コンビニ〜あの町を独占せよ〜」(マスターピース社)である。ビジネスゲームの具体的なイメージを得るために、このゲームを簡単に見てみよう。ゲームはとある街角に新しいコンビニを開店するところから始まる。そのためには場所の選定/購入、店の外観、内装、商品の品揃え、店員などの雇用、広告などの販売促進策の検討といったさまざまな分析や意思決定が必要となる。こうした意思決定には本来、市場調査、設備投資の経済計算、販売促進とその効果の分析、商品の在庫管理など数量的かつ理論的な分析が求められるが、小中学生を含めて一般のパソコンユーザーはゲーム感覚でこのきわめて現実的、リアルな意思決定をいとも簡単に行い、しかも楽しんでいる(!)。大学の経営学などの講義において老教授が小難しい理論を振り回し、学生の居眠りを誘っている状況とのあまりにも大きな違いに驚かされるほどである。おそらく、「ザ・コンビニ」を楽しむゲーマーの少なからぬ部分は大学生がしめているはずである。

 
図5

 さて、ゲームの実際をいくつかの画面例で見ておこう。図5は店内のレイアウト上に商品ケースやレジあるいは社員休息スペースなどを配置しようとしているところである。入り口から店の奥に向かってどのように什器を配置するのが客にとって買い物しやすいか、それが売れ行きにも影響してくる。また、社員の休息スペースも社員の働き具合に微妙に影響してくる。

図6

 つづいて図6は商品に関する営業方針の設定画面である。ここでは利益率や営業時間の決定がその中心である。高い利益率を求めようとすればそれだけ競合店との競争が苦しくなるし、また営業時間を延ばすと営業費用や社員の就業状況に影響を与える。さまざまな要因を考慮してきめなければならない。もちろん、実際に営業してみないとどう決定してよいか分からないだろう。ゲームにおいてはいつでも実績データを分析して営業方針を変更することが可能である。

図7

 今度は店長や店員の雇用である。人件費を横目でみながら、何人かの候補者の中から各人の教育レベルや才能そして体力などを勘案して選抜することになる。図7に見るようにイラスト入りの履歴書を見ながら選抜していく。各人の右側にリストされている各項目は単なる見かけ上の数値というのではなく、以後の店の運営にあたって実際の数字としてその影響があらわれてくる。

図8

 このようにして新しい店の設定が終了し、いよいよ開店の日を迎えたとしよう。図8は開店後の店の状況を示している。画面の上段には町の地図上に店の位置が表示され、競合店との関係がビジュアルに表示される。また、画面右側には店内の様子がリアルタイムで表示されている。リアルタイムというのは画面下段に日付と時刻が示されているように、店に入ってきたり、買い物をして出ていく客の動きが刻々と表示されるのである。また、店内の清掃を怠ると次第に店内のフロアの汚れが目立ってくるようになり、それを見てすぐに店を出てしまう客も見られるようになっていく。こうしたリアルな状況のもとでのビジネスゲーム、それがこの「ザ・コンビニ」の人気の秘密の一つとなっている。

● ビジネスゲームへの期待

 ビジネスゲーム(Business Game)あるいはマネジメントゲーム(Management Game)の用語にはビジネス(マネジメント)とゲームの二つの語が含まれる。まずゲームは「人為的に作り出される現実に似せた状況のもとでロールプレイングを行うこと」といえる。現実に似せた状況を作り出すアプローチがいわゆるシミュレーション(simulation)であり、そのもとになるのがモデルである。モデルには地形をあらわす地図、外気温をあらわす温度計、車の外観をあらわす粘土(クレイ)モデルなど無数に見られるが、ビジネスゲームにおいては多くの場合、何らかの数式モデルが用いられる。数式モデルは、作りやすく、しかも操作しやすい(シェアを計算したり、利益を計算するといった処理操作)といった利点がある。
 ゲームという言葉のもう一つはロールプレイングという言葉である。ここでロール(role)とは役割とか働きのことである。たとえばパソコンゲームにはフライトシミュレータとよばれるソフトがある。これは飛行機のパイロットを演じて画面上に人為的に再現された空中を飛行するソフトであるが、そこに反映されている飛行機の動作(操縦桿などを含めて)はじつに現実的であり、飛行訓練学校でもこの種のソフトが教育に採用されていることからもモデルの精緻さがうかがえる。たしかにソフトに添付されているマニュアルを見ると大半のページが航空理論や飛行力学にさかれていることに驚かされる。
 ビジネスゲームのもう一つの語であるビジネス(あるいはマネジメント)は当然、このゲームの一つジャンルとしてのビジネスゲームの対象がビジネスの世界であるということを意味している。ゲームにはすでに見たように、パイロットを演ずるフライトシミュレータに加えて、ゴルファーを演ずるゴルフゲーム、囲碁名人を演ずる囲碁ゲーム、ラスベガスに遊ぶギャンブラーを演ずるカジノゲームなど、無数の種類がある。そしてビジネスゲームにおいては、演ずべきロールは経営者(マネジメント)であり、経営者として経営すべき対象はビジネスの世界である。したがってビジネスゲームは「ビジネスの世界を対象として構築される現実に似せた仮想的な状況のもとで経営者としての役割つまり意思決定者としての役割(ロール)を演ずること」を目的としたゲームであることがわかる。それではビジネスゲームにはどのような効果が期待されるのだろうか。

● ビジネスゲームの効果

 「ザ・コンビニ」が多数のユーザーを引きつけていることは、それらのユーザーがマーケティング理論を学習したいと思っていることのあらわれだろうか。それは違う。やはり「ストリートファイタ」や「ファイナルファンタジー」などのように、現実にはか弱い身であってもゲームの世界では世界最強でありたい、あるいは幻想の世界で姫を救い出す若物になりたいといった、現実にはかなわぬロールを演じることに喜びを感じているからであろう。ビジネスゲームにおいてもみずからは企業の歯車の一つにすぎない身であるが、ゲームの世界では歯車のすべてをみずから回してみたいという願望を実現させてくれるからであろう。もちろん、実際にゲームをプレイしてみると、パソコンをほっておくだけで画面上の店頭には次々に客が出入りしていく様子が眺められるので、単に環境ビデオではないが、なんとはなしにパソコン上にコンビニを置いておきたいというただそれだけのことかもしれない。このへんは実際にユーザーに聞いてみないとわからないことである。
 さて、いうまでもないことであるが、ビジネスゲームに関して、強いて(無理に!)その理論的な検討を加えることにすると、まずその効用(利用目的)の第一は教育、研修ということになろうか。
 教育の手段としてのビジネスゲームにおいてまず問題にすべきはゲームを通してビジネスの何を教えるかである。それがはっきりしていなければ開発すべきゲームの具体的な内容が見えてこないことはいうまでもない。教育といったときにたとえば、マーケティングや会計を教えたり、あるいは経営科学の分析手法の実践を行う場を与えたいなど、特定の科目なり手法の教育のツールとしてビジネスゲームを使うことが考えられる。その場合、当然に問題にすべきは、同じくマーケティングを教えるためにビジネスゲーム以外の方法として何があり、それらの方法とビジネスゲームがどのような関係にあるのかを考えることである。たとえば、教科書を使った座学学習を行ったあとにその補充的な学習として実際にマーケティング理論を応用してみることを目的とするといった関係である。海外で販売されているビジネスゲームソフトの中にはこうした座学的な学習とそのフォローアップとしてのビジネスゲームを関連づけたソフトも見られる。

● ビジネススクールでも利用できる本格的なビジネスゲーム

 図9は「Interactive Business: The Marketing Mix(Mentorom Multimedia社)の初期画面である。

図9

 ここにはまず理論編(Theory Index)があり、マーケティングの理論をさまざまな方法で学習する。ついでその学習成果をふまえながら実践編としてビジネスゲーム(Simulation)を選択、実行するのである。いま理論編を見ることにしてTheory Indexをクリックすると図10のような画面が表示される。

図10

 ここには左側に理論編の項目がリストされており、その一つたとえば「7 Ps of marketing(マーケティングの7つのP)」を選択するとその右側にリストされているような学習項目が表示される。このマーケティングの4つのPあるいは7つのPはProduct, Price, Promotion, PlaceのようにそれぞれPから始まるきわめて重要な要素であり、私もかつて学んだ項目である。それはともかく、学習をさらに進めるべくたとえば「Marketing Process」を選択し、上段のGotoボタンをクリックしてみると今度はこの特定の項目に関して図11のような学習画面が表示されることになる。

図11

 図を見て分かるように、学習は解説のテキスト、写真、ビデオなどから構成されるページを画面右下の左右のボタンをクリックすることで読み進んでいくことになる。また、理論だけでなく、画面下段に見えるタブを選択することで実際の事例(ケーススタディ)や仮想的な例題(Ficticial Examples)そして関連するさまざまな活動を参照できるように工夫されている。大学で教える身にとってはビジネスゲーム以前にこうした教育ツールとしてのパソコンソフトについ関心が移ってしまいそうである。
 パソコンを使った教育というと初等教育(あるいはせいぜい中学程度)に限定されがちであるが、大学や企業における学習/研修の効果的な手段としてぜひ、活用法を考えたいものである。そういえば、毎年視察する米国のComdex展示会にあってかの有名なハーバード大学ビジネススクールが展示ブースをもうけているのをみかけて、つい立ち止まって話を聞いたことを思い出す。そこではビジネススクールで使われているケーススタディの教材をCD-ROM化してマルチメディア教材として企業向けに販売しようとしていたのである。日本でいえば慶応、早稲田(ハーバード大学は私学なので。しかし、実際には米国には国立大学はないのでレベルから日本の最高峰という意味で東大と比較すべきか)にあたる有名大学がその教育ツールを商品として販売しようとしているのであるから、日米の大学のまさにビジネスの違いを感じさせた。もしかして大学経営を対象としたビジネスゲームが開発されているのかもしれない。
 最近、ソニーからハーバード大学ビジネススクールの教材をVOD(Video On Demand)方式で提供する製品の販売が始まった。有名なマイケルポーター教授の経営戦略論をはじめ、10人の有名教授の講義のビデオが日本語化され、ビデオサーバーに入れられる。社内(学内)のパソコンからLANを通じて学習できるという仕組みである。大学向けのライセンス(1年契約)でも10科目で300万円を超える価格設定がなされており、すぐには手が出ないが、情報技術を使った教育の具体例として注目されよう。なお、問い合わせ先はソニー株式会社B&I営業本部(電話048‐652‐8808)である。

図12

 マーケティングの理論を学んだあとは、それを実践すべくいよいよSimulation(ビジネスゲーム)へと進んでいく。図12はその画面例であり、ここでは家具販売業者をモデルの対象としたシナリオの上でいま、製品(ソファ)の価格の意思決定を行っているところである。画面左側には価格、販売促進、流通(Place)そして製品(仕入れなど)の意思決定とともに、市場調査などの機能も含まれている。これらの意思決定は最初は価格だけしか決めることはできず、ゲームの進行につれて(ゲームになれるにつれて)その他の意思決定も可能となっていく。
 たしかに、ゲームを開発する立場で考えるとやみくもに意思決定要素の数を増やしたり、市場の状況を複雑にしたりしてモデルの規模を大きくしたくなる。他のゲームモデルとの比較からどうしてもできるだけ大規模かつ複雑なモデルを作りたがる。しかし、ビジネスゲーム本来の目的からすると、むしろシンプルなモデルの方が効果的であるとか、あるいはいまのように、ゲームの進行にあわせて段階的に意思決定を高度化していくといったゲームの進め方を工夫する必要があるだろう。
 図の下段には解説、情報、意思決定そして期を進めるためのタブが用意されている。また、右側には損益計算書、販売状況、在庫状況などの情報をみるためのボタンが見える。さらに上段にはゲームの進行(Run)ボタンがあり、このボタンを押すことで意思決定が処理され、次の期の新たな状況が作り出されてゲームが進行していくことになる。このソフトは「ザ・コンビニ」のようにリアルタイムな販売の状況を見せてくれるものではないが教育面でのビジネスゲームのあり方を示唆する多くの重要な機能なり側面を備えていると思われた。
 このようにして、今回は私立大学へ移ったこともあり、つい理論的な話をまじえたソフト紹介になってしまった。また、「一日社長」を紹介する余裕もなくなった。本欄も連載をつづけるうちに、次第にタネ切れにもなってきた。次回以降の話題のために残しておくことにしたい。また、みなさんからの積極的なソフト提供をあらためてお願いしたい。

(麗澤大学国際経済学部教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)



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