Windowsよもやま話


Windows と私とのあやしい関係

富士ソフトABC株式会社 技術調査室
テクニカル・アナリスト 島村 裕之 simamura@fsi.co.jp



 以下、私の個人的な趣味により、かなりの暴言が含まれています。あくまでも私個人の偏見と独断による暴言であることをご理解の上、読んで頂けますようにお願い申し上げます。

● Windows とのお付き合い

 今回 Windows View 誌に原稿を書く機会をいただき、先ずはコレを書かないと先に進めないような気がしましたので、書いてみることにしました。暫くは御辛抱のほど、宜しくお願いいたします。

 現職(富士ソフトABC)中途入社の私が担当した最初のプロジェクトが OS/2 のバージョンが 1.0 から 1.1 に上がった瞬間の OS/2の調査からでした。それまではAppleUや Lisa/Macintosh、Dosマシン、ゲームの業務機、家庭向けゲーム機の開発ばかりで、Windows という言葉はニュースとしては注目すべき題材でしたので表向きの仕様は知っていたものの、それを使用するということはありませんでした。
 OS/2 の調査ではプレゼンテーションマネージャという非常に興味深いインターフェイスを存分に調査することができ満足の毎日でした。実は IBM 社とマイクロソフト社が共同開発したこの OS/2 のインターフェイスがマイクロソフトの Windows の骨格となっていたのですね。
 OS/2 関連のプロジェクトが暫くすると、プラットフォームを Windows にも移植という方向になり、同プロジェクトの別部隊が Windows 386 なるものを調査し始めましたが、私はユーザーインターフェイスや実現手段(内部アーキテクチャ)をみるなり、そのままあっさりと『忘却』という思考経路を辿っていました。
 Windows 3.0 が世に出て、世の中が Windows 流行状態である時でも私は頑に DOS 環境を維持し続けました。コンピュータで絵を描いたりグラフィックをハンドリングする趣味もありましたのでグラフィックタブレットなどは商品が出た当初から持っていたのですが、Windows 用のドライバがないとか、動作が重い、過去の環境を失いたくない等が、DOS 環境を維持していた主な理由です。
 私の商売道具は常にノートタイプの PCでした。PCMCIAカードが使えても、Windows ではなく DOSでした。Windows に素直に移行できなかった理由は、そこにもあったのかも知れません。
 Windows 3.1が出てからWindows はインストールしていましたが、Windows 専用アプリケーションでしか読むことのできないファイルを取り扱う時だけアプリケーションと一緒に起動していたわけです。ですから使い勝手は余計に悪いわけです。それでも自宅に LAN 環境を持っていたりという事情から内部の動作などには興味があり、密かに色々な悪戯をしていました。フロッピーディスク1枚(1.25MB)で起動する Windows とか。OS/2の時にやっていた悪戯は全てやっていました。
 そういえば、Windows 3.1 が全盛だった頃の愛用のワープロは徹底して DOS 版の某 DTP ソフトでしたね。当時はドキュメントに関しては、これ1本で必要十分だったのです。その頃メジャーだった Windows 用のどんなワープロや DTPソフトよりも一桁も使い勝手が良くて、二桁も機能が上だったのですから。
 私が完全に Windows 環境に移行したのは、やはり Windows 95 が出てからです。ネットワークのドライバ環境が完全に Windows 側に移行し、アプリケーションの作りが楽になり、優れたグラフィックアプリケーションが育ったこと。Win16 の頃のアプリケーション群は取り敢えず揃ってスムーズに Win32 環境に移行してくれたため、私としては非常にありがたかったです。
 もし私が Windows の代表的アプリケーションを数点挙げるとしたら、恐らく表計算ソフトやワープロよりも真っ先にグラフィックソフトを挙げてしまうかも知れませんね。また、専用の DTM ソフトが Windows 95 によりドライバ依存が薄くなったため、専用機で行っていた曲作りなども、比較的安心して Windows で行うことができたのも、Windows 95 のおかげといった所です。
 もう一つ、Windows 95 の良い所は従来のユーザーインターフェイスを互換性という形で共存するのではなく、新しいインターフェイスと旧来のインターフェイスを切り替えて使えるようにした所であると思います。勿論、Win 32 という売りはありましたが、プログラム上のインターフェイスだけで、内部的には 32 Bit化が余り解決されていなかった所が、常に付きまとう不満の元になっていました。それが動作の現象として現れて来るのです。ですから私にとっては、やはりユーザーインターフェイスである所が完全に乗り換える理由としては一番大きかったです。
 現時点ではどうなっているかというと、DOS用の自作メモリ管理ツールやメモリマネージャの出番は既にありません。起動するアプリケーションの殆どが Windows 95ネイティブソフトです。ただし、コマンドラインから起動する Win 32ツールは山ほど存在していますけれど。
 初期の頃は Windows を避けていた私ですが、最近では最新のバージョンをインストールする時にわくわくします。ただし、日頃使うマシンに出たての最新版をインストールすることはありません。しつこくハングアップやフォルトした時は口汚なく罵ることもありますが、実は今の私の感情は愛情表現の裏返しなのかも知れません。ちょうど、調子の悪い機械物に一発『活』を入れて、にこにこしながら『機械物はこうすれば良い』といっている職人的な感情に近い状態なのかも知れません。
 今の自分に何故 Windows に惚れているのか?と聞かれたら、きっとそのような返答をするでしょう。世間ではバグ、不安定、セキュリティとか色々といわれていますが、そういうものを安定させるために楽しむ、或いは色々と探求してみるという楽しみもあるのでしょうね。
 更にもう一つ。私は、いくらバグがあっても Windows を非難しないのと同じように、他の OS も非難しません。Unix も好きですし、Mac OS も好きだからです。

● Windows のユーザーになってみる

 Windows の使い勝手はどうでしょう。確かに賛否両論飛び交う所であるとは思います。下手をすると敵が多いかな?。しかし、OS/2や WindowsやMac OS がエンドユーザーの手に渡るために偉大な努力の成果があったように、このユーザーインターフェイスは彼らの手に掛からなければ、恐らく、一般ユーザーの手に触れることもなく、これだけメジャーになることもなかったのではないかと思います。

 ユーザーインターフェイスはある程度設計時点で煮詰めることは可能ですが、実際に使い込んでみるまでは『コレが良い!』と言えるものはできないと思うのです。大勢の手に渡り、大勢の手で使い込んでもらって成長するのが、良いユーザーインターフェイスの発展のためには必要なことなのですね。
 Windows 95になり、他のOSの良い所が取り入れられユーザーインターフェイスが洗練され、更に先進的な入出力ツール群が生産され、量産効果でどんどん廉くなること。これはメーカーだけでなくユーザーにとってもありがたいことです。独占状態であるとか、過激過ぎる競争であるとか色々といわれていますが、これはユーザーにとってはプラスの現象であるので、私はありがたいと思っています。
 しかし、これは、コンピュータに慣れ親しんだ人間が使ってみた感想ですが、初心者の立場でみてみると、確かに、どんどん複雑になるOS は初心者を遠ざけている気がします。OS のバージョンが上がると、更に複雑になって初心者には使いにくくなる・・・現に私の通信の友人から色々と初歩的な質問を受けるに連れ、そう実感するようになりました。
 昔のコンピュータは確かに専門家でないと使えないイメージがありました。しかし、その分、ユーザー人口は少なかったのです。また、DOSなどの場合調整箇所は限られているので、取っ掛かりにくさはあっても、むしろ一旦コツさえ覚えてしまえば理解は早かったのではないかと思います。
 DOSのドライバやメモリ関連のフリーソフトに、あれだけの人気が集中することが、それを物語っていますね。できることなら Windows の調整箇所は1ヶ所に集めてもらえると、もっともっと使い込んでくれる人が増えるに違いないでしょう。勿論、コントロールパネルに集中しているというのはパスですけど。
 その他には、一つだけ苦言をいわせて頂けるのなら、もう少し安定したOSが欲しいという所でしょうか。

● Windowsで遊んでみる

 遊ぶといっても、Windows自体をリバースエンジニアリングする遊びは、ここでは除きますので予め御了承ください。

 何といっても先ず特筆すべきは、CPUパワー、各種グラフィックエンジン、音声エンジン、Direct ?シリーズのおかげで、Windows ではできないといわれていたジャンルのゲームができるようになったことでしょう。
 やはり、ユーザーが増えれば、そのインフラを利用しない手はありません。某ゲーム専用機でも同じことがありました。各家庭に存在するそのゲーム機をゲーム専用に使うのは、もったいなさ過ぎるのです。
 それと同じように、Windows マシンを Windows 一般事務用アプリケーション専用機として使うのは、もったいないことです。エンターテイメントに、通信に、諸々の業務にと、あの手、この手で模索しているわけですね。一般事務用アプリケーション以外で最も手っ取り早いシェアは、TV等のマスメディアを除けば、やはりゲームということになります。
 ところが、このゲームは作ってみれば分かると思いますが、トップレベルの技術力が必要になります。ここを満足できる時、家庭向ゲーム専用機と同じように、一般家庭に普及し、更に大量のインフラを活かすアプリケーションが産まれて来るのでしょうね。
 そのためには『Windows は OS』といっている時代がいつまで続くのかがキーになって来ると思いますが Windows が OS の名を持って表に出て来なくなった時、専用 OS の座から一般家電製品へのルートを辿り一般家庭での真のツールとして生きて来るのではないかとも思っています。まぁ、その時まで十分に自由競争をしてもらって、一般家庭ユーザーの益になる状態にまで機能/品質を高めてもらいたいと思います。
 ということで、Windows NT については好みの問題で全く考慮していません。お許しを。

● Windows を嫌いになってみる

 Windows に惚れてみる所は先程書きましたので、今度は Windows を嫌いになってみようと思います。勿論、欠点を挙げ連ねて Windows を非難しようという意図はありません。良くなって欲しいという1ユーザーの立場で書いています。

 一番に目につくのは、やはり不安定であるということでしょう。例えば、通信している最中にハングアップしたり Windows そのものがフォルトしてしまうとデータを失いかねません。通信ですのでバックアップがありません。或いは状態が変わってしまいますので、そのつもりで使っていないといけないわけです。
 これは必要以上に緊張を要求しているわけで心の休まる時がありません。やはり OS は安心して使いたいですね。これだけ大きなシステムですから、若干のトラブルはやむを得ないと、何か使う度に Windows の1ユーザーの私は覚悟して使っているわけですね。
 一般ユーザーとしてのセキュリティ面に関しては、その手の危ない所にいかなければ、そこそこ安全なので良いのですが、この不安定さだけは、どういう使い方をしても忘れたことにやって来るので回避のしようがありません。これはメーカーさんに努力して頂くしかないでしょう。
 ただ、不安定さでいえば、Unix を除いて他の PC 向け OS では私が使っている環境では似たり寄ったりという気がします。ということで、ぜひぜひ、安定した OS を作って頂けるよう切望いたします。きっと、安定度で自慢ができるようになれば、他の OS にアプリケーションを作っているメーカーも移植を考えてくれると思いますし、世の中の OS の殆どが Windows に変わってしまうかも知れませんよ。
 Windows が安定したら、私もきっと自分の友人達にも Windows を大いに薦めると思います。

● Windows でソフト/システムを作ってみる

 さて、本当は書きたい本題がここにあったのですが、紙面と時間の都合から簡単に書いて、私の投稿を締め括ろうと思います。

 余り大きな声では言えませんが、私は密かに仮の名前を使って通信の場で個人的な趣味に偏ったソフトなどを作成して発表しています。仕事で作るソフトと個人の趣味で作るソフトは、使う技術も異なれば、目的とするジャンルも全く異なるので、『まぁ、いっか』という状態で作成しているわけですね。
 フリーソフトでは、かなりの自由度の高いソフトを作ることができます。大きな声では言えませんが、かなり乱暴に作っても良いわけです。ところが、商用ソフトを作成するとなると事情は180度変わって来ます。
 Windows を利用した商品を分類すると『単品ソフト』、『Windows そのものをターゲットとしたツール』、『イントラネット/システム構築の部品』といった、大まかなジャンル分けができます。
 ここで先ず、先程『Windows を嫌いになってみる』で書いたような品質が第一のポイントになるわけです。いくら機能が高くても品質が悪いのではユーザーの方に申し訳がありません。そのために性能や機能が犠牲になることもあります。
 単品ソフトでは比較的汎用な用途に使用されることが多いので、少々いうことを聞かなくても他に競合製品があれば『その程度』で済まされ『自然淘汰』されるだけですが、『Windows そのものをターゲットとしたツール』、『イントラネット/システム構築の部品』では、製品を採用するかどうかの判断基準は OS そのものの品質が重要な要因になります。
 では、ネットワークの部品で Windows に代替品があるかというと、ないわけではありませんが設計が大きく変わってしまします。そして品質面で問題が出て来る頃には、既に構築が終わり運用が開始され、コスト面でも工期面でも後戻りできない状態にあることが殆どです。
 そのあたりが改善されると、もっともっと安心して使用できる部品として、更に需要を伸ばしていくことができるでしょう。ただ、汎用 OS 単体として持つ使命も規模も大きいため、メーカー側の努力にも関らず、なかなか思うようにならないのが現実だと思います。このあたりはメーカーと現場が協力して改善していくことが必要になると思われます。私も現場の人間として、そこに大きな期待をしています。ぜひぜひ、そういった協力体勢をもっともっと強化しスピーディに解決できるように切望していることを伝えて、本稿の締め括りとさせてください。



今月のトピックス

富士ソフトABC株式会社 技術調査室 室長
山本 淳 (yamamoto@fsi.co.jp)


● WinHEC 98、JavaOne 98、そしてBrainShare 98

 3月最終週に広大な米国大陸でいくつかの都市で技術イベントが開催され、それぞれに多くの聴衆を集めたという。

 まずマイクロソフトは、現地時間で25日から27日まで3,000人の参加者を集めて、東海岸のフロリダ州オーランドで7回目の「Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition」(WinHEC 98)を開催した。当初配布されると思われていたWindows NT 5.0のBeta 2版は姿を見せず、また発表されると噂されていたNT Consumer (NTC)と呼ばれるコンシューマー向けのプラットフォームの影も登場しなかったので、インターネットに流れているニュースを見ていると、あまりにも盛り上がりに欠けていたようである。今年米国では6月25日に出荷が内定したWindows 98よりも、技術担当者も営業担当者もNT 5.0の重要性は認識している。ところが新しい発表はほとんどなく、昨年9月のPDCでアナウンスされた情報を繰り返し述べたにとどまっていたという。一応NT 5.0に関しては「Interim Developers Release」(Build 1773)が参加者に配布されたが、このバージョンはイベントの前に限定ベータテスターがダウンロード可能になっていたもので、IntelliMirror技術などBeta 1版には含まれていなかった重要な技術は提供されたものの、Beta 2版ではないということで本格的な動きがあるのはもう少し先のこととなりそうである。NTCに関してもPDCと同じレベルで触れられたようであるが、事前に流れていたBill Gates会長が大きな発表をするという噂どおりにはならず落胆を誘っている。

 それに引き換え盛り上がっていたのは、西海岸のカリフォルニア州サンフランシスコで24日から27日まで開催されたサンの「JavaOne 98」で、こちらには史上最大の14,000人以上の参加者が集まった。実は年度末だったというのに、私自身がこのイベントに参加するため1週間の米国出張の旅に出かけてきた。雑誌に視察レポートを書く予定になっているので、ここでは詳しいことを書くのは控えさせていただくが、ちょうど裁判所の決定でマイクロソフトがJavaロゴを使用することが禁止されたり、HPが軽量JavaVMを発表してマイクロソフトにライセンスするなど、会場以外でも話題にはことかかなかった。マイクロソフトも事前にVisual J++ 6.0を発表して、日本でも配布されているがTechnology Preview版をばら撒き始めている。意外だったのがJavaOneの展示会コーナーにはマイクロソフトのブースがあり、しっかりとMicrosoft VMとVJ++をデモしていた。展示を許すサンもすごいが、1万人を超えるアンチ派を前に堂々とデモしていたマイクロソフトの図太さには敬服する。

 この2つのイベントに挟まれて、ひっそりとユタ州ソルトレイクシティではノベルが「BrainShare 98」を22日から27日まで開催している。今さら何でNetWareという声も聞こえるが、まだまだユーザーに支えられてしぶとく生き残っているようで、とくにNDSというディレクトリーサービスは、マイクロソフトがNT 5.0で提供しようとしているActive Directoryでもしっかりとサポートされている。トップの交代で明らかに方向転換を行い、マイクロソフトなどのプラットフォームとも協調関係を保っていくと宣言している。NetWare 5.0への期待も高く、本当に意外にもまだまだ目が離せないような気がする。

 先ほども触れたVJ++ 6.0やVisual InterDev 6.0を含んだVisual Studio 98などや、IME 98とWord 98、ようやく登場したNT Option Pack 4.0などについてもお話したいところだが、今回は出張の影響で締め切りを大きく過ぎてしまっているので、またの機会とさせていただこう。


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