最新Windowsソフトウェア事情(第38回)
タイプ練習ソフトあれこれ
岩波新書にも書いたことであるが、パソコンソフトに習熟する基本はやはりタイピングの技量だろう。たしかにパワーユーザーといわれる人の中にも左右の指一本づつで器用に文字を入力している姿をみかけることも珍しくない。しかし、これからのユーザーはぜひ、タッチタイプの習慣を身につけたいものである。一日20分程度の練習を一週間もつづけると、ある日を境に目に見えて成果があらわれてくる。そうなればしめたもので、その後はワープロソフトにむかう時間が楽しく思えるようになる。文章作成の主たるツールがペン(鉛筆)からパソコン(ワープロソフト)へと移る変換点をきめる重要な要素の一つがこのタイピングの技量である。
話はかわるが、2月上旬、数十年ぶりの大雪にこごえる東京を離れて真夏のオーストラリアに旅する機会を得ることができた。シドニーへの旅行である。シドニーといえば、私が担当している放送大学の科目の中でピクチャーテル社の富田社長をインタビューしたときに、ビデオ会議システムを通じて東京の社長室からシドニーのオフィスにアクセスし、誰もいないシドニーオフィスのビデオ会議システムを遠隔操作して、窓から見下ろすシドニー湾の風景をリアルタイムで見せてもらったことがある。そのときに、かの有名なオペラハウスなども目に焼き付いて印象に残り、いずれ機会をみてシドニーを訪れたいものだと思っていた。それがようやく実現し、しかもオペラハウスではシドニー交響楽団とオーストラリアの代表的なソプラノ歌手の素晴らしい声を楽しむことができたのである。
シドニー旅行の主たる目的はTypeQuick社の訪問であった。同社は日本を含めて世界数カ国にタイプ練習ソフトを販売しており、その主要な製品であるTypeQuickは大学や企業で広く採用されている。私が非常勤で授業(「情報科学」)を担当している成蹊大学および麗澤大学においてもこのTypeQuickが1年生の必修ツールとして利用されている。
図1
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図1は同社の訪問時の写真である。左から二人目が社長のNoel Mcintoshさんであり、彼はテニス、水泳、ワイン(自宅に数千本のワインコレクションがある)など、じつに多彩な趣味をもっており、とくに車(クラシックカー)は玄人はだしだ。クラシックカーを3台保有しており、自宅にちょっとしたメカニック設備を備えているほどである。会社への行き来は日本車(ソアラの4リッターカー)を使い、休日は60年前のロールスロイスを走らせて別荘へ向かう。かれはイギリス生まれであり、2年間には息子さんと二人でこの車を使ってロンドンからロシアを経由してユーラシア大陸を横断してウラジオストックにいたった。さらに日本海をわたって新潟に到着し、関越を走って東京にいたり、最後は横浜からシドニーまで海路、帰国するという大冒険旅行に挑戦したのである。
図2
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旅行の詳細はデジタルビデオカメラに収めてあり、そのテープを預かって私のマシンでMPEGファイルにおとし、CD-Rに焼き付けてあげた。図2はパソコン画面上でこの冒険旅行のビデオクリップを再生している様子である。彼は近い将来、日本列島を北から南までクラシックカーで縦断するという計画に再挑戦する覚悟をきめており、私も彼に伴走して日本列島を縦断したいと考えているところである。今回の訪問においても同社のタイプ練習ソフトそのものよりも、彼の(60歳を超えている)チャレンジ精神により大きな関心をもった次第である。いずれ、コンソーシアムのみなさんにも紹介したい起業家である。
図3
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さて、オーストラリアの会社はじつにめぐまれた環境にオフィスがある。図 3は会社のベランダに集まった野生のインコ群である。一羽でも捕獲してもって帰りたいと貧乏根性がうずくようなりっぱな野鳥だ。見ているうちに、さらに赤やブルーの原色の鳥が次々にたずねてくる。会社を訪れる客の数よりも鳥の訪問客の方が多いのではないかと思われるほどである。それはともかく、同社ではタイプ練習ソフトの役割などをヒアリングしながら時間をすごした。
図4
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会社の壁には図4のように「Type Faster Work Smarter」とする標語もかかげられていた(あえて翻訳はしないが)。この標語に刺激されて今回はTypeQuickをはじめ、タイプ練習ソフトのあれこれをサーベイしてみることにしたい。
話の順序からすれば当然、TypeQuickからその画面例を見ることになるだろう。図5はメインメニューである。見てわかるように、大きくキーボードとテンキーコースに分かれており、それぞれ段階を追ってレッスンが進むようになっている。また、ミニ図書館にはタイプライターの歴史やタイピングの基本姿勢などタイプの基礎知識が収録されている。さらに、基礎練習が終了したあとに総合練習をしたり、それまでのレッスンの成績を検討したりできる。
図5
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日本では10種類を超えるタイプ練習ソフトが発売されており、どれを選択したらよいか、迷うほどであるが、その基本はどれだけ効果的にタイプの練習ができるか、また、どれだけ楽しく(飽きずに)練習ができるか、そして自分の不得意な指(キー)などを識別できるか、といった基準がベースとなるだろう。そうした評価のベースとして長い歴史と実績をもつこのTypeQuickを使うことができる。
図6
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図6は実際のレッスン画面例である。タッチタイプの基本はいうまでもなくキーボード上でたえず、きまった位置に左右の指を置き(ホームポジション)、その位置をベースとしてキーボードをみなくともキーを打つことができるようになることである。そのための練習が繰り返し行われる。図でも画面上に表示されたキーボードで次に打つべきキーがカラーで表示され、また、下段ではどの指を使うかが指示される。これで画面だけを見てキーが打てるようになる。レッスンはホームポジションにあたるキー(a,s,d,fなど)からスタートして順次、他のキーに移っていくことになるが、それぞれの段階で目標のスピードや正解率(正しく打ったキー)などがキー(文字)別に分析され、自分の得意不得意がわかるように工夫されている。
図7
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たとえば図7は最初のレッスンの成績を示しており、私の場合、40WPM(1分あたり40語)という目標をクリアし、また、正解率も99%という見事な結果を得たことがわかる。みなさんならどうだろうか。
成蹊大学時代、銀座にあるサイトアンドサウンド社の伊達社長と何度か一緒したことがある。同社はパソコンが登場する以前から「13時間で学べるタッチタイピング」をセールスポイントとして、企業向けのタイプ研修を事業としていた。このタイピング研修はイギリスケンブリッジ大学のノウハウを導入したものであり、リズム音(sound)に乗って、教壇に備えられた大型キーボード盤のキーが光り(sight)、その光ったキーに対応するタイプライタのキーを打つという練習の仕組みであった。私の娘にも実際に研修を受けさせたりして、その効果的な学習方法に注目していた。そしてパソコン全盛時代を迎えてこのタッチタイプ学習がパソコンソフト化された。それが「Sight&Sound The Keyboard(日本サイトアンドサウンド社)」である。
図8
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図8はThe Keyboardのメインメニューである。エピソード以下のボタンが用意されており、実際の練習は「レッツビギントレーニング」ボタンをクリックしてスタートする。
図9
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「タイピングフォーム」にはタイプのさいの姿勢や腕や指の使い方などがイラストと音声によって解説される。こうした基礎知識は各タイプ練習ソフトの備えられている。図9はタイプの姿勢を説明した画面である。
図10
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レッスンは図10のように10コースからなり、さらにスピードテストやビジネス文書などのメニューが用意されている。
図11
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さっそくレッスンを始めてみると画面には図11のようにキーボードが表示された。何の変哲もないキーボードであるが「サイトアンドサウンド」のノウハウがいかされており、「Sナウ、Fナウ、Jナウ」のように一定のリズムで音声による掛け声がかかり、画面上の光ったキーに対応したキーを打っていく。これまで黙々と練習していたのが、いかにもタイプ練習の教室に通っているような臨場感を感じることができ、楽しく(厳しく)練習に励むことができる。
慶応大学の大岩教授はタイプ学習に対して持論をもっており、みずからタイプ練習ソフトを開発して岩波書店から発売してもいた。また、米国の代表的なタイプ教則本を翻訳したりもしていた。さらに日本商工会議所のタイプ検定試験委員会の主要なメンバーでもある。私はかなり前から大岩教授と面識があり、彼の持論を聞かされてきた。また、私自身も日商のビジネスコンピューティング検定試験委員会の委員でもある。それはともかく、大岩教授のキーボード速習ソフトがあらたにCSKから発売された。それが「真打ち名人」である。このソフトは彼が翻訳したタイプ教則本に準拠しており、定評のある教則本のノウハウがフルに盛り込まれている。
図12
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図12は起動画面であり、大岩教授の名前が大きく表示されて、この分野における彼の存在感を誇示している。
図13
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つづいて、図13はコース一覧の一部であり、ここには実にきめこまかなレッスンが用意されていることがわかる。また、使用方法とか入門にはタイプの姿勢や指使いなどのイラストまじりの解説が含まれている。
図14
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図14はこの解説の画面例である。イラストの出来はもう一つであるが、内容が理解できればそれでよしとしよう。
図15
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実際のレッスンは図15のように、画面下段に表示された文字列を先頭から順にタイプしていく。中央の左右の指にそれぞれどの文字をどの指で打つかが示される。また、右上のダイヤルは経過時間を刻々表示していく。こうした基本的なキー操作の練習を繰り返し、繰り返し行っていき、やがてレッスンが最終段階に進むと図16のようにかなり長文の文章をタイプするという実戦に近い練習へと入っていく。
図16
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この一連のレッスンの進行は私もかつて実際に使用した翻訳の教則本に準拠しており、みずから励ましながら定期的な練習を続けていくとかならず、成果が期待できる。しかし、ひたすら練習という点が問題といえば問題であろう。大岩教授は「意味のない文字の組み合わせをただひたすら打っていくという練習方法は効果的な練習とはいえない」と主張しており、この点ではもっと違った教材が欲しいと思われた。なお、TypeQuickもそうであるが、アルファベットキーだけでなく、ローマ字キーも練習できるようにレッスンが用意されており、たとえば図17のように日本語入力の練習もできる。
図17
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TypeQucik社はもう一つの子供向けタイプ練習ソフトをもっている。それは図18の「KEWALA'S Typing Adventure」である。
図18
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これは魔法の石を探す旅にでかける男の子の役割を演ずることで自然にタイプの練習ができるソフトである。
図19
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その内容は図19のように、最初に見た基本的なタイプ練習がゲーム的なシナリオに配置されたものである。タイプ練習のたびはオーストラリア大陸の中央からスタートする(図20)。
図20
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砂漠を渡る長い旅はその途中でさまざまな試練に出会う。タイプ練習がその試練を乗り越える重要な手段であり、たとえば、タイプの速度がさそりの攻撃から逃れるすべとなる。あるいは宝の石へと導く道をたどるすべとなる。
図21
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図21はエミューの背にのって砂漠を旅するキワラの雄姿だ。画面上段に次々に表示される文字をタイプしていくことでエミューは先へと進む。また、画面下段には現在学習中のキーやこれまでの学習であげたポイントが表示されている。このポイントが次のステップへ進む基本となる。さらに画面左下には地図上の現在位置も表示されている。
図22
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タイプ練習の途中の成果は図22のようにエミューのスピードやルート上の正解率などの形で示される。レッスンの基本的な内容はTypeQuickと変ることはないが、それをゲームシナリオの上に配置することによって、楽しく、目標をもって練習ができるようになる。願わくば、ゴルフゲームや麻雀ゲームの形でタイプ練習できるようにして欲しいものである。
このようにして今回はタイプ練習ソフトのいくつかをサーベイしてみた。私の手元にはさらに、友人のパソコン教室が開発し、一太郎検定協会から発売している「さくっとマスタータイピング編」や英語版のタイプ練習ソフトが数種類ある。こうした練習ソフトをとっかえ、ひっかえ使ってたえずタイプ練習に励んでいるのですでにみた優秀な成績をおさめることができるのである。コンソーシアムでも一度、タイピングの技能大会でも開催してみたらどうだろうか。「紺屋の白袴」にならないように、みなさんも練習に励んで欲しい。
(筑波大学大学院 経営システム科学専攻 教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)
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