最新技術動向 ここが見所、さわり所 (最終回)

富士ソフトABC株式会社 技術調査室 室長
山本 淳 (yamamoto@fsi.co.jp)



 米国においては、マイクロソフトと司法省の争いが一部和解に向けた動きを見せたり、コンパックが96億ドルも出してDECを買収することを発表したり、業界は98年もダイナミックな動きを続けていくことになるだろう。今回は業界が正月の休みボケと大雪のおかげで動きが少ないことから、98年にリリースを予定しているマイクロソフトの各種製品について、現時点での推測を交えた独断と偏見のコメントをお送りする。  長らく続けてきた連載も今回で一区切りとして、次回からは新たなメンバーと新たな観点で原稿を起こす予定である。

 
● Windows NT 5.0 / Windows 98

 今年登場する予定の製品の中で、Windows NT 5.0とWindows 98はもっとも大きなインパクトを与えるプラットフォーム製品になるはずだが、どこまで盛り上げていいか疑問が残る。

 Windows NT 5.0は今年中にリリースされるという絶対的な保証はまだないし、英語版が98年後半という予定では、いくら英語版でも日本語が入力・表示できたり、日本語版が英語版のリリースから一ヵ月以内に登場したとしても、本格的なビジネス展開は99年からスタートすると考えた方が妥当だろう。マイクロソフトのビジネス戦略も、今年はNT 5.0の影を見せながらNT 4.0の拡販に進むと思われる。
 数多くの機能が盛り込まれるWindows NT 5.0だが、機能が多すぎて製品出荷までのベーターテストに時間をとられ、Windows DNAアーキテクチャーに代表される分散サービスを享受するアプリケーション開発にも最初は時間がかかると思われている。ISVやSIベンダーがどれだけ短時間にWindows NT 5.0の持つ新しいコンセプトを理解し、それに見合った製品やソリューションを用意できるかも疑問が残る。そういう意味でも本格的にWindows NT 5.0を本格利用したシステム構築には時間を必要としている。

 Windows 98は今年半ばにリリースされるだろう。7月初めに開催される予定のWindows World Expo Tokyo 98が本格的な製品発表会になる公算は強い。いずれにしてもWindows 95とInternet Explorerを巡る米国での訴訟騒ぎが一段落して、Windows 98にInternet Explorer 4.0がActive Desktopとして組み込まれることを前提とした話で、という条件がついている。あの裁判の結果次第ではマイクロソフトの製品戦略に大きな狂いが生じ、Windows 98の登場も大きく遅れることになる。
 もっともマイクロソフトにとってWindows 98は、あくまでWindows 95の後継としてホームユーザー向けのコンシューマーOSという位置付けをしているので、あくまで家庭でインターネットやメール、ゲームやテレビを楽しむためのプラットフォームと考えられている。Windows 98の新機能を眺めても、新しい周辺装置のサポートやマルチメディア機能の充実程度で、企業ユーザーから見た導入のメリットは少ない。極端にいえば現状でもWindows 95 + Internet Explorer 4.0を導入しているマシンがあれば、ほとんどそのままWindows 98と同等の機能と考えていい。アプリケーションの性能向上の仕組みなどは評価できるが、企業ユーザーにはあくまで積極的にNT 4.0をすすめる戦略となっている。

 Windows 95の登場から二年半が過ぎたが、当時マイクロソフトの販売戦略上の迷いもあって、企業でもWindows 3.1を使い続けているユーザー、Windows 95にシフトしてしまったユーザー、Windows NTに走ったユーザーと分かれている。現時点ではビジネス・ユース向けにはNT 4.0というはっきりとしたスタンスが見えているが、各製品のアップグレードパスにもむつかしさがつきまとっている。

  ○ Windows 3.1 → Windows 95
  ○ Windows 3.1 → Windows 98
  △ Windows 3.1 → Windows NT 4.0
  △ Windows 3.1 → Windows NT 5.0
  ○ Windows 95 → Windows 98
  △ Windows 95 → Windows NT 4.0
  ○ Windows 95 → Windows NT 5.0
  △ Windows 98 → Windows NT 4.0
  ○ Windows 98 → Windows NT 5.0
  ○ Windows NT 4.0 → Windows NT 5.0

 とくに問題はWindows 95を導入してしまった企業ユーザーで、そのお手軽さゆえになかなかWindows NT環境へのシフトができないでいる。また、Windows 95からNT 4.0へのアップグレードパスが十分でないことも手伝って、マイクロソフトが考えているほどWindows NTへの移行は進んでいない。Windows NTの持つセキュリティ機能の優位性についても、Office製品を使いながらインターネットを楽しみ、ファイルやプリンタの共有を行う程度の一般的なユーザーから見れば、管理の複雑さだけが残る無用の長物と思われてしまっている。Windows NTではメモリを増やせば増やすほど性能向上のメリットを享受できるといわれているが、Windows 95登場当時のマシンを使い続けているユーザーにとっては、Windows NTのハードウェア要求は厳しいものにもなっている。新たに社内ネットワークを導入したり、追加導入する際にはハードウェアや周辺装置の低価格競争のお蔭で、高性能マシンが安く手に入るようになってきていることから、Windows NT導入への道が開けているとも考えられるが、既存マシンをどう有効活用していくかはむつかしい問題である。

 
● Windows NT 4.0 Option Pack, BackOffice Small Business Server 4.0, Windows based Terminal Server, Windows NT Server 4.0 Enterprise Edition (出荷済み)

 Windows NTにはさまざまな派生製品が登場する。大規模企業ユーザーから中小企業ユーザーまで幅広い製品ラインアップを用意して、ビジネス展開をすすめていく戦略である。ただし登場する製品が多すぎてサポートする範囲も広がり、ユーザーにも個々の製品の違いを明確に訴えられずに混乱を招く危険が大きい。まだすべての製品の正式発表が済んでいないため仕方がないといえるが、一部のユーザーからは将来のシステム構築計画に不可欠な情報が少なすぎると問い合わせが入っている。

 マイクロソフトはこれまで各製品の問題修正や機能強化に対応したService Packを提供してきたが、今後はService Packによって障害の修正を図り、新たな機能を追加する場合はOption Packという名称でリリースする。すでに米国で配布が始まっているが、Windows NT 4.0 Option PackにはInternet Information Server 4.0, Transaction Server 2.0, Message Queue Server 1.0などが含まれている。MTSとMSMQについては、97年11月末にリリースされたNT Server 4.0 Enterprise Editionにバンドルされており、すでにいくつかの技術系月刊誌でも特集されているのでご存知のことと思う。

 BackOffice Small Business Serverは、Windows NT Server 4.0, Exchange Server 5.0, SQL Server 6.5, Proxy Server 1.0, Internet Information Server 3.0, FrontPage 97, Internet Index Server 1.0, FAX Pool, Modem Poolなどのサーバーソフトが専用の管理ツールとともにバンドルされている、25ユーザー程度の中小企業向け専用ソフトとなっている。

 Windows based Terminal Serverは初めて登場するマルチユーザー版のWindows NTで、Windows Terminalのような端末ソフトやRASクライアントにアプリケーション環境を提供する。Citrix社のWinFrame技術をライセンスして独自の拡張によって実現しているが、そういえばコンソーシアム総会の際にCitrix社の方が見えていて、今年前半に日本法人の設立を図り、WinFrame日本語版の出荷を行うと話していた。

 いずれの製品もユーザーのニーズに応えた機能を用意し、それぞれのカバーする範囲を明確にしているのだが、ベースはいずれもNT 4.0となっている点が問題になる。当然NT 5.0の登場によって各製品の次期バージョンの開発計画も進んでいるようだが、初期版ではActive DirectoryやIntelliMirrorなどのNT 5.0で提供される新機能が当然提供されないことから、改めてNT 5.0対応版の出荷以降に仕切り直しが発生することを注意しなければならない。

 
● BackOffice 4.0, SQL Server 7.0, SNA Server 4.0, Site Server 3.0

 ここに挙げたサーバーソフト製品群はNT 5.0登場前にリリースされるはずもので、先ほども触れたようにNT 5.0の新しい機能を含まない最後のサーバーソフトとなる。Systems Management Server次期版 (Opal), Exchange Server次期版 (Platinum), SQL Server次期版 (Shiloh)など、当然それぞれNT 5.0対応のバージョンの開発も並行して進んでおり、NT 4.0の派生ソフト群と合わせて機能強化によって製品の選択の幅は広がるものの、NT 5.0対応版出荷に合わせたシステム構築の方向性の力点をどこにおくか、対応をむつかしくしている。例えばこれから1年かけて開発するシステムのベースをどのプラットフォームのどの製品群にするかの選択は非常にむつかしい。

 
● Office 98 for Macintosh, Word 98 (日本独自), Outlook 98

 米国のMac World ExpoではOffice 98 for Macintoshの発表が暖かい目で迎えられ、これまでMacユーザーに提供されていたOffice 4.3 for Macintoshからの大幅な機能強化とWindows製品とのファイル互換性の確保が約束された。Windows版のバージョンアップは99年に予定されているようだが、日本ではかな漢字変換機能を強化したIME 98の登場とそれに合わせたWord 98の3月発売が発表された。当然一太郎とATOK迎撃の日本独自の製品戦略というわけだ。おそらくIME 98は遅れて登場するWindows 98にもバンドルされることになるだろう。

 Outlook 98という新しいExchangeクライアントもリリースされる予定になっている。これは97年11月のExchange Server 5.5の出荷に間に合わなかった新しいクライアントである。97年12月に開催されたMEC 97 (Microsoft Exchange Conference 97)でも製品機能について簡単に触れられていた。

 
● Visual Studio 98

 Windows DNAアーキテクチャーとWindows NT 5.0 / Windows 98対応アプリケーション開発のためにリリースされる予定の開発ツールの次期版で、分散オブジェクトへの対応が強化されることになるだろう。

※ 本コラムは、平成8年2月(Vol.22)から本号まで25回連載されました。山本さん、長い間ありがとうございました。


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