最新Windowsソフトウェア事情(第36回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
(mtaka@fsinet.or.jp)



フォームを活用しよう

○ 岩波新書「パソコンソフト実践活用術」
 97年最後の仕事として岩波新書を出版した。表題はいかにもパソコンのハウツー本のように思われるが、その内容は新書の読者層の中心である中高年層をターゲットとして会社の課長の立場からパソコンソフトのサーベイを行ったものである。もちろん、私自身は会社つとめの経験はわずか一年しかなく、しかも野村総合研究所研究員というポジションだったのでセールスや経理などの一般業務はまったく経験がない。そこで編集部からいわれたことは「課長 島耕作」を読んでみたらということであった。さっそく、83年から週間モーニング誌上で連載中のこのコミックについて、文庫本化された全10巻の「講談社コミック文庫」を6千円の大枚を投じて購入し、読み通した次第である。本書はこの読書の成果が反映されているはずである。ぜひ、手にとって読んでいただきたいと思う。
 ところで上記の本の中で私が強調していることの一つは、パソコンを利用するにあたって効率性と有効性を意識すべきであるということである。効率性とは同じ仕事をするにしても、できるだけ速く、正確にそして安く行うことができるようになることである。たしかに、ワープロソフトや表計算ソフトはそうしたオフィスでの仕事の効率を高めることに役立っている。むしろ、これまでは主としてこの効率性の面でパソコンが利用されてきたといってよい。
 それに対して有効性とは目的との関わりでパソコンを利用することである。たとえば、パソコンを使い始めた課長がワープロソフトの操作に自信がついたので、これまで秘書や部下に頼んでいた定型的な文書の清書をみずから行うようになった場合を考えてみよう。この文書はだれがパソコンに入力しようが変わりはない。入社1年目の社員でも、給料を数倍ももらっている課長でも同じようにできる。むしろ新入社員の方が速く、正確に入力できることは容易に予想される。課長は自分がすべき仕事、つまり自分が高給を得ている理由をじっくりと考えるべきだ。彼の仕事は自分が担当する部門(たとえば販売部門)の状況を分析し、問題点を把握し、それらの問題解決のための策を探索し、そしてその実行をはかっていくことが本来の仕事である。パソコンは「パソコンがあるから使う」というのではなく、「自分の仕事の中でパソコンがどのような役割を果たすことができるか」を考えた上で利用すべきである。これが自分の仕事(目的)との関わりでパソコンの役割を考えるという有効性の見地である。

 
○ フォームの利用
 さて、表計算ソフトはオフィスのツールとして定着したが、いざ特定の目的のために利用しようとするとどうしたらよいか、困ってしまうことも多い。それはワープロソフトと違って、白紙の用紙(編集画面上)に文字を入力していけばよいということにはならないからである。表計算ソフトの場合は目的に対応したワークシートを設計しなければならない。しかし、さいわいなことに最近では多様な目的に応じた既製のワークシート集が販売されており、それらをうまく利用することによって、表計算ソフトの操作(ワークシート設計)にかける無駄な時間や労力を節約できる。大いに利用すべきである。

図1
 
 図 1は「まるごとパックOffice97 Pro(ローカス社)」の画面例である。左側にはこのCD-ROMに含まれているExcel、WordそしてAccess用の膨大なテンプレート(既製のワークシート)の一覧がリストされており、そこから特定のシートを選択したところである。図の右側には請求書作成のテンプレートの具体的な内容が表示されている。これが目的にあったものであれば、上段の「ファイルをコピー」をクリックすることでコピーでき、Excelの上で開けばすぐに請求書発行の処理が可能となる。

図2
 
 図 2は実際に請求書発行のテンプレートを開いたところである。画面にはとりあえずサンプルのシートが表示されている。実際には画面上の宛名とか差出人そして下段の商品欄に個々の請求内容を記入していけばよい。その新規請求書発行は上段のボタンをクリックして行う。

図3
 
 図 3はためしにデータを入力してみたところである。請求書が作成できれば上段の印刷ボタンをクリックすることで請求書が印刷されてくる。このようにして白紙から請求書作成のワークシートを作ることに比べてはるかに速く、正確に処理を行うことができ、パソコン利用の効率を高めることができる。

 
○ 既製のフォームの利用
 ところで実際のオフィスでは請求書や納品書などを作成する場合、市販の用紙やあらかじめ印刷された専用の用紙を使うことも多い。むしろその方が普通だろう。しかし、既製のフォーム(用紙)にうまくあわせて印刷したり、あるいはワークシート上に用意されたデータを用紙上の該当欄に対応させて印刷するといった処理を個別に設計していくことはなかなかむずかしい。表計算ソフトのプロをめざすのであればそうした仮題に挑戦することも薦められようが、パソコンのプロをめざすことが本来の目的でないとすれば、もっと手軽に既製用紙に印刷できる手だてを探した方がよい。実際に探してみるとこうした目的にピッタリのソフトがあるものである。それが「文字ピタッ!for Excel」((株)ライオス・システム)である。今回はパソコンの効率的な利用を支援するこのソフトの概要を見てみよう。
 いま、受注した商品を顧客宛に宅急便で送りたいとしよう。宛先などはExcelのワークシート上に入力されているとする(もちろん、筆まめなどのような住所録管理ソフトでもよい)。このワークシート上のデータを宅急便の伝票の該当欄に対応させて印刷することが目的である。そのためには実際の宅急便の伝票をイメージとして入力し、該当欄を指定してワークシート上のデータとの対応をつけていくことができればよい。「文字ピタッ!」はそれを可能とするソフトである。

図4                          図5
 
 図 4は「文字ピタッ!」を起動し、ファイルメニューから新規作成を実行しようとしているところである。スキャナーから直接、入力してもよいし、あらかじめスキャンしてある伝票(どのような用紙でも)のイメージを読み込んでもよい。たとえば宅急便の伝票を読み込んでみると図 5のようなイメージが表示された。ここで用紙上の荷受け人や荷送人そして品名・記事などの欄に対してワークシート上のデータを対応づけていけばよい。

 
○ フォームとデータの対応づけ

図6
 
 ExcelのデータはCSV形式で保存されたものを使う。図 6は画面上段の表メニューから「CSVファイルの読み込み」によって受注データを読み込み、画面右側にを表示させたものである。これらの基本的な操作は上段のツールボタンを利用して行うこともできる。

図7
 
 用紙とデータの対応づけは、図 7のように、まず左側の用紙上でデータの範囲をマウスでドラッグして選択し、ついで画面右側の対応するデータを選択して、左側の用紙上へドラッグすることによって行われる。図では住所データが伝票の荷受け人の欄に対応づけられたことが示されている。なお、いまの場合はワークシート上のデータを行単位で用紙上に対応づけ、複数の行(レコード)を連続して印刷しようとしている。それに対してあとで見るように、ワークシート上にシート単位のデータを用意してシート単位に印刷することもできる。
 さて、いまの場合、荷受け人は顧客ごとに変わるが、荷送人の欄は固定されるだろう。この場合は用紙上に直接、文字を入力することもできる。そのためには画面左側の用紙デザインボタンの最上段のボタンをクリックするか、モードメニューから「入力」を選択すればよい。それによってマウスポインタはペンをもった手の形に変わり、選択した領域に直接、文字の入力や編集が可能となる。図 8では荷送人の欄にWindowsコンソーシアムの住所や名前を入力してみた。

図8                          図9
 
 伝票(用紙)とデータの対応(あるいは文字入力)が終われば、その実際のイメージを確認しておいた方がよいだろう。ファイルメニューの「プレビュー」によって印刷イメージを表示させてみると図 9のように宅急便伝票そのままのイメージが表示された。これでためし印刷を行い、微調整をほどこせばワークシート上のデータにもとづいて該当する顧客宛の印刷が可能となる。

 
○ 豊富な既製の用紙
 「文字ピタッ!」は個別の用紙をスキャナーで読み込んで、上記のような操作手順によってデータとの対応をつけることができる。しかし、市販の定型用紙の多くについては用紙上の欄の定義が行われたテンプレート集が用意されており、Excelのワークシート上のデータとの対応関係だけをつければそれですぐにでも印刷が可能となる。

図10                          図11
図12
 
 たとえば図 10はCD-ROMに収録されている代表的な用紙メーカーのフォルダを示したものである。また、それぞれの用紙についてその概要をリストした一覧もExcelファイルの形で用意されており、図 11のように、ファイル名とその内容がリストされる。この用紙一覧を参考にしながら、たとえばコクヨの納品書用紙を開いてみると図 12のようになった。あとはこの用紙上の欄(定義済み)に対してワークシート上のデータを対応づければよい。

 
○ Excelから直接、「文字ピタッ!」を利用
 「文字ピタッ!」をインストールするとExcelから直接、定型用紙を利用することもできる。

図13
 
 図 13は上段のツールボタンに用意された「フォーム印刷」ボタンをクリックして「用紙のフォーム印刷」設定ウィンドウを表示させたところである。ここで中段の参照ボタンによって利用したいフォームを選択して印刷を実行すればよい。

図14                          図15
図16
 
 また、ワークシート上のデータとの対応関係をまだ定義していない場合は、「新規作成」ボタンをクリックすると図 14のように、テンプレートフォルダから目的の用紙を選択できるので、用紙を選択し、上でみた手順によってワークシート上のデータとの対応づけを行えばよい。図 15は画面上に表示された「文字ピタッ!」の操作ウィンドウの中でフォームとデータの対応づけを行おうとしているところである。さらに、実際の印刷にあたっては欄に入りきらないデータの処理などについて、詳細な設定も可能である。図 16はこの印刷の詳細設定を行っているところである。データがフィールド(欄)からはみ出した場合、フォントを自動調整するといった設定が可能である。

図17                          図18
 
 ところで上の例は行単位で請求書に印刷しようとしたものであるが、実際の請求書用紙は複数件の商品について用紙上に印刷するようになっている。実際にはたとえば、図 17のように、1件分の注文内容をシート単位で用紙上に印刷することが必要だろう。このようにシート単位で用紙上の欄とデータとの対応をつけて印刷することもできる。さらに、これまでのような業務処理の用紙だけでなく、図 18のようなビデオラベルの用紙なども用意されているし、また、方眼紙などの自由な用紙上に任意のフォームを設計することも可能である。
 このように、「文字ピタッ!for Excel」はExcelを実用的に活用するために大いに役立てたいソフトであるといえる。

(筑波大学大学院 経営システム科学 教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)


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