最新Windowsソフトウェア事情(第35回)
Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
(mtaka@fsinet.or.jp)
Comdex視察こそ情報技術を生かそう
97年Comdex/Fallの季節がきた。松倉会長以下、ヒルトンホテルのブースで代わる代わるわがコンソーシアムのPRにあい務めていただいたそうである。顧問のお前は何をしていたのかといわれるとつらい。確かに初日の9時すぎに、まだ誰もきていなかったBusiness Computer News社のブースそばを通りかかっただけで、あとで聞いた話ではあのブースこそ、コンソーシアムのPRの場であったということだ。申し訳ない、来年こそは流ちょうな英語を生かしてブースの説明役を果たしたい。
さて、Comdexは私にとって本欄をはじめとする雑誌連載のネタを探す重要な場である。この数年、日本経営協会の視察ツアーの団長を引き受けて、参加各社のみなさんと一緒することにしている。今回は総員9名とじつにファミリーライクなツアーとなった。ニューヨーク、ラスベガス、サンフランシスコの全行程において、企業訪問、現地視察(観光)そして毎晩ホテルの部屋で行う勉強会と、じつにハードな10日間であった。勉強会のためにわざわざ日本からパソコンプロジェクタを携帯したほどである。このプロジェクタの世界もまた、新製品開発のテンポが速い。1年前は8kg、今年は5.2kgそしておそらく来年は3.2kgのプロジェクタを携帯することになるだろう。
図 1はComdex会場で発表になった最新プロジェクタ、LS420(InFocus社。日本では(株)理経から発売の予定)であり、SVGAフル対応ながらこの3.2kgという重量である。このように小型超軽量タイプのプロジェクタが可能となったのはこれまでの液晶とはまったく異なるTI(Texas Instruments)社の新しいチップを使ったからである。私の手元にも近く、この最新機種が届く手はずになっている。
上の図はデジタルカメラで撮影したものである。いまでこそ当たり前のデジタルカメラであるが、これまた新機種のラッシュであり、最初のデジタルカメラ(QV10)を手にした95年5月以来、現在のDS10に至るまで4台のカメラを使っている。私ですらこの状況なので、会場で会う日本人のほとんどはデジタルカメラないしデジタルポータブルビデオを手にしていた。Comdexの膨大な展示ブース(2200社)を歩き回ってこれはと思う製品を見つけたときに即座にデジタルカメラにおさめることは当然である。
図 2は今回、私が会場で撮影した150枚を越える写真の一覧である。これらの写真はパソコン画面上にスライドショウとして再生され、プロジェクタを通して大画面で一緒したみなさんとの勉強会に使われたことはいうまでもない。
さて、いよいよComdex会場へと足を運ぼう。図 3はメイン会場の一つラスベガスコンベンションセンター入り口の写真である。センターおよび隣接するヒルトンホテルそして特設のテントハウスに1000社前後の出展がなされている。会場はさらにもう一つ、シャトルバスで行き来するこ、れまた1000社前後の出展社を集める大きなサンズコンベンションセンターがある。ラスベガスコンベンションセンターは現在は増築の改装中であり、やがてさらに規模の大きなセンターへと変身するだろう。
私にとってラスベガスコンベンションセンターはあまり興味はない。Comdexの当初から使われたこの会場はIBMやMicrosoftあるいは日本の東芝、NEC、ソニー、シャープ、さらにはこのところ元気をなくしているが韓国の主要メーカーなど大企業が集中して大変な大きさのブースをもうけている。たとえば東芝はかつての数社分のブースを集めたような圧倒的な大きさのブースを誇っていた。もちろん、Microsoft社も自社およびパートナー企業100数十社を集めた、それこそ迷子になりそうな規模のブースにあふれるほどの人々を集めている。
もう一つのサンズコンベンションセンターはあとから参加した中規模、小規模企業の展示が多い。また、インド、ブラジル、パキスタンなどさまざまな国からの出展社が共同でブースを設けている。この1000社前後の雑多な(?)企業の展示内容を丹念に見て歩くこと、それが私にとってラスベガスまで出かける大きな理由である。今回の展示の中からいくつか、面白そうな展示を紹介しよう。
図 4は静止画にもとづいて個人認証を行おうとするソフトである(CyberWatch)。わずか50ドル程度のソフトであるが、画面中央の左側のようにあらかじめ登録してある写真と、その場で撮影したもう一枚の写真を比較してその人物が登録された当人であるかどうかを判断する。ビデオキャプチャーボードに接続されたビデオカメラあるいは即座に写真を取り込むことができるデジタルカメラがあればその場で認証に利用できる。こうしたシステムは現在でも数百万円(もしかして数十万円)出せば利用可能であろう。しかし、このソフトは個人でも気楽に利用できる価格である(ベータ版をダウンロードすることもできる。URLはwww.miros.comである)。パソコンが普及していく中でセキュリティが大きな問題になっていく。そうしたときにパスワード頼りの個人認証では危険だ。こうしたソフトが誰でも利用できるようになれば役立つだろう。
図 5はデジタル音声メモ装置だ(VoiceIt)。日本でもソニーやオリンパス社から発売されているが、これはスマートメディアに音声メモを保存してパソコンで利用できる装置だ。日本でもソニーから同様の装置が発売されるようであるが、現時点では発売されていない。Comdex視察のときに小型テープレコーダを口元にあてて展示内容を記録している人を見かけるが、あとで整理するときに音声メモをパソコンに取り込んで利用できるのはありがたい。ぜひ欲しいと思ってブースで紹介されたサンフランシスコのショップで探したが、この270ドルの製品は置いていなかった。ソニー製の登場を待ったほうが賢明かもしれない。
図 6は個人の指紋で認証をしようとする装置だ。同様の、もっと小型の装置は東芝やソニーのブースでも見かけた。しかしそれら著名企業の製品は650ドルもするのに対して、写真の装置は200ドル程度だ。ちょっと大きめだが写真の左側に見えるように「TimeBox」つまり出勤カードかわりに使うこともできる(もともとその種の製品として発売されている)。授業をさぼった学生が仲間に頼む代返が横行する大学の授業において、出席をとるのに使ってもよいかもしれない。もちろん、パソコンなどのユーザー認証のためにも利用できる。
個人認証としてはさらに、図 7がみられた。この「FaceIt PC」はビデオカメラでモニターしている場所を通りかかる人々の中からあらかじめ登録されている人を識別するソフトである(これまた期間限定版をダウンロードできる。URLはwww.faceit.com)。写真では左側に登録された人物がおり、画面中央にモニターされている場所(現在はブースの前を通りかかる人々)から登録された人物を識別したところだ。○の印がついた人が登録された人物である。
サンズの会場には日本の若者もいた。図 8は「Keio Multimedia Inc.」とある。つまり慶応マルチメディア社である。この会社は写真の二人の若者(慶応大学工学部の大学院生)などが設立した会社であり、今回は写真右側に見えるワイヤレスの通信装置(イスラエルの会社が開発)を使ったネットワーク管理ソフトを開発してComdexで展示していた。この通信装置は30kmの範囲で高速の通信が可能であり、その状況を管理するソフトだ。
図 9はこのネットワーク管理ソフトの画面例を示している。それはともかく、日本の若者がもっともっと、元気よくComdexにデビューして欲しいものである。かつてのソード社の椎名社長は現在はプロサイド社を経営しており、私も毎回、ブースに寄っているが、最近では息子さんが頑張ってブースで説明役を演じている。世代が変わろうとしていることを実感させられる。
さて、今回の展示では個人認証をはじめいくつか個人的に興味をもったものがあったが、それらはあくまで個人的な関心にとどまったことはいうまでもない。そこで、他の人々はどのような製品に興味をもったのか、それを知ることも大事であることはいうまでもない。そのときに、Comdexにあたって米国の主要なパソコン誌(PC Week)が行う「Best of COMDEX」にどの製品が選ばれるかが注目される。この催しはこれまでByte誌が行っていたものである。ただ、選考の結果は3日目に発表されることになっており、私は2日間だけしか会場を見ることができなかった。しかし、現在はインターネットの時代、当然のことながら帰国後に結果を確かめることができた。
図 10はこの「Best of COMDEX」のページである。ここから結果をたどると図 11のように「BEST DESKTOP SYSTEM」のようにカテゴリー別にノミネート製品のリストと最終的に選ばれた製品(下線が引かれている)が表示される。もちろん、審査員や審査の結果などについての詳細も情報として含まれている。
リストをさらに見ていくと、図 12の上段にはポータブル機器があり、前に見た超軽量プロジェクタ(LP420)がノミネートされ、最終的には例の三菱電機のPedionが選ばれた。さらに、画面の四つ目の「BEST ALL-AROUND APPLICATION」では「Scenario(Definitive Software社)」がノミネートされている。このソフトは私にとって研究課題である意思決定支援ソフトであり、企業のモデルをダイヤグラムとして表し、その上で各種のシミュレーション分析を行っていくためのソフトだ。Microsoft社のパートナー企業ブースの中でわずか一人で展示していた製品である。
図13はこのScenarioのカタログの内容である。もちろん、ソフトの内容について話を聞いたり、デモを見せてもらったり、さらにデモ版のCD-ROMを手に入れたことはいうまでもない。
ところで、今回は現地で集めたカタログのほとんどは処分してきた。せっかくの情報をもったいないと思われるだろう。しかし、いまの図で見たように実際には日本から電子ファイリング装置(米国製のPaperport)をもっていったので、それで必要なカタログはパソコンに取り込んだのである。
図 14は今回、パソコンの電子ファイリングに取り込んだComdexのカタログの一覧である。拡大して参照したり、プリンタで印刷すればよい。一緒にいった仲間の多くは現地からDHLや「くろねこ」の宅急便で日本へ送っていたが、そんな予算のない私はこうした情報機器の利用によって、重量物となるカタログやComdexプログラム(600ページもある)を持ち帰る必要をなくすのである。なお、電子ファイリングについて知らない方のために現物を写真1に示しておこう。
「Best of COMDEX」をさらに続けよう。図 15の中段にはなんとあのごく小さなブースで展示していた「FaceIt PC(Visionics社)」がIBMやNECの製品を差し置いて最終的に「Best New Technology」賞に輝いているではないか。私はこの選考結果を見てから会場を歩いたわけではない。結果は日本に帰ってからインターネットを通じて見たものである。もっぱら直感でこれは面白いと思って見た製品のいくつかが、同じようにPC Weekの記者の目にとまったのは、「見る目があった」と自慢してよいだろう。
図ばかり多くなってしまうがついでに最後のページまでいってしまおう。図 16では「Best Utility Software」賞に「Dragon Naturally Speaking Deluxe」が選ばれている。図 17はこのDragon Systems社のブース風景である。「PC Week Best of Comdex Finalist」にノミネートされていることも示されているが(私はこの催しに関心がなかったのであとで知った。この掲示があるブースを見て回ったわけではない)、前から音声認識に興味あり、ブースでねばってデモを見ていたのである。写真中央に口元に指をあてたおばさんがいる。これはデモの説明を手話で伝えているのである。ビルゲーツの基調講演でも手話による解説が見られたが、さすが米国であると思わせた。
Dragon Systems社の音声認識は技術がここまできたかと思わせるものがあった。そこでつい、中身の乏しい財布をはたいて製品を購入してしまった。図 18はこの音声認識ソフトを使って、私の英語を認識させているところだ。最初1時間ほど、トレーニングのためにかなりの分量の英文を読まされるが、そのあとはごく普通の話し方で読む英文がすらすらと認識されていく。これなら十分に実用的であると思われる。日本でもIBMから日本音声認識ソフト(VoiceType)が発売され、私もためしているが、かなりの水準にきているとはいえ、日本語変換がともなうので実用的に利用するには、もう少し待つ必要があると思われた。
さて、Comdexにおいて2200社のブースを効率的、効果的に見て回るためにはそれなりの工夫が必要である。やみくもに歩き回っても見ることができるブースにはかぎりがある。そうしたときに報道関係者に配布される電子版プログラムが大いに役立つ。この電子版プログラムは今回からCD-ROM版となった。日本から携帯したノートブックおよびCD-ROMドライブによってパソコンにインストールされたことはいうまでもない。
図 19はこの電子版プログラムのメニュー画面だ。図でマウスポインタが置かれている「Product Locator」をクリックすると展示製品の検索画面に移る。たとえば、私の関心事であるソフトウエアの世界を見ようとすると図 20のように、ソフトウエアがさらにサブカテゴリーに分類されているので、たとえば「ビジネス用ソフト」を検索することにすると、図 21のように、ビジネスソフトのジャンルの展示を行っている企業(出展内容の登録にあたって製品カテゴリーのコード番号を選択する。画面下段に1306とあるように、このビジネスソフトは1306の番号がふられており、この製品カテゴリーコードを検索した結果が表示される。画面下段には65件が検索されたことが示されている)が順次、表示されてくる。
このようにして今回はComdex/Fall'97の概要について報告した。何かの参考になれば幸いである。
(筑波大学大学院 経営システム科学 教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)
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