最新Windowsソフトウェア事情(第33回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
(mtaka@fsinet.or.jp)



季節物となった名刺

 いまは10月初旬、次第に秋が深まりつつあることを実感する時期となった。今年はとりわけ季節の変化が敏感に感じられる。それはなんといっても昨年暮れから山梨県小淵沢に別宅を構えることになったからである。何かと理由をつけては山(小淵沢)にいくことにしており、その都度、都心で感じるのと微妙に違った季節の風を体に受ける。昨年の同じ頃、建設中の家を見るためにときどき現地へ足を運んだが、敷地から見渡せるカラ松の林が行くたびに言葉では言い表せない見事な色に変わっていく様子は近い将来の新しい生活への期待をいだかせたものであった。そしていま、ほとんど毎週のように1,2日とはいえ山へでかけるたびに、「ここが終いの住まい」になるという確信に近いものをもつようになった。
 ところでこんな感傷的な文章をつづったすぐ次に「山の家に空き巣が入ってね!」と我が家の10大ニュースともなる事件について簡単に報告しなければならないのは残念である。小淵沢の家は別荘地の一番はずれ、家の後ろの北面は林がせまり、前の南面ははるかかなたまで田圃や畑が広がっている。途中に中央高速が見え、また、敷地の目の前は若い女性に人気の清里へと通じる小海線の線路である(一段下がっているので2両編成の列車が通ると屋根だけが見える。また、はるかかなたの林の中から列車が姿を見せて次第に近づいてくる様子もなんともいえず風情がある。詳細は本連載第21回にデジタル写真入りで紹介した。)この我が家の隣で田圃を耕す60才を前にした宮澤さんは山梨大学の図書館につとめている。父親が亡くなられたあと、土日だけ田圃や畑を耕す兼業(趣味?)の農家である。ひょんなことから、この宮澤さんと私の間には共通の知人がいることがわかり、以後、電子メールを通じてコミュニケーションを行なうようになった。先日、この宮澤さんからメールが入り、「高橋先生の家に電気がついている」という連絡があった。東京に戻るときにすべての照明は消したつもりだったが、気になったので週末に出かけてみると、南アルプスと富士山の眺望を楽しむためにここだけ贅沢して特注した大型出窓(ペアガラス)が見事にやぶられていたのであった。山の家なのでとくに金目のものはまったく置いてなく、空き巣はガラスを割っただけのくたびれもうけに終わった。しかし、事件の取り調べにあたった駐在さんと鑑識班はわれわれ夫婦の両手の指紋を採取し、また、詳細な調書まで作成して引き上げたのである。その後、何の連絡もないので平和な町に起こったちょっとした事件だったのだろう。この事件は私が100回連載をめざして掲載中の共立出版bit誌「ソフトウエア探訪」の第96回目の誌面をかざることにもなった。関心のある方(どなたもおられないと思うが念のため)はbit誌を参照してほしい。参考のためにbit誌に載せた「割られたガラス」の写真を再掲しておこう(写真参照)。なお、小淵沢には宮澤姓が多く、ガソリンスタンドも駅前の本屋もそして東京の私の知人(アイテックの副社長)もまた、宮澤さんである。

 
 さて、他誌に書いた原稿を紹介して何になるのと思われるかもしれない。しかし、毎月、4,5本の原稿を書いている立場ではどうしても他誌に書いた原稿を参照して多少のページを埋めたくもなる。ご了承いただきたい。そこでいよいよ今月号のソフト紹介へと筆を進めることにした。それは表題にもあるように「名刺作成ソフト」である。この名刺関連ソフトについては本欄においてもすでに名刺の文字読みとりソフト「名刺ふぉるだ〜」を紹介したことがある(第20回)。しかし、これはよそ様からいただいた大事な名刺をいかにして管理して有効活用するか、それを支援するOCRとカード型データベースソフトであった。それに対して今回の名刺ソフトはみずから魅力的な名刺を作成することを可能とするソフトである。
 ところでみなさんは名刺をどのように用意されているのだろうか。名刺がなくなりそうになったら総務課とか庶務課にいえば数日もすれば新しい名刺が机の上にのっているよ、といったところだろうか。しかし、我が筑波大学(国立大学)は名刺は自分のお金で作るものとされている。国立大学の教授は民間企業とおつきあいするのは「研究の邪魔」になると思われているようであり、名刺などは100枚もあれば定年まで間に合うと信じられている。そうした中にあって、コンソーシアムをはじめとするパソコンソフトやハード関連のパーティへ出席するたびに数十枚の名刺が消えていき、平成元年に現在の大学にきてからこれまでに配った名刺の枚数は2千枚を下回るとは思えない私は、本当に国立大学の教授なのだろうか。それはともかく、100枚の名刺一箱で3千円という値段は私にとって大変な出費である。そこで名刺作成ソフトに大きな関心をもったことはいうまでもない。しかし、それにしては今回の表題には「季節物」などという訳の分からない形容詞がついている。これはどうしたことだろうか。
 小淵沢の家にはぜひみなさんにもきて欲しい。すでに事務局の小泉さんには編集の打ち合わせ(?)のために数回、きていただいている。春は山菜、夏は畑のトマト、秋は紅葉を眺めながら温泉にひたる、そして冬は?(まだ未経験)と、楽しみは四季を通して尽きることがない。この季節の変化を名刺の上でも実感してみたい、それが「季節物になった名刺」である。つまり、パソコンでいつでも自由に名刺を作ることができるなら、これまでのように変わりばえのしないビジネス名刺を1枚30円の原価を意識して配るよりも、春は甲斐駒をバックにした山桜、秋は目の前に広がるカラ松林の紅葉を散らばせた名刺を作り、すでに配ったことがある人にでも委細かまわず、いわば季節の挨拶がわりに何枚でも配ってみたいと思うのである。パソコン、デジタルカメラそしてカラープリンタを使えば朝起きて、今日これからのパーティのための名刺を作ることもまさに朝飯前の作業となる。前書きが長くなったが、今回は「フォト名刺倶楽部ビジネス編(メディア・ナビゲーション社)」を紹介することにしたい。

図1
 
 名刺倶楽部を起動すると図 1のような画面が表示される。右側に操作ボタン(上段のメニューから操作することも可能)が用意されており、いまは「名刺作成」ボタンをクリックして新たな名刺作成を行おうとしているところである。図の中央にはプロファイル一覧がリストされており、その多くは写真が貼付されている。これはプロフィール追加や修正ボタンによって新規に(あるいは既存の)プロフィールを作成(編集)したものである。あとで見るようにこのプロフィールには氏名、会社名、住所などに加えて写真や似顔絵を含めることができ、このプロフィールの内容が名刺に反映されることになる。図ではすでにデジタルカメラで撮影した自分の顔をプロフィールに登録しておいたので、この画面から目的のプロフィールを選択すればよい。画面下段には選択されているプロフィールの基本データも表示されている。このプロフィール画面は名刺作成だけでなくビジュアルな顧客や友人/知人のデータベースとして活用することも考えられる。

図2
 
 名刺作成ボタンをクリックすると図 2のように名刺の枠(テンプレート)のリストが下段に表示され、特定のテンプレートを選択するとその上にプロフィールの基本的なデータや写真などが貼り付けられた形で上段にイメージが示される。テンプレートには図の右側にあるように、ビジネス、プライベート、アートの名刺デザインとギフトカードなどのカード類そして白紙のデザインフォームがある。図では「秋空に輝く紅葉」のアートデザインを選んでみた。パッケージには100種類を超えるテンプレートが収録されており、また、別パッケージの「名刺倶楽部プライベート編」にはプリクラ感覚の女子学生が好きになりそうなテンプレートも数多く含まれている。

図3
 
 テンプレートを選択すると画面には図 3のように、デザイン枠が大きく表示され、その上で各種の編集を行うことができる。すでに名前とアルファベット名そして写真が配置されており、その左側には郵便番号の記号や携帯電話そして未入力の欄が配置されている。これらの欄に対する入力はプロフィールから選択するだけの操作でできてしまう。また、新たな文字の追加も右側の「文字の追加」ボタンをクリックすればよい。名刺の上で文字の欄の配置をバランスよく行うことも基本的な編集操作である。これらは対象となる文字欄を選択し、上段の編集メニューから「位置あわせ」を選択すればよい。

図4
 
 図 4は文字欄の位置あわせを行おうとしているところである。位置あわせに応じてその具体的な効果がサンプルとして示されている。

図5
 
 名刺上の写真や似顔絵はその大きさや配置をきめたり、あるいは写真枠を加えることができれば面白い。写真の位置や大きさはマウスでドラッグすることで操作できる。また、「写真枠の設定」ボタンによって図 5のように、設定画面の下段に枠の一覧がリストされるので、左右のスクロールバーを移動することで気に入った枠を探して選択すればよい。また、トリミングボタンによって写真を適当な大きさにトリミングすることも可能である。

図6                    図7
 
 同様にして目的に応じて飾り文字やワンポイントイラストを追加してもよいだろう。図 6は「新任ご挨拶」の飾り文字を加えたところであるし、図 7はワンポイントイラストの一覧を見ているところである。なお、すでに名刺の上にも表示されているように、私は平成10年3月をもって筑波大学を辞職し、南柏にキャンパスがある麗澤大学国際経済学部教授として転出することになっている。「新任ご挨拶」はその意味も含めている。この新しい大学では市販のパッケージソフトも大いに活用してワープロやインターネットだけにとどまらない情報技術(パソコン)を身につけた未来のビジネスマンを教育したいと考えている。日本のビジネス現場におけるパソコン活用の原点は教育の場にあると考えるのでみなさんにもぜひ、さまざまな面でご協力、ご支援をお願いしたいと思う。

図8
 
 名刺にはさらに用紙を上下や左右に分ける飾り罫を使うこともある。ここでは実際に使うことはしないが、たとえば図 8は「飾り罫の追加」ボタンによってさまざまな飾り罫をリストしたところである。横(あるいは縦)の罫線として名刺を飾ることができる。 名刺のデザインが完成すれば次は実際に名刺の用紙に印刷することである。名刺専用の用紙が販売されており、A4サイズの用紙に8〜10枚の名刺があらかじめ枠取りされ、ミシン目がついて簡単に切り分けられるようになっている。

図9                    図10
 
 図 9はファイルメニューから「名刺用紙選択」を実行しようとしているところであり、それによって図 10のような名刺用紙一覧がリストされてくる。ヒサゴ、エーワン、花王などの各社から、写真ののりがよい光沢用紙を含めてさまざまなデザインの用紙が発売されている。私もすでに大理石などのデザインをあしらった名刺用紙の徳用パッケージを買い込んでいる。それらの用紙は名刺の枚数で数えると総枚数は5千枚にはなる量である。しかし、季節に応じて、あるいはパーティの目的に応じてその都度、デザインを選択し、ワンポイント文字を追加したりして小出しに印刷して利用すれば、「せっかく刷った名刺が無駄になった」という状況に陥ることは考えられない。

図11
 
 さて、名刺が完成し、専用の用紙に印刷が終われば今日のパーティに間に合うことになる。これでソフトの紹介は一応終わったことになるが、最後にプロフィール作成の機能を見ておこう。これは名刺作成以上に面白いといえるかもしれない機能である。図 11はプロフィール修正によって私のプロフィールを表示させたところである(新規登録はプロフィール追加をクリックすればよい)。図の中央にさきに見た私の写真が表示されている。これは画面中央の名刺情報ウィンドウ上段にあるいくつかのタブから「顔」を選択したものである。顔はファイルから写真をロードしたり、TWAIN対応のデジタルカメラやスキャナーから直接、入力したり、あるいは似顔絵を描く形で登録してもよい。

図12                    図13
 
 ためしに「似顔絵を作る」を選択してみると、図 12のように、順次、顔の輪郭、髪型、前髪、目、...と画面に表示される顔の部品を選択していくことで似顔絵を作っていく。これはいわば犯人のモンタージュ写真作りと考えてよい。小淵沢の家の空き巣も誰か目撃者がいればこの似顔絵機能が役立ったはずである。図の右側は適当に選択した結果あらわれた顔である(私の写真と見較べても意味がない)。似顔絵ができれば図 13のように、プロフィールにもその絵が加えられることになる。

図14                    図15
 
 名刺はビジネス用だけでない。夜の会合などのプライベートなシチュエーションにあっては大胆に変身することも悪くない。図 14はカラフルなリボンに縁取られた教授のプライベートな姿である。名刺倶楽部にはまた、名刺用のフォームだけでなく、誕生カードやクリスマスカードあるいはギフトカードなど目的に応じたさまざまなカードのテンプレートが含まれている。たとえば図 15は会社で失敗をしたときに上司に許しを乞うために効果を発揮するカードである。ただし、「お前、何を考えているのか!まじめにやれ」と逆効果になってしまっても責任は問わないという免責の条項も加えられているが。
 このようにして今回はSOHOをめざす新たな挑戦に対して水をさすような空き巣の話を紹介したく、「秋味の名刺」を取り上げた次第である。次回は家の近くの温泉をネタにしたいのだが、何かうまいソフトがあったら情報を寄せて欲しい。毎回、ネタ探しに人知れず苦労しているのですよ。

(筑波大学大学院 経営システム科学 教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)


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