最新技術動向 ここが見所、さわり所

富士ソフトABC株式会社 技術調査室 室長
山本 淳 (yamamoto@fsi.co.jp)



★ Microsoft Professional Developers Conference 97

 ここでは、米国カリフォルニア州サンディエゴで現地時間22〜26日に開催されたMicrosoft PDC 97でアナウンスされた情報、およびそれに関連してマイクロソフト社員などから入手した情報を整理します。

・マイクロソフトの製品、イベント情報
・Windows NT 5.0、Windows 98、Windows CE 2.0 ほか
・Visual Studio 次期版
・Windows DNA
・Internet Explorer 4.0、DHTML、Java、NC
・COM+

● マイクロソフトの製品、イベント情報

・米国での製品リリース予定
Windows NT 5.0 Beta 1: PDC参加者とMSDNを通じて配布
COM+ Alpha Preview: 97年9月
Windows NT 4.0 Enterprise Edition: 97年9月
Windows CE 2.0: 97年9月
BackOffice Small Business Edition: 97年10月
Windows 98 Beta 3: 97年第4四半期
Windows NT 4.0 Option Pack: 97年第4四半期
Windows NT 4.0 "Hydra" Beta: 97年第4四半期
COM+ Spec Preview: 97年第4四半期
Windows NT 5.0 Beta 2: 97年第4四半期 ?
COM+ Design Preview: 98年第1四半期
Visual Studio "Aspen": 98年前半
COM+ SDK Beta: 98年前半
Windows 98: 98年第2四半期
Windows NT 5.0: 98年後半
(ただしWorkstation版は99年にずれ込むという噂もある)
Visual Studio "Rainer": 98年後半
COM+ SDK: 98年後半
Windows CE Future: 98年中

・日本でのイベント予定
SQL Server関連: 10月下旬 (ホームページで申し込み開始)
Active Platform Developers Conference: 11月中旬
Microsoft PDC-J: 12月中旬
Exchange Server関連: 12月中旬

● Windows NT 5.0、Windows 98、Windows CE 2.0 ほか

 Windows NT 5.0の最初のBeta 1版は、PDC参加者6,000人とMSDN登録者200,000人に限定配布された。Windows 98はコンシューマ向けのアップグレードと位置づけ、ビジネス市場でのメインのOSはWindows NT 5.0だとOS戦略を明確にした。さらにWindows NT 5.0は、Windows 98のスーパーセットであるため、ボリュームプラットフォームになる。Windows NT 5.0の利点として高い管理機能があり、それによって、TCO (Total Cost of Ownership)を50%も引き下げることができる。
Windows NT Server 4.0にInternet Information Server (IIS) 4.0、Microsoft Transaction Server 1.1やMicrosoft Message Queue Server 1.0などを加えた「Windows NT 4.0 Option Pack」やWindows NT Server上でマルチユーザーを実現する開発コード「Hydra」などの準備も進んでいる。

Windows NT 5.0に搭載される主な機能
(Server版だけのモジュールも含む)
・Plug and Play
・パワーマネージメント
・64ビットVLM (Very Large Memory)
・WDMドライバモデル
・I2Oサポート
・より拡張されたSMP機能
・DirectX 5.0
・TAPI 3.0
・マルチリンガル対応
・Active Directory: DNSとLDAPをベースにしたディレクトリサービス
・Distributed Security: Kerberos技術を加えたセキュリティシステム
・Distributed File System:
・Microsoft Management Console: 管理ツールのプラットフォーム
・Microsoft Transaction Server

 とくにWindows NT 5.0の新機能マルチリンガル機能は、1つのバイナリですべての言語をサポートしている。多言語用のユーザーインタフェースが最初から組み込まれており、どの国用に書かれたアプリケーションコードであっても、すべての言語のNT 5.0上で動く。どの言語を利用するかは、マシンごとにも、またユーザーごとにも設定が可能で、あるマシンを英語システムに設定しても、複数の言語をインストールしておけば、ユーザーごとに異なる言語の利用ができる。マルチリンガルを意識したアプリケーション上では、複数の言語を混在して表示させることも可能になる。
 ユーザーの言語設定が変わると、各言語のIMEも自動的にサポートされる。ユーザーインターフェイスの言語もユーザーごとの設定が可能で、1台のマシンを言語の異なるユーザーが共有するといった使い方ができるようになる。マルチリンガル対応によりWindows NT 5.0では、どの言語のバージョンでも全く同じAPIを持つことになる。従来あったような英語版と日本語版のAPIの違いなどはなくなり、ローカライゼーションの時間が短縮できるので、アプリケーションメーカーがワールドワイドマーケットに入ることが簡単になる。
 Windows NTとWindows 9xの今後のロードマップでは、Windows 98の次のバージョンは、Windows NT Workstationと同じ技術を採用する。
 これにより、Windows 9xのアーキテクチャは、Windows 98で終わりを迎え、Windows NTアーキテクチャがコンシューマ市場にも入ってくる。
 Windows 95/98上で動作するBackOffice製品も開発が進んでおり、PDC 97ではWindows 95上で動作するSQL Serverがデモされていた。
 もうひとつのOSであるWindows CEは、今後さまざまな形態のデバイスが登場、ポケットサイズ、カラー液晶搭載機、また車のダッシュボードに装着されるデバイスなどが出る。インターネットSTB (セットトップボックス) WebTVにも、来年にはWindows CEを搭載される。

● Visual Studio 次期版

 98年前半にリリースされるVisual Studioの新版は、開発コード "Aspen"で、サービスパック・SDKが先行して出された後、Internet Explorer 4.0のコントロールのほか、Dynamic HTML (DHTML)、Windows 98技術、Windows NT 5.0技術、ADO 1.5ベースのデータアクセスをサポートする。Aspenの新技術のうちいくつかは、先月リリースされたVisual Studioのサービスパックに搭載されている。ADO1.5については、9月末にWebにポストされる。
 99年に出荷予定の後継バージョン、開発コード "Rainier"では、COM+、Windows NT 5.0技術、次期SQL Server (開発コード "Sphinx"のOLE-DBサポートなどが搭載される。
 なお、Visual J++、Visual InterDev、Visual C++などの次期バージョンも開発が進んでおり、プレビュー版が独自にリリースされる見込みである。

● Windows DNA (Distributed interNet Applications)

 Windows DNAは、今後5年から10年間にわたる技術的な指針とされるアプリケーション・フレームワーク。96年のPDCで発表されたActive Platformフレームワークをさらに進化させたアプリケーション開発のための統合フレームワークであり、大規模企業ネットワークにおけるクライアント・サーバーとWebの統合を実現する。

Windows DNAは、三層構造
・ユーザーインターフェイス層 (クライアント)
・アプリケーションロジック層 (アプリケーションサーバー)
・データ層 (データベースサーバーなど)
からなり、それを支える開発ツールと分散オブジェクト技術・サービスが存在する。これにより、分散処理が容易になり、柔軟で拡張性の高いシステムを実現できる。

 Windows DNAは、COM技術をベースに、クライアントはInternet Explorer 4.0、サーバーはWindows NT Serverとリアルタイムの業務処理などを実現するMicrosoft Transaction Serverなどを統合したシステム (Windows NT 4.0 + Option Pack、もしくはWindows NT 5.0)を前提とする。

● Internet Explorer 4.0、DHTML、Java、NC

 9月末に投入するIE 4.0に関して、ブラウザ市場におけるシェアが現在の30%以上から来年中には50%以上に上昇するとの見通し。すでに日本では、IE 3.xのシェアが50%を超えている。
 ネットワーク・コンピュータ(NC)について、フル装備のPCに取って代わるだけのコスト・パフォーマンスを実現するのはむつかしいというこれまでの主張を繰り返し、NCは既存製品との互換性を確保できないものが多く、現状では値段の高い端末にすぎないという見方。

 Javaをめぐる論戦では、言語としてJavaをサポートし続けるとの方針を示し、Dynamic HTML (DHTML)の方が優れていると主張した。
 Javaは、あらゆるプラットフォームで完璧に動作するというわけではない。幅広いプラットフォームに対応するという点では、DHTMLとスクリプティングのほうが優れている。 DHTMLは、世界的な様子見状態(World Wide Wait)と呼ばれる状況を打ち破る答えになるはずだ。

 WebクライアントのテクノロジーとしてActiveXよりもDHTMLを提案した。ActiveXはターゲットがWindowsの時に有効であるとしている。
 DHTMLとは、HTMLとCSS(スタイルシート)に、JavaScript/JscriptやVBScriptなどのスクリプトを組み合わせることで、Web上での動的な表現を可能にする技術で、デモの中でActiveXやJavaを一切使わないシステムで十分な機能が実現できることをアピールした。先日発表した「Scriptlet」というスクリプトをコンポーネント化して再利用可能にする技術を紹介し、スクリプトだけでも十分に複雑な開発が可能であることを強調した。

 DHTMLは、クロスプラットフォーム戦略の策定という点で、Javaに対するマイクロソフトの回答と言える。DHTMLを使えば、UNIX、Macintosh、Windows CEなど、さまざまなプラットフォームに対応するアプリケーションをJavaやActiveXコードを使わずに開発できる。

● COM+

 COM+は、既存のCOMとDCOMの機能を拡張したクラス・ライブラリ・セット。COMをベースに、ランタイムとサービスを統合して、デバッグやさまざまなデータタイプ、トランザクションやデータバインディングを実装する。
 COM+は、DCOMアプリケーションでスレッド管理、コネクションのプール、プロセス管理などの作業を処理するためのランタイム環境または仮想マシンであり、開発者が少ないコーディングで分散アプリケーションを実装できるようにするもの。
 将来において重要な技術となると思われるが、現状は実態として存在するのはCOM技術であり、COM+の機能に関するプレビューと開発者からのフィードバッグを集め始めたことから、今後の趨勢を注意深く見守る必要がある。

★ Microsoft Exchange Conference 97

 現地時間10月1日、米国カリフォルニア州サンディエゴで開催されていたMicrosoft Exchange Conference 97 (MEC 97)が終了した。

 MEC 97では、今年末までにリリースされるExchange Server 5.5の話を中心に、システム構築、他システムからの移行、PDC 97で発表されたWindows DNAとWindows NT 5.0関連技術を含む将来構想などについてのセッションが開かれた。

 基調講演に立ったリッチ・トング米国マイクロソフト社パーソナル&ビジネスシステムグループのマーケティング副社長は、スケーラビリティと三層構造アプリに対応したExchange Server 5.5を97年第4四半期に、NT 5.0に対応した次世代のExchange Serverを98年にリリースすることを明らかにした。
 Exchangeには、Server・Client・Applicationという側面があり、サーバーでは実質的に容量の制約をなくし、大規模企業での運用を可能にした。相互運用性を高め、IMAP 4やPROFS、SNADS、Lotus Notes Connectorなどの業界標準を搭載する。
 クライアントは、Outlook 97 8.03、Outlook Express、Outlook Web Accessを提供し、Windows NT / 95 / 3.1やMacintoshを標準サポートして、アプリケーションでもWebクライアントからでも接続可能になる。Exchange 5.0 SP 1で提供されたOutlook Web AccessのCollaboration Data Object (CDO) 1.0は、CDO 1.1となりカレンダーオブジェクトをサポートする。
 アプリケーションでは、Outlook FormsとWeb Accessのアプローチをさらに可能にする。
 将来的には先日のPDC 97で発表されたWindows DNAに対応した製品の出荷を予定し、サーバーとアプリケーションではWindows NT 5.0に対応した製品を98年中に、クライアントではOutlook次期版を98年前半にリリースする。

 カンファレンス終了後にMSKKのExchange担当PMから情報収集したのだが、
・Exchange 5.5日本語版は、おそらく英語版のリリースからさほど遅れることなく発売される。 →日本語版のBeta 1版は提供済み
・次のメジャーバージョンアップは、Windows NT 5.0関連技術を盛り込んで来年後半リリースされる。
・PDC 97とMEC 97の内容を盛り込んだ日本でのカンファレンスを12月中旬に開催する。3日間の予定で、Exchangeを1日、PDCを2日の予定。
・Exchangeはこれまでの立ち上げの時期から普及期に入っており、積極的にユーザーからのフィードバックを収集したいので協力してほしい。原稿執筆などでも協力をお願いする。

 今回の出張の全体的な印象としては、マイクロソフトの新しい技術に対するパワフルな対応力と、それを支える熱烈な信者、ソフトベンダーの存在を強く感じた。同時期に同様のプライベートカンファレンスを開催したオラクルや、ロータス、IBM、サンなどにも同じことがいえる。現状のパソコンを取り巻く状況は、Javaなどのインターネットの新しい波に乗って、急速に拡大している。米国のソフト業界のパワーの大きさを改めて感じた。


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