● Microsoft Tech Ed 97 Yokohama |
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Tech Edでは、企業情報システムの構築を中心としたコンピューティングに関わる先進の技術開発者が揃い、最先端の技術情報が提供される環境が整備され、お互いが抱えている問題やそのソリューションを共有する場所が設けられている。今回のTech Edでは、ソリューションの構築にセッションの重点が置かれており、最適なアプリケーションを開発するために複数のプラットフォームやツールをどのように組み合わせればよいか、短時間でかつ効率的に行うにはどのようにすればよいかを詳説している。米国で開催されたTech Edのセッション内容をベースに、米国マイクロソフト社のスピーカーが多数来日し、日本人のスピーカーも何人か講演を行っていた。
4千人規模の収容能力のある国立大ホールで初日22日の朝一番で実施された基調講演では、米国マイクロソフト社の開発ツール部門の担当副社長であるPaul Gross氏が、マイクロソフトのインターネット開発ツール戦略およびVisual Studio 97について解説した。
マイクロソフトが昨年11月から提唱しているActive Platform構想によってイントラネット、インターネットシステムでは、フロントエンドのWebブラウザ、中間層のWebサーバー、バックエンドのデータベースサーバーという3層構造の開発が主流となる。Webブラウザにおける最新のHTMLのサポート、Webサーバーでの各種スクリプトやコンポーネント技術のサポート、バックエンドのデータベースとの接続技術などにおいて、今年5月に発売されたVisual Studio 97に含まれるVisual InterDev、Visual Basic、Visual C++、Visual J++の使い分けが主流となっていく。開発者の得意な言語を通して、グループでのWebアプリケーションの開発が実現できる。
今回のTech Edでは、約70のセッションがテクノロジートラックによる分類として、Internet Technology、Windows Services、Network Infrastructure、Data Management、Enterprise Architecture、Messaging and Collaboration、Office Developmentの7つに分類され、さらにタスクトラックによる分類として、Deployment、Development、Management、Planningの4つに分かれて、同時に実施される5つのセッションの中から選択しやすいようになっていた。ただし、当初アナウンスされていたセミナースケジュールが、スピーカーの来日が遅れるなどの理由で当日になって変更された部分もあり、一部の受講者からは聞きたかったセッションが重なったなどという不満の声も上がっていた。
セッションの目玉は、来年リリースされるWindows NT 5.0に向かって準備されているさまざまなサービス群の紹介と、開発コードのMemphisから正式に製品名が決まったWindows 98、Tech Edの初日に合わせて日本語Preview 2版が公開されたInternet Explorer 4.0、そしてVisual Studio 97に関連するものなどだった。
インターネット技術に対する取り組みが一段落し、むしろWindows NT 4.0のインストールベースが飛躍的に増えている状況から見ても、来年のWindows NT 5.0の出荷に向けた機能強化の数々を企業システムにいかに組み込んでいくかが焦点であった。Transaction ServerやMessage Queuing Serverを組み込んだWindows NT Server 4.0 Enterprise Editionのリリースも予定され、新しい技術についての解説に力が入っていた。昨年に比べて、セッションルームの広さが大きくなっており、全体的に見ると余裕を持って受講できたが、一部のセッションでは人気が集中していたり、セッションルームが国立大ホールと会議センターと離れていることもあり、セッションの休憩時間に移動するのが大変であった。
セッション以外のトピックとしては、受講者には、Tech Ed 97 Orlando Post Conference CD、MSDN Library July 1997 日本語Preview Vol. 1、Windows NT 4.0 Service Pack 3、Internet Information Server 4.0 (英語版Beta 2)のCD-ROMが配布され、合わせてTech Ed 97 OrlandoのBill Gates会長の基調講演をまとめたビデオテープも配布された。とくに、Gates会長のビデオテープは、日本語・英語のバイリンガルとなっており、今後のWindows戦略の基礎となるActive Platformを支えるCOM・DCOMをベースとした分散コンピューティングに関して解説している。
筆者も絡んだ部分として、「Communication Network Area」で15台のサーバーと70台のクライアントマシンを使ったネットワーク環境を用意・運営・管理した。Tech Ed終了直後にリリースされたZero Administration Kit for Windows NT Workstation 4.0 (ZAK)を利用して、クライアントのWindows NTマシンで動作しているのはInternet Explorer 3.02だけで、StartボタンもタスクバーもないWebブラウザだけが使用できる環境に仕上げた。サービスとしては、セッション情報や個人のスケジュール管理をActive Server PagesとSQL Serverの組み合わせで実現し、メールの送受信やパブリックフォルダに対するアクセスはExchange Serverをバックエンドに利用しながら、Webサーバー上のActiveコンテンツを利用しており、ExchangeクライアントやOutlook 97を使用しないようにした。コンテンツの詳細については、9月に発売されるBNN社の「Windows NT POWERS」誌に記事を寄稿する予定になっているので、参考にしていただきたい。
TCOの削減が最近の各社のテーマとなっていることから見ても、ZAKを利用することで特定業務に特化したユーザー端末をサーバーから厳しく管理できる実証を行ったことは、デモとしても特筆できると思う。マイクロソフトからの依頼で構築の実際についてセッションで説明させていただいたが、はっきりいって現状のZAKとは特別に新しい機能を提供するものではなく、現状でも一部のユーザーしか利用していないと思われる自動インストールの機構やシステムポリシー・ユーザープロファイルなど、既存のWindows NT 4.0が持ついくつかの機能をうまく利用して、ユーザー管理を進めていく手法に過ぎない。本格的なTCO削減につながるZero Administration Initiative for Microsoft Windowsの登場は、Windows NT 5.0を待たなければならないだろう。
今回のシステム構築についてはいろいろと裏話があっておもしろい。ノウハウを身に付けるということでは貴重な体験をさせていただいたが、実際に構築に関わったスタッフは相当苦労もさせられた。開催の数日前までInternet Explorer 4.0 日本語Preview 2版をクライアントマシンで利用するように準備を進めていたが、いくつかの理由からリリース済みのIE 3.02版となってしまった。開催前日から一部のコンテンツの微調整を行っていて、結局完全徹夜状態でやっとオープンに間に合わすことができた。初日にはいきなりPrimary Domain Controllerとして動かしていたHP社のサーバーが原因不明のシステムダウンで、ネットワークの負荷が増大して受講者には迷惑をかけてしまった。本当にいろいろなことが起こった一ヶ月だった。
Tech Edの全体的な印象としては、マイクロソフトの戦略の著しい変化に企業システム管理者や開発者が対応しきれていない部分も多く、さらにこれから一年以内にますます範囲が広がっていく。クラスタリング技術をベースにした大規模システムや、SOHO向けの小規模システム、Windows CE、これから出てくるNet PCやWindows Terminalといった携帯端末や情報端末などなど、Windowsがカバーする分野は目的と規模に応じてさまざまな選択肢が増えてくる。9月に米国で開催される予定の「Microsoft Professional Developers Conference」では、Windows NT 5.0のベータ版が配布され、さらに詳しい技術情報が公開される。マイクロソフトから発信される情報はますます多岐に渡り、企業システム管理者や開発者の混乱の度合いは高まっていくに違いない。情報の洪水の波に巻き込まれて溺れないためにも、情報を正しく理解し、整理してソリューションを解決していく努力が必要となっていく。
● Windowsコンソーシアム技術者交流会 |
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技術者交流会席上にて 右端が筆者 |
● Microsoft Professional Developers Conference |
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