最新Windowsソフトウェア事情(第30回)
Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
(mtaka@fsinet.or.jp)
新しいジャンルのソフトへ展開するために
デジタルMBA再訪
第25回では私の専門領域との関連で「digitalMBA」について簡単に紹介した。この意思決定における情報技術活用の研究および実践は私にとって重要な研究テーマの一つであり、当然のこととしてこの種のソフトに対して重大な関心を寄せている。しかし、一般の人々となると話しは違う。世の中にあふれている情報は、それWindows95だ、それインターネットだ、それOffice97といったように特定のトピックスについてはどれを選んだらよいか選択に迷うほど書籍も雑誌記事も膨大な量にのぼる。しかし、一歩ソフトの路地裏に入ってしまうと情報がきわめて少なく、先へはどのような道がつづいているのか迷路に入り込んでしまった印象を受ける。「意思決定支援」などの領域もまさにこうした情報不足、ソフトの不足に悩むカテゴリーであるといってよいだろう。したがって大学(あるいは大学院)でのこの種の科目の講義は文献研究にもとづく内容が中心であり、もう一つ、現実味がない。21世紀を目前に控えてパソコン出荷台数1千万台の時代になろうとしている現在、あらためてより広範なエンドユーザーの潜在的なニーズを明らかにし、それらのニーズを実際の需要としてパソコンソフト市場へと引き込む努力が求められているといってよい。つまり、たとえば「意思決定支援」のような従来、特殊と思われていた個別のソフトウエアのジャンルについてもさまざまな立場でそのようなジャンルがあること、そしてそれらのジャンルの中にどのようなソフトが存在するのかといったことをもっと積極的に紹介していく努力が必要である。コンソーシアムとしても個別企業のソフトの開発、販売は当然のことながら「どのあたりに新しいソフト市場のニーズがあるのか」といったことについて一緒に学習/研究する場を持ちたいものである。
さて、digitalMBAに話を戻そう。これは「意思決定支援」というマイナーなジャンルのソフトを販売しているソフトベンダーが集まったManagement Software Associationが中心になって会員企業のソフトの紹介を行った本である。図 1はこの本の写真であるが見てわかるように、本で紹介されているソフトのデモ版が収録されたCD-ROMもついている。実際にCD-ROMを起動してみると図 2のような画面が表示される。これは上で見た書籍の表紙そのものであり、マウスをクリックすると実際の内容に入っていくことができる。それによって図 3のような目次が表示される。画面左側に大きく4つのパートがリストされており、画面はPart3を選択したところである。
Part3には企業モデル構築に関するソフトが3種類収録されている。それはExtend, ithinkそしてDPLである。それぞれ、ソフトのパッケージをクリックすると概要が説明され、そこにはたとえば図 4の右側のようにソフトのデモ版を試したり、実際に購入を希望する場合は注文もできるようになっている。さっそくDPLのデモ版をためしてみよう。
DPLはデシジョントリー分析のソフト
みなさんはソフトの開発に際して、リスクの大きな意思決定を行っていることだろう。こんなソフトを出して本当に売れるのだろうか、発売にあたっては心配で眠れぬ夜をすごすこともあるだろう。ソフト開発にかぎらず、世の中すべて将来に関わることは何らかのリスク(不確実性)を含むものであり、それを暗黙のうちに決定に反映させるか、あるいは積極的に(明示的に)リスクに関する分析を行うか、いずれかの方法で対処しているはずである。このDPLはリスクを考慮した意思決定を行うことを支援するソフトである。それは一般的にデシジョントリーとかリスク分析とよばれる分析手法である。これらの分析手法はこれまで大学などで理論として教育されてきたものであるが、最近になって市販のパッケージソフトの中にこうした意思決定支援を目的とするソフトが少しずつ見られるようになってきたのである。
図 5はDPLの画面上に収録されているサンプルファイルを開いたところである(デモ版といっても実際に自分で新しいモデルを構築することもできる。ただし、ファイル保存はできないように制限が課せられている)。これは油田掘削の問題であり、試掘をして情報を集めてから最終的な決定をすべきか、それとも最初から本格的な掘削に進むべきかを判断するためのデシジョントリーである。画面では上段のRunメニューから「Decision Analysis」を選択して分析を実行しようとしている。
その結果、画面には図 6のように、トリーの先端(将来に予想されるさまざまな事態)から出発して、それぞれの事態から予想される利益に対して確率を掛けて期待値を計算し、それぞれの分岐点にあたる意思決定の期待利益が最大になる事態を現在時点までさかのぼって連ねていくという計算を行うことによって、図の左端に見えるようにこの例では試掘はせずに掘削に進むことが期待利益40という最大利益を与えることになるという結果が得られた。
デシジョントリーについてさらに学習したい方は個別に相談いただくことにして(誰もいないと思われるが)、このようにdigitalMBAに収録されている15本のソフトはいずれも実際にその内容をパソコン画面上で体験することができるのである。
さて、意思決定支援のようにマイナーなジャンルのソフトをどのような方法で紹介したらよいか、それは何といってもいまのようにデモ版で実際に体験してもらうことが第一である。もちろん、その前にこうしたソフトの存在を知ってもらうことが前提である。その方法はdigitalMBAのような書籍を出版すること(各章は各ソフトのベンダーが担当している)、雑誌で積極的に取り上げてもらうこと、そして当然のことながらインターネットをフル活用してこの種のソフトや研究に多少でも関心がある人々の目にふれさせることである。
インターネット上の意思決定支援ソフト
digitalMBAを編集、出版したManagement Software Associationは当然のことながらインターネット上にホームページをもっている。図 7はそのホームページの実際画面である。ここには「MBA-wareとともに賢い経営、意思決定を行おう」とする標語が記載されており、MBA-wareという新しい造語も提案している。画面左側には参加企業や製品紹介などのリンクが用意されている。さっそく製品のページを開いてみると図 8のような画面が表示された。画面左側に意思決定支援ソフトの一覧がリストされており、その中には上でみたDPLの名前も見える。また画面右側では会員企業のページを検索する欄も用意されている。
Management Software Associationのページはまた、会員企業のリストから参照することもよいだろう。図 9は左側に会員企業のリストが一覧されており、このリンクをたどって個々の企業のホームページへと進むことができる。個々の企業のページにはその多くにソフトのデモ版が収録されており、それをダウンロードすることで実際にソフトの体験ができる。上記のdigitalMBAは1995年出版であり(D.Burnstein Ed., The DigitalMBA, Osborne McGraw-Hill, 1995)、現在にいたるまで、それぞれのソフトはバージョンアップもされていることだろう。そうしたときにこのホームページを通して最新のデモ版を入手すればよい。図 10は実際にその一つをダウンロードしようとしているところである。私もこのところ、10種類前後のソフトを入手してためしているところである。
学会も市販ソフトに積極的である。
意思決定における科学的なアプローチや情報技術活用を研究する分野は経営科学とかOR(オペレーションズリサーチ)とよばれる学問分野である。この分野の研究者(大学の先生)の間でも、研究室で開発したツールに加えて、もっと積極的に市販のパッケージソフトを利用しようとする動きも見られるようになった。この分野の学会は国際OR学会(INFORMSと略称される)であり、そのサブグループとしてDecision Analysis Societyがある。
図 11はこの研究グループのホームページであり、ここには画面下段に見えるように、市販ソフトの紹介のページも設けられている。もちろん、研究論文とか各大学の授業の概要(シラバス)なども収録されており、この分野の研究者にとっては必読のページとなっている。
さっそく意思決定支援ソフトのページを参照してみると図 12のように、大きく6つのジャンルに分類されて意思決定支援ソフトのカテゴリーがリストされた。さきほどのリスク分析を含めてさまざまなジャンルがあることがわかる。ためしにデシジョントリーのジャンルを選択してみると図 13のように、ソフトの一覧が表示された。それぞれソフトの名前、プラットフォーム、価格、ベンダーの名前が記載されており、インターネットのリンクも張ってある。図ではDATAという名前のソフトのリンクを選択しようとしている。これもまた、もう一つのデシジョントリーソフトであり、私もかつてマッキントッシュ版で実際に購入してためしたことがあるソフトである。
懐かしさのあまりさっそく、Windows版をダウンロードしてみると、図 14のようなモデル構築と分析の画面が表示された。図ではふたたび、油田掘削の問題が例題としてとりあげられている(この種の問題が典型的な例なのだろう)。実際に最適解を得るための分析(Roll Back分析とよばれる)を実行してみると、図 15のような最適解が得られた。その詳細はともかく、このソフトは30日間有効のフルバージョンであり、もちろん、ファイル保存などの機能も動く。これなら学生に利用させるのに最適である。もちろん、企業などで継続的に利用する場合は実際に購入することになるだろう。
最後に同じくソフト一覧からダウンロードしたCriterium Decision PlusとForecast Proの画面例だけを図 16および図 17に載せておこう。前者はブレーンストーミングなどの機能を含んだ発想支援ソフトであり、後者は需要予測などのために活用できるソフトである。
このようにして今回は私の専門分野の話と関連づけて、マイナーなジャンルのソフトをいかに世の中にユーザーに知ってもらうか、その具体的な方法を実際の例で見てもらった。みなさんはビジネスとしては、当然のことながらメジャーなソフトのジャンルを目指してソフトの開発/販売を進めようとしていることだろう。しかし考えて欲しいのは、近い将来、パソコンの累積台数が数千万台となったときにどうなるかということである。膨大な数のユーザーが多様なニーズをもって新たなソフトの登場を待ち望んでいることになるはずであり、そうしたニーズに対して「Officeとブラウザーがあればあとは何が必要なの!」と思わせてしまったのではむざむざとビジネスチャンスを逸することにもなる。これはぜひ、新たなパソコン利用のニーズを研究する部会などをコンソーシアムに作って、積極的に新しいジャンルを開拓したり、従来のマイナーなジャンルのソフトを世の中に紹介するさまざまな活動を検討すべきであろう。私も微力ながら協力を惜しまないつもりである。
(筑波大学大学院 経営システム科学 教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)
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