松倉会長の業界キーマン直撃インタビュー


松浦 義幹
株式会社IDGコミュニケーションズ 副社長

 

今回は株式会社IDGコミュニケーションズに松浦副社長をお訪ねして、月刊『WINDOWS WORLD』、月刊『Windows NT World』発刊のいきさつや苦労話、 新企画を中心にWindows業界の動きと合わせてお聞きしました。

− はじめに御社の概要をお聞かせください。
松浦
 IDG(International Data Group)の本社機構は米国のボストンにあり、全世界的に大きく3つの事業グループに分かれて活動しています。まず出版グループのIDG Communications 、市場/企業調査グループのIDC(International Data Corporation)、それに展示会グループのIDG World Expoです。日本でもこれらにそれぞれ対応しておりまして、出版グループであるIDG Communications Japanというのが当社であり、調査グループの日本法人がIDCジャパン、それからIDG World Expoの日本法人がIDGワールドエキスポ/ジャパンという会社です。IDGワールドエキスポ/ジャパンはWINDOWS WORLD Expo、MAC WORLDなどをやっており、コンソーシアムの会員の皆様もよくご存知かと思います。
 出版グループと調査グループが日本で初めて事業を開始してから、15年経ちましたので、外資系としては結構長い方です。日本ではここ4、5年で展示会や調査、出版も含めて手広くやり始めて会社の規模も大きくなり、IDGとしての知名度もだいぶ上がったかなと思います。

− 次に出版グループをご紹介ください。
松浦
 社員数が約80名です。出版物は、定期媒体として月刊誌が『WINDOWS WORLD』、『Windows NT World』、『Sun World』それに『Mac World』の4つです。それから隔月刊誌として『OS/2 World』と『Java World』、季刊誌として『HP OpenWorld』を出しております。それ以外に『BackOffice World』などいろいろなムックの展開をしております。あとはいわゆるハードカバーの書籍と、『COMPUTERWORLD TODAY』という日刊のFAX新聞をベースにして、FAX配信とWeb上での電子メール配信というニュースサービスをやっております。これらが出版グループの事業内容です。

IDG Booksの翻訳本、日本オリジナルな企画本を半々で

− 書籍数はどれくらいですか。
松浦
 書籍部門でやっていますが、年々増えており刊行部数で30を超えています。今は年間で20冊ぐらいのペースで動いています。去年の暮れから今年の9月までの出版企画として13冊入っています。IDGにはIDG Booksという書籍専門の会社があり、ダミーズシリーズやシークレットシリーズなどを出しています。我々はそのIDG Booksが米国で出した書籍の日本語版を出すという動きと、最近はだいたい50、50ぐらいの比率で、残り50は日本オリジナルの書籍を出すように心がけています。確かに米国で売れた本を日本語化するというニーズはあるのですが、ただそれだけでは日本人には受け入れられない部分がありますので、日本人による日本人のための本を作ろうと、最近は日本オリジナルの企画に力を入れています。例えば近々出る本として一番注目しているのは『Windows NT4.0 FAQ』という本で、これは最近できた日本NTユーザーグループの人たちによるものです。このグループが今まで会員からWeb上で集めたFAQ集を1つの本にしてまとめて出すもので、実際のNTのユーザーが使って、自分たちが遭遇したFAQが豊富にまとまっていますので、NTを使われている方にとってかなり参考になる一押しの本です。

− 日本NTユーザーグループは今度のWINDOWS WORLD Expoの後援をされていますが。
松浦
 ええ。うちは今本当に日本NTユーザーグループさんの主旨には大いに賛同していますので、Windowsコンソーシアムさん同様にできる限りのご協力はしていきたいと思っております。

− その他にIDG さんは新聞を出されていますが、その方はどうなるのでしょうか。
松浦
 4年前までタブロイドで『Computer World』という週刊の新聞を出しておりました。先程申し上げたように、日本に我々が参入して15年ぐらい経つのですが、正直言って前半の7、8年というのは会社として低迷してきました。言葉を変えれば、日本でタブロイドの新聞というものが受け入れられないということが分かっていながらも、結局それに対しての見切りをつけるのが遅かった、というのがこの15年の我々の事業のビジネスを振り返った時の総括です。
 米国ではタブロイドの週刊新聞というのは、かなりの信頼性や価値をもって読んでいただけるし、広告なども集まるのですが、少なくとも我々がやってきた経験からは日本ではタブロイドの新聞、しかも週刊というのはなかなか受け入れられないというのが実感です。

電子メールとWWWを使ったITニュースのサービスが7月にスタート

− 最近はオンラインで新聞をやる傾向が多いですよね。また復活するとか…。
松浦
 多いですね。ですからタブロイドの週刊新聞をやめて、読者に対しては情報の提供ということで、日刊のFAXニューズレターに変えました。最近はインターネットの利用者の高まりにより、インターネットでWebページを見たいと沢山の要望がありますので、このFAXレターをベースに電子メールとWWWを使ったIT(情報技術)ニュースのサービス『COMPUTERWORLD TODAYメール・サービス』をこの7月中旬から開始いたします。

− 無料ですか。
松浦
 当初無料で試験期間をおきまして、それからは有料に切り換えていきます。

松倉会長
 

『Windows NT World』は、他誌と差別化を図った

− 御社は昨年6月に『Windows NT World』を創刊しこの分野では先行されていますが、後追いでいろいろ雑誌が出てきて、大変競争が激しくなってきていると思うのですが、読者層の面などでの影響というのはどうでしょうか。
松浦
 『Windows NT World』では先行していますが、これは本当に当社にとってうれしいことです。今までどちらかというと、日経BPさんとかアスキーさんとかソフトバンクさんがまず先鞭をつけて、それをうちが遅ればせながら追いかけるという後手後手できたのですから。最近になって展示会などもそうですが、雑誌でも『Windows NT World』、『Sun World』に関してはうちが本当に先陣を切った。うちの成功を見て他社が追随してくるということは、自分たちのやったことを他に認めていただけたということですから、これは本当に会社としてうれしいことです。
 別の面から見ると競争も激しくなるという部分はあるのですが、日経BPさんにしてもBNNさんにしても、それなりの実績をもっているところなので、正直言って出る前は我々としても戦々恐々としましたし、実際それに向けての対応策を編集部、広告営業部、販売部など全社に号令をかけてやりました。じゃあ、出てからどうかというと、これは他誌がたいしたことがないとかいうことではなくて、やはり他誌と差別化がちゃんと図れているというところを感じました。

− どういうところですか。
松浦
 特に日経BPさんの『日経Windows NT』を例にとらせていただきますと、従来の企業ユーザーの読者が定期購読をしているということで、固定された読者層をもつ日経BPさんの強いところです。うちは書店売りをメインにしており、そういう意味では大企業のユーザーさんであれ、SOHOのユーザーさんであれ個人のポケットマネーで買っていただけるような本の内容作りをしてきましたので、当然日経BPさんのNTとも内容の差別化も図れていますし、また本の売り方も違うわけです。そういったところで編集者の考え方というのも違いますので、同じNTを切り口にした本であっても、かなり内容的にも取り上げるテーマに関しても、現在のところまではだいぶ違っていると思います。このへんではきれいに住み分けができているのではないでしょうか。
 逆に言えば、他誌が参入してくれたことによって、NT雑誌というものの市場が広がったということで、我々にとってもいい効果をもたらした、というふうに今思っております。ですから後は今自分たちが考えており、今までとってきた方向性で、もっとクオリティを上げるように努力さえしていけば、決して我々の『NT World』が悪くなるとは思っておりません。これからもいい本を作るために、自分たちのやってきたことを信じて、益々クオリティを上げていこうかと思っています。

− 『WINDOWS WORLD』の方はどうですか。
松浦
 これもお蔭様で今年の3月売りの4月号から大リニューアルを図りました。デザインも変わりました。これは当初の予定どうりで、NTを創刊しようといった時の話に戻るのですが、要は今まで『WINDOWS WORLD』という1誌で、上の方から下の方まで、つまりNTも95も、パーソナルユーザーも企業ユーザーも1冊でなんとかカバーしてきたわけです。ご存知のようにマイクロソフトさんの動きを見てくると、やはりNTの方にもだんだん力を入れてきましたので、1冊の本でWindowsの下から上までというのが難しくなってきました。
 それで『WINDOWS WORLD』はそのままにして、NTというものを1つ出して分散化しようということで始まりましたので、『Windows NT World』というのは上の方、『WINDOWS WORLD』というのは下の方です。

− そうすると、Windows CEからWindows 95までが『WINDOWS WORLD』、Windows NTからBackOffice関連までが『Windows NT World』ということですか。
松浦
 はっきり言ってしまうと、そうです。『WINDOWS WORLD』の方では新たにゲームとかアプリケーション関係であるとか、ホームユーズのこれからの広がりのへんまでカバーしようということです。お蔭様でこのリニューアルも成功しまして、『WINDOWS WORLD』は6月後半に開催されるWindows World Expoに向けて毎年部数が増えてのですが、今回も去年以上に見込めそうです。

− 現在の発行部数はどれくらいですか。
松浦
 『Windows NT World』が8万部で、『WINDOWS WORLD』は10万部です。『Windows NT World』を出した時に、我々はそんなに部数は出ないだろうと思っていたのです。当初5万部ぐらいのレベルで見ていたのですが、創刊して半年も経たないうちに8万部いってしまって、意外といえば意外です。

− そうですね。日本の場合は米国と違ってNTは売れてますから。その分が雑誌にも影響しているんじゃないかなと思うのですが。
松浦
 そう思います。この間もニューヨークのScalability Dayでマイクロソフトの取材に行ったのですが、向こうの皆さんによると、Windows NTは企業のサーバー/クライアントの中で使われるのが非常に多いのです。日本では『Windows NT World』の読者の葉書などを読んでいる限りでは、個人のデスクトップユーザーがそれまでWindows 95を使っていたのだけど、NTの方が安定性もいいし信頼性も高いということでWindows NTワークステーションに替えた方が結構多いんですよ。このへんは日本独特の市場の特性で、お蔭様で『Windows NT World』は今うまくいっています。

松浦副社長
 

− それはおめでとうございます。では有名な“覆面記者井戸端座談会”コラムですが、あの企画は多分松浦さんによるものと思いますが、業界の人だけに人気があるのか、一般の人にも人気があるのか、裏話なども含めてお話いただければ。
松浦
 まずこの企画をなぜやったか、この『Windows NT World』の“覆面座談会”、それから『WINDOWS WORLD』の方の“未確定タイムズ”、正直いって二つとも私のごり押しの企画です。なぜ私がああいうものにこだわるかというと、『WINDOWS WORLD』も『Windows NT World』もひいて言えば、うちが出す出版物というのは全部ユーザー誌を目指しています。業界誌ではなくてユーザー誌というのを標榜してきてやっているのです。
 ところが、ユーザー向けの展示会や雑誌は、実際にうちに限らずいろいろ出していますが、それを読まれている読者の方というのは、純粋なユーザーだけとは限らないと思うのです。というか、実際に業界の関係者の方なども読まれていますし、展示会をユーザー向けにやっても業界関係者が来たりします。これは日本の今のコンピュータ雑誌の市場を支えてくれている方々、あるいはコンピュータの展示会を支えてくれている方々には、多くの業界関係者の方々がいらっしゃるわけで、いくらユーザー誌とはいえ、そういう方たちが読んでくれているということも、作り手の方としては認識しなければいけない。ということは、うちの本を買って、業界の方が読んでくれる部分をきっちり残さないと、我々作り手側としては、買ってくれたお客さんに対して申し訳ないのではないですか。ですから例え100ページの本で、99ページは本当にエンドユーザー向けで業界の人に関係なかったとしても、私としてはIDGが出す本としては、1%、2%は業界の方にも読んでもらって、酒の肴になったりとか、これを読みながら世間話のネタになったりとか、そういう部分を我々がご提供するべきだというふうに考えて、こういうページにこだわっているんです。
 逆にビジネス的な配慮から言うと、我々は広告というのも1つの大きなビジネスの柱としているので、広告を取る上で、エンドユーザーの中で評判が良くなるということも大事なのです。業界の方々に「あっ、あの『NT World』ね、あの『WINDOWS WORLD』ね」というふうにやはり業界の中で名前が上がらないと、広告営業を進めていく上で非常にやりづらいというのがあります。ですからビジネス的な観点からいうと、そういうことも意識をして狙っています。ですから少なくともこういう業界の方が喜んでくれるページを置くことによって、業界の方々の話題に名前が出ることによって、そういう広告営業という部分でうまくそれを展開していきたいと思います。

− 先月号の“未確定タイムズ”でも話題になる記事がありましたね。スゴイというか、先を見通したというか…。
松浦
 ありましたね。正直言ってネタがかなりきわどいものがありますので、今までにも何度もメーカーさんからのクレームなどがございました。ただ私はその度にご説明して、何とかご理解いただいていると思っているのですが。やはり我々はそういうものに関して、あそこを注意して見たら分かるのですが、ゴシップや誤報もあります、そういう噂をとらえているということで書いているので、通常の新聞が1面で取り上げるとか、そういう位置づけではないし、少なくとも『WINDOWS WORLD』や『Windows NT World』の特集で、もしそれをやったのでしたら大変でしょうが。
 米国の雑誌などではルーマーのページとして結構多いのです。だから米国で許されているから日本で許される、そういうことを言うつもりはありませんが、やはりそういう噂があるということ自体、私としては1つのニュースバリュー、こういう業界というのはそういった噂のところにその本音の部分が見えるということは多いではないですか。ですから当然噂レベルで完璧に消えてしまうこともありますが、ただこれだけ目まぐるしい業界の中を生きていかれる方にとって、噂で今何があるのかということを知ること、正式に発表されたことと、噂としてこういうことがある、両方をつかんでおかないと、多分この速い業界の中では動いていけないと思います。ですから我々は正式に確認されたわけでも、発表されたわけでもないけれども、こういう噂があるということを業界の人に伝えることによって、口はばったいですが、この動きの速い業界の中で生きていかれる方の、少しでもビジネスのお役に立てればということで、敢えてああいう企画をやらせてもらっています。

− 反面これはマーケティングに使っている、噂がまた戻ってきた時にやはり効果があるとか。
松浦
 「あそこに書いてあってね……」と言われて、それが本当になった時に、正直いって「してやったり」という部分はありますけれども、それよりも広告営業の責任者から言わせると、「止めて欲しい」という方が多いです。クライアントさんを怒らせて、うちの営業などもつらい立場にあるみたいで、私は営業の責任者からいつも「もうあのページを止めてもらえませんか」としょっちゅうお願いされています。

− 覆面記者名が創刊号と創刊2号からでは変わっていますが、まずいことがあったとか。
松浦
 いや、まずくはないんですが、やはりあれはマイクロソフトさんから何か来たというよりも、座談会に出ている記者の間で、あまりにマイクロソフトさんにつきすぎているような企画と思われても嫌なので、「ちょっとこれは変えようか」という話で……、1回目だけです。2回目から今のになりました。
 始めの意図としてはやはり覆面などをやれば、Windows NTの話が中心になってマイクロソフトさん関係の情報が多いから、何かそんな名前でいいか、という考え方だったのですが。逆にいえばそういう記者からあまりマイクロソフトさんに特化している企画と思われたくない、ということで変えたわけです。変えて正解だったと思うのは、本当にやってみたらマイクロソフトさんのネタよりも、オラクルさんであるとか、アップルさんの動きとか、あるいはソフトバンクさんの動きとか、やはりこの業界をとらえたら、意外にマイクロソフトさんのことよりも、それ以外のことの方が結構多かったですね。そういえば松倉コンソーシアム会長とか下川副会長も出ましたですね。

米国と日本では情報に対する価値観が違う

− ああ、出てましたね(笑い)。ではちょっと文化的な話になりますが、日本と米国では媒体の文化に関して、やはり視点が違うと思うのですが、どういうふうに見られておりますか。
松浦
 まず、先程もちょっと言ったタブロイドの新聞に対する評価が日本と米国では違うというところがあります。

− 何で違うんですかね。
松浦
 要は日本というのは、やはり日刊の新聞といったら、朝毎読の日刊紙のイメージが強いんで、あれ以外の形をしているものは正統派ではない。しかもどうもタブロイドというと、夕方駅の売店で売っている『夕刊フジ』のようにネタとしてはかなり軟らかい部分もあるので、そういうイメージがあると思うのです。逆に言えばコンピュータのような真面目な情報を欲しがっているような人にとっては、何か抵抗があるのかもしれませんね。
 じゃ米国は何でそれでも売っていけるかといったら、要は米国はタブロイドが受けているとかそんなことではなくて、どんな形をしているものでも、パンフレットみたいなものでも、カタログでも、彼らは貰ったものをじっくり読み、どちらかというと情報に対して貪欲なところがあると思うのです。よく日本では展示会などでただで配ばられたパンフレットなどはポイと捨てられるケースが多いではないですか。何をいいたいかというと、私は情報に対する価値観というところで、日本はまだ米国に比べて低いのではないかなと思っています。
 それは国土の問題とかそういうのもあると思うのです。やはり日本のように小さい国土で、だいたい東京に行けばどんな情報でも、いろんなメーカーのブース、ショウルームを見れるという環境と違って、米国は広いですから自分から積極的に情報を集めていかなければならないのです。秋葉原みたいのがあるわけではないですし、本当に情報を収集しようという気持ちが強いのではないでしょうか。それだけ情報を収集することによって、情報をうまく使えば大きなビジネスチャンスが開けるというところがあり、非常に洗練された社会だと思います。

− 最近セミナーをやっていて地方へ行くのですが、セミナーは東京集中型で行われているため、非常に喜ばれます。情報が足りなくて飢えている、それを実感するのです。その分積極的にやればいいのだけれど、米国の人みたいにカタログから細かく見るというようなことはやらないで、与えられるまで待っている人が多い。
松浦
 米国の場合はすべて地方都市の集まりではないですか。いくらニューヨークといったって、サンフランシスコに本社があるメーカーなどの情報に関しては、あれだけ遠いわけですから、積極的に集めなければ入ってきません。逆にサンフランシスコという大都市でも、ニューヨークとかボストン、シカゴにある会社の情報はなかなか入ってこないわけです。だから彼らはそれが紙であろうが何であろうが情報というのは大事だという気持ちがあるため、それがタブロイドの形をしていようが何していようが、いいものはいい、ということで読んでくれるのだと思います。
 よく米国のうちのグループの出版社の編集者の話などを聞きますと、部数に応じた広告や記事に対する反応というのが、彼らの方が高いのです。日本の場合、10万部売れています、10万人本を買った人がいます、といった場合、買ったけれどもそれを隅々まできっちり読んでいない人、買ったまま読みもしないで積んでおく人、あるいは定期購読していて送られてきているけれど、この号は全く開かなかったという人は結構多いのではないでしょうか。ですから実際に売れている数とちゃんと熟読された率というのは、日本ではかなり乖離があると思うのです。
 ところが米国の場合、10万部出ていますよ、と言ったら、その10万部というのはきっちり読者ターゲットに合った人で、しかもその人たちは必ず目を通す、取っていて読んでいる認識度というのはかなり高いと思うのです。ですから1つひとつの記事に対する反応、広告に対する反応というのが、米国と日本で、同じ10万部の本でも全然違います。それだけ米国の人というのは、情報を利用しようという意識が非常に高い。それプラス、逆に向こうのベンダーさんは広告展開を考えた場合に、やはりそういう紙の媒体に対しての広告というものを重視されている。というのは、それだけの広告効果があるのだと思うのです。

松倉会長、松浦副社長
 

− よく米国の本で、この本は20万部売れたとかありますが、それは実際本当に読んでいる読者でしょうか。
松浦
 いや、それはやはり日本と同じで印刷部数で、号によって実売率は変動しますから。うちの場合、実売は70%ぐらいです。これは他社さんも同じで日本の場合は50%以上というのが一般的な常識なのですが、米国はもっと低いです。書店売りの実売率は20%とか30%であって、70%以上は印刷しても売れないらしいです。我々はワールドワイドのミーティングなどをよくやるのですが、先月も日本で『PC World』の世界会議がありました。日本の実売率、我々の70%には米国人は驚きますね、ブックストアでの販売がそんなに高いのかと。米国の場合はだいたい30%前後、そんなものらしいです。70%というのは他社さんと比べてそんなに高いわけでもなく、だいたい皆さん60から70%位の実売率で保っているのです。これが経営していく上でベターなのですが。
 だから彼らの場合は、あまりブックストアでの売りというものを重視していないで、サブスクライバー、定期購読が中心なのです。定期購読が5万人いた場合には100%、5万人います。ですから『PC World』、『Info World』、『Computer World』などは、ブックストア、町のニューススタンドでも売ってはいますが、彼らの9割はサブスクライバーという収入ベースでやっています。そこは日本のように半径500メートル以内に本屋が何軒もあるようなそんなお国と違いますので、彼らのベースは定期購読のサブスクライバーなのです。

− 先程のWebオンラインサービス、1つの新しい企画だと思うのですが、もう少し細かいお話を。
松浦
 ともかくもう遅れ馳せながらですよ。インプレスさん他の皆さんがいろんな所でやっているのはもう当たり前ではないですか。本当に1年か2年ぐらい前にやろうというタイミングはあったのですが、やるからにはじっくりよく市場調査してやろうということで時間がかなり経ってしまったのです。そうしている中に、我々としてはインターネットの市場に対して、ちょっと待てよと、これはちょっと見極めた方がいいなという動きが出てきたのは確かです。最近はインターネットによるバブル的なワーっという感じから、ちょっと引いた論調が見えてきたではないですか。

− 論調だけはありますが、使う人はどんどん増えてますよ。
松浦
 使う人は増えてますけれど、本当にやっている人たちがみんな儲かっているかといったら、必ずしもそうでないようです。我々としてはやる以上はやはりきちっとしたものをやりたいし、ビジネスとしても成功させたいので、そのへんをじっくり見極めてやろうよといっていたら、出遅れてしまったわけです。やっとこの6月から本格的にWebを立ち上げて、その中の1つの目玉として、オンラインWebサービスを始めるというのが現状です。

世界のIDGの全媒体のトップニュースが見られる

− これは『COMPUTEREWORLD TODAY』の内容が中心ですか。
松浦
 当面はこの『COMPUTERWORLD TODAY』を中心にします。これを中心にするということは、ワールドワイドの『InfoWorld』、『Computer World』それから『News Service』など今世界50カ国ぐらいに拠点を持っていますが、そこからデイリーでボストンにあるホストコンピュータに集まってくる二ユースデータベースから日本に関係のあるものを引っ張り出して、編集者が抽出して提供します。ですから『COMPUTERWORLD TODAYメール・サービス』を読んでいれば、その日の世界のIDGの全媒体のトップニュースが見れるということになります。

− これは月1万6000円でしたね。電子メールですと、今インプレスさんだと1ヶ月3000円くらいですが。
松浦
 その議論でもう大変だったんです。だからもろ刃の剣というか、自分で自分の首を絞めることになるんですよ。今オンラインの時代、インターネットの時代というお話がありましたけれど、確かに電子メール、ネットワークによるものは高まっていますが、中には旧態依然として、やはり紙でもらった方がいい、雑誌などがまだ売れているというのは、紙の良さというのがあると思うのです。『COMPUTERWORLD TODAY』というのはFaxで紙の良さを享受されている確固たる読者がいるわけです。では今度うちがネットワークのサービスを始めた時に、正直言ってマイナスになることもあるかもしれません。ただ我々の基本は1人でもより多くの業界の方々、より多くのユーザーの方々に情報提供という上で貢献しようというのが、IDGのワールドワイドなポリシーですから、これに関してはビジネス云々ということよりも、やっぱりうちが持っている世界の情報を、少しでも1人でも多くの人が受け易い、サービスを享受し易い環境を作るのが大事ということで、今回踏み切りました。

『Java World』を秋から月刊誌に

− 他に新しい企画というのはありますか。
松浦
 雑誌の企画では、この秋から月刊化を予定しているものがございます。『Java World』です。

− あれはいいですね。私も買って読みましたよ。
松浦
 ありがとうございます。『Java World』は今までムックで4回出しております。本当にお蔭様で読者からも、広告クライアントからも反応が高いのは事実です。

− これも先行型ですよね。当たりましたね。
松浦
 ええ。もうニーズもきっちりしています。今までうちは『Sun World』という雑誌を出してきましたから、そういう意味ではJavaもSunのものだとは言いませんが、Sunさんを中心とした情報部分に関しても我々は自信を持っています。

IDGの我々の成功は、ひとえにWindowsの成功だと思っている

− 今後とも一般大衆向けのコンピュータの雑誌を目指してというところですね。15年やっておられて、業界誌の流れで大きなトピックスはありましたか。
松浦
 近々6月25日からWINDOWS WORLD Expo、今年で5回目を迎えますが、ご存知のようにIDGの我々の成功というのはひとえにWindowsの成功だと思っているのです。というのは、調査部門を除いて展示会部門も正直いってWindowsというものを1つの契機にして大きくなってきました。うちもいろいろな媒体を出してきましたけれど、やはり4年前に創刊した『WINDOWS WORLD』という雑誌が母体になって『NT World』なり『Java World』などいろいろな媒体が広がっていって、そういう意味ではこのWINDOWS WORLD Expoというのはうちの歴史を語る上で避けて通れないと思うのです。
 実はWINDOWS WORLD Expoは、Windows 3.0の時代に第1回目が12月に企画されたのです。 ところが第1回目は世間的にWindowsがどうなるか、 まだ疑問視する声の方が多かった頃に、我々としてはそれこそ先行する形で、日本で初めて Windows展示会をやりたいと、Windowsコンソーシアムさんにもご協力を願って、開催に向けた準備 をしたところ、幕張で2ホール予定していて1ホールは埋まったんです。
 だけど1ホール埋まれば1回目はいいじゃないか、来年2回目に2ホール、それから3ホール、 徐々に時間をかけて多くしていこうよ、ということだったのです。
 しかし、Windowsコンソーシアムさんから呼ばれまして、「これはマイクロソフトさんの意向もあって、我々は日本でWindowsを成功させたい。そのためにはWindowsが初めてこういう華やかなイベント、展示会だからこそ1回目から寂しいイメージだけは作りたくないのだ。幕張で1ホールというのは、1回目として我々はそれはそれで意味があるとは思うが、世間から見れば、Windowsというのはやっぱりあんなマイナーなものであって、限られた人たちしか集まらないものだと思われるのは、これからのWindowsの市場の発展を考えた場合にマイナスだ。だからIDGさん、申し訳ないが半年延期してくれ」というお願いを受けました。あれは今でも思い出しますが、芝のマイクロソフトでコンソーシアムさんの面々からそれを宣告されまして、私はこの世界に今年で16年目になるのですが、あの時ほど辛かった時はなかったです。やはり私もあの頃はいろんな所に編集者の枠を越えて出展社に土下座して、「何とか出て欲しい。Windowsを成功させたいんだ」と。あの頃IDGという名前もあまり知られていませんでしたので、もう一からIDGを説明してとにかくやってきましたので、「延期」といわれた時は出展社にその説明をする時、残念であり辛かったです。

− 私が事務局長だった時ですね。
松浦
 そうでしたね。本当にあの時はコンソーシアムさんの面々が本当に憎かったですよ。でもコンソーシアムさんが「延期した以上はもっと協力するから」ということで半年後にやった時には、本当に協力してくれて、1コマ当たりでは最高入場者数を記録するくらいでした。この半年の間に市場もだいぶでき上がってきて、またWindowsに対する注目度も上がってきたために、半年延期したことが幸いしました。おかげ様で1回目から大成功となって「何かWindowsというのは行けそうだぞ」ということを皆さんにアピールしたと同時に、展示会も「IDGさんのWINDOWS WORLD Expoというのは他の展示会とちょっと違うぞ」というようなご評価をいただいて、毎年毎年倍々ゲームでこられました。

− WINDOWS WORLD Expoは入場者数が世界1位じゃないですか。
松浦
 世界1位です。来場者という数では多分世界の5本の指に入ると思います。

− 折角ですから、他にも質問ということで。一言でWindows NT vs UNIXを。
松浦
 『Windows NT World』という本には、大きく2つのグループの読者がいるんです。というのはWindows 95からNTにアップグレードしてきて、NTに関心をもって読んでいる人、もう1つは今までUNIXの方に詳しかった人がこれからNTも勉強しなければいけないというので、『NT World』を読んでいる人です。読者などのカードを見ている限りでは、Windows 95を読んだ人たちというのは、やはり「無条件でNTはいい」と言ってきます。UNIXをやってきた人たちは「Windowsを最近さわってもう一度勉強しているのだけれども、本当に驚いた。特にユーザーインターフェイスがユーザーにとって分かり易い。逆に今までUNIXというのが限られた人たちの世界、殻に閉じこもったOSであるということをNTを知れば知るほど感じる」と。ただ機能的にはまだNTにはUNIXに劣る部分があるので、これからもっともっといろいろな部分で強化していかなければ、本当にUNIXが今まで持っていた市場とかメインフレームが持っていた市場の中では、これから努力が必要だろう、というのは確かにあるのですが。いずれにしてもWindows NT vs UNIXというのは、やっぱりNTですよ。

− 日本市場だけでなく世界もですか。
松浦
 ちょうど先週「Scalability Day」でニューヨークへ行ってきましたが、完璧にあのイベントの意味はマイクロソフトが自分たちがエンタープライズシステム、つまり今までメインフレームが主役だった部分、ここをきっちり我々はWindows NTでとるぞ、そのためのものが今までは口だけだったけれど、実際製品がもうこんなに揃った、タンデムのデモを見てもらえれば、それを実証できるところまで来たぞ、という宣戦布告の宣言だったと思うんです。ビル・ゲイツ氏は確かに記者から「マイクロソフトはメインフレームの市場をとるのか」という質問があった時に、「いや、そういうことではない。メインフレームの市場はもう終わったんだ」と彼は言いました。「終わって、あそこはもうこれからないんだ。メインフレームが終わって新たに出現してくる市場が、クライアント/サーバーをベースとしたエンタープライズ市場であって、そういう新しいものをうちはとっていくのであって、今までのメインフレーム市場をひっくり返すとか、そんなことはやっても意味がない」というようなコメントをしました。あれは非常に興味深かったですね。ついにマイクロソフトは本気になったと思いました。

− Java勢力をどのように見ていますか。
松浦
 Javaというのは当初SunのJavaというイメージがありましたが、でもJavaはもう本当に1つのプラットフォームになりました。ですからうちの『Java World』を見てもらっても分かるのですが、マイクロソフトさんの広告をVJ++で出されたということで、JavaとActiveXも必ずしもぶつかるものではなくて、補完するようなものだというような考え方もあります。そういう意味ではJavaの世界というのは、1つのインターネットをプラットフォームにしたその中のJavaという1つのプラットフォームになるようなものだと理解しています。ですから先ほど述べた月刊の『Java World』に期待していただきたいですね。

− 以上でございます。どうもありがとうございました。

* かっての名編集長の辛口トークは、今では『Windows NT World』“覆面記者井戸端座談会”と『WINDOWS WORLD』“未確定タイムズ”で姿を変えて健在であったわけです。ご覧になっていない方は、是非。毎月2誌ともご寄贈いただいて、Windowsキットとして会員会社にお届けしております。


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