最新Windowsソフトウエア事情(第24回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄


 楽しく学ぼうEdutainment

 Windows Viewでも何度か石田晴久監修、「ゼロから学べるパソコン」シリーズ(岩波書店)が紹介された。石田、脇そして高橋のWindowsコンソーシアム顧問団総出演のシリーズであるから本来ならもっと派手派手しく、出版記念パーティでも開催されるところであろう。しかしどういうわけか、期待に反して現在までのところそうした話は一向に聞こえてこない!。コンソーシアムに対する顧問団の貢献がいかにも少ないことのあらわれなのだろうか。
 以上は冗談として読み流してもらうことにして、たしかに著者自身がいうのはなんであるが、本シリーズは世の中にあふれているパソコンソフトマニュアルまがいの初心者入門書とは一線を画した企画内容であると思う。少なくとも私自身が担当した「データの分析と情報の整理」は表計算ソフトを中心としてオフィスの非定型的な活動つまり、意思決定あるいは判断を支援する情報技術をわかりやすく紹介したつもりである。表計算ソフトの元祖としてよく知られているVisiCalcがどのような経緯で開発されることになったのか、そのいきさつについてはNHKスペシャル、「新電子立国」で詳細に取り上げられたが、それを見逃した方はぜひ、相田 洋著、新電子立国:世界を変えた実用ソフト、NHK出版を読んで欲しい。そこではまさに、ハーバード大学のビジネススクールで与えられたケーススタディの課題の中でさまざまな問題解決に悩むVisiCalcの開発者、ダンブルックリンの姿が描かれている。この問題解決のためのシミュレーション分析こそ、表計算ソフト(Spreadsheet Software)が開発された動機であったのである。
 ところで本シリーズは5巻からなるが、その第4巻にあたる「マルチメディアを楽しむ」が当初予定されていた著者の都合からその執筆が急遽、私に回ってきた。現在、年末のあわただしい中、厳しく設定された期限を目前にして原稿執筆の最終段階にさしかかっているところである。この巻ではマルチメディアの基本技術(音声、デジタル写真、ビデオ動画など)とその利用、そしてCD-ROMソフトを広くサーベイしており、その中の一つのジャンルとしてEdutainmentを取り上げようとしている。Edutainmentとはいまさらいうまでもなく、EducationとEntertainmentをつなげた造語であり、マルチメディアを使って楽しく学ぶためのソフトのジャンルである。今回はこの楽しく学ぶために活用できるCD-ROMソフトを話題にしたい。
 教育、学習についてみなさんはどの程度、その必要性を実感されているだろうか。多くの方々の意見を代弁するとおそらく、「ビジネスとしてのEdutainmentソフトの可能性を考えてはいるが、自分自身がそうしたソフトを必要とするとは思われない」となるのではないだろうか。しかし、Comdexにいくたびに、「来年こそはもっと英語を勉強してこよう」と思うが、結局、何もせずに1年がたってしまうわれわれにとって、どうして英語のまともな勉強ができないのだろうか、あるいは気が進まないのだろうか。忙しいというのは理由にはならない。ゴルフなら何をおいても参加するといった人がむしろ多数派であることはいうまでもない。50万円以上の資金をベルリッツに投じてもなおかつ十分な成果をあげることにはならなかった仲間の様子を見ていると、やはり、人前で学ぶ英語学習は苦痛に思えるのであろう。マイペースで楽しく学べる英語学習、それが上達の近道である。じつはEdutainmentソフトには音声、ビデオ動画などをフルに活用した対話型(インタラクティブな)学習ソフトが数多く見られる。まずはその具体例を見てみよう。

図1

 図1はTalk to Me(エーアイソフト社)を使って英会話の学習を始めようとしているところである。画面上段のレッスンメニューからレッスン一覧をリストし、空港での会話を素材にしたレッスンを選択することにした。画面右側には会話状況のイメージも表示されており、レッスンが始まるとビデオ動画で話の状況が流される。また言語や学習のレベルも設定でき、将来は英語以外の外国語やさまざまなレベルのレッスンが加えられることが予想される。

図2図3

 図2は実際のレッスン風景である。ここでは実際の会話を通じて発音やアクセントなどを練習し、画面右側上段の質問に対して下段のセンテンスを実際に発音してパソコンに入力する。その結果はレベルに応じて判定され、合格になるまで繰り返し入力(練習)が求められる。発音の判定は図3のように、模範の発音を聞いた上で上段に表示される音波グラフと学習者が発音(入力)した音波との比較にもとづいて行われる。これはなかなかにきびしく、私ですら(!)、合格レベルに達するにはかなりの練習時間がかかった。

図4図5

 会話のヒアリングと実際の発音がこのソフトの基本であるが、あわせて各種のテスト形式の英語学習もできる。たとえば図4はその一つで、反対語を選ぶ問題であり、反対語を線でむすんでいく方式である。図は私の解答であり、模範解答であるとはかぎらない。正解を知りたければ画面下段の電球のボタンをクリックすればよい。また、図5は文章中の穴埋め形式の学習である。画面下段の単語欄から該当する単語をマウスでドラッグすることで文章の組立を学習する。このほかにもヒアリングの学習もある。
 英会話の学習を始めると単語力の不足にはたと気がつくはずである。中学から大学までの10年間、俺は何をやっていたのでどろう?。これは英会話だけの話でなく、インターネットを通じて海外情報を収集したり、ちょっとした手紙を海外の取引先に出そうとするときにも実感する。こうしたときは当然、電子辞書とくに英和/和英辞書が役立つことはいうまでもない。

図6図7

 図6は研究社英和/和英中辞典(EASTから発売)の画面例である。図では辞書を単独に参照しているが、このように英和/和英辞書を画面に表示して適当な単語を入力してその訳を見たり、ページを順番にめくっているだけでも英単語の学習になる。しかし、できることならワープロソフトで文書作成中に辞書が利用できればそれはさらに役立つ。図7はこの原稿を執筆中に「冗談」の語に対応する英語を参照しようとしてホットキーを操作したところである。それによって辞書が呼び出され、対応する訳文を見ることができる。もちろん、該当する部分をコピーして貼りつければそのまま文書中で利用できることになる。使ってみると大変に便利である。

図8図9

 英会話学習ソフトもかなりの数ある。そこでもう一つ、TriplePlay Plus!(Syracuse Language Systems、日本ではエーエスアールインターナショナル社から発売)を見ておこう。これもまた、学習者が直接、発音して会話に参加することが求められる。図8はそのメインメニューであり、左端のボタンによって学習者のレベルを設定したり、会話の状況(シナリオ)が選択できる。ためしに食品を選択してみると図9のように、さまざまな食品のイラストがリストされた。ここでパソコンから問題が聞こえてくる。たとえば、「白くて栄養のある飲み物はミルクですか、それともオレンジですか?」といった英語である。これを聞いた上で解答を発音して入力する。つまり、答え(ヒアリングと英単語)と発音の両方が問われるわけである。単語程度ならそれほど大変であるとは思わないが、図10のように会話形式になるとこれは難問である。

図10

 この演習ではホテルから空港に向かうタクシーの中で話される会話を一通り聞いた上で図の一駒一駒の吹き出しにあたる部分のセンテンスを暗記し、そして実際にパソコンからの問いかけに対して発音することが求められる。このレベルの学習に合格すればあなたの会話力は相当なものと判断されるだろう。

図11

 CD-ROMソフトによる英会話学習も一段落すると他流試合をしたくなる。そうしたときにおすすめ品が英語学習の月刊誌、English Network((株)アルク)である。この千円ちょっとの月刊誌には毎号、学習用のCD-ROMがついており、その中には(図11)最新映画の一部を英語や日本語の字幕入りで見ることができたり(最初は字幕を消して、英語だけで見たほうがよい)、ビジネス英語力の検定試験(TOEIC)の模擬試験なども含まれている。大企業ではこの昇進試験にあたってTOEIC試験を受け、一定の点数以上のレベルに達することが求められている例も見られるが、そうした場合にはこの雑誌は必読になるといえよう。

図12

 図12は最新映画を画面下段に字幕を表示して楽しんでいるところである。英語の字幕にはところどころの語にリンクがはってあり、関連した説明を参照できる。また、左右のボタンを使って任意の箇所を何度も繰り返し見ることもできる。こうした練習の成果はTOEIC模擬試験でためすことができるだろう。私も20数年前、留学試験のためのTOEFELを受けさせられ、大変に苦労したことを思い出す。

図13

 図13はこのTOEIC模擬試験の画面例である。写真を眺め、パソコンから流れる英語の説明と質問を聞き、該当する解答を選択肢から選ぶという形式である。次々に問題が出されるのでヒアリング力と瞬間的な判断が求められる。
 みなさんの中には英語ならまかしてと自信満々の方のおられるだろう。しかし、Edutainmentは外国語学習だけのソフトではない。たとえば、みなさんはこの厳しい経営環境を乗り越えるための経営的なセンスや知識をお持ちだろうか。もし、経営に関する知識に自信がない場合は、たとえば日経新聞社から発売されているCD-ROMセミナーシリーズを学習されるとよいと思う。

図14図15

 図14は経営学を専攻する大学教授の私ですら楽しんで学んでいる「経営入門」の画面例である。ここには研修室や資料室そして知識のレベルを問われる応接室など、いくつかの部屋が用意されている。図15は研修室で応用研修の中からマルチメディアを選択し、学習を始めようとしているところである。

図16

 それによって画面には図16のように売れっ子教授が登場し、OHPやビデオ素材を使いながらわかりやすい講義をしてくれる。私も実際に放送大学の面接授業でこのCD-ROMを使ったことがあるが、20分近く、この画面上の教授に代講させてゆっくりと休ませてもらうことができた。ロートル教授よりもはるかに効果的な学習であると思う。

図17

 経営などいまさら他人から聞きたくもないとおっしゃるなら、今度は簿記会計はいかがだろうか。パソコンソフトの開発は長らく手がけてきたがどうも簿記会計は苦手だという人もいるのではないだろうか。そうしたときは図17のように、日商の簿記3級をめざしたCD-ROMソフトを使うことが勧められる。これは私の仲間の「ともクリエーションズ」社が開発したソフトである。図はそのメインメニューであり、基礎編、決算編にわかれてそれぞれの項目を音声による解説や演習問題を通じて学習できる。

図18図19

 図18は簿記の仕組みを学習している様子を示している。さらに図19は学習の成果をためす穴埋め(選択式)の演習画面である。この3問に即座に答えることができればこのソフトの必要性はないかもしれない。このようにして今回はEdutainmentの世界をざっとかいま見た。ソフト開発をビジネスとされるみなさんも、ぜひ、これはと思われる楽しい学習ソフトを開発して欲しいものである。

(筑波大学大学院 経営システム科学 教授)


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