開発/言語ソフト ここが見所、さわり所
〜最新開発ツール事情〜
山本 淳 (yamamoto@fsi.co.jp)
96年12月10日に発表された「Windows NT 4.0日本語版」は、なかなか好調なスタートを切ったようである。筆者も自分の部門のサーバー群を順次NT Server 4.0製品版にアップデートしている最中である。いろいろ細かな問題はあるが、おおむね期待通りの性能と機能を発揮している。
マイクロソフトは、Windows NTというとサーバーOSというユーザーの認識を改めてもらうべく、広告媒体をフルに利用したキャンペーンを実施してきた。95年11月に発売されたWindows 95とは違ったスタンスで、企業ユーザーに対するNT ServerとNT Workstationの売り込みを図ってきた。この1年あまりのユーザー動向を見ても、決してマイクロソフトの期待通りにはWindows 95の企業への浸透が図られたとは思えない。たしかにWin32アプリケーションは充実してきたが、企業内のデスクトップからWindows 3.1が払拭されたわけではない。
NT Workstation 4.0の登場によって、企業内には3.1、95、NT Workstation 3.51、NT Workstation 4.0が混在するWindows環境が登場する。もちろん、MacintoshやOS/2、UNIX ワークステーションも存在を無視できない。サーバーという観点では、Windows NT Serverは健闘している。NetWareサーバーやOS/2 Warp Serverは徐々に勢力を失い、UNIXサーバーの領域はもちろん、オフコン市場やミニコン、ホスト環境までターゲットに入れている。
マイクロソフトの戦略や思惑は別にして、企業の情報システム部門の担当者は頭を抱えているようである。先日もあるユーザー企業の担当者と打ち合わせする機会があったが、OSにしろ、アプリケーションにしろ、1年以内に新しいバージョンが投入され続けている現状をどうクリアしていくかが最大の問題点のようであった。もちろん、PCなどのハードウェアといったら3ヶ月で新機種投入というのだから、見積もりを取って、稟議書を起案して、決裁が下りて、納品される頃にはもう新しい製品が出回っているという状況である。
企業の中でも先進性を尊ぶ新物好きの技術者は、マイクロソフトやロータスなどのメッセージに忠実に新製品をどんどん投入したいと考える。実際にローカルな環境に導入して評価を進め、自社内のソリューションを提案していく。ところが、製品購入の実権を握っている管理者にとっては、サイクルの早い製品のリプレースは必要性を感じない。満足に一つの製品を使いこなせないうちに、新しい製品を投入しても無駄だと考える。「現状動いている製品を何故リプレースする必要があるのか」という質問にきちんと答えられる技術者は少ないのではないか。
実際のところ、Windows NT 4.0が登場したからといって、すぐにリプレースを考えることは危険といえる。OSの根幹部分はバージョンが、3.1、3.5、3.51、4.0と4回目の投入ということもあって安定していると評価できるが、新製品の目玉であるインターネット/イントラネット対応という話は、ほんのこの1年あまりに急に登場してきた機能で、たしかに目を見張る水準に達していると評価できるが、例えばUNIXをベースに構築されている社内のインターネット環境をいきなりリプレースする勇気はないだろう。せめて現状の環境にNT Server環境を共存させて様子を見るのが妥当なところであろう。
クライアントサイドを考えても、1年前のWindows 95のお祭り騒ぎによって結局かなりの数のクライアントが、3.1から95にリプレースされたことは事実である。インストールの容易性やプラグ&プレイ機能は、ユーザーインターフェースの変更による違和感を超えて、ユーザーに大きなメリットを与えた。
しかし、今またすぐにNT Workstation 4.0に変更する必要はあるのか。3.1ユーザーと95ユーザー、NT Workstation 3.51ユーザーでそれぞれ立場は違うが、少なくとも現時点ですぐにリプレースする必要性はほとんどないだろう。新規ネットワーク構築などを別にすると、既存システムのハードウェア資源にしても、アプリケーション環境にしても、ユーザーに対する導入教育など目に見えない費用にしても、リプレースのためには手間と暇、お金がかかる。
ちょうど今年の春ころだったと思うが、マイクロソフトの幹部の方と話する機会があって、そのころ話題のWindows 95の企業導入について、「ゴールデンウィーク明けの5月から夏休みの8月にかけて本格化する」というコメントをもらったことがあった。今回もこのコメントが妥当なところではないだろうか。企業にとっては、4月からの新年度で設備投資予算を確保し、それまでの半年間で企業内システムの見直しとNT 4.0の評価を行い、一気にリプレースをかけるというシナリオができているような気がする。
日本でもNT 3.51のService Pack 5やExchange Server 4.0のService Pack 3がリリースされたが、米国ではすでにNT 4.0のService Pack 2などが登場している。製品出荷から3ヶ月のうちに改訂版が2回もリリースされるレベルということを考えると、企業内での安定稼動を求めるならば半年待つことはむしろ必然のことといえるかもしれない。
Windows NT 4.0の登場を前に、96年11月27日「Japan Windows NT Users Group」(JWNTUG)が発足した。Windowsコンソーシアムも企業間ネットワークという位置付けだが、純粋にNTユーザーが情報を交換するために、自発的にネットワークしたものである。最近、いくつかのアナウンスとホームページの開設、雑誌などでの紹介があって実態が明らかになってきたが、Windowsコンソーシアムと立場の違いを超えて連携していくことができたらいいと思う。
実質的にコンソーシアムは企業間の連携、ユーザーズ・グループはその中のパワーユーザーの連携という色彩が強いが、Windowsを支えているのはほとんど同じである。コンソーシアムとしてもマイクロソフトのソリューション・プロバイダー企業だけでなく、一般のユーザー企業の方々も数多くいるし、日本語情報が少ないという問題をマイクロソフトの協力の下、テクニカル・セミナーなどを通していち早く提供してきている。
ホームページや雑誌付録のFAQの内容を見ても、初心者的な内容からパワーユーザーを満足させる内容まで幅広くカバーしている。組織の枠にとらわれずに組織化していくというむつかしい立場ではあるが、どういう方向でまとまっていくのか興味を持ってみていきたい。
96年11月のテクニカルセミナーで、Visual C++ 4.2の話をさせていただいたが、会場の都合などで十分に満足できるデモなどができなかったのは残念である。その時も簡単に触れたが、「ActiveX Template Library」(ATL)は今後のCOM/DCOM開発を進めていく上で、非常に大きな意味を持っている。
マイクロソフトにとって今後のActive Platformの中で、サーバーサイドを固めるActive Serverにとってミドルウェア的に大きな意味を持つ「Microsoft Transaction Server」の日本語版ベータの配布が始まったが、その説明会の席でもCOM/DCOMがすべての根幹をなすという説明がなされている。COM/DCOMでアプリケーションを書き、Transaction Serverを利用して、ネットワークの位置やプロセス・スレッド・メモリなどのシステム資源を意識せずに、分散環境でのアプリケーションとして稼動させることができるようになる。
同席したマイクロソフトの方からも「97年の開発者の課題は、COM/DCOMを理解した上で、ATLを利用してActiveXアプリケーションを開発すること」というコメントをもらっている。近いうちに改めてこのあたりのオブジェクト・アプリケーション開発に関するセミナーを実施してもらうように働きかけているので、興味のある方は注目していてもらいたい。
Visual C++ 5.0, Visual Basic 5.0, Visual J++ 1.1, Visual InterDev 1.0といった次期Visual Tools群の紹介も来月あたりにはしたいと思っている。
米国のMS社ホームページでは、Windows NT 5.0に向けた戦略的コンポーネントが続々と登場してきている。Cairoと呼ばれたWindows NT 5.0の核をなすといわれた「Microsoft Distributed File System」(DFS)なども登場してきている。以前にも紹介したが、マイクロソフトはこれからさまざまな戦略的コンポーネントを順次投入し、Windows NT 4.0上で稼動させ、最終的にそれらをパッケージ化してWindows NT 5.0として発売する戦略である。早めに新しい機能を体験できるとともに問題点を摘出し、製品レベルでの安定化を図っていく。
この原稿が日の目を見るのは97年1月中旬だが、その頃にはもっと新しい情報が開発者の頭を混乱させていることだろう。ますます情報の整理が大切になってくるだろう。とりあえず今日はまだ96年なので、「Merry Christmas and a Happy New Year...!」ということでワープロを閉じたい。
富士ソフトABC株式会社 技術調査室 室長
(yamamoto@fsi.co.jp)
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