アメリカのマルチメディア著作権判例 (第3回)

マックス法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 齋藤 浩貴


オンラインサービス業者の責任

1.はじめに

 マルチメディア技術とインターネットなどのネットワークの発達により、デジタル化 された映像、画像、音声など様々なコンテンツがネットワーク上を行きかうことになる。 こうしたコンテンツの多くは著作権法によって保護される著作物であり、著作権者に許諾 を得ずにネットワークを通じてこれらのコンテンツをやりとりすると、複製権や頒布権(日 本では送信権)の侵害となる。
 したがって、ニフティ・サーブのような会員制オンラインサービスに無許諾で他人の 著作物をアップロードした者が複製権や頒布権の侵害者となることはまちがいないと考え られる。しかし、実際に無許諾アップロードがあった場合に、どの会員がアップロードし たかを調べることは著作権者にとって必ずしも容易ではないし、次から次へとそのような ことをする会員が現れると、モグラ叩き状態にもなりかねない。そこで、著作権者として は個々の会員ではなく、オンラインサービス業者に著作権侵害の責任を負わせることを求 めるところとなる。
 このように、オンラインサービス業者の提供するBBSサービスに無許諾アップロード が行われた場合に著作権者がオンラインサービス業者を著作権侵害で訴えた事件の判決が アメリカでは2つ出されている(日本では、このような事例についての判決は今のところ ない)。これらの判決について以下で紹介する。


2.プレイボーイ・エンタープライズ社対フレナ事件

 このような事案について最初に出された判決は、1993年12月のフロリダ州の連邦地方 裁判所によるプレイボーイ・エンタープライズ社対フレナ(Playboy Enterprises, Inc. v. Frena) 事件判決である。

(1) 事案の概要
 被告ジョージ・フレナは、フロリダで「テックス・ウェアハウス」という名のオンラ インサービスを運営していた。フレナのサービスは月額25ドルの会員制有料サービスであ り(ただし、フレナの製品を購入した者は無料)、アダルト・コンテンツのBBSもサービ スの一つにしていた。会員は自由にBBSに画像等をアップロードでき、アップロードされ た画像等はすぐに会員すべてによりダウンロードできるようになっていた。このBBSに、 ある会員によって、有名な雑誌プレイボーイの掲載写真が170枚ほどアップロードされた。 アップロードされたこれらの写真のファイル名には、原告プレイボーイ・エンタープライ ズ社の登録商標であるPLAYBOYやPLAYMATEを含む名称が使用されていた。もちろん アップロードした会員は著作権者からの許諾を得ていない。
 そこで、プレイボーイ誌の出版社である原告プレイボーイ・エンタープライズ社が、 著作権侵害及び商標権侵害を主張してフレナを訴えたのが本件である。
 フレナは原告の請求を受けるまで、会員によってこのようなプレイボーイ誌からのア ップロードがなされていたことを知らず、原告が訴えを起こした後は、これらのファイル をすべてBBSから削除し、2度とプレイボーイ誌からの無断アップロードが行われないよ う監視している。

(2) 判決の内容
 裁判所は、フレナ自身がアップロード行為を行ったのではないにも関わらず、被告フ レナが被告の頒布権及び展示権を侵害したと判示した。
 裁判所は、「被告フレナが著作物の無許諾コピーを含む内容を提供していたことに争 いはない。被告フレナは自分でコピーしたのではないと主張するが、それは本件の判断に 影響を及ぼさない」として、BBSに画像がアップロードされていれば頒布権及び展示権の 侵害の成立のためにはそれで十分で、被告自身がコピーしたかどうかは問題ではないとし た。
 また、フレナに原告の著作権を侵害する意図がなかったとしても、そのことも本件の 判断には関係ないとした。裁判所は、「被告フレナは、著作権侵害の事実を知らなかった かもしれないが、そのことは問題とはならない。著作権侵害が認定されるためには侵害の 意図は必要ではない。…何も知らずに侵害行為を行った者も侵害行為の責任を負う」と述 べている。
 被告は、フェアユースを主張したが、この主張も却下された。連載第1回のソニー判 決の解説でも説明したとおり、フェアユースかどうかの判断に当たっては、条文上次の4 つの要素が考慮されるべきものとされている。(i)当該使用が商業的なものか非営利の教育 目的なのか等、当該使用の目的及び性質、(ii)当該著作物の性質、(iii)当該著作物の全体に対 して、使用された部分の量及び本質性、(iv)当該著作物の潜在的市場又は価値に対する当該 使用の影響。
 本判決では、第1の要素については、ソニー判決を引用して、本件の使用は商業使用 であるから、被告に不利に働くとした。
 第2の要素については、原告の写真は、フェアユースの認められにくいファンタジー や娯楽に属する著作物であるとした。
 第3の要素については、プレイボーイ誌では写真が質的に重要な部分を占めていると した。
 第4の要素については、問題となっているような違法アップロードは原告の潜在市場 に悪影響を及ぼすと判断した。
 以上4つの要素はすべて原告に有利に働くので、フェアユースは認められないとした。  なお、裁判所は、商標権についても、ファイル名への無断使用により、フレナが原告の PLAYBOYとPLAYMATEの商標権を侵害したものと判示している。商標侵害についても、 これらの商標を写真につけたり、これらの商標のついた写真をアップロードしたのはフレ ナ自身ではないということは、侵害の成立の妨げとはならないとしている。


3.セガ・エンタープライズ社対マフィア事件

 プレイボーイ判決に続いて1994年にカリフォルニア州の連邦地方裁判所で出されたの がセガ・エンタープライズ社対マフィア(Sega Enterprises Ltd. v. MAPHIA)事件判決であ る。この判決は、プレイボーイ事件とは異なり、被告のオンラインサービス業者の悪性の 高い事案に関する判決である。

(1) 事案の概要
 被告は、「マフィア」という名のBBSを運営していた。このBBSは、会員がセガの販 売するゲーム機用のゲームソフトをアップロードし、自由にダウンロードできるようにし ていた。アップロードされたゲームのファイル名には、セガのゲームであることが明示さ れていた。マフィアの運営者である被告は、セガのゲームソフトのアップロードが行われ ていることを知っていたにとどまらず、セガのゲームソフトをアップロードすることを会 員に奨励していた。そればかりでなく、被告は、セガのソフトが格納されているROMカー トリッジからソフトをハードディスク等にダウンロードできるようにする機器の販売まで 行っていた。被告は、この機器を購入した者に対しては、10メガバイトのゲームソフトを BBSから無料でダウンロードできるという特典を与えていた。

(2) 判決の内容
 被告マフィア自身がセガのゲームソフトをアップロードしていたという証拠はないに も関わらず、ゲームがBBSにアップロードされ、ダウンロードされていることを被告は知 っており、これを奨励していたという事実から、裁判所は、被告が「寄与的侵害(contributory infringement)」をなしたことになると判示した。寄与的侵害とは、ソニー判決で説明したと おり、被告が直接的には著作権侵害行為を行っていない場合であっても、被告が侵害行為 を知りながら他者の侵害行為をそそのかしたり、引き起こしたり、又は実質的に寄与して いる場合にはその侵害行為に加担した責任が問われるという法理である。
 寄与的侵害の成立のためには、被告が侵害とされる行為から経済的利益を得ていなけ ればならないが、裁判所は、サービス利用料、機器の購入者に与えられる無料ダウンロー ド特典等から、被告が経済的な利益を得ていると判断した。

(3) フランク・ミュージック社対コンピュサーブ社事件
 会員制のオンラインサービス業者について判決に至ったのは上記の2つだけであるが、 MIDI形式のデータのアップロードが問題となった注目すべき事件に大手オンラインサー ビスのコンピュサーブが被告となったフランク・ミュージック社対コンピュサーブ社事件 がある。この事件は和解で解決している。
 この事件は、「アンチェインド・メロディー」など900にのぼる楽曲の著作権が、コ ンピュサーブの会員による楽曲のアップロードとダウンロードにより侵害されたとして、 楽曲の著作権を集中管理する音楽出版社である原告フランク・ミュージック社とハリー・ フォックス・エージェンシーが、コンピュサーブを訴えたものである。
 原告は、コンピュサーブが会員へBBSサービスを提供行為は、(i)原告が著作権を有 する音楽の著作物の実演を会員がコンピュサーブのデータベースにアップロードするこ とを許諾していることにより、かかる実演の無許諾の収録を許諾し、援助し、共同して実 行していることになり、(ii)コンピュサーブのデータベースに(会員によってアップロード された)原告の著作物の無許諾の録音物を収蔵していることになり、(iii)このように収蔵さ れている原告の著作物の実演を会員がダウンロードするのを許諾したことにより、かかる 実演の無許諾の再収録を許諾し、援助し、共同して実行していることになると主張した。
 さらに原告は、コンピュサーブは「電子掲示板に収蔵されダウンロードされるコンテ ンツの性質についてコントロールを及ぼして」おり、コンピュサーブは「電子掲示板に収 蔵されダウンロードされるコンテンツの性質について実際に知っていたか、合理的な努力 により確知することができた」のであり、コンピュサーブは「そのコンピュータデータベ ースに原告の著作物がアップロードされ、収蔵され、そこからダウンロードが行われるこ とを実際に知っていたか、合理的な努力により確知することができた」と主張した。
 この事件は、昨年11月に和解で決着している。報道された和解内容によると、コンピ ュサーブは、著作権侵害の責任を認めてはいないが、和解金を支払うことにしたというこ とである。和解金は関係する音楽出版社間で分配される。
 コンピュサーブは、この和解を契機として、ハリー・フォックス・エージェンシー等 とコンピュサーブへの楽曲のアップロードを許諾する包括的なライセンス契約の交渉に臨 むとのことであり、今後のこのような紛争の事前の解決の一つの方法として注目される。

 以上に紹介した事件は、いずれも会員制のオンライン・サービスに関する事件である が、オープンなインターネット環境におけるインターネット・アクセス・プロバイダーの 責任について論じた判決について次号で紹介する。


    Contents         Windows Consortium ホームページ