最新Windowsソフトウエア事情(第15回)    

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄  

情報技術支援による新しい教育

――テラハウスのこころみ――

 中央線で通勤されている方は東中野の駅前を注目して欲しい(新宿方向に向かって左側)。4月中旬オープンの予定で11階建ての新しいビルが建設中である。これは大手専門学校の東京工科専門学校の新校舎である。図1はこの学校のインターネットページ上に掲載されている校舎の写真である(URLはwww.rim.or.jp/terahouse/tera.htm)。じつは私はこの新校舎に共同の研究室をもらうことになっている。来年4月には筑波大学を離れて国家公務員という厳格な身分を断ち切る決心を固めた話は会うひとごとにPRしているが、「高橋も大学に飽きて専門学校へ栄転するのか?」と思われるかもしれない。もちろん、私自身は大学よりもむしろ専門学校でやる気のある若者と一緒に新しい情報技術を勉強することにも大いに関心がある。しかし、それはもう少し年をとってからということにして当面はやはり、情報技術の可能性を中心とした社会人(ビジネスマン)教育を行ってみたい。パソコンやネットワークはまさに、これからが一般ビジネスマンにとって仕事の上で大きな役割を果たすと考えられるからである。

図1

 新校舎の2階では社会人向けの情報教育を柱とする新しい構想にもとづく教育が始まろうとしている。それは専門学校の母体である小山学園(小山自動車学校で知られている)が将来における社会の生涯学習(あるいはコンカレント学習)に対するニーズを感じ取って設立したICA(Institute of Carrier Advancement)が開始する新しい教育システムである。最近はパソコンの急速な普及につれて街のパソコン教室が急増している。しかしそこで教育される内容はやれインターネット入門だ、やれWindows95入門だ、やれ一太郎入門だ、といったようにいわゆるパソコンソフトのハウツー教育にすぎない。しかし、パソコンをはじめとする情報技術は「単なるツール」でありそれ自体が目的であるというのではない。ワープロソフトを使えるようになったからといって文章がすらすら書けるようになるわけではない。それは現在執筆中の原稿のことを考えてみればよくわかる。毎月、「もう締め切りなの!」とせかされて書いている原稿はその基本は材料(ネタ)探しであり、ワープロソフトはようやく探し出したネタを料理する道具にすぎない。
 テラハウスはワープロ、表計算ソフトなどの情報リテラシー教育を出発点としながらマーケティング、財務、企画などさまざまな業務の中で、情報技術を必要とする問題の状況を見いだし、そのための分析ツールとしてパソコンを有効活用していくことを実践する場をめざしている。たとえば、SASやSPSSなどの統計ソフトによる需要分析、MapInfoなどのマッピングソフトによる商圏分析、PowerPlayなどのデータウェアハウスソフトによる情報分析などを具体的な問題状況に即して実践してみるといった講義が予定されている。こうした試みは私にとって見逃せない魅力を備えている。たまたま、小山学園の副理事長が高校の先輩であったこともあり、私もさまざまな面でアドバイスすることになっている。そのために共同の研究室利用の便宜を図ってもらうことになったのである。
 さて、そんな話が何の役に立つのと思われるかもしれない。しかし、コンソーシアムのみなさんにとっても大いに関係があると考えたい。正直なところ、ワープロソフトや表計算ソフトなどのメジャーなソフトをちょっと離れると「こんなソフトもあったの!」といったようになかなか人目にふれにくいソフトも少なくない。これは日本だけでなく英語版ソフトの世界でもそうである。たとえば、第一回で紹介したようにCD-ROM版のデータベースソフトによれば英語版Windowsソフトの本数はすでに1万3千本にも達しており、それらは76のカテゴリーに分類されて情報が収録されている。そしてその中にはビジネスマンの多様なニーズに対応したソフトが数多く含まれている。日本でもWindowsソフトの本数は急速に増えているが、街のパソコン教室で取り上げられるソフトはそのごくごく一部である。大多数のソフトにもっと目を向けそれらの中からビジネスマンにとって有効と思われるソフトを教育の場に引き出すことを行ってみたいのである。もし、みなさんの製品の中で上記のようなICAの課題に適したソフトがあればぜひ、声をかけていただきたい。なお、テラハウスの教育内容などについて詳細を知りたければ上記のインターネットページを参照して欲しい。
 テラハウスでは新しい試みを始めようとしている。それはロータスNotesを使った教育である。専門学校生に対しては全員ノートブックパソコンを購入させLANカードとNotesのクライアントをインストールする。教室や図書館(電子図書館。書籍だけでなくネットワークを通じて各種の情報へアクセスできる)には定員分の情報コンセントが備えてあり、学生は教室に入るとすぐに床のコンセントにノートブックパソコンを接続して学内LANに入る。教材の多くはNotesサーバーに置いてあり、それらを使った教育が行われる。また、学生の質問や先生からの回答はNotesデータベースに収録され、情報共有の環境のもとで学習を進めることができる。Notesはネットワーク上の協調作業を支援するグループウェアソフトの本命として世界的な注目を集めており、教育の世界でもその応用が試みられようとしている。たとえばニューヨーク市立大学ではバーチャルカレッジとよぶネットワーク上の教育システムを試みており、そのインフラとなっているのがNotesである。
 日本においても今年3月、Notesの最新版(Release 4J)がリリースされた。また、昨年、ノーツコンソーシアムが発足し、私も顧問の一人となっている。学校教育だけでなく、企業活動におけるグループウェアの可能性、これもまた私にとってもっとも重要なテーマの一つである。その実践的な研究の場としてテラハウスを考えていることはいうまでもない。それはともかく、今回のソフト紹介はこのNotes最新版の画面例になることは当然の筋書きである。ただし、この最新版は勉強を始めたばかりなのでごく簡単な説明しかできない。いずれテラハウスでの実験などをふまえた詳細を紹介したい。

図2

図2はNotesを起動した直後に表示されるワークスペーストよばれる画面である。ここにはさまざまなデータベースがアイコンの形で並べられている。その一つ(食い道楽)を選択してみると図3のような画面が表示される。これは各地のおいしいお店に関する情報を収録したデータベースであり、図のように画面右側に情報一覧、そして選択された特定の情報の内容が画面下段に表示されている。情報の内容はトピック、カテゴリ、地域などのフィールドに加えて最下段には自由形式で情報が記述してある。ここには図や写真などをまじえることもできる(リッチフィールド)。またあわせてファイルを添付することもできる。このようにNotesデータベースは通常のデータベースと違って自由な形式、内容で情報を維持できる。

図3

 図の左上にはフォルダーとビューの表示が見える。これはデータベースに収録されている情報を自由な視点にもとづいて整理して参照するためのビュー機能である。あらかじめ用意されたビュー(いまの場合はカテゴリ別、作成者別、地域別)に加えて自分で自由な視点(ビュー)を設計できるのでお仕着せでないデータベース利用が可能となる。Notesは情報共有のツールである。そのためには一つの情報を見て関連した情報を自由に追加できる必要がある。

図4

 図4では画面上段の作成メニューから「返答」を選択し、画面下段のようなフォーム上で関連した情報を入力するとそれがデータベースに追加される。ネットワーク上のサーバー上に自由形式(あるいは非定型)のデータベースを構築し、その上で情報を共有していく、それがNotesの基本的な機能である。もちろん、図の作成メニューからわかるようにメール機能も用意されている。

図5

 図5はNotesのメール機能をためそうとしているところである。ここには既製のメール用フォームも用意されており、電話メッセージなど定型的なメッセージは簡単に作成できる。図6は電話メッセージフォーム上でメールを作成しているところである。メッセージは画面上段の送信ボタンをクリックすることで送信できる。送信にさいしてはセキュリティのために署名や暗号の機能も用意されている。また、画面下段には送信の優先度や受信確認などの機能も見える。

図6

 Notesの重要な特徴として分散データベースをあげることができる。社内の各部署あるいは遠隔地(支社間)などにデータベースを分散しておくことによってサーバーの負荷の集中をさけることができる。分散されたデータベースの間は自動的に情報の更新がなされる。データベースはまたパソコン上のハードディスク上にレプリカ(複製)を置くことでネットワークから切り離してNotesデータベースを利用できる。たとえば、移動中の車中でメールを読んだり、返信の作成や送信の操作を行い支社についてネットワークに接続すると自動的にパソコン上のレプリカとサーバー上のデータベースとの差分が更新され車中で送信したメールも実際に送信される。
Notesの学習ははじめたばかりであり、近くロータス社内の研修コースに参加して学習を進めようとしているところである。その成果については機会をあらためて紹介することにしたい。

(筑波大学大学院経営システム科学 教授)

  

奇獣彫刻、神話空間への招待
文京区窪町東公園カイザースラウテルン広場にて
(向こうに筑波大学学校教育部がある)


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