「Active Xは第三世代のパソコンOSか」
  The Microsoft Professional Developers Conference報告

副会長 下川 和男


■ マイクロソフト インターネット会議
 3月の12日から14日まで、久々にThe Microsoft Professional Developers Conference(PDC)が開かれた。場所は、サンフランシスコのモスコーニ・センター。4年前の1992年7月に、「Windows NT」をテーマに開催されたPDCと同じ場所である。そして、今回のテーマはいわずと知れたインターネット。サブタイトルとして「Building Internet Applications」と大きく書いてある。
 PDCは、以下の通り何かテーマがある毎に不定期に開催されている。右の数字は参加人数である。今回は93年のNTとほぼ同数。最近のWindowsの普及を考えると、10,000人くらい集まってもおかしくないのだが、その理由は後述する。日本からはマイクロソフト株式会社(MSKK)のツアーで20数名、私のようなフリーの参加者を含めて75名ほどが参加した。
 95年1月から今月までの14ヵ月間、マイクロソフトはこれといって開くテーマもなく、また何の危機感もなく活動していた。しかし、この1年少しの間にインターネットやWWW、Netscapeなど、マイクロソフトのあずかり知らぬ世界がどんどん広がってきた。Netscape社などは、2年前にすい星のごとく現れ、またたく間にブラウザーの業界標準となってしまった。

  1991年8月 Windows 3.1 PDC Seattle 2,000
  1992年7月 Win32 PDC featuring Windows NT San Francisco 5,000
  (1993年5月 OLE 2.0 Developer Conference Seattle 2,000)
  1993年12月 Win32 PDC featuring Chicago Anaheim 5,000
  1995年1月 Microsoft BackOffice
  1996年3月 Building Internet Applications San Francisco 5,000

 これに対してマイクロソフトは、昨年12月、従来のインターネットへの対決姿勢を改め、インターネットの世界に数々の無料ソフトウェアを抱えて乗り込んで来たのである。
 緊急開催された今回のPDCは、初日に5000枚のチケットを完売し、当日券もなくなってしまった。


■ devonlyとMBONE
 devonlyを知らなければ、Windows技術者としてはモグリである。以前、「MSDNを見たことないヤツはWindows技術者として失格」とどこかの雑誌に書いて読者に叱られたが、devonlyはMicrosoft Developer Network(MSDN)の延長線上にある技術情報の提供ルートである。全世界のディベロッパーに同時に同レベルで、しかも低価格に技術情報を配布するMSDNの仕組みも快挙であるが、マイクロソフトのWebサイトhttp://www.microsoft.comにあるFor Developers Only(/devonly)やInternet Development Toolbox(/intdev)も、誰でもアクセスして無料で情報が入手できる手段として、Windows技術者に歓迎されている。
 今回の参加者が前回と同数なのも、この影響が大きい。PDCに参加しなくても最新情報が得られるのである。事実、会期中、microsoft.com/devonlyを覗くと、PDC On-Line Web Siteが開設され、「今日のハイライト」が見れるようになっていた。
 前回、前々回のような、事前のNDA(機密保持契約)へのサインも今回は無し。インターネットの世界同様、なるべくオープンを心掛けているようだ。また、第1回目のPDCからのお馴染みのキャッチフレーズ「No Neckties. No Sales Pitches. No Beginners.」も消えてしまった。これ自体が制約になるからだろうか。
 オープン化の最たるものが、Virtual Multicast Backbone on the Internet(MBONE)による映像中継だろう。重要なセッションがすべてMBONEで見られたのである。また北米と欧州でサテライトが設置され、そこに集まって見ることも可能である。そのほかインターネット・テレビ電話CU-See Meでも見れると説明があった。
 PDCのプログラムはmicorosft.com/devmovies/movie1.htmに入っている。また、MBONEへの登録は、http://www.mbone.com/techinfo/how-to-join.htmlで行える。基調講演などを、世界中でいながらにして見れたのだが、MBONEは豊かな回線とハードウェアを必要とするので、あしからず。

■ セミナーの内容
 MBONEでも中継さたセミナーを紹介しよう。

3月12日(火)
  8:00- 9:00 Microsoft's Internet Strategy Paul Maritz
  9:00-10:00 Internet Platform - Active X John Ludwig
 10:30-11:30 Internet Client Architecture Chris Jones
 11:30-12:30 Internet Information Server Architecture J. Allard
 13:45-14:45 Internet Development Environment Bob Muglia
 14:45-15:30 Windows - The Year Ahead Steve Madigan
3月13日(水)
  8:00- 9:00 Bill Gate
  9:00-10:00 Internet Applications Cameron Ferroni
 10:30-11:30 BackOffice and the Internet Todd Warren

 このほかMBONEでは見られないが、以下の様なテーマの60ものセッションが、同時に10個の教室で行われた。

 Internet Client Architecture
 Writing a DocObject Server
 Using OLE Hyperlinks and URL Container
 Writing OLE Controls for the Internet
 Visual Basic Scripting
 Programming the Internet Explorer
 ISAPI Programming
 Internet Security Overview
 Digital Media on the Internet
 Beyond Video for Windows
 Active VRML
 Speech API
 Integrating SQL Server to your Microsoft Exchange and Internet
 Merchant Server
 ...

■ 11枚のCD-ROMとフリスビー
 レジストレーションに行って名前をつげるとパソコンで検索してくれて、資料と大きな布のトートバックをもらった。
 中身はCD-ROMが9枚、10cmもあるバインダー、メモ帳、そして今回のスポンサーである、digital(NT Solutions)、MCI(Network)、MOTOROLA(PowerPC)のカタログ類である。おまけにBackOfficeロゴのフリスビーまで入っていた。
 バインダーは60以上のセッションの表紙のみが入っており、会場入り口でもらうPowerPoint三段組み出力のテキストを挿むようになっている。InternetとWin32についての10数頁の用語集がついており、IP、ISDN、router、NTFS、IRQ、font set、named pipe、...など数行で解説していて便利である。
 CD-ROMは8枚組に以下のものが入っている。

 Windows NT Server 3.51 and BackOffice 2.0 Setup
 SQL Server 6.0, System Management Server 1.1 and SNA Server 2.11
 Exchange Server (RC2)
 Exchange Clients (RC2) and Internet Information Server 1.0
 Windows NT Server Shell Update Release beta
 Win32 Software Development Kit
 Windows NT Workstation Shell Update Release beta
 BackOffice Software Development Kit

 つまり、MSDNのレベル3、BackOffice系ツール集である。レベル3は日本でも始まっているので、お金さえ払えば誰でも入手可能である。
 そのほか、Internet SDKという二枚組があり、これは今回のPDCオリジナルである。一枚しか入っておらず、最終日にInternet Explorer 3.0(IE3)βが入った追加CDが配布された。また、最終日にはもう一枚、全セミナー資料のPowerPointファイルやサンプルコードなどが入ったCDも配布された。

■ NTとOLEのプレ・コンファレンス
 前日の月曜日、朝8時から夜10時までという過酷なスケジュールで、徹底解説のセミナーが行われた。1000人近くがテーブル付きで入れる大きな部屋で、以下の2トラックが行われた。

  8:00-18:00  Introduction to COM, OLE and OLE Controls
         Writing a Great NT Service
 18:15-22:30  Developing with Windows Sockets
         MFC Overview

 昼間の部は、COM/OLEが満員であった。NTは次バージョンの4.0の話が中心であった。
 参加者は技術者ばかりなので、質問も多い。45分くらいの説明が終わる毎に、講師が壇上から下りるのをたくさんの人が待っている。そして輪ができ、熱心な討論が続くのである。

■ Paul Maritzの基調講演
 今回の最大の収穫は、彼の初日のキーノートであった。真面目で率直な彼の語り口で、参加していたプロの開発者は皆、好感を持ったようである。
 1960年代のヒット曲、Steppen Wolfの「Born to be Wild」が流れるなか登場した彼は、先ずこう切り出した。「PCとインターネットを融合します!、コンピュータの革命です」
 「Computer Revolutions」と題するスライドには、以下のように書いてあった。

The PC 革命:
    低価格のProcessors+MS-DOS+Spreadsheet
The Internet 革命:
    低価格のConnectivity+TCP/IP+Web

 低価格Connectivityが日本では完全に遅れているが、米国はこの通り情報革命が進行中である。そして、「Microsoft and The Internet」と題したスライドでは、「我々は、変化を認識した」とあり、「Webはコミュニケーション革命の最初の主要技術」、「もっと高速に物事が進んでいる」、「Windowsだけの問題ではない、他のプラットフォームも重要」とある。
 マイクロソフト社のソフト開発の最高責任者に「我々が考える以上に、高速に物事が進んでる」と言わしめるインターネットとは、いったいどんな化け物なのだろうか。
 また、「他のプラットフォームも重要」ということを強調していた。Webサーバー上のコンテンツを、各種のプラットフォームで動くブラウザーソフトで取り出せば、それで良いのである。「Windows!、Windows!、Windows!」と合唱する時代は終わったのである。
 マイクロソフトがインターネット戦略を変更したのが、昨年12月、そして、今回のPDCではその具体的な製品が多数紹介されたが、「なぜ戦略を変更したか」まで、これほど素直に説明した会社が過去にあっただろうか。
 10数年前、コンピュータを牛耳っていた巨大メーカーなら、「方向転換」ではなく「別の提案」として提示したと思う。複数の提案をして、たくさんのプロジェクトを走らせ、ユーザーや市場の判断に任すのが、シェアを取った会社の常套手段である。
 しかし、今回マイクロソフトはその方法をとらなかった。正しいものが何かを見極め、そのただ一つの方向に開発者を導いたのである。自分の現在の戦略を捨てる事、選択肢を開発者やユーザーに与えない事など、若い会社でなければできないことである。Paul Maritzの提案をBill Gatesが受け入れたのも、彼が若かったからだと思う。そして、全社一丸となって、PC+Internetの世界に突入したのである。
 Maritzの方針変更をBill Gatesはすぐに受け入れたと思う。なぜなら、インターネットこそが、「Information At Your Fingertips」の基盤だからである。

 彼のキーノートでは、新組織も説明された。

 Deasktop Business System   Jim Allchin
    Windows - Client and Server
 Internet Platform and Tools  Brad Silverberg
    Browser, Shell, Multimedia
    Tools
    Commerce Server
 Consumer Platfprms   Craig Mundie
    Non-PC(handhele,settop, etc)
    Solutions for network operators

 Silverbergは、Windows 95の開発責任者である。つまり最強の布陣を引いてソフトウェアを作っている。これを受けて、MSKKもOEM営業を長らく手がけていた大浦さんの下にインターネット事業部を作った。
 Maritzの話の中で、NeXTのWebObjectが紹介されSteve Jobsが壇上に現れたときには、拍手喝采であった。WebObjectは、ホームページ内の情報をダイナミックに更新する技術で、NeXTのサイトから評価版を取り出すことができる。
 この前の週に、同じ場所で3700人が参加してNetscapeのデベロッパーコンファレンスが開催されたが、そこでのスピーチを彼は断られたとのこと。マイクロソフトに打診したら、快く引き受けてくれて、今日、この場にいるとJobsは話していた。

■ ActiveX
 Maritzやそれに続く初日のセミナーで、AcitveXという聞き慣れない単語が飛び出した。マイクロソフトの最優先製品であるIE3はActiveXのクライアントになっており、ActiveXコントロールを組み込むことができる。Active VRML、Active Movieなどがすでに用意されており、ActiveX Scripting、Active Documents、ActiveX Serverなどという言葉も使われている。
 簡単にいうと、ActiveXはOLEをインターネットの領域まで拡張したものである。
 どうもこれは、DOS、Windowsに続く、次世代OSのような気がする。何を言っているかというと、こんな風に見えるのである。

 第一世代   MS-DOS      ディスクの管理
 第二世代   Windows     GUI、画面の管理
 第三世代   ActiveX     オブジェクトの管理

 MS-DOSはその名の通り、当時、一番大切な資源であったディスクを管理するOSであった。システムコールの大半はディスク関連のサービスを行っていた。
 Windowsも3.0/3.1の時代は、グラフィック・ユーザー・インターフェイスや、書体、サイズが指定できるフォントなど、画面や印刷の見栄えを良くしてくれた。
 しかし、OLE2、MFCなどの出現により、Windows 95あたりからは、OSとしてサービスすべき事が、より高度になっていったのである。サーバーやネットワーク上に点在するオブジェクトを統合して表示したり、操作する仕組みである。
 マイクロソフトは、このような機能を行うソフトウェアの層に対して、単に「オブジェクトをリンクしたり埋め込んだりします」などという名称ではなく、ActiveXという抽象的なネーミングにして、その守備範囲を広げたのである。
 MS-DOSの前にCP/Mがあり、Windowsの前にMac OSという成功例があった。ActiveXにはTaligent、PenPointなどの失敗例しかない。マイクロソフトという会社ができて20年、気づいてみたら、彼らはソフトウェア・テクノロジーの先頭を走っていた。だからこそ、今回、方向転換を行い、市場のニーズに自らを合わせ、未知の領域にフルパワーで踏み込んだのである。

■ VBとVB Scriptの間のJakarta
 Paul Maritzの基調講演のツール類の紹介で、以下の製品が並んでいた。

    Office
    Front Page
    Internet Studio
    VB Script
    Jakarta
    Visual Basic
    Visual C++

 Jakartaは、このPDCで発表された製品である。Java島を含むインドネシアの首都を開発名称とするこのツールは「Visual Java」。エディタ、GUIデバッガー、高速コンパイラ、クラス・ブラウザーなどが入っている。これのランタイムはIE3のActiveXスクリプトやCOMをサポートしている。
 Chicago以来、開発名称は地名が続いている。年内出荷のインターネット機能強化版Windowsが「Nashville」、来年出荷される大幅改訂版Windowsが「Memphis」とアメリカ南部の地名である。なぜか、Cairoも含め、暖かな地域が多い。
 また、MFCもInternet Information ServerやActiveXなどのサポート機能がどんどん追加され、年内にバージョン4.1、4.2、4.3までが予定されている。

 Jakartaのセッションは、予定には無かったが、急遽二回行われた。2000人は入る大きな会場が8割ほど埋まっていた。
 若い三人の技術者とそのボスが説明を行い、延々と30分以上、様々な質問に答えていたが、三人とも自信にあふれている。今回、200名ほどのシアトルの技術者がスピーカーとして名を連ねているが、マイクロソフトの技術者の層の厚さは、すごい。
 IE3にしても、このJakartaにしても、若い連中が短期間に確実にソフトウェアを作り上げている。そして、20年間の歴史で培われた、品質検査やドキュメンテーション、サポートなどの知識を考えると、ソフトウェア開発力で、彼らを凌駕する会社は永遠に現れないと思う。

■ Ken Fowlesの多国語Web
 Maritzの基調講演に、日本でお馴染みのKen Fowlesが登場した。肩書きがInternet Explorer Program Managerに代わっている。以前、DRG(Developer Relations Group)で漢字圏の国々を担当していた人である。アジア圏や漢字の専門家が、なぜブラウザーの担当になったかというと、「ワールド・ワイド」Webだからである。
 彼は、IE3のβを動かして、asahi.comや韓国のハングルがたくさん入った新聞を5000人が見守る巨大な5面のスクリーンに映し出した。会場から「Oh!」という歓声が上がった。asahi.comの漢字の紙面を見ても、日本語Windows 95を使っている日本人には何の感動もないが、US版のWindows上で漢字やハングルが表示されるのは、たしかに快挙である。
 IE3には、OSのレベルではなく、ブラウザー・アプリケーションのレベルで漢字TrueTypeフォントを表示する機能が入るとのこと。漢字が読めない人でも、URLをクリックしたらゴミのような英数字が出るより、正しい漢字が出て欲しいはずである。日本語Windowsで、フランスのサイトを見たときに、所々に妙な漢字で表示されるより、アクサンテギュやアクサングラーブ付きのアルファベットが正しく表示されて欲しいと思うのと同じ心理である。
 それに、日本語や中国語が達者な欧米人も多い。以前、パーティ会場で中国語と日本語の通訳をしている米国人を見かけたが、漢字が読める人は以外と多い。
 Ken Fowlesが担当する「Multilingual Content On The Web」というセミナーも開かれたが、200人ほどが入る会場に300人近くが訪れ、熱気があふれていた。PDCのCD-ROMには、何と47MBもの各国の漢字TrueTypeフォントがIE3βと共に入っており、Navigator 2.0同様多国語対応になっていることを強調している。
 現在、Web上のデータの80%は英語であり、漢字のサイトは数%しかないが、今後Unicodeを使ったサイトが増加すると予測していた。そして多言語入力や縦書きブラウザー表示なども彼のテーマとなっている。インターネットの普及によって世界がどんどん近づきつつある。

■ Bill Gatesの基調講演
 MBONEで見た方もいると思うが、簡単に紹介しておこう。
 ブルーのお揃いのマイクロソフト・スタッフのシャツを着て登場し、最初のスライドはMaritzと同じ、このPDCの歴史である。

<Bill Gatesのキーノートスピーチ>

    Windows GUI
    Windows NT(32bit)
    Windows 95
    Windows Internet

 まさに、今回のPDCはWindows Internetの発表会である。
 PDCでのBill Gatesはリラックスして、楽しそうだ。日本のWindows World ExpoやWindows Solutionsなどの展示会では、5年も前に考えたことを説明しなければならず、セールスに徹した話ぶりで、Windows NTや95を紹介している。また、恒例となったComdexの基調講演では、業界の指導者として、数年後のコンピュータのあり方や10年後はこうなる!というビジョンを述べるだけのお祭りである。
 それに対して、PDCは自分の今の考え方を説明する場所なので、元気はつらつ、声のトーンもドンドン上がって、楽しそうに話してくれる。
 「The Internet Gold Rush」というスライドまで登場した。革新的なソフトウェアには大きなチャンスがあり、また大儲けができますよとハッキリいっていた。薄い利益ではあるが、数が桁違いに増えるので、利益も増すのである。今回の参加者のいでたちを眺めてみると、以前のPDCより年を取った人が多い。それに、ネクタイも目立つ。開発者ではなく、企業の経営者やマーケティングの責任者などが多数参加しているようである。場所がサンフランシスコでシリコンバレーに近いので、パーソナルコンピュータでひと山、ふた山当てた人が、次を狙って参加している。
 インターネットによって、非常にボリュームの大きな市場が生まれ、エンドユーザーと直接はなしができるので、開発者にも多くのチャンスが巡ってくると語っていた。
 また、次世代のWindows 97の画面も少しだけ見せてくれたが、単一のユーザー・インタフェースで、ファイル、メッセージ、ページ、ドキュメントをアクセスできるようにするとのこと。メッセージとはテキスト、ページとは画像を含むレイアウトされたもの、ドキュメントとはActiveXにより統合された文書である。しかも、ローカル・ファイル、社内LANサーバー、インターネットの先のWebサーバーをシームレスに操作できるのである。コンピュータの操作方法も、可能な限りIEのユーザー・インターフェイスに統一するようだ。
 途中、500万人の会員を誇る米国最大のネットワークサービス会社、AOLの社長も登壇し、IE3をAOLの標準ブラウザーとする、という表明も行われた。このIE3、6月には出荷するとのことだが、Netscape Navigatorが持つ70%とも85%ともいわれている市場をどれだけ奪えるか、皆が注目している。とにかく、インターネット戦略立て直しの最大のポイントがブラウザーIE3の成功である。Internet Explorer(IE)がこの一年間で、3回もバージョンアップされ、Navigatorを追い越そうとするマイクロソフトの組織の柔軟性とソフトウェア開発力には驚かされる。たったの一年である。
 インターネットの普及、そしてそこに載るコンテンツは、今後のネットワークの帯域幅がどのように進化するかに依存している。マイクロソフトでは、以下のように予測している。

Narrow Band   14.4/28.8   Modem,SVD    ◎Text,△Picture
Mid Band    100-400 ISDN,Cable Modem    ◎Picture,△Video
Broad Band   1500+  ATM          ◎Video

 2000年には、1.5Mbpsでビデオが充分見れる環境が整備されるとのことである。

<MicrosoftとAOLに提携発表>

■ ビール片手のPDC展示会
 毎回、PDCは展示会を併設しているが、これが今回は夜の6時半にオープンした。プレコンファレンスも10時半までやっており、展示会は21時半までである。よく社員が働くことで有名なマイクロソフトでは、朝の8時から夜の9時過ぎまでのセッションなど、常識なのであろう。
 出展者も現場の技術者が多く、セミナーを受講者していたようで、熱心に議論しているブースが多い。
 前日がピザ・パーティ、初日は正式なレセプション、二日目がMicrosoft Global Speedwayと題して、ゲーム主体のカジュアルなパーティであった。パーティ会場の隣が展示場となっており、バドワイザーやミラーの小瓶片手の見学者が多い。
 出展は小さなブースが75社。有名どころは、Adobe、Borland、Digital、Intergraph、MacroMediaくらいで、PDCは新製品発表の場ではないので、どのブースもつまらない。日系企業では唯一NECがSpeech APIを使った日本語読み上げソフトを出展していた。
 やはり、無名の会社の製品が面白い。クライアント・システム構築のOCX集やビジネスツール集、Webの状態解析ソフト、ファイヤーウォール・システム、HTMLのエディタ、VRMLのエディタなどが並んでいる。また半分以上の会社がActiveX対応を表明している。
 Mosaicの販売元Spyglassは、豊富なライセンス収入のためか立派なカタログが並んでいた。
 装飾など何もないシンプルなブースと、赤ら顔の議論を見ていると、ここから何かが始まる予感がする。日本では絶対に見れない光景である。
 前回のPDCの展示より活気がある。インターネットという新しい器を得て、小さなソフトハウスにもまたビジネスチャンスが巡ってきたようだ。

■ マイクロソフトの展示内容
 マイクロソフトは、2m×2m程度の小さなブースを6個出していた。MSDN、コンポーネント・ビルダー・プログラム、FrontPage、Interactive Developer、VC++、Visual Basicである。
 Interactive Developerは月刊誌で、マイクロソフトが自ら編集する雑誌としては、Microsoft System Journal(MSJ)に次ぐものである。創刊号を見た感じではInternet技術に特化してMSJとの差別化を行うようで、Sweeper、VB Script、ISAPI、WinInetなどが説明されている。WinInetはWin32アプリで容易にインターネット・プロトコルをサポートするための拡張APIである。ISAPIはその名の通り、インターネット・サーバーのAPIである。
 コンポーネット・ビルダー・プログラムは、VBやVC++を強化するActiveX Control(OLE Control)やDLLを提供する開発者向けの仕組みで、マイクロソフトに新設されたインターネット・プラットフォーム・ツール事業部との共同プロモーションや技術情報の早期提供などを行ってくれる。
 展示はなかったが、配布物の中にBackOfficeロゴプログラムの説明があったので、ご紹介しよう。BackOfficeロゴの取得は、サーバー・アプリ、クライアント・アプリ、開発ツールの3コースがあり、95ロゴ同様、5〜8項目の要件を満たさなければならない。これで、ロゴ・プログラムはWindows 95、Office、BackOfficeの3種類となった。
 Microsoft Interactive Developer(MID)誌は、MSJとデザイナーも同じ人で、MSJより派手目のレイアウトと色使いである。MIDの出版元はMSJのMiller Freemanではなく、Visual Basic Programmer's Journal(VBJ)のFawcett Technical Publication(FTP)社である。この会社、VBJとそのセミナーVisual Basic Insider's Technical Summit(VBITS)で、急速に伸びている。
 VBITS'96は、5月15、16日、新宿の東京ヒルトンで開催と書いてあった。問い合わせ先は3587-0445、FTP社の概要は、http://www.windx.comで知ることができる。
 超優良企業Ziff-Davisもソフトバンクの傘下で、更なる発展を遂げそうだし、コンピュータ系出版社の栄枯盛衰が、インターネット時代になって更に激しくなってきた。

■ http://www.microsoft.com/intdev
 このURLを書いた大きな垂れ幕が、会場にぶら下がっていた。15cmほどのシールも多数配られていた。ここにすべての情報が入っている。今回のPDCのPowerPoint資料から、サンプルソース、ActiveXの開発キットまで入っている。
 マスコミ関係者の、プレスとしての参加も認められ、このようにPDCの紹介記事も書くことが可能になった。
 Steve Jobsのスピーチにもあったように、インターネットの世界をよく理解したマイクロソフトはかなりオープンな姿勢で、PCとインターネットの融合事業を推進している。以下のようなサイトで様々な技術情報が公開されている。

・Microsoft開発者向けサイト
    http://www.microsoft.com/devonly/
・Microsoft Internet Development Toolboxサイト
    http://www.microsoft.com/intdev/
・Microsoft フォント関連サイト(主にUS版のフォント情報が入っている)
    http://www.microsoft.com/truetype/
・Microsoft国際化関連サイト(漢字関連の記述が多い)
    http://www.microsoft.com/devonly/tech/global/
・Microsoft Interactive Developer誌、FTP社、VBITS、VB Programmer's Journal
    http://www.windx.com/
・Addison-Wesleyのソフトウェア開発者向け書籍
    http://aw.com/devpress/

 では、PDCに参加せずにインターネットを眺めていれば、技術情報が得られるかといえば、答えはノーである。PDCは、パソコン通信の会議室が適時開催してるオフライン・ミーティングのようなもので、討論の場所になっている。
 毎日、セミナー終了後、夜の7時から8時までBirds of a Feather (BOF)が各セミナールームで開催されていた。BOFは特定のテーマについて、講師を設けず、フリーディスカッションをする場である。自由闊達な議論が、鳥のように自由に(Free as a Birds)夜更けまで続いていた。

(イースト株式会社 取締役 営業部長)


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