今回は、紀尾井町のニューオータニ ガーデンコートに日本オラクル株式会社 取締役 マ ーケティング本部長 新宅 正明氏をお訪ねし、Windows関連のインターネット製品の開 発、マーケティング、サポートを中心にお話いただきました。
松倉 最近、御社もインターネットに大分力を入れているようですので、今日はインター ネット系を中心にお話いただければ、会員さんの方も興味をもって、ますます力を入れて いただけるのではないでしょうか。特に本誌を見ている方が開発の方が中心ですのでそこ ら辺をお話いただければと思います。
新宅 分かりました。よろしくお願いいたします。
松倉会長、新宅取締役
松倉 Windowsを社内情報システムとしてどのようにお使いですか。
新宅 基本的には作業所(現場)まで全部ネットワークを広げたいと考えております。ところ
が色々と他の業種と違う点が多くあります。現場といっても大きいものから小さいものまであ
りまして、小さいものですと一人の工事長(責任者)が4〜5つの現場を見ているものがざらに
あります。大きいものですと、20人位の配員がいたり、しかもそれがテンポラリーなのです。
工事が完成すると工事現場はなくなってしまいます。泡のように浮いたり消えたりする、それ
に大小ピンからキリまである、ネットワーク化するといってもある一つのパターンを作ってそ
れをワッと広めればよいというわけにはいきません。そういう意味で1台しか置けない所とか、
向こうの中がLANを組んでいてこちらとLAN間接続したい所とか、全然置けない所とかがありま
す。置けない所でも会計処理等が必要ですから、拠点となる所で4〜5つの現場をまとめて処理
するなど、さまざまな形態をとることになります。それが物理的に見える方の特徴の一つです。
二番目の特徴は総合建築業(ゼネコン)というのは、物を作らないことです。サブコンといわ
れる業者に仕事をする場を提供しているだけです。いってみれば管理業務です。最近ホワイト
カラーの生産性をいわれますが、そちらの方の業務が多いのです。品質まで含めて、管理しな
ければならない物の種類が非常に多いということは、情報システム部門から見ればアプリケー
ションの種類が多いということになるわけです。そうすると、今までのDOSのコマンドラインの
インターフェイスでは、いつもいつもその業務だけやるのならいいのですが、一ヶ月にいっぺ
ん使うとか使わないとか、場合によっては着工時にしかいらないというものもあります。そうす
ると次いつ使うのというときに、コマンドラインのインターフェイスでは、いちいちマニュアル
を見ながらやるということはできないですよね。そんなことがあって、やはりGUIの方がいいよ
ねという話しになったわけです。
最初はOS/2のPMでアプリを作りましたが、なかなか開発ツールの問題もあって苦労しました。
そうこうしている内にWindowsがでてきましたので、社内標準としてクライアントはWindowsに
しよう決めた次第です。
松倉会長
松倉 製品群の種類はどうなりますか。
新宅 ここに他社さんが出された資料がありますのでご覧ください。
(図 Source:情報技術研究所 1995/12/26)
松倉 製品の日本語化というのはアメリカでやっているのですか。
新宅 ベースの製品の日本語化はアメリカでやっております。あとは、クオリティを高め
ていき、日本ではベータのテストの参画の段階から入って、出荷基準に達成したと判断し
た製品を出していきます。優先順位がUSをベースにした企業と、日本をベースにしたお
客さまやパートナーで違うところがありますから、我々の製品の開発のために日本のエン
ジニアが30人位向こうにおります。彼らの仕事は質のいい、日本のリクワイアメントに応
えた製品をできるだけ早く出すということが目標です。これは勝手に向こうに任せたので
はうまくいくものではないですから、我々の責任において日本に組織を作り、開発の中に
入り込みます。とくに、NECさんや富士通さんはビジネスユニット、特に製品の開発のた
めのグループを作っています。
新宅取締役
松倉 NTは日本と同じ様にアメリカでも評価が高くなってきていますよね。
新宅 NTはベースのデザインがしっかりしていますから、クオリティとパフォーマンスな
どが進展してくれば、より支持されるプラットホームになると思います。オラクルのいる
立場からみてもマイクロソフトさんのNTのベースプロダクト部門とは非常にコミュニケ
ーションもいいですし、ツールにしても、サーバーにしてもお互いにいい関係で製品化に
協力している感じがします。
松倉 オラクルさんといえば、DBMSメーカーのトップというイメージでしたが、最近は
エンタープライズ用のツールメーカーとしての活動が強い気がしますが。
新宅 設立されたときからデータベースのシェアをトップにしたい、PCを出したときも
PCのシェアのトップになりたい、というようにデータベースが我々の右足の軸です。軸足
をはずすわけにはいきませんから、軸足を固めることを中心にやってきたわけです。もと
もと我々の会社はデータベースやネットワーク関連の製品、それに4GLやCASEのよう
なツールやアプリケーションといったそれぞれのレイヤーの製品を持っていましたから、
それらの製品を日本の市場の進展に合わせて、また我々の体力に合わせて徐々に出してい
ったわけです。昨年にそれがいっせいに花が開いたということです。昨年は一昨年と比べ
ると、まさしく大きな製品の数と質と変化をきたしたオラクルにとって大変記念すべき年
になりました。それは月間1,000近く出荷できるWindows系のDeveloper2000、
Designer2000やPower Objectsなどのツールを出せたということです。今まではUNIX
上のツールしかなかったわけですから。それから、年度後半にはOracle Applicationsとい
う統合化したパッケージを出せたということです。これは年内にはNTへの搭載を検討し
ておりますが、そういうソリューションのビジネスにも展開できたということで、データ
ベースということをベースとして、それに関連する全ての製品群をネットワークという軸
と、開発の役に立つようなツールという軸と、アプリケーションという軸で今後も整備を
更に進めてまいりたいと思います。来年、再来年になりますと、オラクルのデータベース
が持っているオラクルの中での売り上げのシェアが更に小さくなるのではないかと思われ
ますが。
松倉 先週あたり米国オラクルさんから500$パソコンの発表がありましたが、御社のイン
ターネットに対する取り組みについてお聞かせください。
新宅 インターネットはこの半年で大きく様変りをしたのかなと思っています。もともと
はインターネットが出た当時から我々はネットワークの製品を持っているとお話しました
が、その頃から分散系の企業ソリューションとは何なんだろうということが経営課題とな
っていました。クライアントが今までのPC一本でいいのだろうかと、クライアントとい
うのは企業向け、学校向け、一般コンシューマ向けですが、これらは決してPC一本では
ないだろうと。インテリジェンスのあるWindowsまわり、今でいうとWindows95が搭載
されるPCが500万を越えて1,000万台、2,000万台年間出ることはちょっと考えられない
だろうと、更にクライアントの量と質が拡大するためにはもっと違ったアプローチの仕方
がいるのかな、ということが検討されたわけです。そこでラリー・エリソン(米オラクル
社会長兼CEO)がネットワークコンピュータ(NC)というコンセプトを打ち出して、クライ
アントサイドのデザインを一新したいと考えたわけです。そのデザインは比較的誤解を生
むところもあるのですけれど、クライアントは必要なときに必要なデータとプログラムが
稼動する、ネットワークからそれを持ってくる、格納すべきデータもサーバーが管理する、
バックアップとかそういうことを気にしなくてもよい、というような完全なものを作りた
いというデザイン、アーキテクチャです。サーバーの方はデータを転送したり、管理した
り、ユーザーの認識をしたり、バックアップを取ったり、アプリケーションを搭載したり
する、こういうふうにしたらサーバーのビジネスがどんどん大きくなって汎用機がまた、
どんどん売れるのではないかという発想があったわけです。決して汎用機の話ではなくて、
アプリケーションが徐々にサーバーにきますから、三層的にいうとクライアント・エージ
ェント・サーバーというような発想です。
インターネットのビジネスの延長線上にシステムのインフラストラクチャーの発展があ
って、PCとNCが共存しても当然いいわけですから、開発者及びリテラシーの高いユーザ
ーが使うPCの高性能版と、単機能で充分満足のできるNCと共存ができてくれば、更に
クライアント/サーバーコンピュータの世界がもっと広がるのではないかと考えておりま
す。これはインターネットという言葉からNCとリンクさせて製品の体系を用意しようと
いうものです。インターネットは我々から見ると企業のビジネスプロセスの変革をきたす
大きな可能性を秘めているものですから、銀行が銀行でなくなり、NTTがNTTでなくな
ってしまう、それぞれの役分がバーチャルでできてしまう、我々にとっても変化を注目す
るものです。
インターネットを社内で見るイントラネット、一般的に広義でいわれているインターネ
ットを社外で見るコンシューマに向けたインターネット、及び企業間通信のエレクトロニ
ック・コマースの三つをデザインのターゲットに置いていますから、製品群もイントラネ
ット、インターネット、エレクトロニック・コマースこの三つのセグメントに合わせなが
ら製品を作っていく、この三つともOracle 7という我々のデータベースを核に持ちながら、
それとインターネットのテクノロジーと融合するためにOracleのWebサーバーを作って
まいったわけです。これが我々の第一群の製品群で、まず2月20日にSolaris版を出して、
3月中旬にNT版が出てまいります。NT版のWebサーバー、あとはデータベースという
形になって出てきますから、3月から秋口にかけてWebの社内外でのトライアルが行われ
ていくのを期待しております。もう150社以上に貸し出しを進めており、アプリケーショ
ンのイントラネット版・インターネット版のショウケースのようなものが徐々にできつつ
ありますから、電子コマースでないデジタルショッピングみたいな形でのインターネット
のアプリケーションや社内のシステムでインターネットを活用したものが出てくるのでは
ないかと期待しております。企業でいうと情報系(基幹系、勘定処理でない)の7割位の
アプリケーションが新たにツールを使って作るというよりは、インターネットのテクノロ
ジーで簡単に作っていくような環境がもう目の前にきたかなという感じがします。従って
ブラウザーだけでなく、ブラウザーをかぶせるものがもっと出てくると思うのですけれど、
そういうオーサリングツールのようなもの、それからブラウザー、ネットワーク系のソフ
ト、Webサーバー、データベースというような環境でBasic、SQL、C及びJavaなどの技
術を駆使されながら、そういう技術の組合わせがこれから開発者の皆さんにとって非常に
キーのテクノロジーになってくるのかなと思います。オラクルとサン、オラクルとマイク
ロソフト、そういうものを組合わせながら物作りに励まれるところが増えていくような気
がします。
インターネットの業界では、これから通信の問題もあるでしょうが、ネットワークプロ
バイダーの皆さんの淘汰が始まって、ただ単にネットワークをつなぎますという仕事では
なくて、どういうサービスが提供できるのかというところがキーになってきて、限りなく
接続料金もゼロに近づくと思います。その中でどんなサービスをして、どういうアプリケ
ーションを付加すればよいかをよく考えているネットワークプロバイダーの方と、我々の
一番最初に申し上げましたネットワークコンピュータの事業を一緒にやってまいりたいと
思っております。そこにはサーバーが置かれるわけですから、サーバーにはさまざまな企
業向け・家庭向けのアプリケーションが入って、NCがまた販売されているというような
構想で考えております。
松倉会長、新宅取締役
松倉 現在のサポート体制は具体的にはどのようになっていますか。
新宅 そサポートというのは契約でお金を頂戴している所に対するプログラムのバグをフイ
ックスする対策を一緒にご援助して作り上げるような従来のカストマーサポートという体
系とは違うと思います。今は、会員会社向けにオラクル・デベロッパー・グループ(ODG)
というグループを作ってサポートをやっております。そこの拡充が必要だということを今
申し上げました。拡充のポイントは「拡」・「充」ですけれど、必要なところを増やして
いくことだけではなくて、もう少しグループの皆さん方のニーズ(一般的なニーズではな
くて、セグメントされたもの、ネットワークのこの辺りをきちっと教えてくれないと我が
社の製品が作れないとかいうようなニーズ)に合ったものに対して明確なサポートができ
る人も組織もいる気がします。ネットワークやツールのコアをお聞きになる開発会社さん
の方が多く、データベースのコアのことを聞くところはあんまりいらっしゃいません。正
直にいって我々は、APIかネットワークといったところには、あまり目を向けていなかっ
た気がしとり、反省をしております。インターフェイスとしては、我々にとっては今後重
要なところですから、他社に任せずに自からがネットワーク製品に中心に置きながらサポ
ートしようと思っています。「拡」・「充」とはそういう意味です。
松倉 Windows95に対する御社のクライアント側の製品の対応は如何ですか。
新宅 95製品は全部やりましたし、従来の3.1の95のエンドーズメントこれも全て完了
しております。逆にいうと今後出てくる製品は全部95対応になりますから、3.1のお客さ
まにご迷惑かからないようにするためにはどうすればいいのかと、心配しています。ツー
ル等は32ビットベースで開発が進んでいましたから、32ビット対応はすぐできた状況で
ありました。ODBCの32ビットをこの4月に出す準備をしております。
Personal Oracle7などの比較的付加価値の高い製品が95で軽やかに動くようになりま
したので、95対応の32ビット製品を出して開発者向けの環境を早く提供していきたいと
思っております。クライアント/サーバーも95が大きなターゲットです。日本の場合は、
特にNTも忘れられないのでNTのツールとしてCOBOLでの開発も進めていこうと思っ
ています。
松倉 先週のデベロッパーズカンファレンスでの何か目玉商品のお話があれば。
新宅 開発者に向けたカンファレンスはこの2月にやって、次回は11月3日からサンフラ
ンシスコで開催されるOracle Open World in United State(OOW)の中でODCカンファレ
ンスが共催される予定です。今回はデベロッパーの方が3千数百名参加されて、中心とな
ったアナウンスメントはラリー・エリソンから我々のデータベースの新しいものと、NC
と合わせてネットワークコンピュータの話をさせていただきました。あとスコット・マク
ネリ氏から、我々のWebサーバーとJavaの統合(コラボレーション)の話をして、それ
からネクストコンピュータのスティーブ・ジョブス氏がマルチプラットホームにのるよう
なオブジェクトベースの製品、WebObjectの発表をしました。他には我々の今ある製品の
チュートリアルですとか、製品の紹介のプログラムがありました。その中で我々のインタ
ーネットWeb関係の製品を見られる方や、グループウェアの製品を見られる方や、それこ
そデータベース、アプリケーションを見られる方とかプログラムを見られる方が沢山おら
れました。
発信した情報としては、
@ ユニバーサルサーバーであるOracle7.3の出荷の開始。
A WebサーバーR2.0を発表。セキュリティの機能などを含めた新しいリリースのWebサ
ーバーである。
B ネットワークコンピュータのプロトタイプの初めての実演(日本では6月)。ハードを
ベースにオペレーティング・システムとアプリケーションの実演。これが最大の目玉。
C 開発ツールであるDeveloper2000、Designer2000の次のリリース(D/2000 R2.0)とオ
ブジェクト指向の次のリリースSedona(コードネーム)の発表。
D 「Oracle InterOffice & Message Server」は、インターネットを利用した新しいオフィ
スマネージメントツールとして、Oracleが提案するグループウェアの新製品でベータ版と
して出荷待ち。
E 「Oracleのオブジェクト指向の製品戦略とOracle8」。来年の後半には製品はOracle8
の世界にエンハンスされていく予定。
この中で今日のビジネスにつながる製品は、「Oracle7.3」、「Web Server R2.0」であ
り、明日のビジネス(夏〜秋)につながる製品は、「Oracle InterOffice & Message Server」
です。来年以降のビジネスにつながる製品が「Sedona」、「Oracle8」といえます。これ
らをまとめたODC'96レポートは、3月15日に発行される予定です。
松倉 これからのネットワークコンピュータへの取り組みについてお聞かせください。
新宅 我々はハードを取り引きする術も知りませんし、ハードを得意とされる会社さんが
ネットワークコンピュータを作ってくだされば嬉しいなと思っております。何社か参画さ
れることは間違いないですから。あとはどれ位市場に受け入れられか、仕組みをきちっと
作らなければならないと思います。それがキーです。
松倉 うまくできればお客さんとしては数万円で端末を手に入れられるメリットは大きい
のではないですか。スケジュールとインターネットが見られればたいていの仕事は終わっ
てしまうのではないでしょうか。強いていえば、それに簡単なワープロがあればいいです
が。使わないライブラリーなどがいっぱいあって、そのためにメモリーを多くするという
のは、馬鹿らしいですから。
新宅 その発想自体はあたっている気がしますね。でもそれに合った製品を作れるかどう
かですが。
松倉 この22日に行われるテクニカルセミナー「ビジネス・インターネット」では御社に も協力していただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。それでは、長いこ とありがとうございました。
◇ 本対談では、新宅取締役から日本オラクル社の創設から、現在に至る発展経過及びこれ からのビジネス展開まで多くのお話をいただきました。本年度はビジネスインターネット をテーマに新たなビジネス展開をなさるとのことで、Windowsコンソーシアムも注目して 情報をお届けします。会員会社にはOracle製品のベンダーさんも沢山いらっしゃいますの で、本記事がお役にたてば幸いです。(事務局)