■ 最新Windowsソフトウエア事情(第11回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄


パソコン上の発想支援  −−KJ法を実践するイソップ(アイテック社)−−

 イソップ寓話集には「かしこいカラス」の話が含まれている。ほそ長い壺の下にたまっ た水を飲もうとしてくちばしが届かないことを知ったカラスはせっせと小石を運んで壺に 落とし込んだ。やがて水面があがり、くちばしが届くようになったところでたっぷりと水 を飲むことができたのである。この「カラス」の知恵にあずかろうとして、イソップが開 発された。
 発想支援法といえば川喜田二郎教授が開発されたKJ法が著名である。イソップはこの KJ法をパソコン上で忠実に実践することをねらいとしたソフトである。私の友人が開発し、 情報教育ビジネスを手がける(株)アイテックから発売されている。今回はこのイソップ の最新版(バージョン2.0)にもとづいてKJ法に挑戦してみよう。
 図1はイソップの作業スペースを示している。すでに何段階かの作業が進行しており、 特定のフォルダーをクリックするとその作業状況を参照したり、作業を継続できる。とこ ろでKJ法はカードを使った発想作業を行う。もともと野外(フィールド)活動で集めた 知見を整理してとりまとめを行うことをねらいに開発された方法であったが、一般的な発 想支援アプローチとして有効であることが認められるにつれて多くの企業において利用さ れるようになった。


図1 イソップの作業スペース

 イソップでも思いついたアイデアをカードに書き留めることから作業が始まる。図2は サンプルとして含まれている例題であるが、カップスープのシェア増大策を考える発想作 業を行っている途中の様子である。見て分かるようにできるだけ小さくまとまったアイデ アなり情報をカードに入力している。もちろん、特定のカードに関連してさらに詳細な情 報を記録しておきたいこともあるだろう。そうしたときにはカードにリンクしてワープロ 風な文書を添付することもできるし、そこには写真や音声などのマルチメディア資源を含 めておくこともできる。


図2 サンプルの例題「カップスープのシェア増大策を考える発想作業」

 イソップはネットワーク対応になっている。たとえばLAN上でさまざまな部署の人間が 思いついたアイデアなり情報をカードに書きため、サーバー上に集めておいたとしよう。 いざ発想活動を行うときには複数の人間でサーバー上のカードを開き、カードの関連づけ を行っていけばよい。これはLAN上で行ってもよいし、一堂にかいしてパソコン画面を拡 大投影し、その上で話し合いながら作業を進めてもよい。
 さて、図のようにカードはフォントの大きさで一度に表示できる枚数は変わる。また、 右端にはタブが表示されており、タブをクリックすることで任意の枚数のカードを記入す ることができる。図の上段にはさまざまなメニューが用意されているが、たとえば表示メ ニューから文字サイズを選択し、75%縮小にしたとすれば図3のようにより多くのカード が一覧できる。カード記入が一段落したとして、図では次の作業としてカード合わせへと 進もうとしている。


図3 75%%縮小してより多くのカードを一覧

 カード合わせは適当に入力した数多くのカードにもとづいて関連したカードをグループ 化していく作業である。これはKJ法では「島」とよばれる。イソップではカードの集ま りから関連したカードをマウスで取り皿とよばれるスペースへ移動するだけの作業である。 図4では画面右側に取り皿が用意されており、左側のカードの山から関連したカードを取 り皿に移した様子が示されている。この3枚のカードはいずれも性別に関連した内容を含 んでいる。関連したカードを取り皿に移したあと、画面上段の右向きのボタンを押して次 の作業へ進むと図5が表示される。見て分かるようにここでは関連した3枚のカードを一 つのグループ(島)として定義しようとしている。3枚に共通の概念をたとえば、「性別 による購買行動の違い」といったように上位概念を与えればよい。


図4 左側のカードの山から関連したカードを取り皿に移した様子


図5 関連した3枚のカードを一つのグループ(島)として定義

 複数のカードをまとめて島を作ったとして作業はふたたび、カード合わせに戻る。新た に定義された島(その下位には複数のカードが含まれている)と残ったカードとを対象に 新たにカード合わせを続ける。同様の作業を続けていくことによって、同一平面上にあっ た数十枚、数百枚のカードは次第に関連づけられて階層化されていく。島とカードから新 しい島が作られ、その上位の島と残されたカードや島からさらに新しい島が構成されてい く。このカード合わせの作業がKJ法のもっとも重要な作業である。
 さて、カード合わせが終わったとするとカードや島の階層関係は図示化できれば効果的 である。これまでの手作業によるKJ法では壁や床にカードを並べ、それらの関係をカー ドの貼り替えやフェルトペンで囲うといった操作で島を作ったり、階層化していくという 方法がとられるが、パソコンであればそうした階層化や図示化も効率的な処理を行うこと ができる。


図6 作業が図解化へと進んだ様子

 図6はイソップにおいて作業が図解化へと進んだ様子を示している。見て分かるように、 カード、カードの集まり(島)そしてカードや島の間の関係が図解されている。関係は因 果関係、相互関係、反対関係などを画面上段の記号を用いて表すことになっている。また、 この図解画面上には写真や図を貼りつけたりすることもできる。もちろん、手作業の場合 は壁一面を使っても間に合わないほどの作業スペースを必要とする場合が多いが、パソコ ン画面上でも全体を一覧させることは困難である。そこで右側と下段のスクロールバーを 使って画面をスクロールさせたり、画面上に表示されているようなズームボタンをクリッ クして画面を縮小/拡大した任意の部分を参照できるようにしている。


図7 +(拡大)ズームボタンのクリックによる画面の拡大

 たとえば図では+(拡大)ズームボタンになっているのでクリックすると図7のように 画面は拡大されてカードの内容まで読めるようになった。このようにしてカード記入から 始まり、カード合わせ、図解化と進んだKJ法による発想活動は最終的にまとめをレポー トする段階に至ることになる。すでに見たように、カード合わせの結果はさまざまなアイ デアが階層化されてとりまとめられることになる。これはワープロでいえばいわゆるアウ トライン構造に対応したまとめになる。イソップにはカードや島の階層関係をアウトライ ン風にまとめる機能が用意されている。図8はこれまでの作業の結果、第1部から第7部 にいたる大きく7つの部分から構成される内容としてとりまとめられたことが示されてい る。もちろん、それぞれの部分はさらに下位の階層のアイデアから構成されている。これ はワープロのアウトライン構造と同様、上段のボタンをクリックすることで下位の階層を 表示させることができる。


図8 これまでの作業の結果のとりまとめ


図9 第4部の下位階層を表示させた様子

 図9は第4部についてその下位の階層を表示させた様子を示している。とりまとめたア イデアは印刷すればそのままレポートになるし、各種の編集結果も含めてリッチテキスト として他のワープロソフトに取り込んでさらに編集を加えて上でレポート作成することも できる。
 ところでこのイソップは新バージョンが発売されたばかりである。図10は新バージョ ンの機能をカードにまとめ、KJ法によって図解化した様子を示している。新バージョンに なってマルチメディア対応になったし、これまで以上にKJ法の作業手順により忠実な作 業を行うことができるようになった。新しいソフトを開発されるときにさまざまなアイデ アを抽出することが求められる。そうしたときにこのイソップ(KJ法)を大いに活用して みたらいかがだろうか。


図10 新バージョンの機能をまとめてKJ法により図解

(筑波大学大学院 教授)

問い合わせ先:(株)アイテック Tel.(03)5640-8564
<参考文献>
川喜田二郎、発想法、中公新書
川喜田二郎、続発想法、中公新書


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