田中 亘のWindows in Millennium

田中 亘


インターネットの土地神話

 9月19日の20時から、www.dotcity.comというサイトがオープンした。その記者発表会に参加してきたのだが、お目当ては、あの「団子三兄弟」の歌で有名な茂森あゆみを見ることだった。
よく言われることだが、テレビに映っている人物と、実際の人物を比較すると、そこにはかなりのギャップがある。詳しく解説すると、つまらない話になってしまうが、最大の違いは、レンズだ。テレビ用のレンズは、どうしても広角になっていて、それと走査線による歪み、さらには、ワイド画面が重なって、どんな美人でも横に1.3倍から1.5倍はひらめ顔にされてしまう。だから、テレビで見てソコソコの人は、現実の世界では、かなりの美人だ。そして、ご多分に漏れず、茂森あゆみも美人だった。昔、娘を膝に抱きながら見ていた歌のお姉さんとはえらい違いで、はじめに登場したときに、本人だとは思えなかった。
考えてみると、自分たちはテレビという仮想の世界に慣れ親しんで、かなりの時間が経つ。たぶん、知らないうちに、あの歪んだレンズの世界こそが、現実ではないかと錯覚しているのかもしれない。

 前置きはさておき、話は株式会社ドットシティになる。この会社、2000年4月25日の設立で、資本金は1億。そのうち32.1%が、ソフトバンクインターネットテクノロジーファンド2号によるものだ。設立から半年たらずで、茂森あゆみを司会に使い、ゲストにKONISHIKIを迎えた発表会を行うのだから、一昔前のソフトハウスとはやることが違う。社長の福田洋なる人物は、1961年生まれで、アートディレクターとしてNTT関連の広告を手がけ、通信系に強い人と紹介されている。何がどう強いのかは、配布された資料からだけではわからないが、企画屋としての才能は優れているようだ。福田社長は、インターネットの世界に、「土地」という発想を持ち込み、新しい広告収入の仕組みを考え出した。
基本はこうだ。まず、株式会社ドットシティが運営するwww.dotcity.comでは、専用のソフトを使い、3Dっぽいグラフィックの中を架空のキャラクタで移動する。このバーチャル空間の中には、広告塔やショールーム、交番やゲームセンターがあり、登場人物は街中をうろうろすることで、ポイントを集めたり、チャットを楽しんだり、ショッピングもできる。RPG感覚で、楽しみながらバーチャルサイトにお金を落としていく。
さらに、多くの利用者が集まる場所では、出展費用が高くなる。反対に、閑古鳥が鳴くと土地代は安くなる。おおよその出展費用は、初期登録に50〜100万円、毎月10〜20万円。実店舗に比べると、かなり安い出展コストだが、楽天などのモデルと比べると、割高だ。しかし、バーチャルシティの構想が、若い世代に受け入れられれば、ビジネスとして成功する可能性もある。何よりも、Webブラウザに頼らない発想が、企画屋らしい。
おそらく、昔から通信関連のビジネスに携わってきた人ならば、富士通が試みたハビタットとか、同種のアイディアで失敗した事例を思い浮かべるだろう。しかし、過去の失敗は、あくまで「会員数」による収益をあげようとしていたことに起因する。それに対して、「広告」による収益が成立すれば、民法テレビのようなビジネスが可能になる。
かねてから、個人的な見解として、インターネットで成功するビジネスは、日米で違うと思っている。米国では、「距離」を克服することで、大きなビジネスが成功してきた。それに対して、日本では、「土地」を掌握する必要がある。狭い土地にひしめき合うことの功罪を巧みに利用した者が、昔から成功してきた。
ドットシティは、インターネットに土地の概念を持ち込んだことで、日本型のサイトサービスとして、成功するかもしれない。目標の50万人を集められるかどうかは、今後のマーケティング活動にかかっているが、そこは広告のプロが経営する会社だけに、期待できるかもしれない。
反面、「番組」という発想がないコミュニケーションサイトに、どれだけアクティブな人が集まるのかは、疑問だ。単なるコミュニケーションだけを求めて、人はインターネットにアクセスするのだろうか。コミュニケーションだけで、どれだけ興味が維持できるのか、過去のパソコン通信やコミュニケーションサイトの失敗から、どれだけの教訓を学んでいるのか、お手並み拝見といったところだろう。
それにしても、このドットシティだけではなく、先日取材したwww.girlsgate.comも、経営者は広告関係の出身だった。いわゆるビットバレー系ともちょっと違う人たちで、パソコン関連とは毛色が違う。事業の内容は、インターネットや通信関連だが、一昔前のソフトハウスとは違う。
どちらかといえば、プロダクションっぽい。昔、映像の制作アシスタントをしていた経験があるので、会社を訪れると、その頃の匂いに近いものがある。
そうした新興企業の中から、「場所」を克服するインターネットの新ビジネスが成功するのかどうか、見ものだ。一歩間違えば、輸入雑貨店や原宿あたりの青空市場みたいなビジネスで、本当にインターネットを克服できるのか、とっても疑問でもある。
しかし、こうした柔軟な発想が、昔堅気のソフトハウスから出てきていないことも確かだ。技術なのか発想なのか、インターネットを取り巻くビジネスは、これからも猛スピードで突き進むだろうが、ゴールが見えないだけに、まだまだお楽しみはいっぱいありそうだ。インターネットは、テレビのような「嘘つき」ではない。どちらかというと、情報優先で、テレビとは違う真実を探す人たちが、いまはユーザーの中心を形成している。もちろん、それが今後は変わるのかもしれない。

とっても美人だった茂森あゆみさん

とっても大きかったKONISHIKIさん

現実の街と仮想の街、人々はどちらを好むのだろうか

(ユント株式会社 代表取締役)



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