田中 亘のWindows in Millennium

田中 亘


Microsoft .NETの先にあるもの

 米国で6月22日に発表されたMicrosoft .NET。国内でも、7月に入ってから、立て続けに記者向けのセミナーが開催され、そこから得た情報が媒体を経て流れてくるようになった。私が、.NETの話を知ったのは、読売新聞のコラムで、「なんだか新鮮味に欠ける発表だった」という記者の感想が、とても印象的だった。どうして、マイクロソフトは、一般誌の記者をMicrosoft .NETの発表会に参加させたのか、かなり疑問だったが、その文面からは、新しい構想の発表に戸惑う文科系記者の苦悩が窺い知れた。
しばらくして、日本での説明会を経た技術系記者によるコラムが登場し、その実態も、おぼろげながら見えはじめてきた。 (http://nit.nikkeibp.co.jp/column/20000724/index.shtml)

 そして、決定打となったのは、7月26日から開催されたTechED Yokohamaだった。開発技術者向けのセミナーを通して、Microsoft .NET構想は、何を目指すものなのか、その先には何があるのかが、やっとわかってきた。
Microsoft .NETの先にあるもの。それは、一言で例えるならば、「サービス」にある。従来、ソフトウェアは「システム」であり、その開発者や設計者は「アーキテクチャ」や「デザイナー」だった。
しかし、インターネットの普及と、小型の携帯端末の進化によって、その利用者は「システム」に対する抵抗を見せ始めた。つまり、要求が以前よりも我侭になってきたのだ。
たとえば、MS-DOSの時代であれば、コマンドを理解することは「当然」と思われていた。Windowsが普及し始めた当初も、操作を覚えることは「必然」だった。ところが、インターネットの普及によって、情報を手に入れることが、いままで以上に簡単になり、その内容も充実してくると、もっと親切で使いやすいアプリケーションに対する欲求が強くなってきた。

 かつては、「コンピュータは難しいものだから、それを覚えるのは当然」と思われていた意識も、「こちらはお客なのだから、コンピュータが使いやすくなるのは当たり前」と考えられるようになってきた。そして、アプリケーションを設計し開発する側にも、いままでのような「問題を解決するための手段」を組むためのアプローチではなく、「利用者が満足する仕組み」を提供することが求められてきた。それが、「サービス」に代表される言葉なのだ。
したがって、プログラマやSEではなく、コンサルタントやカウンセラー的なアプローチが、これからのシステム設計者には求められている。
さらに、インターネットを基盤として構築されるネットワークでは、単一のシステムやアプリケーションで問題を解決するのではなく、複数のASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サイトを介して、目的の情報を得たり、トランザクションを処理したりすることが可能になる。
Microsoft .NETでは、従来のCOM+という分散コンポーネントの技術をASPにまで拡張し、インターネットを通したアプリケーション間連携の技術基盤を提供する。これは、世界的な規模で、アプリケーションのASP化が進むことをマイクロソフトが認めた、という事実でもある。
極端に考えるならば、将来的には、一部のジャンルを除いて、ビジネス系システムやアプリケーションの大半が、ASPによって処理されるようになり、インターネット無しでは、ビジネスが進まないことになる。

 おそらく、Microsoft .NETが成功してもしなくても、アプリケーションのASP化は、避けられないことだろう。もはや、さまざまな分野で、インターネットを意識しないソフトウェアは、進歩と発展を期待できないものとなっている。
この傾向に加えて、マイクロソフトが脅威に感じている存在が、携帯電話に代表される小型端末の進化だ。日本のiモードは、近年でも類稀なる成功事例だが、マイクロソフトは、このインターネット端末化した携帯電話から、$1のロイヤリティも得ていない。それは、かつてのNET PC構想よりも、脅威といえる存在なのだ。
このまま、ASPとWindows抜きのインターネット端末の普及が進めば、OSのロイヤリティ型ビジネスは、大きな収益源を失うことになる。そうならないためにも、インターネットを基盤としたアプリケーション開発モデルと、新しいデバイスに対応したOS型システムの提案は、不可欠なのだ。それに加えて、従来から推進してきたWindows DNAなどの開発フレームワーク、そしてWindows 2000 Server関連製品をひとくくりにして、Microsoft .NETというコンセプトができあがった、ような気がする。

 そして、ソフトウェア開発を推進する人たちに問われているのは、このMicrosoft .NETに伸るか反るか、ということだ。つまり、自社のアプリケーションを「製品」から「サービス」へと進化させられるのか、そのためにMicrosoft .NET構想を受け入れるのか、という選択が迫られている。もし、仮にMicrosoft .NETに賛同しなかったとしても、ASP化とサービス中心のアプリケーションへのシフトは止められない。どの開発環境を選ぶにしても、それは、今まで以上の努力と苦労が求められるものだ。しかし、勝ち残るためには、前に進む必要がある。Microsoft .NET構想は、ソフトウェア業界の覇者であるマイクロソフト自らが、前に進まなければ倒されてしまうという、事実を突きつけているのである。

(ユント株式会社 代表取締役)



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