活動報告


第105回セミナー(セミナー企画委員会主催)実施報告

日 時:平成12年5月17日(水)13時30分〜17時30分
場 所:東京工科専門学校 ICA/テラハウス・B1テラホール
参加人員: 45名
テーマ:「ビジネスモデル特許入門 〜その問題点と実践的対処法〜」
 第1部『ビジネスモデル特許入門』
 〜 何が問題なのか、どう恐ろしいのか。問題点と取り組みのための基礎知識 〜
 マックス法律事務所 弁護士 山崎 卓也 様
 第2部『ビジネスモデル特許紛争最前線』
 〜 ビジネスモデル特許の紛争状況と対処法 〜
 マックス法律事務所 弁護士 松葉 栄治 様 
 第105回セミナーが5月17日(水)東中野テラホールにて、「ビジネスモデル特許入門〜その問題点と実践的対処法〜」をテーマに開催されました。弊会の会員会社様の中には、ビジネスモデル特許を所有している企業、または意識せずに既に成立しているビジネスモデル特許に抵触するサービスを提供されている企業やそれに関連する立場の企業が有るかもしれません。今年度における最も重要なデーマの一つとして、"ビジネスの方向を左右しかねないビジネスモデル特許とは何か、また、それぞれ立場の違いによる対処方法など"について、「デジタルコンテンツの著作権問題セミナー」でお馴染みのマックス法律事務所弁護士の山崎弁護士、松葉弁護士にお話していただきました。


 第1部では山崎講師から、「何が問題なのか。どうおそろしいのか。問題点と取り組みのための基礎知識」として、
(1) ビジネスモデル特許って今までの特許とどう違うのか 〜ビジネスモデル特許の何がそんなにヤバいのか〜
(2) ビジネスモデル特許は本当に「特許」なのか 〜特許の基礎知識とビジネスモデル特許の問題点〜
(3)ビジネスモデル特許に対してどう取り組むか 〜ビジネスの「幅」を広げるために〜
の3点からお話いただきました。


 (1) では、「その汎用性ゆえに強力な権利となりうる」、「今まで"当たり前"と思われていたものが特許侵害となるショックと」、「特許の敷居が低くなることとその弊害」と前提となるお話がありました。
 (2) では、"じゃ、特許ってどんなのに成立するのだ?"で問題「実は野球選手に憧れていたとある弁護士Yは、夥しい量の文献調査、ビデオの分析と、血のにじむような投球練習の結果、マリナーズ佐々木主浩投手を超える"消えるボール"の投球方法を編み出した。さて、この投球方法に特許は認められるでしょうか?」が出され、いつものように出席者から回答を求めてから解説が行われました。「正解はバツ」。「なぜ投球方法に特許が認められないのか」では、特許は"発明"に対して成立するということから、特許法2条1項で、「"発明"とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいう」と定義されている。従って投球方法は、"技術"ではなくて "技能"になる、その他 "発明"にあたらない場合のまとめがあり、"発明"とは「自然法則」「技術的思想」がキーワードである、との解説がありました。本題に入り、「ビジネスモデル特許の特許性」では、伝統的な考え方として「ビジネスモデルは"発明"ではない」といわれるが、ビジネスモデルがコンピュータシステムを利用することにより提供可能となる場合、そこに「自然法則の利用」が認められ、いかに特許が成立するかが問題となる。ビジネスモデル特許は、ソフトウエア特許性の3つの条件(@発明であること、A発明に新規性、進歩性があること、Bその他)を満足している必要があり、特に"進歩性"の要件が重要となる。(2)の最後として「ビジネスモデルは"進歩性"を満たすか」についてその判断を『進歩性を肯定すべきではないとする説』および『進歩性を肯定することを一概に否定すべきではないとする説』についての解説がありました。
 ビジネスモデル特許はインターネットだからこそ生まれた特許であるから世界的なハーモナイゼーションが要求されるはずである。つまりインターネットは全世界に配信されるのであるから、特許というのはその国その国の産業政策に結びつきが強いという話をしたが、そういう前提で各国がばらばらの特許を認めていくと、例えばユーロッパは緩い、米国は緩い、しかし日本は厳しい、ということになるとこのインターネット社会では円滑なeコマースなどができ難くなってくるので、国際的にもビジネスモデル特許をどういうふうにするのかが非常に研究されており、非常に大きなテーマと言える。そういう中で双方の説のバランスが裁判所を含めた形で考えられていく。
 (3)では、まとめとして、「ビジネスモデル特許とは、要にソフトウエア特許ではないか、ソフトウエア特許であれば3つ要件があり、ハードウエア資源を用いて処理するものかなどを考えなければいけないので非常に面倒くさい。てっきりビジネスモデル特許という新しいものができたよと思った、或いはビジネスモデルが裸で特許として認められるのかとばっかり思っていた、というふうに思われていた方はちょっとがっくりしたかもしれない。しかしながらビジネスモデル特許というのはソフトウエア特許の一端に過ぎないにしてもなお将来性があるのだ」ということをご理解いただきたいということで、"ビジネスモデルの将来性"として、ビジネスモデル特許にこだわる意味はあるのか(大バケする可能性はある、出願による事実上のメリット、これは新しいエンターテイメントだ)、"ビジネスモデル特許への取り組み方"として、ビジネスモデル特許に対して持つべき視点(特許要件ギリギリのものであることに対する正しい理解が必要、登録後の効力も制限解釈されうる)のお話がありました。

 第2部では松葉講師から、ビジネスモデル特許について米国の紛争状況を見るとともに、日本におけるビジネスモデル特許への対処方法を考えるということで、"紛争"については米国では既に裁判例(ステート・ストリート事件、AT&T事件)が存在するが、まだ日本ではない。"対処法"については、通常の特許紛争と異ならないが、「紛争に巻き込まれないように何をしておくべきか」、「紛争に巻き込まれた場合の対処法」および「最近の特許訴訟の動向に注意する点」についてのお話いただきました。


 裁判例の1としての「ステート・ストリート(SS)事件」は、米国でビジネスモデル特許が正面から争われた事件で、連邦巡回控訴裁判所(CACF)の1987年7月の判決であり、ビジネス方法の例外を否定したものでビジネス界に大きな反響を呼んだ。これについて、問題となった特許およびその概略、クレームの内容、連邦地裁までの経緯、CACFの判決、評価の解説があり、この判例から「ビジネスモデル特許」の整理として、@従来から特許として認められていたもの、ASS事件以来特許として認知されたもの(「有用、具体的かつ有形的結果」を生み出す数学的アルゴリズム)、B今でも認められないと考えられるもの(商売の方法そのもの、「有用な結果」を生まない数学的アルゴリズム)の解説がありました。


 裁判例の2としての「AT&T事件」は、長距離電話会社であるAT&Tとエクセル・コミュニケーションが争った事件で、問題となった特許、連邦地裁までの経緯、CACFの判断(数学的アルゴリズムが特許されるためには「有用な方法」に応用されなければならない、というSS事件の再確認が行われ、最終的にCACFは、地裁判決を破棄し審理の差戻しを行い、差戻し審においてこの特許は新規性なしとして無効となった)の解説がありました。
 現在の米国の状況は、ビジネスモデル特許に関する紛争が頻発しており、強すぎる特許保護に対する批判も強まっているが、権利行使そのものを自重する動きはない。また、審査ガイドライン中の例が示されました。
 日本の現状は、ビジネスモデル特許はソフトウエア関連発明と同様に(@ハードウエア資源に対する制御または制御に伴う処理、A対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理、Bハードウエア資源を用いて処理すること)審査される。@~Bのいずれかに該当する場合、自然法則の利用として発明となり得る。
 ビジネスモデル特許について、紛争が多発すると予想される理由は、@ビジネスモデル特許は広い範囲を持つ、Aビジネスモデル特許については従来技術について十分な文献がないため、進歩性のない発明までが特許になる可能性が高い、Bビジネスモデル特許は侵害の発見が容易、があげられる。
 特許紛争への対処法としてそれぞれ具体的な対処方法(警告書を受け取った場合、提訴を提起された場合、特許権を侵害された場合)の説明が、また最近の特許訴訟動向としては、「特許権強化の動き」(特許法の改正によって損害賠償額の引き上げ、侵害立証の容易化が進んでいる)と、「特許訴訟の迅速化」(昔は何年もかかるのが普通であったが、現在では1〜2年で結論が出るようになり、仮処分なら数ヶ月で決着し、日本もプロ・パテントの時代に入った。
 最後のまとめとして、(1)「ビジネスモデル特許の審査実務は固まっていない」・・・米国では、SS事件とAT&T事件で固まった。米国が変わった以上いつかは日本でも変わるだろう。(2)「ビジネスモデル特許を侵害しないように日頃から特許権の調査を行う」・・・特許庁のホームページをこまめに探すことも必要、(3)「必要に応じて特許異議申立を行い、障害となる特許権を排除することも検討する」の説明がありました。


 出席者の皆さまからのアンケートからのご感想、ご意見です。
 第1部では、「ビジネス特許の要点が大変わかりやすく、今後積極的に取組みたい」、「何時もどおり山崎先生の分かり易い説明がよかった」、「ポイントをおさえていて分かりやすかった。特許の基本的なことが認識できた」、「非常に整理された内容であり"基礎"として有用であった」、「基礎から話がしっかり組立てられていて、とても為になった」、「慣れない世界であり、分かりにくい部分もあったが、内容はよかった」、「初めてこのようなセミナーに参加して特許の在り方の基礎が理解できた」、「日本の特許法をベースにお話をしていただいたがグローバルな時代、特にインターネットの時代にあっては国境がないものと同じであり、米国やヨーロッパなどの特許の考え方に大きく左右されるような気がする。すり合わせた説明をしていただけると更によかった」、「海外における解釈も知りたい」、「もう少し具体的な話が聞きたかった」、「もっと深く突っ込んだ話が欲しい。システム開発の場合、要件定義の主体(アイデアを定義する側)は委託者だから、委託者が発明者になるケースがほとんどではないか?」、「特許の取り組みが漠然としすぎていると思う」です。
 第2部では、「紛争事例により多少日本と米国の違いが分かった」、「具体的な事例によって話をされたので非常に分かりやすい」、「実例はやはり説得力があり分かりやすい。実務のイメージも掴めた」、「具体例は臨場感があり、理解しやすい」、「具体例で分かりやすかった。侵害対応が分かった」、「最前線の事例が少なかった。特に日本の具体例には触れておらず残念」、「日本のビジネスモデル特許にまつわる話をもっと聞きたかった。対処法についての話が勉強になった」です。
 セミナー全体では、「ビジネスモデル特許が良く理解できた」、「セミナー構成が良かった。特に入門編が有効であった」、「内容に一貫性がなかったように思う。1部が楽観的立場であったのに対し、2部が深刻な現実を示していた」、「ビジネス特許は何が特許になるのかわからない為とりあえず申請してみる必要がある? 勉強する必要性を痛感した」です。
 今後希望するセミナーとしては、「今次国会で成立した消費者契約法および通販法とネットビジネス等の消費者保護法制とソフトウエア販売の関係、留意すべき事項などの解説セミナー」、「ビジネスモデル特許紛争についてはその都度最新の事例を説明する機会を持って欲しい」、「ビジネスモデル特許については、日本で判例等具体的に出てきた段階で解説をお願いしたい。また、米国からの警告等に対する対処法もあるとなお更役立つと思う」、「ビジネスモデル特許の日本例」です。 ありがとうございました。