田中 亘のWindows in Millenium

田中 亘


Dream,Again

 昨年末から、広告やウェブ関連の仕事で、Windowsやネットワークを活用している企業の事例を立て続けに取材した。南は大分県から北は弘前市に至るまで、十件を超える企業を訪問した。そしてわかったことが一つある。
それは、Windows NTとそれを取り巻くネットワーク環境が、確実にビジネスになりつつある、ということだ。
 たとえば、とある自動車用工具の製造メーカーでは、インターネットでたまたま見つけた地元のベンダーに依頼して、SQL ServerとAccessによる販売管理システムを導入した。約800万円という価格で導入したシステムは、それまで使っていたAS-400よりもはるかに快適で安上がりで多機能になった。

 はじめは、「パソコンがオフコンに太刀打ちできるなんて」と半信半疑だったが、その会社の工場脇に捨てられたAS-400を見て、なんとも不思議な気持ちになった。もしかすると、「オープンシステムは先進的で素晴らしい」と鼓舞していたこちら側が、実は歴史と実績のあるオフコンに対して、知らず知らずのうちに畏怖の念を抱いていたのかもしれない。それよりも、実際のユーザーとして困ったり悩んだりして使っていた人たちの方が、オフコンには何ができるのか、何ができないのかを、はっきりと見極めていたのだ。そんな人たちが今、はっきりとパソコンによるオープンなシステム構築の良さを認め始めている。
 また、集めている事例が、大手企業の広告になるような派手なものではなく、あまり名も知られていない地元のベンダーやディーラーということもあって、そこには一つの共通点が見られた。それは、「販売管理」という利用目的だ。

本当に捨てられたAS-400

 いまや、給与計算や財務会計においては、パソコン用のパッケージ製品に対する認知度も高まり、企業の大小を問わず、積極的な導入が進んでいる。しかし、こうした分野のアプリケーションは、企業に必須であると同時に、導入される位置も固定的だ。余程の企業でない限り、一社で複数本の会計システムを導入することはない。経理担当者が複数人いて、ネットワークで分散入力をするとしても、やはり数に限りはある。
 それに対して、販売管理というシステムは、企業の大小を問わず、その会社が元気であればあるだけ、需要はどんどん伸びる。伝票発行や在庫照会、売掛金管理に棚卸など、製造業から販売業に至るまで、さまざまな業種や分野で、いわば必須の存在だ。そのくせ、財務や給与と違い、業種や業態ごとに、さまざまな違いや特色がある。そのため、いわゆるキラーアプリのような、「この一本」という製品が誕生し難い。だからこそ、自由度の高いシステムや、組換え可能なコンポーネント化された製品の需要が期待できるのだ。
 Windows NTをベースに構築すれば、ネットワーク環境をオープンに設計できるので、システムを提案する側にも、さまざまな付加価値を付ける要素が出てくる。個別の設定や顧客に合わせたシステムをどれだけ少ない手間で効率よくカスタマイズできるかが、オフコンを越える新しい付加価値として、期待できるのだ。
 ところで、一連の事例を取材していて感じたことがもう一つある。それは、「昔と似ている」という印象だ。筆者がパソコンを取り巻くビジネスに関わりあった1984年頃といえば、ちょうどPC-9800シリーズが売れだしたあたりで、あちらこちらの販売店やディーラーが、N88-BASICなどで開発した業務用アプリケーションを販売していた。牛乳店管理システムや新聞店顧客管理など、大小さまざまな業種業態に合わせて、多種多様な業務用アプリケーションが開発されていた。その頃、PC-9800シリーズを牽引した大きな力として、業務用アプリケーションの存在は偉大だった。そうした中から、やがては大手ソフトハウスとして成長した会社もあった。
 そんな昔ながらの構図が、Windows NTを取り巻く業務用アプリケーションを開発しているソフトハウスやベンダーには、再び訪れるような気がするのだ。もちろん、昔と比べると、N88-BASICではなく、SQL ServerとVisual BASICの組み合わせであったり、Webサーバーやメールサーバーなどが使われ、システムの基本構成も複雑になってきた。だが、基本にあるの「販売の支援」という目的は変わらない。少しでも効率よく効果的に商品を売る、そのために助力してこそ、パソコンとそのシステムが売れる道がある。
 いままでは、どちらかといえば、ネットワークという環境そのものを構築するための情報と知識が、市場に先行し、溢れていた。しかし、これからは、その上で何ができるのか、その結果や目的をどれだけ具体的に提示できるかが、求められている。それは、決して目新しいことではなく、昔から繰り返されてきた販売の基本であり、お金を儲けるための仕組みなのだ。そして、そのためにシステムを開発する側がやらなければならないことは、技術の研鑚だけではなく、「相手を知る」ことだろう。最大公約数を取れる商品企画ばかりを考えるのではなく、確実に需要のある最小公倍数にどれだけアプローチできるかが、いままで獲得できなかった市場を手に入れる鍵となるのではないだろうか。

(ユント株式会社 代表取締役)



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