田中 亘のWindow's 1999

田中 亘


■儲けようか

 1999年12月7日から、米国サンノゼで開催されていたStreaming Media West’99に参加してきた。今回がまだ三度目という新しいイベントで、展示会と基調講演、それにカンファレンスを中心とした構成になっていた。イベントの名前からも分かるように、その基本は、インターネット上のストリーミング技術を取り巻くコンテンツやサイトやビジネスモデルを集めたものだ。三度目の今回からは、米国マイクロソフトが大口スポンサーとなって、かなりバックアップをしてきた。その証拠に、初日の基調講演では、ビル・ゲイツ会長が登壇し、自社のストリーミングに関する戦略や、開発中のビデオ編集ソフトまで披露してみせた。


プレゼンテーションの内容や展示会のダイジェストは、以下のサイトから入手できる。

ゲイツ会長のスピーチ内容:
http://www.microsoft.com/billgates/speeches/12-07smw99.htm

Streaming Media Westのサイト:
http://www.streamingmedia.net/streamingmedia/west/index.html

 日本でも、音声や動画を含んだサイトが、少しずつ登場してきているが、米国では、インターネットの新しいビジネスチャンスとして、ストリーミングがかなり注目されている。中国語では「数字流」と表現されるデータ・ストリーミング技術は、確かに21世紀のインターネット市場において、娯楽とビジネスの中心になる可能性は高い。それは、インターネットのビジネスモデルそのものを変革する可能性を秘めている。なぜなら、ストリーミング技術が切り開く市場は、現在のラジオやテレビを超えるものになるからだ。

 いまからおよそ25年ほど前に、とあるアニメ番組にのめりこんでいた私は、その番組の記憶を残しておきたいからと、愛用のラジカセをテレビのスピーカーの前に置き、息を潜めて、「録音」していたことがある。さしずめ今ならば、ビデオで録画予約をするだけではなく、お気に入りのシーンだけを切り出して、自分のパソコンに入れ、個人的に繰り返し鑑賞しているのかもしれない。

 時代は変わっても、個人的な思い入れのある映像作品や音楽に対して、人は手放しで対価を払う。また、その作品に関連するものは、コレクションしたくもなる。そうした意識が、インターネットに向かえば、そこには新しい市場が生まれる。もちろん、現在でも、文字と画像によって、そうした個人の趣味や娯楽を広げてくれるサイトは、数多くある。しかし、そこにストリーミングが加われば、さらに魅力は増す。
 そういう意味では、ストリーミングを取り巻く技術は、21世紀のインターネットを左右するインフラであり、大きなビジネスチャンスが転がっている。だからこそ、まだ三回目にしか満たない小さなイベントに、米国マイクロソフトもお金と人を大量に投入したのだろう。

 さて、ゲイツ会長によるプレゼンテーションでは、ストリーミング技術によるビジネス利用の一例として、イントラネット環境におけるブリーフィング・システムを紹介していた。米国HP社で試験的に運用されているもので、イントラネット環境から、製品のコンセプトなどを説明するスライドとビデオが、同時に発信される様子を会場に映し出した。教育や組織における意思の伝達方法としても、ストリーミングにはかなりの威力がある。しかし、それはビジネスモデルとしては、小さなものにしか過ぎない。なぜなら、コンシューマの市場では、さらに大きなビジネス・プロフィットが期待できるからだ。MP3のようなポータブル・プレイヤーから、将来的には、ビデオカメラに至るまで、すべてがストリーミング・フォーマットによって、シリコン媒体に記録され、再利用されるようになる。マイクロソフトのWindows Media Technologyは、そうした将来を予測して、その時代のイニシアティブを取るための足がかりとなる。Windows Media Technologyにおけるほとんどのライセンスを無料にして、自由に使えるようにしているのも、ストリーミング系コンテンツのインフラを築いた先にある利益を目指しているからだ。それだけに、インターネットやデジタル技術に関わっている企業であれば、無視することのできない存在であり、新しいビジネスの可能性なのだ。

 とはいうものの、ストリーミングを取り巻く環境には、まだまだ解決しなければならない問題も多い。日本においては、視聴者の拡大と、通信帯域の拡張、広告収入などの確保に、競争力のあるコンテンツの制作など、一筋縄ではいかない問題ばかりだ。そうした事情は、米国でも同じだが、国民性の違いなのか、彼らはとても楽観的で積極的だ。むしろ、困難を新しいフロンティアだと確信して、ハリウッドからシリコンバレーに移ってくるベンチャーも増えている。

 二日目の基調講演に登壇した>en:社のCEOもその一人で、シリコンバレーとハリウッドの幸せな結婚を目指している。このサイトにある"PAMELA ANDERSON & BiLL GATES"というストリーミングのアニメーションは、ちょっと一見の価値があるかもしれない。いまのストリーミングを取り巻く米国の思惑を、かなり痛烈に指摘しているからだ。(http://www.den.com)
そして、個々のセッションでも、ストリーミングを使って、どうやって儲けていくかが真剣に討論されていた。時には、観客も加わって、激しいディベートが行われ、彼らの真剣さが伝わってきた。 米国でも、ソフトウェアの寡占化は顕著だ。しかし、若いクリエイターやプログラマーたちは、そうした現状に諦めることなく、常に新しいフロンティアを探している。そして、それは単なる好奇心や自己満足ではなく、ビジネスとして真剣に取り組んでいる。その積極さと努力を痛感した、Streaming Media West '99だった。

(ユント株式会社 代表取締役)




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