最新Windowsソフトウェア事情(第56回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


2東京を「空撮」で、江戸を「古地図」で眺めよう

 ときどき「ラパン」を買う。ラパンは(株)ゼンリンが発行している地図専門の季刊誌である。事務局の小泉さんの影響で山に興味をもつようになってから、本屋に行くとつい、山関係の書籍や雑誌に手が伸びてしまう。そして最近ではさらに地図にも関心をもつようになった。その結果、本欄でも地図関連ソフトの紹介が増えてきた。今回もまた、地図関連ソフトの紹介となりそうである。
 「ラパン99年秋号」には大変な付録がついた。図1を見ていただきたい。A4サイズの雑誌のゆうに10倍はありそうな大判の地図である。しかもすぐわかるように、古地図である。この「改正日本輿地路程全圖」は天保4年(1833年)、江戸後期、水戸藩に仕えた地理学者、長久保赤水の手によって作成されたものである。経緯度の入った地図としては日本初であり、有名な伊能忠敬による地図はこの20年後から制作が始まったということである。こんなりっぱな復刻版がついて雑誌の値段は950円であるからお買い得である。古地図だけでも数千円の値打ちがある。

図1

 古地図といえば(財)日本地図センターからもらった今年のカレンダーは古地図、空撮地図そして立体地図からなっていた。今年もすでに9ヶ月が経とうとしている。図2はこれまでのカレンダーの図を並べてみたものである。古地図、空撮地図そして立体地図が並んでいる。右端の表紙の地図には「東京府武蔵国麹町区八重洲町近傍(明治16年)」と記載してある。私の部屋もよくよく探してみると、日本地図だけでなく、ナイル川流域やスイスアルプスなどさまざまな地図が本棚のあちこちに紛れ込んでいる。

図2

 ところで、この夏休み、時代物でも読んでみようと文庫本を10冊ほど仕入れた。それらの中には池波正太郎の「鬼平犯科帳」シリーズも含まれていた。正直なところ、これまで池波正太郎の本はほとんど読んだことがなかった。それがなんで小淵沢の山荘で読むべき読書一覧に加えられることになったのか、それは今回のタイトルと関係する。
 本欄のネタ探しに秋葉原のパソコンショップを散策していたら、CD-ROM版「江戸古地図散歩」(ポニーキャニオン社)が目に入った。パッケージの説明を見ると、江戸の切絵図を素材として楽しく古地図の世界を楽しむことができそうである。いずれ手に入れたいと思っていたときに、地図の研究会で人文社のI部長にお会いした。「あのソフトには人文社が保有する切絵図が使われているんですよ」、ということであった。先代の社長が好きで集めた切絵図である。そのうち、I部長から人文社刊行の大型本、「江戸切絵図」と「広重の大江戸名所百景散歩」が送られてきた。また、CD-ROMも送ってくれるように依頼してくれたということであった。
 じつは山へ持っていく文庫本を探しているときにたまたま、池波正太郎著「江戸切絵図散歩」(新潮文庫)をみつけ、さっそく読んでみた。浅草に生まれ育った池波氏にとって「地域別につくられ、携帯に便利な切絵図は江戸期を舞台にした時代小説を書くために欠かせないもの」である。本の各所に豊富な切絵図が含まれていたが、なにしろ文庫本なので地図の詳細はさだかでない。人文社の大型本掲載の切絵図とあわせて読んでみた。そしていよいよ江戸の地名などに興味をもつようになり、「犯科帳」シリーズに手を出した次第である。ラパン今月号の読書欄には今井金吾編「半七の見た江戸:江戸名所図会でたどる半七捕物帳(河出書房新社)も紹介されていた。さっそく購入してみようと思ったことはいうまでもない。ここにもまた、図3のように、古地図や浮世絵風な風景画が多数、含まれているようである。

図3

 さて、本題のソフトの話に入ることにしよう。まず図4は上記の書籍やCD-ROMソフトを並べてみたものである。それぞれじつに楽しく読んだり、眺めたりできる。ソフトを起動すると図5のように、画面中央に江戸(東京)の全体図が表示され、収録されている切絵図の一覧が左側にリストされた。ちょうど30枚あり、それで江戸全体をカバーしている。というよりも携帯しやすいようにパズル風に切った地図である。リストの上で特定の地域(地図名)を選択すると中央の地図上で該当する地域が太枠で表示され、どの地域であるかが示される。また、右側には選択しようとしている切絵図に含まれる地名が表示される。さらに、画面下段にはツールバーが用意され、それぞれ特定の機能に対応している。

図4

図5

 いまためしに新宿近辺を選択してみると図6のように切絵図が画面にあらわれた。これが現在の新宿近辺であるといわれても、すぐにはぴんとこない。新宿南口は甲州街道(国道20号)に面しており、甲州街道は江戸時代の主要な街道であったはずだ、と思って地図を見ると画面中央に太い街道が見える。しかし、どうも不安である。こうしたときは古地図の上に現代地図を重ね合わせてみればよい。ツールバーから「現代地図の表示」を選択してみると図7のように、鉄道路線や駅そして主要な施設の名前が表示された。天竜寺という大きなお寺も見える。いまもあるのだろうか。ヨドバシカメラに寄った帰りにでも切絵図を携帯して歩いてみようと思った。

図6

図7

 画面下段のツールバーには項目別インデックスを表示させ、たとえば老舗が江戸のどこからスタートしたのか知ることができる。たとえば図8は「駒形どぜう」を選択してみたところである。図の右側、隅田川沿いに「駒形どぜう」を示すスポットが表示されている。図の右上の吾妻橋はかつてよくWindowsコンソーシアムの理事会が開かれたアサヒビール本社近くの会場へ向かう経路でもある。また、図の中央には東本願寺という広大な敷地をもった寺も見える。いまもあるのだろうか(こんな有名な寺も知らないでと怒られそうだが)。

図8

 検索は項目リストだけでなく、CD-ROMに収録されている切絵図の主要なスポットが50音順にリストされている。たとえば図9のように、私が昨年3月まで勤務していた筑波大学教育部が位置している近辺の古地図を表示してみた。また、ツールバーの情報ボタンをクリックすることで、図の左上のように、絵図の解説を表示させることができる。

図9

 池波正太郎の本では、彼が生まれ育った浅草界隈の話がしばしば出てくる。文庫本では小さすぎる「東都浅草絵図」をパソコン画面上に表示してみた(図10)。これでもまだ小さいと思われるときは、図の上の太字で囲まれた範囲をさらに拡大することもできる。図の中央部分が拡大可能なので実際に拡大表示してみると、図11のように、細部が見やすい形になった。

図10

図11

 浅草界隈は現在、どうなっているのだろうか。それを見るためには本欄でもすでに紹介している現代版地図ソフトをパソコン画面上に開けばよい。図12は「空撮プロアトラス東京23区」(アルプス社)を起動して吾妻橋界隈を表示させたところである。図の右側にはコンソーシアムのセミナー会場となった墨田区役所リバーサイドホールも見える。また、当然のことながら浅草駅や雷門もあるし、隅田川沿いには観光客の人気を集めている水上バス乗り場がある。しかし、こうした地図も、たまにはヘリコプターなどで上空から眺めてみたいものである。この希望(夢)をかなえてくれるのが「空撮」地図である。さっそく画面上段のツールバーから「1万写真」をクリックしてみよう。それによって瞬時に画面は航空写真にかわった(図13)。画面右上にはユニークなアサヒビールのタワーが影をともなってはっきりと見えている。また、隅田川がゆったりと流れ、その上に吾妻橋をはじめ何本かの橋がかかっている。

図12

図13

 航空写真も眺めているうちに、ここはどこ?あそこはどこ?といったように場所や地名を調べたくなるだろう。さいわい、このソフトは上段のツールボタンで瞬時に通常の地図と航空写真を切り替えることができる。もちろん、航空写真のままマウスで自由自在にスクロールもできる。そしてさらに、表示メニューに用意されている同時表示機能を使うと通常地図と航空写真を合成して表示することも可能である。図 14は同時表示に切り替えてみたところである。図は航空写真がぼけた感じであるが、写真上に地図が重ねられ、建物や橋そして通りなどの名称が読みとれる。また、右側には上下のスクロールボタンがあり、それによって航空写真と地図の重なり具合を調整することができる。

図14

 図ではまた、ブックマークメニューから東京スポットを選択しようとしている。ここには主要な駅や観光スポットなどが登録されており、主要なターミナル駅周辺は5千分の1という詳細地図と航空写真が含まれている。ためしに古地図でみた新宿界隈を見てみよう。図15は通常の地図で新宿南口周辺を表示させたものである。ヨドバシカメラなど見慣れた風景である。左端は甲州街道にあたる。ここで再度、航空写真に切り替えてみよう。図16のように新宿の高層ビル街がくっきりと見えてきた。また、画面下段は甲州街道であり、上の古地図と見比べてみると興味深い。かくのごとく、地図ソフトの世界は楽しいのである。

図15

図16

 楽しさついでに立体地図にもふれておこう。私の愛用地図ソフトMapFanIV(インクリメントP社)には立体地図表示の機能が含まれている。といっても東京都内を立体表示しても高層ビル群が立体表示されるわけではない(ゼンリン地図にはその機能が含まれているらしい。また、最新のカーナビには3次元表示を売り物にしている製品もある)。かりに高層ビルを立体表示できても私にとってはほとんど意味がない。やはり立体地図表示は八ヶ岳や南北アルプスであってこそ楽しさが倍加する。MapFanはこの点で楽しみの多い地図ソフトである。図171は南アルプスを中心に上段に小淵沢も見えるように、そして下段には富士山も表示されるように縮尺を選択し、画面をスクロールしてみた結果である。地図が立体的に見えるだろう。また、画面左側には「日本の山100選」データベース一覧もリストされている。これはソフトに添付されたサンプルのデータベースであり、カード型データベース的に自由に地図上に情報を定義できる。

図17

 データベースから「甲斐駒ヶ岳」を選択してカードを開いてみると図18のようになった。山の写真やメモなどが参照できる。このカードは自由に設計でき、欄の中に地図をリンクして地図上からカードを開いたり、地図を表示できる。新しい山に登るたびに、データベースに記念写真や地図上の位置などを記録していくと楽しい登山記録ができそうである。これからのライフワークの一つとしたい。

図18

(麗澤大学 国際経済学部 国際産業情報学科 教授
http://www.reitaku-u.ac.jp/




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