活動報告


●第94回セミナー実施報告 <セミナー企画委員会主催>

日 時:1999年7月19日(月)13:30〜17:30
場 所:東京工科専門学校ICAテラハウスB1Fテラホール
参加人員: 56名
テーマ:『西暦2000年問題への法的対処』
    〜ソフトウェア事業者から見た対処の指針〜
 第1部 「2000年問題のリーガルリスク・総論」
     マックス法律事務所 弁護士 山崎 卓也 様
 弟2部 「2000年問題・考えられる対策と現在の動向」
      マックス法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 齋藤 浩貴 様

 今回は、マックス法律事務所の山崎弁護士、齋藤弁護士のお二人から、西暦2000年問題(Y2K)についてソフトウェア事業者から見た想定されるトラブルとその解決の指針と、今何を準備すべきかをお話いただきました。

セミナー会場

 第1部では山崎講師から、@2000年問題でこんなことが起こる 〜2000問題が引き起こすリーガルリスクのシナリオ〜、A訴えられたらどのように反論できるのか 〜Y2K訴訟での攻防をシミュレーションする〜、B訴訟での反論のため何をしておくべきか 〜リスク回避手段を考える〜、C2000年問題事例研究 〜リーガルリスクの感覚をつかむ〜、についていつもの明快な口調でお話いただきました。


 @では、ある一つのシナリオ(例えばのお話として、インターネットプロバイダー事業を営むA社のアクセスポイントのサーバーが2000年問題により2000年1月1日午前零時から約12時間停止 ? A社は損害賠償請求訴訟を起こされ、敗訴。A社イメージダウンにより株価暴落 ? A社株主が代表訴訟。A社社長引責辞任。A社担当者が苦情対応を苦に自殺…)を想定して、2000年問題のリーガルリスク概観(何に対して対策を立てておくべきなのか)、2000年問題のリーガルリスクヘッジ(回避手段概観)、2000年問題のリーガルリスク(日本法上の特徴)についてお話いただきました。
 Aでは、「2000年問題訴訟における請求原因」として、(1)Y2K訴訟で主張される請求権概論(契約責任に基づく損害賠償請求権、契約外責任に基づく損害賠償請求権)、(2)各請求権の特徴概観(債務不履行責任(民法415条)、瑕疵担保責任、不法行為責任、製造物責任)についてのお話がありました。続いて「2000年問題の損害賠償請求訴訟を具体例で考える」では、@でのシナリオで、『A社アクセスポイントサーバーの停止により、同サーバー上でオンライン商店を営んでいたB社が損害を蒙り、A社に対して損害賠償請求を提起した。あなたがA社の法務担当者だとして、あなたはこのようなB社の訴訟に対してどのような反論をしていきますか』という設定に対し、2000年問題訴訟における反論概要(Y2K訴訟に対してどのような反論が可能か)として、「そもそも“悪い”行為ではない」、「当社に責任はない」、「そこまでの賠償義務はない」、「その他(免責約款の有効性、時効など)」と4つの反論例についてかなり詳細にお話いただきました。
 Bでは、「過失がない、といえるようにするために」では、立証責任の負担について、対策・実行の資料、情報開示を万全に、また、「2000年問題のリーガルリスクヘッジ」では、保証書の位置付け(保証書の法的効果、保証書の実効性)、アンケートの位置付け(アンケートの位置付け、アンケートの記載例)、情報開示・統一回答書(対応状況は必ず開示、アンケートなどに対する統一回答)についてお話いただきました。
 Cでは、事例1(システム開発の場合の例)、事例2(パッケージソフトの場合の例)、事例3(埋め込みチップの場合の例)、事例4(インターネットAPのサーバーダウン)をあげ、それぞれの回答として関係者に対する責任追及について請求原因、抗弁の解説がありました。この講義途中で、出席者を指名して回答を求めるシーンがあり、結果として好評であったようです。
 第2部では齋藤講師から、@ソフトウェア業者とユーザーの取引関係特有の問題について考える、A米国の訴訟及び立法の動向を紹介し、2000年問題に関する法律問題の広がりを探る、B広がりを持った問題について日本法の下での法律関係を考察する、CこれからCritical Dayを迎えるまでの法務対策を考える、についてじっくりとお話いただきました。


 @ では、第1部で話された単純にソフトウェアを開発したりパッケージにしてユーザーに届けるという取引からさらに進んで、もっと特有の問題がその先にあるわけそれについて突っ込んで見たいということで第1部の続きといった位置付けで、「保守契約と2000年問題」、「ユーザーによる自力補修」、「ユーザーによる自力救済とソフトウェア・エスクロウ」についてお話がありました。ソフトウェア・ベンダーが対応しない場合のユーザーによる自力補修では、修補およびそのためのコピーと複製権・翻案権侵害、リバースエンジニアリングと営業秘密、ライセンス契約による制限、などいろいろ問題があり、そのために、ソフトウェア・エスクロウという制度があるとのことです。“ソフトウェア・エスクロウ”とは、ライセンサーとライセンシーが、ソフトウェア取引を開始するにあたって、そのソースコードや技術情報等を第三者(エクスクロウ・エージェント)に預託しておき、ライセンサーに事故等があった場合、エクスクロウ・エージェントが予め定められている一定の開示条件の下でそのソースコード等をライセンシーに開示することによりライセンシーの保護を図る制度。日本では、財団法人ソフトウェア情報センターが事業化している。
  http://www.softic.or.jp/escrow/escrow.html
 A では、ユーザーに届く製品の問題だけが2000年問題からの法律問題というわけではなく、それ以外の法律問題では、米国ではどのような訴訟が起きているのか、また米国では2000年問題について法律によって一定の解決を図ろうという立法もあるので、その動向を紹介して2000年問題の広がりを探っていこうということで、米国における訴訟例として「非対応システムによって生じた損害についての賠償請求訴訟」、「アップグレード費用訴訟」、「システムコンサルタントに対する訴訟 ― Young v J.Baker Inc.」、「その他提起されている訴訟類型」、「2000年問題情報及び対応開示法」、「その他の立法」とかなり詳細に米国の状況についての紹介がありました。
 B では、Aで紹介した広がりを持った法律問題が当然米国と日本では社会も違うし、法律も違うので、日本法ではどうなっているかという点について、「コンサルティング会社の責任」、「保険による補填の可能性」、「2000年問題と会社役員の責任」、「株主に対する情報公開と会社の責任」、また、適合化レターに関しては「送付の目的」、「回答義務と法的拘束性」、「回答の注意」についてお話がありました。
 C では、2000年問題が発生するのは2000年1月1日であり、それを迎えるまでの法務の態勢をどうしたらよいかを考えるということで、「危機管理計画(コンティンジェンシープラン)の策定」、「危機管理計画作成にあたって把握すべきリスクの種類」、「危機管理計画の作成における注意点」についてお話がありました。
 最後に訴訟対策のまとめとして、「事前の修正としてできる限りのことをする(損害発生の防止)」、「適合化レターによって責任の範囲を明確化しておく」、「危機管理計画の策定(損害の発生・拡大の防止)」、「対策の状況を将来の立証のために記録に残す(主として過失の有無、注意義務の履行の立証に備える)」が必要である、とむすばれました。

 ここで出席の皆さんのアンケートからのご意見をご紹介いたします。
 第1部では、「契約の有無や具体的なケースについて分かりやすく説明していただいた」、「請求内容と抗弁が明確になっていて分かりやすかった」、「自社が行っている対策が法的にどのようなリスクヘッジになっているかが分かった」、「非常に分かりやすい説明であったが、具現化のための具体例もあるとなお良かったと」、「有用な内容で整理が行き届き良かった。できれば具体的な例をもっと増やして欲しかった」、「損害賠償時に必要な対応についてもう少し個々の具体的な事例の説明があれば、有用度が高くなったと思う」、「法的なことが中心で、理解できない面があった」、「事例の部分は難しかった。立場によっていろいろと違いがあることを実感した」、「出席者に答えを言わせるのは良かった。緊張したが理解が深まった」、「講師側からの質問は理解を深めるのに良い」、「テーマがちょっと一般的過ぎたように思う。指名質問があったのは良かったが、はじめからそのように予告された方が良かったと思う」。
 第2部では、「適合化レター等知りたかった内容についての説明が含まれていたのが有用だった」、「現在、適合化レターの処理等に追われているので有益な内容であった」、「米国の事例から訴訟の問題の可能性がいろいろあることが分かった」、「米国での先行している訴訟事例の種類が多岐に渡っているのが興味深かった」、「具体的な問題でより身近に感じられ有用であった」、「米国の動きと日本の法的対応をもっと聞きたい」、「大変分かりやすかった。後半が駆け足になったのが残念」、「内容は有用でしたが時間がかかってしまい、詳細が聞けなくて残念」、「例が示されているが概要なので、詳細については説明のあるURLを示して欲しい」、「米国の事例は分かったが、日本ではどうなるのかは分からなかった」、「危機管理計画についてもう少し詳細な話を聞きたかった」、「米国の例はあまり参考にならない」、「米国事例は身近なことではないので時間を短く、役員の責任、レター、危機管理計画に時間を割くべきである」。
 セミナー全体としては、「現在非常に重要なテーマであり、このようなセミナー開催は良かった」、「問題への対処とその考え方が整理されており良かった」、「全体的に2000年問題に対処するための考え方が良く理解できた」、「法律的な面からのY2Kの問題に関するセミナーは初めてだったので大変勉強になった」、「質疑応答の中から得られた情報についても有益なものが多かった」、「メーカー、ベンダー救済の例でのお話だったと思うが、同じ位ユーザー救済のロジックもないと社会的に困ると思うが…」、「リスクについて分析し対策をたてていく必要は感じていたが、具体的にどうすべきか見なおしたい」、「時間のハンドリングをもう少し上手にしていただけると、理解度が上がったと思う」、「講師からの一方的な講演だけでなく、受講者のレベルを意識した適切なフォローを望む」、「実際の訴訟では判断がグレーな事例も出てくることが予想され、これさえ行えばY2K対策が完璧ということがないのだろうと実感した」、「セミナー中にある『例』についてもう少し具体的な話が聞けるとさらに良い」、「弁護士さんなので専門的になりすぎるのではないでしょうか?コンサルタントの方が実践的な説明を受けられるのでは…」、「もう少し時間に余裕があれば尚、良かった。Q&Aはもっとたっぷり時間をとっていただきたい」。
 今後のセミナーへのご意見、希望としては、「著作権もそうであるが法律に関する企画はありがたい。これからもお願いしたい」、「より詳しいY2Kの法的リスクを具体例に基づいて紹介していただきたい」、「今後の対処について更に具体的に知りたい」、「今日の内容で定期的に開催して欲しい」。
 たくさんの貴重なご意見をいただきありがとうございました。
 なお、当セミナーのハンズアウトが事務局に僅少ありますので、入手ご希望の方は事務局(wincons@fsi.co.jp)までEメールにてご請求ください。


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