最新Windowsソフトウェア事情(第52回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
mtaka@fsinet.or.jp


一般科目の中の情報技術

 大学の話がつづいて申し訳ないが、ソフト会社のみなさんにとってもまったく関係のない話というわけではないのでお付き合い願いたい。麗澤大学では新入生全員が厳しくも充実したコンピュータリテラシー教育を受ける。新学科がスタートしたこともあって、4月から始まったコンピュータリテラシー科目の準備のために、関係の先生方は毎日夜遅くまで教材準備に大変な時間と労力を投じてきた。この様子は情報関係の先生方が情報交換に利用しているメーリングリスト上に行き交うメールの文面や送信日時の時刻にあらわれている。午前2時すぎに「そろそろ寝ようか!」といったメールでその日のコミュニケーションが終わるといったこともめずらしくない。かくいう私は朝6時半ころに起き出してOutlook Expressを起動し、新着のメールを読むという朝型の教授である。メーリングリストに名前を加えてもらっているものの、エネルギッシュな先生方と対等に付き合うことはとてもできない年齢となってしまった。
 コンピュータリテラシーを通じて学生は全員、パソコンの操作、タイピング(練習ソフトはTypeQuickを使っている)、メール、インターネットのブラウジング、ホームページの作成、ワープロソフト、表計算ソフト、プレゼンテーションソフト、ネットワークの基本そして最近とくに重要性が増している情報倫理などをみっちり身につける。私も一年生にまじってあらためて情報技術の基本を学びなおしたいと思うほどである。ところで情報技術教育は麗澤大学にかぎらず、内容の充実度の違いはあっても、どこの大学でも必須の科目として位置付けられるようになった。やがて社会人として活躍する若者ができるだけ早い時期に実践的な情報技術を身につけることは望ましいことである。しかし、多くの大学、とくに文科系の大学においてはコンピュータリテラシーの次に、情報技術に関連して何を学ぶことになるかが重要な問題になると思う。つまり、情報関係科目ではない一般の科目、たとえば経営や会計あるいはマーケティングなどの科目の中でいかに情報技術を使う機会が得られるかが重要である。
 前回、簡単に紹介したように、私は自分の担当科目「経営科学」の中では教材や授業のプレゼンのためにできるだけパソコンを利用しようとしている。また、1年次を対象とした「専門書講読(英語の専門書を読む)」の中でもインターネットやパソコンを使った授業を行おうとしている。さいわい、新しくできた横長のゆったりした教室は50名の学生全員が快適にパソコン(ディスプレイはすべて液晶型)を利用でき、しかもパソコン用とは別に2人に一台用意されているモニターTVには教壇の教師用パソコンの画面やビデオが鮮明に映るようになっている(通常のビデオはパソコン並みの表示精度にアップコンバートされる)。図1はこの最新教室の授業風景である。

図1

 さて、1年生からすぐに英語の専門書を読むことは実際上、不可能なことである。受験英語に毒された学生に対して導入部として、実戦英語を体験してもらいたいと思うことは当然であろう。その格好のツールがインターネットである。受験時代においては辞書持ち込みは許されなかったが、大学生となれば、そしてやがて社会人となれば利用できるものは辞書でも何でも利用すればよい。インターネットやパソコンソフトには効果的に英語を学び、また、英文の情報を効果的に利用する(読む)ための高度なツールが数多く見られる。また、英語学習にとって、「こんなものまであるの?」と思わせるようなサービスもある。たとえば図2は授業の中で実際に利用している「ジャパンタイムズ」の画面例である。
http://www.japantimes.co.jp/shukan-st/articles/article-menu.html)。

図2

図2  これはホームページの画面をファイルに保存した上でローカルに(ハードディスク上で)参照している(IE5.0ではホームページの保存も簡単にできるようになった)。ここにはジャパンタイムズに掲載されたコラムのいくつかが主要な単語や構文に対する訳語をつけて掲載されているのである。図はその一つ、夏時間についてのコラムの画面例である。画面左側に原文が表示され、ところどころに赤色の下線つきの文字列が見える。これはそれらの文字列の訳文が右側に用意されていることを示している。文字列の上にマウスを置くとポインタは手の形に変わってリンクが示され、クリックすれば辞書の該当個所が表示される。内容を読むだけでなく、英語の学習になることはいうまでもない。こうした訳語つきのコラム記事がかなりの本数、用意されている。みなさもためしてみたらいかがだろうか。
 ジャパンタイムズのサービスも社会人にとってはありがたいが、新入生にとっては授業の準備をさぼる手助けになるだけである。それでは困るので学生には、分からない単語は自分で辞書を引くように強制することはいうまでもない。事前の準備をして授業にのぞんだ学生に対して、まずは英文を訳させ、ついで教師(私)が学生の訳に対して「こんなんじゃ駄目だ。これではぜんぜん分かっていない!」などと厳しい注文をつける。そしてときには同じ英文をパソコンに訳させ、「パソコンの方がよっぽど分かっている」というように、学生を叱咤するのである。そのためのツールとして、最近はもっぱら「コリャ英和!バイリンガル」(カテナ社)を使うようになった。もちろん、このソフトは学生の英語力と競争させることがその主たるねらいであるわけではない。インターネットのホームページ(英語表示の場合)を画面イメージのまま、日本語に翻訳したり、上記のような英文の記事を翻訳したり、ちょっと分からない単語を辞書引きしたり、英文をパソコンに読み上げさせたり、といったことができる。また、「バイリンガル」という名前からもわかるように、和英機能(日本語を英語に翻訳する)もついており、ノートブックパソコンの場合は通訳がわりに利用することもできそうなソフトである。このソフトにお世話になった大学生は社会に出てからも引き続いて使いたくなるソフトといってよい。今回はこの「コリャ英和!バイリンガル」のさわりを具体的に見てみることにしよう。
 図3はコリャ英和!を起動しようとしているところである。見てわかるように、フォルダーには「コリャ英和!バイリンガル」だけでなく、各種ツールや「通訳くん」なども含まれている。図4ではさきほどの英文コラム上でコリャ英和!をためそうとしている。上段にはツールバーが表示され(任意の位置に置くことができる)、英文上では最初の数行を選択し、ツールボタンから「英和」を実行しようとしている。これはもちろん、選択した英文の翻訳を行うためのボタンである。ツールバーの左二つはインターネットページの翻訳機能である。

図3

図4

 翻訳結果は図5のようにポップアップ翻訳ウィンドウ上に表示された。最初の3行は主部が長く、2行目の終わりころになってはじめて、「is」と述語が出てくるので翻訳がむずかしいセンテンスなのだろう。訳文からは意味が読み取れない。それに対して、次のセンテンスはそのままでも十分に意味がわかる内容となっている。翻訳ソフトは数千円から10数万円まで種類が多いが、いまのような英文の場合は、高額なソフトであっても、訳はむずかしいだろう。実際には翻訳にあたって、長いセンテンスをいくつかのセンテンスに分割するといった前処理が行われる。

図5

 このソフトを学生に使わせるとしたら、英文を直接に翻訳させるよりも、まずは分からない単語を調べさせることを主たる目的としたい。分厚い辞書を引くのもよいが、せっかくパソコン画面上で英字新聞のコラムを読もうとしているのだから、辞書もパソコン上で引くことができれば「パソコン支援による英語学習」が実感できる。パソコン上で引くことができる電子辞書は市販ソフトやフリーソフトなどかなり見られる。「コリャ英和!」には翻訳用辞書と「研究社新英和・和英中辞典」が標準で添付されている。そのほかにも、コンピュータ用語とか経済・経営用語、医学用語など専門分野の辞書もオプションで用意されている。図6では英文上で「daylight」を選択し、翻訳辞書上で訳語を調べてみた。「夜明け、日光」の訳語が表示されている。この基本辞書に対して新英和・和英中辞典は書籍版の辞書と同様、訳語に加えて用例や成句なども豊富に含まれており、学生には大いに勉強になる。図7は英単語の中でむずかしい単語の一つ「get」を中辞典で調べた結果である。ウィンドウに表示しきれないほどの意味や用例/成句が見られる。

図6

図7

 ここまで英文を読むための支援を見てきた。しかし、英語は読むだけでは駄目だ。「読む(reading)、書く(writing)、聞く(listening)、話す(speaking)」の4拍子がそろう必要がある。英語は読むのはなんとか読めても、書くのが駄目、話す方はまったく駄目という人も少なくない。「コリャ英和!」はあとの二つについても、われわれを何とか支援しようと努力してくれる。まず、ツールボタンからから「例文」をクリックすると「英文ワークス」とよばれるウィンドウが図8のように表示される。図ではWORD上で英文を作成しようとしており、そのさいに「コリャ英和!」の「例文データベース」が活用できる。英文ワークスはこの例文データベースを活用するための操作ウィンドウである。

図8

 図からわかるように、ウィンドウ左側に手紙の書き出し、季節の挨拶、苦情、請求、銀行など「場面別」の例文が分類別に整理されている。たとえば夏の時期にあった挨拶を英文で書きたいとして、「夏」を選択すると図9のように、さまざまな挨拶文がリストされてくる。図ではためしに「暑さきびしき折り」を選択してみた。その結果はウィンドウの右側のように、和文と英文が表示され、上段の英和ボタンによってWORDにコピー/ペーストできる(英文だけ、あるいは和文だけのコピーもできる)。WORDにはすでに和文および英文がコピーされている。

図9

 例文データベースはウィンドウの下段の「ひな型」、「場面別」、「表現別」、「重要語」のタブによって目的にあった例文を利用できる。上では「場面別」をためしたが、「ひな型」を使うと状況にあった英文のひな型(テンプレート)を表示してくれる。必要な個所を実際のデータで埋めていくと基本的な英文ができることになる。図10は「苦情の申し立て」から「積荷に数量不足あり」とする英文のひな型を選択したところである。右側のひな型を確認したあと、WORDにコピーしてみると図11のような英文が表示される。ところどころ、括弧で囲まれた個所があり、それらの場所に実際の商品なり数量のデータを入力していけば「苦情の申し立て」の英文ができあがることになる。

図10

図11

 「コリャ英和!」はWORDや一太郎に追加機能(アドイン)として組み込むこともできる。それによってワープロソフトの機能の一つとして利用できるようになる。私もさっそくWORDに組み込んでみた。図12はその画面例である。さきほどの例文をWORDにコピーし、文章の一部を選択し、画面上段に追加された「コリャ英和!」の「英和挿入」ボタンをクリックして翻訳しようとしているところである。その結果、図13のような訳が文中に挿入された。WORD上段のツールバーには「和英挿入」ボタンも見える。ためしに図 14のような日本文の上で適当なセンテンスを選択し、和英翻訳を実行してみた。その結果は図15の中段のようになった。まあまあの訳になっていると思うがいかがだろうか。もちろん、日本語の場合は主語を省略するといったことがよく行われるので、翻訳にあたってはあらかじめ、センテンスを分割して短くしたり、主語をおぎなったりといった前処理が効果的である。

図12

図13

図14

図15

 「話す(speaking)」は「通訳くん」の仕事である。「通訳くん」を起動すると図16のようなウィンドウが表示され、上段の入力欄に日本語を入力し、Enterキーを押すと該当する英文が下段の欄に表示されるとともに、パソコンのスピーカーから英文が聞こえてくる。「話す」と「聞く」が同時にできることになる。入力し、翻訳(通訳)された文章は下段に順次、たまっていく。図では「私は高橋です」の挨拶からはじめ、「お会いできてうれしいです」…と会話が進み、いよいよ食事の誘いまできたところである。この会話の経過はログとして保存し、あとではずんだ会話を振り返ることもできる。

図16

 会話の状況によってはいちいち日本語を入力するのが面倒に思われることもある。すらすらと口から英語がほとばしり出てくれば最高だが、なかなかそうはいかない。せめて定型的な構文はいちいち入力しなくとも話すことができればありがたい。そのためには左端の「クイックリプライ」ボタンを使えばよい。それによって図17のように、応答別に分類された提携文がリストされるので、たとえば「聞きなおす」から「もう少しゆっくり話して」を選択すると英文が聞こえてくるとともに、会話スペース上にも英文がコピーされる。

図17

 「翻訳くん」の二つ目のボタン、「クイックレファレンス」は図18のように、空港、ホテル、レストランなど「状況別」に分類された例文から選択して会話できる。図では「レストラン」から「メニューを見せてください」を選択したところである。これらの機能は電子手帳型の通訳機械をイメージさせてくれる。Windows CEタイプの超小型パソコンなら実用的に使うことができるだろう。

図18

図19

 ツールボタンにはさらに、「ワールド早見表」もある。これによって為替換算や各種度量衡、カレンダー、世界時計が利用できる。たとえば図19は円をドルに換算したところである。下段で最新のレートを入力し、上段で「どの通貨」から「どの通貨」へ換算するかを選択すればよい。カレンダーは日本だけでなく、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどのカレンダーが参照できる。各国の祝祭日も表示されるので何かと便利に使うことができる。
 最後に、「聞く(listening)」の学習のためには「読み上げ」機能を使えばよい。英文の任意の文字列を選択し、図20のように、上段の「読み上げ」ボタンをクリックすれば、その文字列が読み上げられる。

図20

 このようにして「コリャ英和!バイリンガル」に含まれるじつに多彩な英和・和英機能の一端を駆け足で眺めてみた。最初は「情報技術を使った英語教育」のツールとして評価しようとしたのであるが、あらためて考えてみると、英語学習においてここまできめ細かに面倒をみてもらったのでは、学生はさっぱり勉強しないということになりかねない。3年生になって本格的に「専門書」を読むようになったときに使うことにしよう。英語を訳すだけに大半の時間とエネルギーを使ってしまい、肝心の専門書の内容まで読むことにならないで終わることがないためには、「コリャ英和!」の助けが大いに力になるはずである。

(麗澤大学 国際経済学部 国際産業情報学科 教授
http://www.reitaku-u.ac.jp/




Contents         Windows Consortium ホームページ