田中 亘のWindow’s1999

田中 亘




Consumer Windows in 2000

 ロサンゼルスで開催されたWinHEC '99に参加してきた。昨年のWinHEC '98は、報道関係者にとって「外れ」といえる内容だっただけに、今年こそはという期待も大きく、参加した。そして、そんな期待を裏切らないような話題が、いくつか提供された。すでに、このコラムが目についている頃には、そうしたニュースの多くが、過去のものとなってしまっていて、目新しさは感じられないだろう。それでも、今後のWindowsとPCを予測する上では、とても重要な発表だったので、ここで改めて整理させてもらいたい。

 まず、WinHEC '99では、条件付きながらWindows 2000のβ3が配布された。通常、マイクロソフトがβ3を出したといえば、出荷準備に入ったことを示すものだ。ただし、今回の条件とは、配布されたCD-ROMがRC1という枝番号付きのもので、このRCがいくつまでいくのか、それによっては、単なるβ3ではなく、限りなくβ2に近い存在といえるかもしれない。それでも、1997年のPDC '97で配布されたβ1から数えていけば、やっとβ3になったのだ。これで、年内にはWindows 2000も出荷されるだろう。
 次に、Windows 98が名前を変えて生き残ることになった。なんとなく、予感はしていたのだが、2000年にはConsumer Windows in 2000なる、Windows 98ベースのWindows 2000ファミリーが登場する。前々から、Windows NTカーネルだけで、現在のコンシューマ向けパソコン市場を牽引していけるのか、個人的に疑問を抱いていた。それだけに、Consumer Windows in 2000の発表は、どちらかといえば、その疑問を解消するもので、x86版Windowsは21世紀まで使われるのだと確信した。
 これで、マイクロソフトは、三回にわたって、x86版とNTという二つのWindowsの統合に失敗したことになる。「歴史は繰り返す」ではないが、いつもひとつになるはずの矢印が、いつも分かれたままというのは、興味深い現象だ。
 そして、WinHEC '99よりも前に発表されていたユニバーサルPlug&Play(以下:UP&P)の構想が、かなり具現化してきた。それは、パソコンにつなげられる可能性のある周辺機器は、なんでもUP&Pの傘の下に入れてしまえ、というものとなった。その中でも、展示会場に特設されていたパビリオンでの実演が、これからの消費者向けPCの方向性を模索するものとして、とても興味深かった。
 特設会場に用意されたUP&P関連のデモンストレーションでは、韓国のサムソン社が、大型テレビとパソコンとビデオカメラを結んだリビングルームの例を紹介していた。テレビのリモコン操作によって、玄関に取り付けたビデオカメラで来客の顔を確認したり、放送電波に割り込まれているHTMLデータを解析して表示するなど、居ながらにして横着のできるリモコンの利用例を見せてくれた。
 昨年までは、低価格な家庭内ネットワークを組むことの必要性だけを説いていたWinHECだったが、今年からは、UP&Pの構想によって、LANはもとより、IEEE1394やUSBにモデム回線までも、すべてUP&Pの対象として、これらを相互に接続する技術の開発や支援を推進していくという。
 そんなUP&Pのショーケースを見ていたら、ふとあることを思い出した。1994年のComdex/Fall '94で、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が提唱した“Informaion at your fingertips in 2005”というコンセプトだ。その基調講演の中で、ゲイツ会長は、家庭内のさまざまな情報機器やデバイスがネットワークされて、それらが効率的に活用される様子を紹介してみせた。当時としては、かなりお金と意欲のこもったプレゼンテーションで、ドラマ仕立てのビデオを紹介したり、ステージでゲイツ会長が演技めいたリアクションをするなど、なかなかユニークなものだった。
 そのドラマ仕立てのビデオの中で、壁に貼られた液晶パネルに触れると、それが調光用のフェーダーになったり、使わないときには綺麗な映像が表示されている様子が紹介された。そして、今回のUP&Pと、それに関わるWindowsによるマルチメディア系データ処理においても、当時のビデオを再現させるようなデモンストレーションが披露された。その内容は、パソコンで取り込んだデジタルカメラの映像をUP&Pで結ばれた液晶パネルに表示させる、というものだ。会場では、ディズニーランドで撮影してきた娘の画像とか、愛猫の姿などが映し出された。その様子は、まさに壁中に家族の写真を貼っている家のデジタル版だ。プログラムしておけば、液晶モニタに表示される絵も変わるから便利でしょう、という発想そのものも、欧米人ならではの価値観だった。この他にも、いささかこじつけめいたマルチメディアの利用例もあったが、多少の強引さは無視したとしても、米国のPC業界が、いままで以上に、PCと家電品との結びつきを強めたい、と考えている意欲が感じられた。
 そんな彼らの切り札が、テレビのデジタル放送化にある。放送電波のデジタル化によって、PCに差し込んで使うデコーダボードの需要が高まれば、テレビとPCが結ばれる日は近い。そこに、HTML化されたコンテンツや電話回線を使ったインターネットへの接続が加われば、まさにPCが次世代のセットトップボックスやセンターステーションへと進化する。そうなれば、黙っていても確実な出荷が望める上に、そこに提供されるOSや組み込みチップなどから得られる利益も大きい。
 この思惑が、果たして本物となるのかどうかは、あと数ヶ月は様子を見なければならないだろうが、米国におけるインターネットの広がりを考えれば、コンシューマ家電やテレビなどのメディアの側が、デジタル技術にアプローチしなければ、生き残れない可能性もある。
 そんな米国の市場に対して、日本はやっとインターネットが普通の利用者にまで広がりはじめているところだ。その時差としては、3年から5年の開きがあるのではないだろうか。しかし、米国で成功したものは、いつかは必ず日本にもやってくるので、PCが家庭に浸透する新しい手がかりが作り出されるのかどうか、ここ数ヶ月のUP&Pを取り巻く状況には、大いに注目しておくべきだろう。

WinHEC '99の基調講演で、Consumer Windows in 2000などの発表をするスティーブ・バルマー社長

UP&Pに合わせて、今回のWinHEC '99では、さまざまなコンセプトを持ったPCの将来像も紹介された。写真の右端にある緑色の置物は、未来のPCをイメージしたデザインのモックアップ。

中身は空なので、説明してくれたマイクロソフトの人は、「これじゃあペーパーウェイトだな」と笑っていた。



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