Windowsよもやま話


最近のパソコン環境について

富士ソフトABC株式会社 東京事業所
設計グループ 課長 水野隆司 tmizuno@fsi.co.jp



 かってはUNIX上で、今はWindows上でのソフトウェア開発を生業としているが、長年の経験を振りかえって、日頃考えていたことについて述べてみます。

− 最近のパソコンのマシンスペックについて思うこと −

 現在、私が日々の仕事で利用しているパソコンは、PentiumU 300MHz、メモリ 128メガバイト、ハードディスク6ギガバイトが搭載され、Windows NT 4.0が動いている。Internetにより24時間いつでも情報収集ができ、E-mailによるメールの交換は1日50〜60件程度行っている。今日、この程度の環境はソフトウェア開発を生業としている者にとってはごく標準的な環境である。しかし、ほんの4〜5年前まではこのような環境はサーバーマシンのスペックである。このようにハードウェアの環境が大きくなった原因は、Windowsやその上で動作するアプリケーションが肥大化し続けていることであるといわれ、ユーザーには余分な出費が発生するがコンピュータ業界は、このおかげで好景気であるといわれることがある。このことについて、そろそろ現役を退きつつあるロートルプログラマの立場から考えてみたい。
 10数年前、初めて本格的なパソコンソフトの開発を行った時のマシンスペックは、CPU 8086、メモリ384キロバイト、ハードディスク10メガバイトのスタンドアロンマシンだった。当時開発していたアプリケーションは1.5メガバイトのイメージデータを扱うもので、メモリ内に少なくとも240キロバイトの作業領域を必要とした。それまでUNIX上での開発を行ってきた私は、圧倒的なリソースの足りなさと処理速度の遅さに四苦八苦してしまった。結局、アプリケーションのスペックを落とし、VRAMを作業領域に利用し、I/Oポートを直接アクセスするなどの方式をとってリソース不足、処理速度の遅さをカバーした。実際に私自身の作業時間の多くがプログラム本来の機能を設計したり、作り込むよりも、このようなチューニング作業に費やされた。
 このようなアプリケーションは同じMS-DOSのパソコンでも機種が違えば大幅なプログラムの書き換えが必要となった。また、同じシリーズの機種でも、ハードウェアのバージョンアップの度に動作確認テストを行い、問題があればプログラムを書き換えた。
 このようなことを数年間に渡り続けているうちに、私の中では1つの考えが住み着いてしまった。「パソコンのハードウェアリソースの少なさとMS-DOSがソフトウェア技術の発達を非常に遅らせている。ハードはとにかく、処理速度が速く大容量のリソースを提供すれば良いのだ。後のことは全てソフトでできるのだから」。
 OS/2、Windows 3.1の時代を迎えて、パソコンの機種の違いによる移植性の悪さの問題は大幅に改善された。しかし、この頃もまだリソース不足は感じていた。これは当時のWindows APIのGlobalLock,LocalLockの仕様に現れている。本来、OSの開発者はこのような不備なメモリ管理のAPIを提供するべきではないと考えている。やはり、16ビットパソコンの時代が続く限りアプリケーションソフト技術者は苦労しつづけるのだなと思っていた。
 このように考えながら、Windows 95,Windows NTの時代を迎えた。最近のWindows関連のAPI、データベース関連のAPI、ネットワーク関連のAPIは成熟し、安定した動作環境が提供されるようになった。この4年間でパソコンのソフトウェアの生産性は大幅に向上したと思う。ここに至ってパソコンのアプリケーションソフト技術者はプラットフォームとして安定した標準といえる動作環境、開発環境を手に入れることができたのではないだろうか。
 このようなわけで、これまで、パソコンのスペックがどんどん大きくなり数年前のパソコン上では新しいソフトが満足に動かないといった現象は、昔は、ハードウェアの器に合わせて、成長が止まっていたソフトウェアが新しく成長する過程ではないかと考えている。

−UNIXとWindows NTについて−

 私は、コンピュータに関わる仕事を始めて初期の6年間をUNIX上で過ごした。OSやソフトウェアに対する基本的な考え方は、当時、日本でUNIXが広まりつつあった時に関わり合った先輩たちやUNIX自身から教わったと思っている。その意味でUNIXは私にとっては恩師ともいえるOSである。
 しかし、私が、最近システム構築を行う場合、Windows NTをサーバーとしたシステムを組むことが多い。システムの扱いやすさ、ハードウェアが廉価であること、クライアントがWindows 95やNT自身であることからの親和性を考えるとやはりNTに軍配を上げざるをえない状況である。現在では、まだOSの信頼性、セキュリティホール等、クリティカルなシステムで利用する場合は不安がある。
しかし、現在、NTにいわれているこれらの問題は単なるOSのバグではないかと思う。
 現在NTの問題としていわれているもの多くは、初期のUNIXでもあった問題で、遠からず解決されていくだろう。初期のUNIXは、汎用機の技術者からはUNIXの信頼性の無さが「UNIXは趣味で使うのは良いが、仕事では使えない」といわれていたものである。UNIX親派がNTの悪口をいっている内容を見ると「いつかきた道」と感じてしまう。現在のNTの状況を冷静に見ると、UNIXでしかできないことはますます無くなり、多くのシステムがNTに置き換わっていくだろうと思われる。少しさびしい気はするがこれも時代の変化と感じている。私にとってはUNIXは恩師でNTはビジネスパートナーというところである。

−IEのバンドルについて−

 現在、IEをWindows 98にバンドルすることがNetscapeとの関連で米国の独占禁止法違反であると騒がれている。ビジネスの問題を抜きにしてこのことについて少し考えてみたい。
 現在、多くのパソコンがInternetにつながっている。このような環境で設計者がコンピュータのローカル環境もInternet環境もユーザーにとってシームレスな形でアクセスできるようにしたいと考えることは自然なことである。私たちの様な仕事をしている人間にとって、「世界中のコンピュータがユーザーから見たとき1台のコンピュータのように見せることができたら」ということは1つの理想である。IEが単なるブラウザであった時ならば、OSにバンドルされて提供されることは、Netscape社が独占禁止法違反であるとの主張は技術者としての立場でも正しいと思う。
 しかし、IEとWindows 98はすでにNetscapeを超えた世界を目指し始めているときに、ソフトウェア技術の発展を妨げるのもといえる。Netscape社はもっと早く提訴すべきだったのではないだろうか。マイクロソフト社が独占的なOSの供給者として非常に強力であり、コンピュータのいろいろな分野で有利な位置にあることは間違いないと思う。しかし、この問題とIEのバンドルは別々に考えたいものである。私自身は、マイクロソフト社の独占を阻止するには、さらにマイクロソフト社を強力にするしか道はないのではないかと考えている。



今月のトピックス

富士ソフトABC株式会社 技術調査室 室長
山本 淳 (yamamoto@fsi.co.jp)




●Windows 98を巡るさまざまな憶測

 米国におけるWindows 98を巡るマイクロソフトと司法省の争いについては、インターネットを駆け巡るさまざまな憶測記事はもちろん、新聞の一般紙にまで掲載されているので、今さら詳細を述べる必要もない。現状で考えれば、何らかの決定が下されるまでは今までの流れから変更されることはないので、少なくとも米国における6月25日、日本における7月下旬というWindows 98の製品版出荷時期には影響はない。英語版についてはすでにOEM向けのリリースが各社に提供され、製品出荷に向けた最終フェーズに突入しているし、日本語版についても最終製品となる直前のRelease Candidate 4 (RC-4)版がベータテスターに配布されているという。製品版のビルド番号はBuild 4.10.1998に決まったということで、いよいよ待望の新製品が投入されることになる。
 マイクロソフトの販売戦略上は、企業向けにはWindows NT 4.0を推奨し、Windows 98はあくまで個人ユースのOSであるという立場を取っているが、実際のところWindows 95を企業ユーザーに売り込んでしまった過去の遺産を引きずって、一筋縄では解決できない状況になっている。
米国の調査会社IDCが発表したレポートによると、98年以降に出荷される企業向けのOSでは、Windows 98が45%を占めると予想している。Windows 95の出荷から3年以上が過ぎ、企業のリプレース需要も高まってきていることから、マイクロソフトの希望に反してWindows 98への買い替えが数多く発生するだろう。IDCのレポートでは、Windows 98の98年出荷は1,280万本で、Windows 95の初年度の1,950万本を下回るものの、2000年には6,600万本でWindows 95の3年目の5,300万本を大きく上回ると予想している。
 実際にエンドユーザーからの引合を見てもWindows 98の登場によって、既存システムを新しい環境に移行したいという要望が増えてきている。最近のパソコンがUSBやIEEE 1394などの最新鋭周辺機器を装備していることも一つの要因になっている。これらを活かすためにはWindows 95 OSR 2.1はもちろん、Windows 98が前提となっている。これらをサポートするWindows NT 5.0の出荷がどう考えても99年春以降という見込みの現在では、選択する余地は限られてくるのは仕方がないことである。
 日経コンピュータ誌の3月16日号にNT 4.0と95、NT 5.0と98に関する記事を掲載したところ、数件のセミナー依頼が届いて、6〜7月に各地で講演する予定になっている。ユーザーは皆販売戦略ではなく、実際のところを知りたがっているようである。


●Javaを巡る動き

 5月26日に第72回セミナーが開催され、マイクロソフトのJava戦略と今年秋にリリースされる新しいVisual J++ 6.0についての説明を受けた。マイクロソフトにとって、Javaはオブジェクト指向に優れた開発言語であり、マルチプラットフォームの特効薬にはなり得ないという見解である。VJ++ 6.0も優れたWindows環境のためのRAD開発ツールとして生まれ変わり、100% Pure Javaアプリケーションもオプションの設定によって対応可能であるという。VJ++ 6.0については、すでにいくつかの雑誌にプレビュー記事が掲載されているが、これまでのVC++的な統合開発環境からVB的な開発環境に生まれ変わっている。マイクロソフトにとってJavaの存在は、Windowsの根底を揺るがす一つの脅威であり、アプリケーション開発者にとっては、Windows環境のみを選択するか、Java環境に対応するか、大きな分水嶺にいる。
 5月27日には日本アイ・ビー・エム、日本サン、富士ソフトABCが発起人となって、Javaコンソーシアムが設立され、現時点で151社の参加があるという。OEMメーカーやISV、SIベンダーにとってもJavaは無視できない存在になっていることはたしかである。
5月28・29日には日本版JavaOneといえるJava Developer Conference 98 Tokyoが開催され、Javaに対応したさまざまな製品が展示されていた。いよいよ日本にもJava環境が整備され始めてきている。
 たしかにJavaにはクリアされなければいけない問題は数多くのこっている。マイクロソフトにとってもWindows NT 5.0の出荷の遅延がWindows DNAアーキテクチャーの集大成というだけでなく、その後のIntel Mercedプロセッサに対応した64ビット版Windows NTの開発にも影響を与えている。2000年を迎える頃には、現在と大きく状況が変化していることは明らかだろうが、そのとき誰が覇権を握っているか予想もつかない。


●米国ニューオリンズでのMicrosoft Tech Ed 98

 6月第1週には日本ではNetworld + Interop 98 Tokyoが開催され、ネットワークを巡るさまざまな発表を目にすることができたが、米国では恒例のTech Ed 98がニューオリンズで開催されている。現地に入っている松倉会長やうちのスタッフからの報告では、「コンファレンスをやるべきではないほど、蒸し暑いし湿度が高い」そうである。
 今回のTech Ed 98では、Windows NT 5.0のBeta 2版の提供が間に合わずに7月に延期されたこともあって、97年秋のPDCで発表されたWindows DNAアーキテクチャーの延長線上の話に終始したようである。

 KEYNOTEはいつもの大風呂敷で、いつもと変わらず「基幹業務に...」でしたが、現実的なところではNT 5, SQL 7, Office 9の概要でした。すべてに共通するものが、
・TCO削減
・HTML/XML
・BackOffice製品とOffice製品の融合
といったところです。そして、キーワードは「ミッションクリティカルなものへの適用」と「サーバマネージメントの再考」のようです。二つのキーワードと上の3点を併せた小風呂敷が現実的なところです。もっとも、これらも何度も繰り返しいわれているものですが。

 具体的な発表としてはVisual Studio 6.0があり、Internet Explorer 5.0のプレベータ版も披露されたという。
 Visual Studio 6.0についてはクロスプラットフォーム対応も発表され、Office 9などともにHTML/XML技術に注力していく。具体的な出荷時期は明らかにされていないが、当初今春に予定されていた恒例のDeveloper Daysが9月に開催されることが決まったようなので、おそらくその頃には製品として登場することは間違いない。Tech Ed ではVisual J++だけでなく、Visual C++やVisual Basicの新版も披露されているようで、開発者にとってはまた新しい開発ツールを習得する必要が出てくる。
 Internet Explorer 5.0についても以前からいろいろ噂は流れていたのだが、6月末にはベータテストに入り、7月に予定されているWindows NT 5.0のBeta 2版にはバンドルされるようである。
 もう一つ大切な情報だが、今年のProfessional Developers Conferenceは、10月12〜15日(プレ・カンファレンス 11日)にコロラド州デンバーで開催されることが明らかになった。PDC参加者にはアップデートされたPDCバージョンのWindows NT 5.0 Beta 2版が配布され、Windows DNAスタイルのアプリケーションの新しい時代の到来を実感でき、NT 5.0を使って既存のアプリケーションに対するTCOの削減をどう実現するかについて話し合われるという。おそらくこの原稿を目にする頃には、米国MS社のホームページのイベント情報に案内が掲載されるということなので、ぜひチェックしてほしい。私もデンバーに行きたいので、現地でお会いしましょう...


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