最新Windowsソフトウェア事情(第37回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄
(mtaka@fsinet.or.jp)



未来から学ぶ:「シナリオ」の役割

 本誌Windows Viewの連載もいつの間にか今回で37回目を数えるようになった。その間、特別号をのぞいて一度もかかすことがなかったのであるから丸3年を超える連載となった。これは大変なことであるとみずからを誉めたい(会員の誰からも誉められたことがないので)。ところで連載といえば共立出版のbit誌でつづけていた「パソコンソフト探訪」は98年3月号の「さらば筑波大学」をもって連載を終了した。こちらは99回目が最後の原稿であった。この最終号にも書いたことであるが、せめて100回を数えてから終わるのもよいのではなかったかと思われたが、「惜しまれながら?終了する」ことを求めたのであった。「さらば筑波大学」とあるのは、本年3月をもって筑波大学を辞職し、千葉県柏市にある麗澤大学国際経済学部に移ることになったからである。私のように、民間企業と付き合いの多い国家公務員は何かと批判も多く、もっと気楽に活動できる身分へと転身することにしたのである。私立大学なら小淵沢のリゾートオフィスへ行き来することも研究活動の一部として理解いただけるはずである。知らなかったことであるが、国立大学の先生は家で仕事をすることは例外的であり、夏休み中も本来の勤務地である大学施設内(研究室)で仕事をしなければならないということである。年間20数日ある有給休暇を活用してほしいといわれたことからすると、事務方にとってみれば、さっぱり研究室に姿を見せない先生方は給料泥棒とでも思われるのだろう。
 さて、上記2誌のほかにも電波新聞社のOAビジネスパソコンでWindowsパソコンソフトを中心として長期連載を継続中であるし、つい最近まで6回連載で「情報生活観測」誌(アスペック情報生活研究所)に「意思決定支援」関連ソフトの紹介を行ってきた。また新たにサイビズ誌にも連載を始めようとしている。このように、私にとって雑誌への寄稿は日常的な仕事の一つとなっている。もちろん、一つの雑誌に書いた内容を他の雑誌で使い回ししているというのではなく、次々に手元に集まるソフトはなるべく早く紹介しないとすぐに陳腐化してしまうというおそれに駆られてのことであることはいうまでもない(ときどき締め切りに間に合わず、他の原稿の素材の利用を強いられることもあるが)。
雑誌に寄稿すべく文章化したり、作成した図版は大学の授業や外部セミナーの教材、話題としても利用している。また、ときどき出版する書籍の材料としても活用している。というか、むしろ、雑誌への寄稿は日常的にパソコンソフトの世界をサーベイするという活動(研究活動といいたいが)の中で、そのメモ的な役割を果たしているといってよい。つまり、新しいソフトが手元にきたときに、とりあえずその機能をざっとトライして雑誌に紹介してみる。それらはとりあえず、そのときどきの話題の中で位置づけるだけである。そうして書き溜めた原稿を素材にして、今度は特定のフレームワークにそって材料を整理してみると、新たな書籍の内容として配置できる。私にとって、まったく新たに一冊の書籍を書き下ろすということは至難なことである。雑誌原稿の執筆そしてそのためのソフト収集は書籍執筆のための重要な材料仕込みの段階に位置づけられているのである。
 さて、今回はどんな話にしようかと策を練っているところである。今回は事務局の小泉さんから岩波新書のPRをしてよいという許しが出ている。といってすぐにPRの話に入るのも気が引ける。ということで、出だしは学者らしく日本橋丸善から出発しよう。

 
● 将来から現在を読むための「シナリオ」
 先日、丸善の2階洋書売り場に立ち寄った。最近はインターネット書店のamazon.comで購入することが多いが、やはり書名(タイトル)に惑わされず、現物を手にとってページをめくってみることは学者としての基本であろう。その結果、8冊の新たな書籍を購入した。しめて4万数千円である。わずかな研究費はあっというまに消えていき、あとはみずからの懐が頼りとなる。最近はCD-ROMやフロッピーディスクがついた書籍が急増しており、今回も現在の私のもっとも大きな関心事であるデータウエアハウスやデータマイニング関連書籍も2冊購入できた。

写真1
 
 8冊の中には
L. Fahey & R.M. Randll ed., Learning from the future:competitive foresight SCENARIOS, John Wiley, 1998(写真1)
も含まれている。この本は「シナリオ」をベースに未来を描き、現在から未来へいたる道筋の上でさまざまな問題点を把握してその解決策を考える思考法と、それを支援するアプローチ(情報技術)を論じた本である。20名のすぐれたコンサルタントがシナリオを描くためのさまざまな方法を提案し、また、実践を紹介している注目すべき最新の本である。昏迷つづくパソコン業界に身を置くみなさんにとっても機会があれば目を通してほしい本の一冊であるといえる。

 
● 表計算ソフトの「シナリオ」機能
 さて、「シナリオ」といえば岩波新書「パソコンソフト実践活用術」の第7章「考える力となりえるか」の中で私もパソコンが将来を考えるツールとなりえることを主張し、たとえば、Excelの「シナリオ」を紹介している。表計算ソフトの基本機能は、ワークシート上のセル内容を変更すると即座に再計算が実行されてその結果が表示されるというWhat if分析であることは周知のことである。表計算ソフトの元祖であるVisiCalcを開発したダン・ブルックリンらはハーバード大学のビジネススクールで数多くのケーススタディをこなす課題を与えられ、そのためにWhat if分析を行うツールを開発したのであった。

図1
 
 それはともかく、図1は簡単な利益計画モデルの上で「シナリオ」を登録しようとしているところである。モデルの前提条件である製品の販売や仕入れ単価の見通しについて、将来予想されるさまざまな条件のセット(いまの場合は二つの条件)をそれぞれシナリオとして登録するのである。図では当初予測、楽観予測そして悲観予測の三つだけしか登録されていないが、これは必要なだけいくつでも登録できる。  経営会議などの場であらかじめ想定されるシナリオを用意しておき、議論の進行にしたがって即座に特定のシナリオとそのもとで予想される損益や販売の状況を具体的な数字で示すことができれば、議論も効果的なものとなるだろう。最近はパソコンプロジェクタが普及したので、パソコン画面を拡大投影し、議論のワークスペースとして利用できるようになった。パソコンにはこのようにさまざまなシナリオ(アイデア)をプレゼンテーションするためのツールという役割も期待できる。

図2
 
 複数のシナリオもそれらを個別に検討するだけでなく、これはと思われるシナリオを相互に比較できれば有効である。Excelの「シナリオ」には図1の右側に見える「情報」ボタンをクリックすると図2のように複数のシナリオのもとでの利益の見通しを一つの表としてリストできる。もちろん、簡単な操作でグラフ化してみることもよいだろう。このように、岩波新書では会社の中堅マネージャ(たとえば課長)をイメージして彼の回りに見え隠れするパソコンソフト(そしてパソコン本体や周辺装置)を具体的な状況の中でシナリオとして記述する書き方で執筆したものである。前回紹介したように、その出発点は「課長 島耕作」であった。昨年12月末に発売され、事務局の小泉さんによれば、なんと「1月20日トーハン調べ」で『週間ベストセラー 新書分野』の第2位にランクされたということである。たしかに、おかげですでに第二刷が進行中であり、それなりの読者を得たようである。コンソーシアム会員企業におかれてはWindowsソフトのさらなる普及をめざして、ぜひ、本書を社内の必読書にしていただきたいし、客先でも積極的なPRをお願いしたいものである。

 
● シミュレーションモデリングソフト「Scenario」
 シナリオというと次に思い出されるのは昨年のComdexで「Best of Comdex」にノミネートされたSCENARIO(Definitive Software社)である。これは最新のシミュレーションツールであり、画面上にモデルの構成要素(オブジェクト)を配置していくことでモデル構築とその実行が可能となる。

図3
 
 たとえば図3は簡単な売上計算をモデル化してみたところである。図の左側にはモデル構築や分析用のツールボタンが用意されている。それらのボタンを使って図の右側の編集ウィンドウでsales value、sales unitそしてprice各変数を定義したところである。Sales valueにはxの記号がついており、これはそこに矢印で入っている二つの変数の値が掛け算されて、計算結果が記録されることになる。また、画面右下にはsales unitの定義画面が表示されており、図からわかるように、sales unit(販売台数)は確率変数そして正規分布をすると仮定している。このように従来は専門家だけしかできなかった不確定性のもとでのシミュレーション分析がわかりやすいインターフェイスのもとでモデル構築や分析が可能となったのである。図の中段にはsales value(売上高)のグラフを表示させるべく、グラフのオブジェクトも配置されている。

図4
 
 さて、モデルが構築されれば、次はシミュレーションの実行である。図の左上でマウスがさしているように、Simulateボタンをクリックすると分析が行われ、その結果は図4のように表示される。図は売上高の累積確率分布である。それによれば、売上高が5500から9900の間である確率は50%程度であることがわかる。結果はまた、画面右側のタブをクリックすることで表の形で示すことも可能である。このS字カーブのグラフがどうのような使い方(読み方)ができるかは、左側に示されている。

図5
 
 Scenarioはいまためしたようなごく小さなモデルで検討しようとすると、それほど実際的な意味がないように思われるかもしれない。このソフトには図5の左上のようにBuilderとよばれるモデル構築のためのウィザードがついており、それを使うとマーケティングとか財務あるいは製造といった分野別に雛形(テンプレート)にもとづいたモデル構築が可能となる。図ではすでに資金繰り分析モデルを選択した様子が示されている。既存のモデルに対して個別企業の状況を反映させて修正を施すと、短時間で実際のモデルが構築できることになる。図のダイアグラム(influence diagramとよばれる)を眺めるだけでもどのようなモデルか、その概略はわかるだろう。このモデル内容のわかりやすさがオブジェクト指向モデリングソフトの一つの特徴でもある。

図6
 
 Scenarioには高度な分析機能もある。たとえば、その一つ、What ifシミュレーションはモデルに含まれる外生要因について、その値を一定範囲にわたって変更したときに結果がどう変わるかを分析する機能である。感度分析とよばれることもある。図6はこのWhat ifシミュレーションを行おうとしているところであり、図の下段のような設定画面で各外生変数の値をレバーを左右にスクロールすることよって、一定割合だけ増減してみて、その結果を分析するのである。このほかにもモデル分析用のさまざまな機能が用意されており、注目すべきソフトであるといってよい。

 
● データマイニングソフト、「Scenario」
 シナリオという名前のもう一つのソフトを紹介しよう。それはデータマイニングの分野の最新ソフト「Scenario」(カナダのCognos社。日本では帝人コグノス社が扱っている)である。データマイニングはデータウエアハウス関連ソフトの重要な一つであり、膨大なデータベースから特徴を分析するためのツールである。たとえば、コンビニやデパートのレジは単に代金を計算するだけでなく、そのままコンピュータ(あるいはデータ収集装置)につながっており、消費者の1件1件の販売データが集積されている。このPOS(販売点情報システム)データはすぐに膨大になることは容易に予想されるだろう。たとえば米国の代表的な小売店、Wal-Martは10テラバイトにものぼるデータの集積をもっている。このテラバイトは1000GBのこと、そして1テラバイトのデータを大型コンピュータのラインプリンタで両面印刷してスタックフォームを積み上げると、なんと8千mを超えるエベレストに匹敵する高さになるといわれる。この膨大なデータベースはそのままでは単なる販売データの集まりにすぎない。しかし、そのデータを分析することで、たとえば雨の日の午後4時から5時の間に訪れた客の購買行動がどうであったか、その特徴を抽出できる。それによって顧客への販売促進活動や商品の品揃えなどに情報を生かすことができる。「情報とはデータを評価したもの」といわれるように、膨大なデータもそのままでは何の役にも立たない。データマイニングはデータから情報を得るための効果的なツールとして注目されようとしている。データマイニングに興味のある方は次の文献を読んでほしい。

R. Groth, Data Mining: A Hands-on Approach for business professionals, Prentice-Hall, 1998

 この本に添付されたCD-ROMにはデータマイニングの具体的なツールの体験版が三つ含まれており(Angnoss社のKnowledgeSeeker、Datamind社のDatamindそしてNeuralWare社のNeuralWorks Predict)、それぞれ実際に体験しながらデータマイニングの世界を探訪できる。このうち、KowledgeSeekerはすでに日本語版が物産システムインテグレーション社から発売されており、私の手元にもきている。いずれ紹介したい。

図7                          図8
 
 さて、「Scenario」の画面例をみてみよう(実際の操作例は私自身の勉強が一段落したあとにしたい)。図7は外部ファイル(カンマ付きテキストファイル)から分析対象となるデータベースをインポートするところである。これらのデータは次のステップである図8に示されているように、日付、販売チャネル、販売エリア、製品コード、広告費、競合企業の販売高、利益、販売原価、販売価格のデータから構成されている。そしてこれらのデータの中から利益に関わる要因とその関係を抽出しようとするのが、このデータマイニングソフトの目的である。

図9                          図10
 
 図9は分析対象である利益の分布を表示したものである。赤字になった場合もあるし、図の右方向へいくにつれて利益の値は大きくなる。そして左端にはこの利益に影響を与えた要素がその影響度の大きさでリストされている。そこで各要素と利益の関係にもとづいて特徴を抽出することになる。図10はもっとも影響度の大きな販売価格を出発点として順次、各要素へと分解していったドリルダウンとよばれる分析を図示したものである。これら分析の実際的な意味はもう少し、学習してからでないと分からないが、なんとなく、すごい分析が行われているような直感がする。人よりも早く、こうした分析ツールについて紹介したいと思っているところである。

図11
 
 なお、もとになっているデータは図 11の表の形で見ることができる。こうしたレコードが数百件、サンプルとして含まれており、それを分析することで利益に関わる要素の関係を明らかにしていくことができるのである。面白そうなソフトではある。

 
● 最新パソコンに囲まれて
 この1ヶ月、新しいパソコンに囲まれるというめぐまれた日々を送ることができた。この環境はしばらくはつづくように計らってもらえるようである。第一は現在、本稿を執筆中のノートブックパソコンである。このDell Laptitude CPはM233, 128MB RAM, 4GBハードディスク、20倍速CD-ROM内蔵で2.6kgである。次にNECのValueStar NXミニタワータイプ。NECの新シリーズを使ってみたかったがようやく、手元に届いた。そしてもう一台は超小型デスクトップパソコン「コニーリョ(CONIGLIO)PC」(株式会社ベスタ)である。

写真2
 
 とくに、このコニーリョPCは写真2に見えるように、超小型であるとともに、デザインがユニークであり、他の周辺機器とデザインを統一して、AV(オーディオビジュアル)システムと同様の外見で部屋を飾ることができる。このベスタ社はマッキントッシュのカスタマイズも行っており、Windowsコンソーシアム顧問としては問題かもしれないが、はるか昔、85年頃からマックの使い手であった私にとってマックの世界にもわずかながら関心が残っている。
 パソコンもここまで各社から販売されるようになると、製品の差別化が困難となる。そうした中で、デザインや機種構成そしてインストールソフトなどの点でユーザーのニーズによりきめ細かに対応していく、いわゆる「one-to-oneマーケティング」が重要な意味をもつことになるだろう。ベスタ社の清水社長の話の中にはベンチャーだから可能な小回りのきく経営戦略が数多く含まれているような印象を受けた。ぜひ、応援していきたいと思う。
 このように、今回は学問的(?)な話とおよそみなさんには直接、関係のないようなソフトや文献の紹介をしてしまった。Windows Viewは学会誌ではなかったということをつい失念してしまった結果といえよう。会員会社のみなさんからもっと楽しいネタ(ソフト)の提供があることを期待して今回はお許しいただきたい。

(筑波大学大学院 経営システム科学 教授
http://www.fsinet.or.jp/~kaikoma/)


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