最新Windowsソフトウェア事情(第25回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄



ホームパソコンとデジタルMBA

私の愛用パソコンは
 これまでのところ私のメインのパソコンはノートブックパソコンであった。現在の機種は東芝Tecra500CTである。機種の選定にあたっては日本のパソコン雑誌よりは米国のパソコン雑誌記事をつい見てしまう。海外でのToshibaブランドは大変なものでTecraを携帯していくと会う人ごとにうらやましがられる。それはともかく、最近届いたPC Magazine誌97年1月7日号には恒例の「Best of the year,1996」が掲載されていた。この記事は毎年、その年度のベスト製品をハード、ソフトの全般にわたって表彰するものである。96年のベスト商品にはMS Office95, Lotus Notes4.1 with Domino, Netscape 3.0(Internet Explorer 3.0とともに)などのソフトとともにホームパソコンのジャンルで、やはり東芝の最新機種Infinia7200が選定されていた。私としてはさっそくにでもこの「Infinia7200」を手にしたい。この機種は日本名「Brezza」で発売されており、黒ずくめのユニークな大型筐体やミニウーファーを含めたオーディオ機能そしてTV、FM、CD、電話/FAXがディスプレイ上のボタンやタッチリモコンで簡単に起動し、利用できるということで話題になった。97年に入ってMMXやDVDプレーヤ(MPEG2ボード込み)を搭載したBrezzaの最新機種も発売になり、いよいよ魅力的な製品となった。
 どうしても欲しい機種やソフトが出てくると、つい無理にでも仕事を引き受けてその関連でソフトやハードを使うチャンスを得ようとする。今回もさいわい(!)、昨年岩波書店から出版した「データの分析と情報の整理」に引き続いて「マルチメディアを楽しむ」の巻の執筆を依頼されたので、その企画との関係で急遽、マルチメディア関連ソフトやハードの提供(借用)を各社にお願いすることにした。その結果、本欄で今後ともソフト紹介に利用できるさまざまなソフトに加えて、昨年末、我が家に最新ホームパソコンが届いたのである。
 昨年末はこのBrezzaにかかりっきりで、ソフトのインストールや拡張ボードの組み込みを行った。デジタルビデオカメラからデジタルのまま静止画を取り込むボード(ソニーのDVBK-1000)やスキャナー用のSCSIボードなどである。ノートブック中心のパソコン利用におい ては機能拡張といってもせいぜいPCカードを使う程度であり、パソコン本体へのボード組み込みはほとんど経験がなかった。今回、パソコンの筐体を開けてボードを組み込むハード寄りの作業を行うことができたので楽しかった。しかし、Windows 95のPlug&Playは実際にはなかなか思う通りにはいかず、ずいぶんと無駄な時間を費やしてしまった。私にとってハードは難問であるという印象をあらためて確認した次第である。

 

こんなソフト販売方法もある
 さて、昨年秋のComdex会場でSurefire Decisionsという名前のソフト(デモ版)を手に入れた。パソコン購入とか、社内の昇進人事など企業の意思決定において代替案をさまざまな角度から分析するために活用できるソフトである。この種のソフトは意思決定支援ソフト(Decision Support)とよばれ、私が購読している月刊のCD-ROM版データベース(雑誌情報や4万5千種類を越えるソフトの情報が収録されている)には75のソフトのカテゴリーの一つとして意思決定支援ソフトのジャンルが含まれている。日本ではまだ関心の薄いジャンルのソフトであるが、私にとっては主要な研究テーマの一つである。
 同じく昨年春のComdex帰りにシカゴ市内の大型書店で「Digital MBA」という本を見つけた。これは15種類の意思決定支援ソフトのデモ(実際にためせるワーキングデモ)を収録したCD-ROMが添付されており、15章からなる各章をそれぞれのソフト会社が執筆を担当したユニークな本である。そこには発想支援、シミュレーション、ビジネスプラン、需要予測など興味深いソフトが集められている。
 この本の編集者はCompuServeに設けられているMSA(Management Software Assoc iation)という名前のフォーラムの上で意思決定活動を支援するソフトのレビューを主催している。このフォーラム主催者の立場で本の企画/編集を行ったのである。ところで日本でも97年度は900万台を越えるパソコン出荷台数が見込まれている。私もパソコンメーカーの集まりである電子協パソコン業務委員会のオブザーバーをしており、各メーカーの主要な人々と情報交換をする機会も多い。そうした中で近い将来、1千万台を越えるこのパソコンの出荷台数の裏でどのようなユーザーが新規にパソコンを利用するようになるのか、それが大きな課題になっている。私自身は現在、急速に普及しつつある電子メールをきっかけとして一般社員だけでなく、管理者層にも急速に情報技術が浸透していくはずであり、その結果、それらの人々の諸活動を支援する仕組み(ソフトやハード)がこれからますます重要になっていくものと考えている。そしてこの管理者/経営者層、そして一般社員においてもその重要な仕事は意思決定であることはいうまでもない。
 意思決定とは、データを分析して何が問題かを認識し、それらの問題解決のための代替案を探索(発想)し、そして複数の代替案をさまざまな角度から分析/評価/選択し、最後にその最終的な行動案を実行していくという一連の活動である。こうした教科書的な意思決定論を具体的に支援する重要なツールとして、パソコンそしてソフトがあると考えるのである。SureFire Decisionsはこの意思決定支援ソフトの中でAHP(Analytic Hierarchy Process)とよばれるツールに分類されるソフトである。

意思決定支援ソフトの実際

 

図1
 

 ソフトの実際を見てみよう。図1はこのソフトの起動時にあたってのウエルカム画面である。見てわかるように、現在のソフトはComdex会場で配布されていたデモソフトであり、30日間はフル機能をそのまま利用できる。すでに経過した期間が目盛りで表示され、正式に購入したい場合には電話で注文するとキーコードが連絡され、それを入力することで正式ユーザーとして継続利用が可能となる。こうしたソフトの販売方法は次第に一般的になろうとしている。意思決定支援ソフトのように、実際に使ってみないとソフトの目的がよく理解できないような種類のソフトにとってはこの種のソフト販売方法が適しているといってよい。上記のDigital MBAに収録されたソフトの多くも実際にソフトを購入するためのOrder機能がついており、20%前後の割引が受けられるようになっている。

図2
 

 ソフトを起動するとウィザードリーが操作の手順をガイドしてくれる。図2はその画面例である。画面中央の解説にあるように、意思決定にあたっては、代替案のリストアップ、評価項目のリストアップ、評価項目の重みづけ、個々の評価項目について各代替案を実際に評価すること、そして分析の結果を検討する、といった一連のステップからなることが示されている。さっそく「パソコン購入」を例にして意思決定過程をたどってみよう。

図3
 

 図3は評価項目の重みづけを与えていることろである。画面中央には最初の列に評価項目欄が示され、そこには一つ前のステップで入力した評価項目が価格、重量、性能、拡張性の順にリストされている。この それぞれの項目の重要度を中央のレバーをマウスでドラッグすることで重みづけるのである。4つの項目の相対的な関係をレバーの位置であらわすようにするだけなのでとくに難しいことはない。もちろん、右端には重要度を数値で入力することもできるようになっている(レバーをドラッグするとその位置関係で数値が入力される)。

図4
 

 評価基準の入力と重みづけが終われば、実際に各代替案に対して(前のステップでデスクトップ、ノートブックそしてサブノートブックパソコンを入力していたとしよう)、個々の評価項目ごとに相対的な評価スコアを入力するというステップに進む。図4がそれである。画面中央のウィンドウ上段には評価項目を選択する欄があり、現在は価格(price)の評価を入力するところである。画面中央では重みづけの場合と同様、レバーを左右にドラッグすることで各代替案(パソコン)の評価を行う。レバーが右にいくほど評価が高く、左ほど評価が低い(ExcellentとPoor。この評価をあらわす言葉は下段のChange Labelsボタンをクリックすることで自由に変更できる)。図5は各機種の重量の評価を行っているところである。ここでは評価をあらわす言葉を新たに「very light」以下「heavy」までの言葉に変更してみた。

図5
 

日本語版デジタルMBAへの期待
 このようにして評価基準と各代替案についての実際の評価が終わったとするとその結果は即座に総合化され、図6のような結果として表示される。

図6
 

 図の上段は評価基準の重みづけを示しており、下段には評価と総合ランキングが示されている。左端の製品(代替案)は評価の高い順に並べられており、右端に総合評価が言葉で示されている。また、表中には各評価基準について各代替案を評価したスコアが言葉で表示されている。
 評価結果は評価基準の重みづけが変わるとそれにともなって変わる可能性がある。上段の評価基準の重みづけをレバーをドラッグすることで変更するとその結果は即座に下段の評価に反映される。こうしたWhat ifシミュレーションが簡単にできることがパソコンソフトのよいところである。表計算ソフトでも表中の数値を変えることでその結果は即座に再計算され、画面に表示されるのと同様の機能である。

図7図8
 

 評価結果はグラフ表示することも有益である。SureFire Decisionsには図7のような棒グラフ、円グラフなど6種類のグラフが用意されており、それによって図8の下段のように各代替案について各評価項目がそれぞれの評価にどれだけ寄与したか、それがビジュアルに理解できる。

 

図9
 

 分析の最終結果はレポートにまとめる必要があるだろう。そのために上段のツールバーからレポートボタンをクリックすることで各種レポート形式を選択でき、図9のような形で印刷できる(図は印刷のプレビュー画面)。私の手元にはこの種ソフトのもう一つとしてDecideRight(Avantos社)があるが、そこのレポート機能にはFreelanceやPowerPoint形式で出力できる機能も含まれており、それを使えばそのままプレゼンテーションに利用できることになる。
 意思決定は将来のことであり、さまざまな可能性がありえる。いまのような機種選定であれば将来の不確定性をそれほど意識する必要がないが、新製品の市場導入とか、工場の設備増設といった場合には将来のさまざまなシナリオを描いておいた方がよい。このソフトにはシナリオ分析機能が含まれており、図10の下段のようにさまざまなシナリオを追加し、それぞれのシナリオのもとで代替案の評価を行うことが可能である。それらは下段のタグをクリックすることで特定のシナリオのもとでの結果を画面に表示したり、それぞれのシナリオの起こる可能性を重みとして加重し、総合評価することも可能である(下段のSummaryタグ)。総合評価にあたっては各シナリオにそれぞれが起こる確率を与え、それを重みとして使うことができる。

図10
 

 シナリオという視点だけでなく、意思決定に関わる人々の重みづけという視点もありえる。たとえばパソコン購入にあたって担当者と社長が決裁に関わるといった場合である。このときはそれぞれの立場で代替案を評価するとともに、意思決定にあたっての各人の重みを反映させた総合評価を得ることができる。図11は上段の左端および下段のタブに示されているように担当者と社長の二人の関係者によって代替案を評価し、その評価結果を画面上段で与えた重みづけによって総合評価の結果を得たところである。

図11
 

 このようにして今回は私の専門である意思決定支援領域のソフトを紹介した。近い将来、私自身、日本語版の意思決定支援ソフトを収録したCD-ROMつきの「デジタルMBA」を出版しようと目論んでおり、この種のソフトを制作、販売されている企業に対して企画への参加を呼びかけたいと考えている。関心のあるかたはぜひ連絡をいただきたいと思う。

(筑波大学大学院 経営システム科学 教授)


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