最新Windowsソフトウェア事情(第19回)

Windowsコンソーシアム顧問 高橋 三雄


ときには童心にかえって

 私は本欄をはじめ3、4冊の雑誌にパソコンソフト関連記事の連載を続けている。振り返ってみればこうした連載を始めたのは70年代後半の頃であった。当時マイコン専門誌としてI/OやASCIIそしてRAMなどがあった。たまたま友人(現在は東京インターネット会長をされている田尾さん)がRAMの編集長をしていたこともあって、「経営学教授のマイコンセミナー」と題する連載を長期にわたって続けたことを思い出す。この連載は本にまとめて80年に廣済堂出版から「ビジネスマンのためのパーソナルコンピュータ入門」と題して出版し、ベストセラー(?)となった。なにしろ、印税で家族5人、6週間の米国旅行を楽しんだのであるから。
 たしかに現在と違って当時はコンピュータ関連書籍は理工学書の隅の方に置かれ、一般のビジネスマンが手に取ることができる本はまったくなかった。私自身もそうした参考文献の少なさに悩んでいたこともあって、何とか文科系向きのコンピュータの本を書きたいと考えたのであった。それはともかく、その後、84年から86年にかけてロスアンゼルスの南カリフォルニア大学に客員研究員として滞在する機会があり、その期間には毎週、米国キャンパス便りと題する記事をビジネスコンピュータニュースに連載した。この頃はdBASEや1-2-3にはじめてふれて大きなショックを受け、さっそく、日刊工業新聞社が創刊したばかりのパソコン雑誌、「プロンプト」に米国パソコンソフト事情と題する連載を始めた。この連載は帰国後も継続され、延べにすれば80回を越える長期連載となった。その一部は日刊工業出版社から「米国パソコンソフト新事情」として出版した。
 さて、現在もなお、パソコンソフトに関する連載を続けている。その中でもっとも長期にわたっているのはビット誌(共立出版)の「ソフトウェア探訪」である。この連載は私が成蹊大学から現在の筑波大学大学院夜間修士課程に移った平成元年からスタートした連載であり、現在までに82回を数える。その間、一度も休むことなく続けてきたのであるから、われながら感心している。ここまでくれば100回の大台をめざして頑張ろうと考えている。
 今回はどうしたのだろう?さっぱり具体的なソフトの話が出てくる雰囲気でない。これはソフトのレビューが間に合わず、適当な話でお茶を濁そうとしていると思われるかもしれない。しかしご安心いただきたい、最後にはちゃんとりっぱなソフトの紹介をするつもりである。それはともかく、私の専門は経営意思決定支援、つまり意思決定活動における情報技術の活用の可能性の研究である。昭和38年から40年にかけてMIS(経営情報システム論)が大きな話題になった。また最近でもSIS(戦略情報システム)が話題になった。これらに関連する研究であるといってよい。私の場合は具体的な意思決定支援関連ソフトのサーベイにもとづいてその可能性を検討するという方法をとっている。その研究成果は今年6月に日科技連出版社から「ビジネス情報技術:Windows95対応意思決定支援ソフト活用法」と題する書籍としてまとめられた。この本は一般のパソコン書籍と違ってベストセラーになるような本ではない。大学のテキスト風の書籍なので初版は1,500冊(0が一つ足りない?)しか刷っていない。それでもなかなか売れない本である。したがって本欄の読者(会社)のみなさんには本欄のボランティア執筆者の努力に敬意を表して(!)ぜひ、1冊づつ購入いただきたく、写真1とともにPRさせていただく次第である。

写真1
 

 ワープロソフトや表計算ソフトそしてインターネットといったメジャーなパソコン書籍だけがあふれる書店ではなかなかニッチな分野の書籍は見当たらない。80年頃にコンピュータ関連書籍の少なさに嘆いたのと同じ状況が別の意味であらわれているという印象すら受ける。
 さて、パソコンソフトはメジャーなソフトばかりではない。Windows Shoppingに収録されている2,000本のソフトはインターネットの画面からも分かるように多岐にわたっている。なかなか話題にならないマイナーなソフトについてもさまざまな機会を通じて世の中のパソコンユーザーに知って欲しいと思うのは私だけではないだろう。ところで私はこの4年間、毎月、米国からCD-ROM版のデータベースを購読している。そこに収録されている4万6千本のソフト(メインフレームやワークステーションからパソコンまで)の中でパソコンソフトとくにWindowsソフトの本数の伸びは目覚ましい。今回、数時間かけてその最近の状況を表計算ソフトに移して整理してみた。表1はその結果である。このデータベースではソフトを75のカテゴリーに分類し、それぞれのカテゴリーはさらにサブカテゴリーに分けられている。このカテゴリー別のソフト本数の変化や具体的なソフトの内容を検討することは米国パソコンソフトの現状や日本のパソコンソフト市場の今後を検討するための有益な情報となるはずである。今回は単なる数値を示すだけにするが、いずれこうしたデータにもとづいて読者(パソコンソフトメーカー)のみなさんがどのようなジャンルのソフトに大きな可能性を求めているのか、アンケートなどで調べてみたいと考えている。
 さて、今回のソフトの話に移ることにしよう。表題にもあるように今回は子供むけの楽しいソフトである。この原稿を執筆中の現在は大学の夏休み、したがって小学生などにとっても楽しい夏休みである。この時期、親にせがんで買ってもらったWindows95やインターネットブラウザーそして数十種類のソフトがプリインストールされた一体型パソコン(最近の子供はぜいたくである)が子供達の手元にある。彼らはパソコンをどのような存在として今後、付き合っていくのだろうか。大いに感心がある。それはともかく、子供達にとってパソコンと付き合うためにはキーボードやマウスの操作に慣れる必要がある。もちろん、パソコン症候群にあたふたしている親と違って子供達にとってはそんなことは自然に身につくものであるとする考え方もあるだろう。しかし、パソコンが初めての子供達にとって楽しく、しかもいつの間にかマウス操作やキーボード操作が身につくのであればそれに越したことはないだろう。今回、事務局から与えられたソフトはまさにそうした目的のソフトである。

写真2
 

 写真2は日立製作所から発売されている「TechTech Kids1」である。すぐにでも手にとってみたくなる魅力的なCD-ROMのパッケージとなっている。このソフトは4つのゲームを通じてマウスやキーボードの操作を楽しみながら身につけることができるソフトである。Windows95用のソフトであり、起動すると図1のような画面が表示される。

図1
 

 画面から分かるように主たるねらいはタイピング練習である。なお、画面に登場するキャラクターなどは「NHK音楽ファンタジーゆめ」を使っている(この番組は一度も見たことがなかった。ソフトのレビューを仕事とするには幼児番組からアダルト番組まで幅広くTVを視聴する必要のあることをあらためて実感させられた)。

図2
 

 Playボタンをクリックすると図2のような画面に変わる。ここには4つのゲームのリストがそれぞれキャラクターや時計などのオブジェクトで表示されている。たとえば図では真ん中の人物(名前はHardy)が選択されており、一緒にキーボードの練習をしようとしている。また、画面左上の電源はソフトの終了、上段中央のスピーカーは音量調整といったように操作が子供にも選択しやすい大きな絵記号で表示されている。

図3
 

 Hardyとのキーボード練習は図3のような画面で行う。画面右上に英字が表示されるとともに子供っぽい声で「ブィ」といったようにタイプすべきキーが発音される。また画面下段にはどの指を使ったらよいかの指示が表示される。さらにレベルは画面下段中央の数字で選択できる。ともかく、こうした子供にとって楽しそうな画面でキーの練習をしていくのである。ただし、発音される英語は大人にとっては聞き取りやすいものではない。

図4
 

 図4はもう一つのタイピング練習ゲームである。これはベルトコンベヤーの上を少しづつ英字が流れてくる。その英字をタイプしていくことになる。図ではICEの英字が流れてくるところである。

図5
 

 図5はマウス操作の練習である。画面中央の時計を左右の矢印をマウスでクリックすることで時間を進めたり、遅らせたりするが、それによってアナログ、デジタルの時計表示が変わり、また、画面中央の舞台の上でキャラクターが特定の動作をする。

図6
 

 さらに図6は英語のヒアリングとマウス操作のゲームである。「オレンジはどれ?」といったように英語で質問が与えられ、それによって該当する絵をマウスでクリックする。これによって子供の英語学習とマウス操作の練習が同時に可能となる。これからの時代に生き残るためには英語とパソコンが必須と判断した母親(父親!)が4、5才の幼児にパソコンを買い与え、この「TechTech Kids1」を遊ばせている風景が目に浮かぶようである。

図7
 

 ところで今月号のタイトルからすれば私自身、大学の夏休みを利用してこの子供向けのソフトを大いに楽しんだかのように思われたかもしれない。しかし、残念ながら10分ほどそれぞれのゲームとためしたあと、「これを何時間も続けることはどうだろう?」という疑問を抱いたことはいうまでもない。しかし、私自身、子供向けのソフトに大きな関心を抱いていることは事実である。たとえば最近の子供向けのソフトは子供自身がソフトのインストールをすることも考慮するようになっており、図7のようにインストールの手順も子供に十分に理解できるような表示となっている(マイクロソフト社のファインアーティスト)。パソコンに関しては中高年のビジネスマンはむしろ何も分からない子供と考えた方がよい。「パソコン子供の」大人にどのようにパソコンをすいすい利用させることができるか、それを工夫してあげる必要があると思う。GUIをはじめ、パソコンの使いやすさを高める工夫がその出発点になることはいうまでもない。私はセミナーなどでしばしば図8のような画面を利用する。

図8
 

 これは子供向けのユーティリティソフトであり、机上に置いたソフトをマウスで選択することで起動できる。Windowsのデスクトップ画面よりもはるかにリアルな机上画面であるし、また、マルチメディア対応でありテープレコーダや電話には任意の音声によるメッセージの録音や再生が可能である。机の上にはタイプ練習ソフトも見える。私ももちろん、パソコンソフトのプロをめざして密かにタイプ練習を続けていることはいうまでもない。

図9
 

図10
 

図11
 

 図9はその一つ、机上から選択して実行しようとしているExpert Typingの画面例である。また、図10と図11は現在もなおかつての成蹊大学で非常勤講師として担当している「情報科学概論」の講義の中で学生にタイプ練習のために利用させているタイプ練習ソフト、TypeQuickの画面例である。このようにして今回は子供にとっても楽しいタイプ練習ソフトについて紹介した。表1の75のカテゴリーのソフトを一つ一つ話題にしていけば本欄も少なくとも100回までは継続できそうである。読者のみなさんのご声援を期待したい。
 なお、「Expert Typing 」と「TypeQuick」については、第8回(95年8月号)で紹介している。詳細については同記事を参照されたい。

(筑波大学大学院 経営システム科学 教授)

<事務局より>
「Tech Tech Kids1」のプレゼントは、来月予定します。


表1  米国のWindowsソフト状況
NO.ソフトのカテゴリー96-795-12増減増減率(%)
1Accounting and Taxes48037410628.3
2Agriculture138562.5
3Artificial Intelligence/Expert Systems7279-7-8.9
4Audio Processing/Voice Technology9595/
5Automobiles101000.0
6Banking and Finance,Insurance42430212240.4
7Bulletin Board Software1811763.6
8Communications Constrol Systems3025520.0
9Compilers and Language101782329.5
10Computer-to-computer Links1241071715.9
11Construction/Contractor74641015.6
12Contact Managers555323.8
13Conversion Aids595459.3
14Data Center Management Software1541213327.3
15Data Entry/Acquition Software18017374.0
16Data Base/File Management5294498017.8
17Decision Support8083-3-3.6
18Design, Testing Software84369814520.8
19DesktopvPublishing19318494.9
20Disk,Tape,and File Utilities247236114.7
21E-Mail1831572616.6
22EDI(ElectronicvData Interchange)4234823.5
23Education/Training4313349729.0
24Engineering/Scientific122799023723.9
25Facilities Management109822732.9
26Fax/Telex134124108.1
27Financial Planning and Analysis1681323627.3
28Fonts and Font Utilities270256145.5
29Food and Beverage106466.7
30Forms Processing95781721.8
31Government/Public Administration112862630.2
32Graphics and GUI Software13211244776.2
33Health Services41725716062.3
34Help Desk12211398.0
35Human Resources1881484027.0
36Integrated Software3027311.1
37Inventory Control/Order Entry1701383223.2
38Legal Services128992929.3
39Manufacturing Software4233408324.4
40Mass Media/Communications1311131815.9
41Menu Facilities161600.0
42Music and MIDI132775571.4
43Natural Resources and Related5664-8-12.5
44Networking Software126371355077.1
45Office Automation Software11211200.0
46Operating Systems/Enhancements121833845.8
47Organizations/Fund Raising83622133.9
48PC Communications Utilities149219-70-32.0
49Peripheral Device Drivers4032825.0
50Personal and Home Use/Entertainment121886035841.6
51Personal Information Managers10410400.0
52Printer Utilities/Drivers/Spoolers5665-9-13.8
53Programming Utilities4143427221.1
54Project Management116981818.4
55Purchasing3125624.0
56Real Estate68442454.5
57Report Management115892629.2
58Sales and Marketing3262616524.9
59Screen Utilities2932326126.3
60Security and Auditing Software1871503724.7
61Service Industries39261350.0
62Sort/Merge43133.3
63Spreadsheets464337.0
64Statistics and Mathematics1421132925.7
65Telephone Management Systems1881632515.3
66Terminal Emulation Software16415863.8
67Text Editors1914535.7
68Text/Image Management Software476483-7-1.4
69Textiles and Clothing1266100.0
70Transportation66501632.0
71Travel and Leisure49262388.5
72Utilities,Public272700.0
73Video/Teleconferencing Software90632742.9
74Wholesale/Retail/Distribution1441133127.4
75Word Processing and Text Editing1851632213.5
 合  計1604312505353828.3

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