開発/言語ソフト ここが見所、さわり所

            〜Microsoft Visual Basic 4.0〜    山本 淳

 今回は開発者や企業の情報システム部門の担当者が待望していて、ようやく発売された 「Microsoft Visual Basic Programming System for Windows 4.0」(以下、VB4)を採り上 げる。日本語版としては、Version 2.0からのバージョンアップとなる。3.0の日本語化が 見送られた影響は計りしれない。米国で提供されている製品で、日本語版がないものには、 Windows for Workgroups 3.x、Visual Basic 3.0やVisual FoxProといった開発ツール、 Microsoft Moneyや数多くのアプリケーション、オプションツール群などがある。日米の文 化の違いや、MSKKのマンパワーの問題、日本市場での戦略といったさまざまな要素が絡み 合って、日本語化がスキップされたのだろうが、単体製品としての問題よりも、企業の中 でのソリューションとしてのシステム構築を考えたとき、必要なソフトが存在しないとい うことのデメリットは大きい。英語に対する抵抗感が大きく、日本語版が提供されるのを ひたすら待ち続ける限り、問題はいつでもついてまわることになる。最近はずいぶん英語 版の提供から時間をおかずに日本語版が投入されるようになったが、できるだけ多くの主 要製品群が揃ってこそ、さまざまな環境のソリューションに対する解決策が見つかる。MSKK の奮起に期待するしかない。ちょっと脇道に逸れてしまったが、製品の紹介に入ることに しよう。

 VB4は、昨年の12月にStandard版とProfessional版、3月1日にEnterprise版が発売された。 オブジェクトテクノロジー、OLE2.0をサポート、OLEオートメーションが、本格的なコンポー ネントベースのシステム開発を実現し、待望の32ビット化を実現、新時代のオペレーティ ングシステム、Windows 95、Windows NT Workstation 3.51において高いパフォーマンスを 発揮し、クライアント/サーバー・コンピューティング・アーキテクチャである3階層シス テム開発を強力に支援する、となっている。私が入手したのは、Version 2.0からEnterprise 版へのバージョンアップであるため、12月にProfessional版パッケージ、3月に入ってから Enterprise版への差分キットが送られてきた。当然フルパッケージ版もあるわけだが、手 元にないので内容を確認できない。

 3つのバージョンの違いは次の通りである。
■Standard版
・32ビット対応・Jet 3.0搭載・OLE 2.0・OLEコントロール・VB自身のOLE対応・VBA上位互 換の言語エンジン
■Professional版 (Standard版のすべてを含む)
・16ビット対応・VBX・OLEオートメーションサーバー・ODBC・Crystal Report・Windows 95 UI対応の11の新しいOLEコントロール
■Enterprise版 (Professional版のすべてを含む)
・Visual SourceSafe 4.0・リモートOLE・クライアントサーバー用OLEコントロール・RDO

 まったく盛りだくさんの内容となっている。「速く、簡単に、しかも広範なソリューショ ンを実現するWindows対応アプリケーションが構築できる」がうたい文句となっているのも うなずける製品構成である。大幅な機能追加が行われ、よりパワフルにアプリケーション 開発が実現できるようになっている。機能が多すぎて、どこから手をつけていいのか、何 ができるのか、まだ十分に把握できないし、限られた誌面の中で、すべてを紹介できない。 最近の技術系雑誌で盛んに特集記事が掲載されているが、先月号のVisual C++ 4.0と同様 に、技術者にとって開発が楽になるが、道のりは平坦ではないだろう。個人ユースか、企 業ユースか、16ビットか32ビットか、ネットワーク対応するのかしないのか、Visual Basic がサポートする範囲は広く、用途によって製品を選択することになる。とりあえず Enterprise版がフルセットだから、購入しておけばいいだろう。もっともまだまだWindows 3.1プラットフォーム上での開発の需要は多く、ただしVisual C++もそうだが、32ビット環 境に比べると提供されている機能は限られている。まさに混在の時代で、むつかしい問題 を抱えているわけである。

 製品パッケージの内容を確認してみよう。
■Professional版パッケージ
・Microsoft Visual Basic Version 4.0 Professional Edition (CD-ROM)
・プログラミングガイド
・ランゲージリファレンス
・プロフェッショナルプログラミングガイド
・カスタムコントロールリファレンス
・Crystal Report for Visual Basic ユーザーズガイド
■Enterprise版差分キット
・Microsoft Visual Basic Version 4.0 Enterprise Edition (CD-ROM) = Professional Edition上でインストール可能
・クライアントサーバーアプリケーション作成ガイド
・Visual SourceSafe ユーザーズガイド

 昨年9月の「Win32 Developers Conference September 1995, Tokyo」に参加された方に は、今回発売された一連のVisual Tools (Visual Basic 4.0, Visual C++ 4.0, Visual Test 4.0)のベータ版が配布されていたので、すでに試使用されてきた方も多いと思うが、とり あえず日本語マニュアルだけでも積み上げると15cm弱ということで、ボリュームたっぷり である。読み応えのある内容で、マニュアルを見ながらサンプルを動かすだけでもずいぶ ん時間が必要である。Standard版は32ビット開発環境のみだが、他の2つには16ビット/32 ビット開発環境を含んでおり、どちらか一方を、あるいは両方を、同じディレクトリにも 別のディレクトリにも、インストールすることができるようになっている。

 プログラミングガイド」には、基本機能が紹介され、オブジェクトやOLEコンテナコン トロール、他のアプリケーションのオブジェクトの利用などが紹介されている。また、付 録の最後にはVisual Basicの他のバージョンとの互換性が記述され、過去のバージョンか らの移行について説明している。2.0や3.0のフォームは、VB4で開いて保存し直すことがで きるが、VBXを含んでいてバイナリ形式で保存されていると、VB4の32ビット版では正常に 開くことができない。ほかにも細かな変更点があり、少なくとも過去のバージョンで開発 した資産を持っている開発者は、一度目を通しておいた方がいいだろうう。

 「プロフェッショナルプログラミングガイド」は、新機能の目玉である「OLEサーバー作 成ガイド」と「データアクセスオブジェクトガイド」を一冊にまとめた構成になっている。 OLEサーバーについては、何度となくテクニカルセミナーのテーマとなって取り組んでき たので、少なくとも概念的には、あるいは表面的には理解されている方も多いと思うが、 OLE SDKやVisual C++(MFC)といった敷居の高いものであった。今回のVB4でOLEオブジェク トが開発でき、かつインプロセスOLEサーバーとして、DLL形式でも作成できるとなると、 「Inside OLE 2」を読んでも理解することがむつかしくて、なかなかOLE対応ができなかっ た数多くの技術者にとって、ずっと身近なものになり、アプリケーションへの普及が進む と予想できる。
データアクセスツールは、Microsoft Jet データベースエンジン、データコントロール、 データアクセスオブジェクト(DAO)プログラミングインターフェイスがある。テクニカルセ ミナーでMSKK・篠木様が違いを簡単に説明されたが、2.0時代に苦労を重ね、3.0の日本語 版がないことに大いに憤慨したデータベース関係は、後述のリモートデータアクセスオブ ジェクトを含めて、OLE 2.0対応と同様に大幅に強化されている。

 「カスタムコントロールリファレンス」では、VB4で使用できるカスタムコントロール(オ ブジェクト・OCX・VBX)について説明されている。VB4を使ってOCXを作成することはできな いことはご承知のとおりである。今後インターネットを通じて、さまざまなコントロール が流通する時代がやってくる。いいソフト部品をつなぎあわせる接着剤がVB4の役目となる。

 「クライアントサーバーアプリケーション作成ガイド」には、企業内ネットワーク環境 で利用されるアプリケーション開発を行うための、3階層システム開発の概要、リモートOLE、 Microsoft Jet データベースエンジンや、リモートデータオブジェクト(RDO)とリモート データコントロール、ODBC API、Visual Basic Library for SQL Server APIなどのプログ ラミングモデルを有するデータアクセスについて説明されている。リモートOLEは、当初 Windows NT Cairoで提供されるとアナウンスされていたが、開発計画が遅れている結果、 今年リリースされるWindows 95 UIを搭載したWindows NT 4.0でサポートされることになっ た。現在米国でベータテストが開始されているが、リモートOLEが含まれておらず、NT 4.0 でのリリースも疑問視されている。将来的には各種開発ツールやOSベースでサポートされ るだろうが、現在では唯一VB4 Enterprise版のみで実現されていることもあり、機能的に は魅力的だが、すぐに飛びつくことができないかもしれない。
 「Crystal Report for Visual Basic」はデータベースのレポート出力を実現する印刷ツー ル、「Visual SourceSafe 4.0」は単体製品としても発売される、差分チェック、コンポー ネント共有、プロジェクト履歴などを管理する統合バージョンコントロールツールである。 ほかに、アプリケーションのセットアップ/アンインストールが可能なセットアップウィ ザードや、アプリケーションのヘルプが作成できるヘルプコンパイラなどを含んでいる。

 夏前に出荷されるExchange Server用のフォーム作成ツールE-form DesignerはVB4 (16 ビット)互換であり、4月に発売されるAccess 95にはVB4互換のVBAが搭載され、インターネッ ト用のWWWスクリプトとしてVBSが用意される。VB4単体でも大変なのに、続々とVB関連製品 が登場する。今秋には米国でVisual Basic 5.0が登場し、WebプラウザからVBアプリを実行 可能にする「OLE Document Objects」仕様をサポートすると発表されている。まさにマイ クロソフトにとって、汎用スクリプト言語の中核として重要な位置を占めている。はっき りいって、とりあえずVisual Basicさえ身につけておけば、仕事に困ることはなさそうで ある。逆にいえば、少し前までCやC++言語を使って、非常な苦労をしたのが嘘のように、 誰にでも簡単にWindows上でさまざまなことができ、ソフト会社に依頼する必要がなくなっ てしまう可能性だってある。

 詳細情報は日米のWebサイトを参照していただきたい。先月号にMSKKのサイトにはVisual Toolsの情報が掲載されていないと書いたら、印刷から上がってきた頃から一斉にアップ ロードされ始めた【http://www.microsoft.co.jp/visual/index.html】。とりあえず製品 カタログのレベルだが、3月中旬に米国で開催される「Internet PDC」が過ぎる頃から、最 新技術情報や、インターネット関連のツール類、ドキュメントなどが順次アップロードさ れるという。米国MS本社などの情報提供の充実ぶりや各社のInternetシフトをみても、パ ソコン通信やFaxサービスに変わっていくに違いない。セミナーのアンケートには、「まだ インターネットにアクセスできる環境にないので、ホームページを見てくださいと言われ ても困ってしまう」という意見もあったが、日本の企業のLAN化率は10%以下という報告も あって、課題は多いだろう。今月のセミナーは「インターネット特集」ということらしい が、開発者にとっての対象プラットフォームという側面と、イントラネットなどを含んだ 情報共有の手段という側面をしっかり切り分けて聴いてみたい。セミナーのアンケートに いくつか回答したかったが、ページの都合と締め切り超過で別の機会にさせていただく。

(富士ソフト株式会社 技術調査室 室長)
【yamamoto@fsi.co.jp】


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